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エンディング:召喚してくれてありがとう

 揺蕩たゆたう意識の中で思い出がよみがえってくる。出会いはとても悲しい気持ちになった。眷属は召喚士サモナーと出会う事を今か、今かと待ち望んでいるのだから当然のことでしょう?


 初めて主と出会った時は星の綺麗な夜だったね。今にも零れ落ちてきそうな星や月の光がマルの体に写り込んで、マルの誕生を祝福していると思ったんだ。


 この喜びを伝えたくても、言葉を発することができないから、マルは初めましてとプルンと揺れたの。でも、主はマルを見て困惑していた。それは、喜びなんかじゃなくて、なんかこう、驚愕じゃなくて。失望?そういう風に見えてどうしたらいいのかわからなくなった。


 マルが『どうしたの?』と思っていると、主はマルの体から共命石を抜き取った。


『あるじぃそれはとったらだめ......』




 体が崩れてどんどん力が抜けていく、意識も保てなくなってくる。『なんで?どうして?』と思っていたらその答えがわかった。


「ドラゴンこい!!!」


 あぁ、そうなんだ。主はドラゴンを召喚したかったんだね。ごめんね。マルが生まれてきてごめんね。マルの意識はそこで一旦なくなって、気付いたら真っ暗なところにいた。そこから這い出てみると袋の中だったことがわかった。


 真っ暗な部屋のなかで主の寝息が聞こえてくる。ゆっくり近づいて確認してみると主はうなされるように苦しそうにしていた。多分、マルのせいだと思って体がぐにゃぐにゃになった事を覚えてる。


 陽も高く上がった頃に、主が目覚めて、おそるおそる挨拶する。また拒絶されるのではないかと怖かった。主はマルを見て驚愕して固まった。やっぱり嫌だよねって思ったら、主は僕を持ち上げて優しく抱きしめてくれた。すごく嬉しかった。ほっと安心して眠くなってくる。


 ......ハッと気づいたら体が溶けて崩れてしまっていた。いけないっと体に力を入れるけど体は元にもどらない。体を保てるだけの力が残ってなかった。もうお別れしなければいけない事がすごく残念で切なかった。もっと主といたかったな......。




 マルは死んだはずなのに主の声が聞こえてくる。これは召喚の時に感じた感覚と同じ。声に応えるように意識を向けて主を探す。微かな光に導かれるように行き着いた先には主がいた。マルは嬉しかったけど、主はまた残念な顔をしていた。今だから思うけど、まったくひどい主だね。心が切なくなってくる。あれ、今ってマルはどういう状態だっけ?



 主は最初ずっとイライラしていた。その時の感情は全部伝わってきて、それが全部マルのせいだとわかって申し訳なく思ったよ。できるだけ迷惑をかけないように良い子にするよ。ごめんね。時々マルの体をちぎって投げて喜んでくれたから、マルにも役に立てることがあるとわかって嬉しかった。



 日を追うごとにどんどん体調が悪くなってくる。魔力が足りない。意識が遠くなってくる。でも魔力が欲しいなんて言えない。迷惑かけないようにしないとっと思ってた。でも授業のひとつで魔力渡しがあった。


「なぁ、お前、魔力足りてないんだよな」


 え?主から魔力がもらえるの?


 主が手を差し出してきて、そこに触れる。久しぶりに触れる主は温かった。ほんのちょっと触れ合ってるだけなのにじんわり心が満たされていく。気が緩んで眠くなってきた。


「ダメだな、離してくれ」


 気が付くと体が溶けて、水滴となり零れ落ちていた。もっと主に触れていたかったのに体の調子が悪い。魔力が底につきかけて体が保てない。意識が朧になっていく。せっかく主が魔力を渡してくれるというのに吸い出す力が残っていない。ごめんね主。マル悪い子だったよね、ごめんね。


 体がまた崩れていく。主が焦っているのがわかる。必死になっているのがわかる。主はマルがいなくなるの悲しい?今度は主の方から触れてきてくれた、ひんやりして気持ちいい。意識が遠のいていく。


 ふと主を見ると泣いていた。主が泣いていた。マルの為に泣いていた。それだけで十分だと思った。最後に主の涙を受け取ってうとうとして眠ってしまったみたい。


 

 目が覚めるとたくさんの人に囲まれていた。プルンと揺れるとみんなが喜んでくれた。ちらっと主を見ると、主も喜んでいた。嬉しい。



「辛く当たってごめん、気付いてやれなくてごめん、最低な親でごめん」


 マルは気にしてないよ。マルこそダメな子でごめんね。それなのに主はマルと一緒に居ると言ってくれた。それから主は優しくなった。沢山魔力を渡してくれて、マルと名付けてくれてやっとマルは主の子供だと認めてくれた。



 あぁ、思い出した。これがマルと主の出会いだったね。



 確か、初めての戦いは角ウサギだったね。良いところを見せたくて張り切っていた事を覚えているよ。主は呆れた顔して、でも口元が笑ってたっけ。


 主はもっとマルが強くなれるように特訓してくれたね。主は強くてびっくりしたよ。それからフーランも強かったなぁ。でも楽しかった。


 もっと強くなれるように森に行って魔物と戦ったね。森は怖い場所だったけど楽しい場所でもあった。主と一緒に戦うのは1番楽しかったし、魔物石を吸収して強くなる充実感もそうだし、ずっとこうやって主と生活していたいと心から思ったよ。


 魔物石を吸収した後の主は少し可笑しくて面白かった。こんな風に思ってたのがバレたら怒られるのかな?きっと怒ってそれから笑うんだろうな主は......。



 リョウリョウガルマと戦った時は後悔した。危うく主が死ぬところだった。主が傷つくのはマルが傷つくよりもとても悲しかった。主は主なのにマルを守ろうとしてくる。普通逆だよ。マルが主を守るんだよ変な人だよね主って。変わり者の主だからマルは主を守れるように強くならないといけない。



 マルがフーランと遊んでいると主はいつも笑ってくれた。いたずらを仕掛けても最後は笑って許してくれた。主は本当に優しい。マルにとって毎日がかけがえのない1日の連続だった。


 



 どうやら主はステラの事が好きみたいだった。普段自分から手を繋ぐこともできないのに、魔物石を吸収した時だけ積極的でハラハラしてたんだよ。全然完璧じゃない主だからこそマルは主の事が大好き。主はマルの親であり、友達のようだったね。





 ......あれ?どうしてこんな事を思い出してるんだっけ?




 あぁ、そうだ......。マルと主はすごく強い魔物と戦って、ずっと主だけが狙われてたんだ。魔物はどうしてか、マルと主なら主ばかりを狙ってくる。マルを狙ってくれたらいいのにいつも主だけが危険になる。


 それで強い魔物がまた主に攻撃して......ッ?!そうだ!主は無事なの?!


「マル、マル、マル、マル!!」


 ......よかった。ちゃんと生きてる。マルはちゃんと主を守れたんだね。


 体が崩れていく。どうやら共命石が傷ついてしまったみたい。ごめんね主、バイバイみたい。主ならどんな強い物でも倒せるよ。絶対負けたらダメだよ......


「やめろよ......こんな時に冗談はよせよ!!マル!!」


 主......マルの事はいいから、戦いに集中して......


「頼む、頼む、召喚!マルを召喚だ!!マル戻ってこい!!!」


 ......嬉しいなぁ、また主に召喚してほしいなぁ。主の魔力が流れてくる。温かいなぁ。マルが主からもらってたチカラ......主に返すね。ありがとう、マルはすごく幸せだったよ。幸せだったから。......もっと主と......一緒に......いたかったなぁ......


「違う!違うマル!!僕が望んでいるのはこれじゃない!!」


 主の中は温かいなぁ......


「クソ、ふざけるな。許さない。絶対許さない!!」


(あるじぃ......どうしようもなく不器用で、ひねくれてて、優しいあるじぃに召喚されてマルはしあわせだったじぇぇ......)


「返せ、返せ。僕のマルをかぁーえぇーーーせぇぇぇぇぇーー!!」


 ......バイバイ――――。



§§§



 魔物の氾濫からしばらくして、スライ君は王様に呼び出された。あとから聞いてみると、マル君にSランクの称号と、スライ君は召喚騎士サモナーナイトとしての地位を受け賜わったみたいだけど、召喚騎士サモナーナイトの方は辞退したみたい。


 うん。そうだよね。マル君がいないのに召喚騎士サモナーナイトというのもおかしいもんね。それから予想外の言葉がスライ君の口から飛び出してびっくりしたよ。


「ステラ、召喚騎士サモナーナイトは辞退しちゃったけど、それでも僕と一緒に居てくれる?」


「スライ君何、当たり前の事言ってるの?当然でしょ?」


「そっか。ありがとう。それじゃもうひとつ聞いてくれる?」


「なぁに?」


 スライ君が私の手をとり、そして片膝を地面につけた。


「絶対幸せにするから僕と結婚してほしい」


「......はい。喜んで」


 突然の出来事に目頭が熱くなる。


「フーランも許可してくれるか?」


「ぎゃ!」


「ありがとう」


 私達は、街の端っこの方に家を立てて一緒に暮らした。学校の方もまだ卒業できてなかったけど、スライ君には......マル君がいない事でもう学校に通う必要はないし、私の方もスライ君のおかげですっかり強くなってしまって、もうフーちゃんに敵う人は学校の中には皆無だったため、授業自体は免除されている。


 それでも、スライ君は時折学校に行って本を読み漁った。どうやら、スライ君はマル君の事をあきらめてないみたい。


 普通の人ならとっくに諦めてしまう眷属の喪失。それなのにスライ君は全然諦めない。本当に強い人だと思う。


「今日も図書館に行くの?」


「いや、ちょっと試したい事ができたんだ」


「もしかして、マル君を召喚する手掛かりがあったの?!」


「わからない。でもきっかけになりそうな事はあった。これからは魔力操作の実験をしてみるよ。......ごめん、自分の事ばかりで」


「ううん。いいの私もマル君と会いたいから。頑張ってねスライ君」


「ありがとう」


 実際、共命石もないのに召喚なんてどうやったらできるのか私にはわからない事ばかりだった。でもスライ君なら何とかしちゃうんじゃないかって思わせるから不思議だ。でもなかなか成果は出ずにそんな日々が続いた。


「......どうしても、形にならない」


「スライ君は何を作ろうとしてるの?」


「共命石だよ」


「え?そんなことできるの?」


 スライ君は静かに首を横に振った。


「ローゼンワイナーの最後の大魔法で、空から光が降り注いだ。その光を体に受けた人の子供はその手に共命石を握って生まれるようになった」


 そう、今では当然の事なんだけど私たちは生まれる時に共命石を握りしめて生まれてくる。その共命石を大切に保管して15歳になった重月祭の日に召喚の儀を行って眷属を呼び出す。召喚するためには共命石が必要。生涯でひとつしか手に入らない共命石だから召喚も生涯に1回しかできない貴重な事なんだ。


「でも、初代召喚騎士サモナーナイトの50名はその光を受けて、その場で共命石を手に入れているんだ」


「ッ?!」


「だから、きっと共命石を作る何かがあると思って、僕はずっと魔力を操作して共命石が作れないかと試してたんだけど、出来そうで......できない。何かが足りない」


 私も一緒になって考えてみた。全然知識がない私だけど、なにかがとっかかりになればいいなと思って思いつく事を言葉にした。


「赤ちゃんが共命石を握りしめてるポーズってなんかお祈りしているようにみえない?もしかしてそういうのも関係あるのかな?」


「その考えはなかった......」


 スライ君が早速、お祈りするように構えた。魔力の操作も同時に行っているのか手の中から光が漏れている。その光景に期待値が膨らむ。......でも、スライ君が手を広げてみてもそこには何も存在していなかった。


「......はぁ。なにか上手くいく気がしたんだけどやっぱり魔力が形にならないんだ」


「形にならないってどういうこと?」


「僕は魔力が見えるのは知ってるよね?」


「うん」


「魔力視ではそこに共命石らしきものがあるんだ」


「そうなの?!」


「うん。だけど、魔力視を解除するとそこには何もないし、魔力視でも時間が経つとその塊は消える」


「......そうなんだ」


「僕はてっきり僕の魔力量が足りないと思ってこの前デュポタリタスの魔物石を吸収......」


「え?」


「っあ......」


「したの?あの魔物石を?!じゃぁ、あの時の体調不良って......」


「ごめん、また強くなっちゃった......」


「強くなっちゃったじゃないでしょ?!もう!マル君がいないのに危ないからダメって言ったじゃない?!スライ君?!」


 もうスライ君って後先考えないところがあるっていうか、そういうところだぞ!私は頬を膨らませてポカスカとスライ君を叩いた。フーちゃんも加勢してきてくれた。


「痛っ!フーランは手加減しろよ!痛いって、見て、真っ赤かだぞ!真っ赤かだぞ!!」


「スライ君?」

「ぎゃぁ?」


「......はい、すみません」


 してしまったものはしょうがない。スライ君が無事だったならいいよ......もう。


「ローゼンワイナー様が魔法の光で、共命石を作れるようにしてくれたんだよね......」


 何かが思いつきそうな気がする。初代召喚騎士サモナーナイト様たちは国を守るために戦い続けたらしい。たぶん人一倍責任感が強い人たちだったのではないかと思う。きっとローゼンワイナー様の死が近い事も知ってその後の事も憂いていたのかもしれない。だからローゼンワイナー様の魔法の光を見て祈った?


 ローゼンワイナー様の死後、国を守る力が欲しいと......?


「......ステラ?」


「ちょっと待って、いま何かひらめきそうなの」


 握った手を口に当てて考える。もし、その人たちがスライ君と同じように魔力視でみえるような塊......共命石の素となるものがあったと考えたらどう?


「ローゼンワイナー様の光で形が形成された?」


「え?」


「もしかし......共命石を形作るには、ローゼンワイナー様の......」


 ちがう、それなら今度は赤子が共命石を握って生まれる説明がつかない。


「ううん。ローゼンワイナー様である必要はないんだ!他の人の魔力が必要って事はない?!」


「え?なに?どういうこと?わかるように説明して??」


 心が逸る。私の中にももしかしてという希望が生まれた。


「スライ君さっきのお祈りをもう一回やってみて!お願い」


「......わかった」


 スライ君がもう一度お祈りをして、握りしめた手から光が漏れ出す。その握りしめた手に私とフーちゃんのふたりの手を重ねて、フーちゃんに魔力を流してもらう。


(お願い。上手くって。マル君、私たちのところに帰ってきて)


 フーちゃんが手を離す、私も手を離してスライ君をみた。



 スライ君の目は大きく見開いていた。スライ君の手が壊れ物を扱うようにゆっくりと解けて、その手の内が晒される。


 スライ君の手のひらには、薄い氷に覆われた......共命石があった。


「す、スライ君!!」


「あ......あぁ」


 スライ君が勢いよく立ち上がる。


「召喚......ごめんステラ行って来る!!」


 スライ君は居ても立っても居られず家から飛び出していった。当然だよね。


「フーちゃん!私たちも行こう!!」

「ぎゃ!!」


 私たちはすっかり暗くなった夜の街を駆け抜けて召喚の儀が行われる場所、祭壇まで走った。


 私たちが祭壇にたどり着くとそこは光で溢れていた。


 祭壇の前にはスライ君が立っていて、スライ君を中心に光の粒子がキラキラと煌めいていた。あの光は、魔物石が爆ぜた時の魔力粒子......もしかして、共命石が爆ぜてしまったのかと不安がよぎる。


 その光はゆっくりと収束してスライ君に、ううんスライ君の手前の祭壇へと吸い込まれていく。すべての魔力粒子が消え、暗闇に包まれ、そして次の瞬間、閃光が走った。


 突然の光に目を閉じる。


「マル!」


 スライ君の声だ。スライ君の声がマル君を呼んでいる。駆け足でスライ君の元へ急ぐ。


 台座にはプルンと揺れる流動体がいた。マル君なの?


『あるじぃ......』


「マル......おかえり」


『ただいまだじぇ......』


 あぁ、やっぱりマル君なんだ。よかった。マル君だ。マル君が帰ってきてくれた。


 スライ君が大切そうに抱きしめてる。私とフーちゃんもスライ君に重なるように抱きしめた。


 こんなに嬉しい事ってあるかな?またみんな一緒に暮らせるんだよ?私の顔はぐちゃぐちゃに濡れていた。


 スライ君を見上げてみると、涙をぼろぼろ流しながら笑ってた。あはは、私も人の事言えないけどさ、スライ君酷い顔だよ?イケメンが台無しだね。


 あはは、嬉しいのに涙が止まらない。良かったねスライ君。良かったねマル君。


あとがきのエンディングです。


リメイクしてスライローゼ物語をもう一度仕上げ直そうとも考えてましたが、もう一度最初から読み直してこの作品はこのままでも良いかなとも思いました。


もし書くなら、リメイクではなく、スライローゼとは別の新しい物語にしたいと思います。


また次回作が始まった時は遊びに来てください!それではバイバイ!

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