手作りの宝箱3
「なぜって私があなたをずっと呼んでたのよ。」
「呼んでた?じゃぁなんで呼んだの?」
結子は少し強い口調で言った。
「結子ちゃん、何かずっと悩んでるね。私はその事が気になって気になって私は結子ちゃんをずっと応援して力になりたいから私の所に来て欲しかったのよ。」
「でもどうする事も出来ないよおばあちゃん。」
いつしか結子はおばあちゃんと話していた。
「言ってごらん結子ちゃん。」
「でも・・・お母さんが退院したばかりで静養中、でもお店を開けないといけない状態なの、でも材料業者が私と契約を打ち切るってだから私、他の業者を探してるんだけど見つからなくて・・・」
結子はうつ向いてしまった。
「そうだったんだねぇ。結子ちゃんは頑張ってんだねぇ。」
結子は泣き出してしまった。
「結子ちゃん泣かないでばあちゃんが応援してるから、さぁまずはゆっくりとそのレモネードを飲んで、さぁ。」
結子は涙を拭いて少し微笑んでレモネードを飲んだ。そしていつしか昔話を2人でしクスクスと笑ったりしていた。ゆっくり時間が流れていた。
「あの〜すいません。ここに僕の帽子を忘れていませんでしたか?」
泰造の孫、正一が戻って来ていた。
ゆみこの目が元に戻った。
「帽子〜?あっ孫!」
「孫は間違いじゃないけど正一と言いますよ。」
正一はゆみこが少し苦手のようだ。
ゆみこは辺りを見渡したが帽子は見つからなかった。
「これじゃないですか?」
結子がレモンの木の小枝にかかっていた帽子を持って来て正一の前に差し出した。
「あっこれだこれ、どうもありが・と・う・ござい・・ます。」
正一は結子に見とれてしまっていた。一目惚れである。恋や結婚は親がいる間はしないと決めた正一が一目惚れをしたのである。
彼は今年で50歳になる。
大きな農家の長男で両親も嫁が来てくれないかと気を揉んでいた。
弟が2人いるが家業は継いでいないし結婚もしている。正一も30歳半ばの時に燃えるような恋をしていた2人で結婚も考える間柄だった。
しかし正一の親は何かにつけて農家の嫁には合わないと農家の嫁という条件だけで彼女を見ていた。
正一はその事で彼女は傷ついていく事が我慢出来なかった。しかし家業も捨てる事は出来ずに正一から別れを告げその瞬間から親がいるうちは恋をしないと決めてお見合いも全ての断っていた。
それが正一なりの彼女への償いになっていた。泰造はその事を後で知り激怒して正一の両親を叱りつけたが後の祭りだった。
「おい、お〜い、おいおい、孫ぉマゴマゴマゴォ〜」
ゆみこが耳元で大きな声を出していたが正一は気づかなかった。結子がふふふっと笑った顔に正一も微笑んだ。その瞬間にゆみこは正一の足を思いっきり踏んだ。
「あ痛っ、なんですか急に。」
「おい孫、泰造じいちゃんに会える?」
「じいちゃんに?なんでまた。」
「この結子さんを紹介すんの。」
「結子さんって言うですか、素敵な名前ですね。僕は正一と申します。」
「これはご丁寧にどうも、私はゆみこと申します。」
「あなたに言ったんじゃないんですよ。でもなぜ結子さんをじいちゃんと会わせるんですか?」
正一はシラっとした目でゆみこを見ながら聞いた。
結子は、はっと気がつき自分から正一に話し出した。
「私、白石結子と申します。小さな定食屋をやっているんですが取引業者から取引を破棄されてしまって、お野菜を私に下ろしていただけないかと相談をしたくて。」
「定食屋さんですか〜美味しいお料理を作るんでしょうね。わかりました何がいるかお話ししましょう、欲しい食材は野菜だけですか?お肉や魚なんかもいるんじゃないんですか?」
「はい必要ですけど。」
「私が組合に話してそちらも契約させますよ。」
「えっ本当ですか?」
「はい、組合にじいちゃんの名前を出せばすぐ見つかりますよ。」
「あ、ありがとうございます!」
結子は深々と頭を下げながら、蝶々を追いかけるゆみこを見た。
おばあちゃんが私にここへおいでと呼んでいたんだ、そして私はおばあちゃんに会ったんだと結子は確信した。