予定だらけのスケジュール帳1
「あっもうこんな時間なの?待ち合わせ遅れちゃうわ。」
直子は急いで仕事の支度をしながらリビングの時計に目をやり、スケジュール帳を確認した。
直子の夫、忠夫がキッチンから直子に話しかけた。
「なんだよ、今週も日曜日にも予定をいれてるのか?」
「しょうがないでしょう!お客さんが日曜がいいって言ううんだから!その後、
午後もお客さんと会う予定があるのよいちいち聞かないでくれる!」
イヤリングを嵌めながら直子はバツが悪いのか少し苛立って答えた。
長男の晋吾がサッカーの試合の準備を終え自分の部屋からキッチンへとやって来ていて
バックを置きながら2人のやり取りを聞いて慌てて言った。
「えっママ、仕事なの?今日はサッカー最後の大会の決勝戦なんだよ。
僕、一ヶ月も前から言ってたよね。絶対に決勝まで行くから見に来てって。」
「ごめんね~どうしてもこの日がいいって言うお客さんがいるから、また今度ね。」
「今度って、決勝でしかも最後なんだよ。だから僕はこの日のために頑張ったんじゃないか!」
「ごめんって言ってるでしょ!じゃあなに、ママは頑張ってないって言うの?
これだけスケジュールをいっぱいにして頑張ってるのよ!」
「おい直子!いい加減にしないか、泣き出したじゃないか。お前が見に来てくれるのを目標に晋吾はしてきたのにそんな言い方はないじゃないか。」
「私は忙しいのよ!時間を惜しんで仕事してるのに!どうしてわかってくれないの?もうでないと遅刻しちゃうから!」
彼女はそう言って晋吾の近くにあったスケジュール帳をカバンに詰め振り向きもせずに自分の車に乗り込んだ。
「あーどうして私のスケジュールをわかってくれないの。」
彼女は苛立ちを隠せないままに車を走らせた。車を走らせていても彼女の気持ちはまだ治っていなかった。
まだ少し肌寒さが残るが太陽の日差しは優しく、木々にも人々にも癒しの光を差し伸べてくれる季節が訪れているのだが直子はそんな景色を見ようともせず、日々スケジュール帳をビッシリにする事だけを考えそのスケジュール帳を眺める毎日を送っていた。
今日も直子はその景色に意識を向けることもなく車を走らせている。
そしてなんとも言えない怒りが心を支配している様だった。
直子は信号待ちをしている間、隣の車を横目で見た。
どこに出かけるのか家族4人で楽しいそうに会話をしている。笑顔が見えその笑い声が直子の車の中にも聞こえてきていた。
直子は冷たい視線のままフンっと鼻で息を吐きながら呆れた表情を見せ、
聞こえてくる笑い声にまた苛立ちが募り、カーラジオのボリュウムを上げた。
「あーこの信号長いわねー故障してるんじゃない。」
ハンドルを右手の人差し指が小刻みにタップする。
信号が青に変わった。隣の車はスムーズに発進した。直子は信号が青に変わったのに気づかない。
後ろの車がクラクションをパッパーと鳴らすと直子はようやく気がつき車を発進させた。
「なによっわかってるわよ。少しくらい待てないの。」
直子は車に乗ってから文句しか言っていな。直子は信号待ちで隣だった楽しそうな家族のファミリーカーが目に入りなぜか直子はおもむろに車線を変えてそのファミリーカーの後ろを走った。
「どうせ楽しいのは行きがけだけよ。退屈やら、お腹すいたやら、面白くないって絶対言い出すわよ。」
直子はブツブツと言いながら、そのファミリーカーの後ろまだ走っている。
ファミリーカーは左に曲がる。直子も左の曲がったが左に曲がるとそのファミリーカーの姿が見えない。
「ウソ?」
直子がビックリした瞬間に直子の車のエンジンが止まった。
「エッ?何?どうしたの?なんで?」
直子はエンジンをかけて見たがかからない。再度試みたが結果は一緒だった。
「もぉーなんなのよ。どうすればいいの!」
もう一度試みた時、ガソリンのメーターがエンプティーを指していた。ガス欠である。
直子は外に出て溜息を吐きながら空を見上げ目をつぶった。