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エピローグ

「召喚!!」


 僕は光が強くなる毎に確信めいたものがあった。僕ならマルを再召喚できると、根拠なんてなんにもない。ただそう思うそれだけの事。僕はありったけの魔力をマルの共命石に流した。


 視界を覆うほど発光した時にマルの存在を強く感じた。だけど、僕が思っていた最良の結果ではなかった。



 共命石は眩く発光した後に爆ぜて魔力粒子へと変わった。


「は?......マル?」


 それは、見慣れた光景で、今最も見たくない光景だった。僕は茫然と手を光の中へ伸ばす。小さな欠片でもいい。そこにマルがいればそれだけでよかった。


 光は行き場所を見つけたというように僕の体に纏わりつき、僕の体へと吸い込まれていく。


「違う!違うマル!!僕が望んでいるのはこれじゃない!!」



 僕は悲しいのに、心の中が温かくなるのを感じた。僕の想いとは裏腹にだ。僕はこんなに苦しいのに、優しい気持ちに抱きしめられている感覚があった。


 魔物石を吸収した時のような魔力の暴走はない。それどころか今まで感じたことがないほどチカラが沸いてくる。そんなの当然だ。このチカラはマルそのものだ。暴走するわけがなく欠けていた部分が戻ってきたかのような万能感があった。


「クソ、ふざけるな。許さない。絶対許さない!!」


 僕はこの戦いで多くの命が失われている事を知っていた。先ほどステラの兄が死ぬところも見ていた。だけどどこか他人事だったに違いない。


 僕は最低限、僕の大切な人たちさえ守れたならそれでよかった。他人がこのことを知ったら偽善だ。傲慢だと罵しるのだろうか?それなら戦わずして生き延びるお前らはなんなのだ。


 お前らに眷属を失う気持ちがわかるのか。



 僕は聞こえるはずのない声と問答していた。それは他人の声だったのかもしれないし、不甲斐ない自分の声だったのかもしれない。


 僕は優しさに包まれて、万能感に支配されて、それでもなお、憤って怒りで身を焦がした。僕の体には炎の様に魔力が纏わりついていた。



 まるで幽鬼にようにゆらゆらを動き、落ちた剣を拾う僕を、あのでっかい魔物ですら見守っていた。


 僕が剣を拾い上げ、魔物を睨んだ時、魔物から初めて怒りの中に怯えを感じた。


 僕と魔物との距離はどれくらいあったのだろうか、遠距離攻撃を仕掛けてくるぐらいだ近くはない。その距離を僕は一呼吸の間に0にする。


 僕が振り切った剣が体を切り裂き、血が噴き出すのを認識してやっと僕が接近したことに気付いたようだ。


 驚愕。怯え。怒り。困惑。様々な感情が巡ったのが手に取るように分かった。それでもまだ僕を殺そうと襲い掛かったのはよかった。もし逃げ出したら追いかけるのが面倒だなって思ったんだ。僕にはもうお前を殺す以外の選択肢はないんだ。


 魔物が上半身を落とし、両腕を使って攻撃を仕掛けてくるが、不思議とどんな攻撃がくるかわかった。目で見えていない部分ですら見ているかのようにわかる。


 迫りくる右腕を払い斬り、魔物の腕を斬り飛ばした。


『デュララララララララ!!』


 魔物は痛みを耐えなお、攻撃を仕掛けてくる。その姿は退路を塞がれて半狂乱で襲ってくるといった感じだった。口を大きく開き鋭い牙をギラつかせて噛みついてくる。


 僕は自らその口に飛び込み噛みつかれる前にその首を落とした。体が体勢を維持できなくなり頭と同時に大地に落ちて大きな音を立てた。


 あっけない幕切れに、ロキアロッド兄さんや女性の召喚騎士サモナーナイトが唖然としているみたいだが、僕にはわかる。こいつはまだ生きている。


 みんなが死んだと思っている本体に剣を突き刺すと魔物の体がビクンと跳ねた。僕はビクンビクンと跳ねる体を足で押さえつけ何度も、何度も剣を突き刺す。魔物は動かなくなった。


 魔物は死んだ。それでも僕の怒りは収まらない。動かない魔物に何度も何度も剣を突き刺してボロボロにする。


「お、おい」


「スライ、もう死んでる」


 周りから雑音が聞こえる。僕の手は止まらない。


「返せ、返せ。僕のマルをかぁーえぇーーーせぇぇぇぇぇーー!!」


 僕の悪鬼のような姿に兄であるロキアロッドでさえ怯んで後ろに下がる。召喚騎士サモナーナイトの女性も震える体を手で押さえている。目障りだ。僕が怖いなら退いていろ。


「お前がぁ!!お前ががああああ!!」


 僕は意味のなさない言葉を吐き続け、罵倒し死者の体を八つ裂きにし続ける。国の脅威となる魔物を仕留め、歓喜に沸くはずだった場面は僕の罵倒と肉を切り裂く音がどこまでも響くほど静寂だった。




 もう何十回目か剣を振り上げた時に後ろから衝撃が加わった。




「スライ君!......スライ君!、スライ君!」


 ステラが僕に駆け寄ってきて後ろから抱きしめてきた。


「スライ君よく頑張ったね。よく頑張ったよ」


「ステラ、マルが......」


「うん」




 ステラの目からぼたぼたと涙があふれて落ちては僕の背中を濡らしていく。




「また、マルに守ってもらったんだ。それで......」


「うん」


「......また......ぼくは......」





 ステラが強く抱きしめてくる。




「僕はまた、マルを、殺した......」


「ちがう!それはちがうよ!!」


「違くなんかない!!僕がもっとしっかりしていれば!!僕がもっと強ければマルは死ななかった!!僕が殺したんだ!!」


「ちがう、スライ君のせいじゃない!違うもん!」





 ステラが荒い息をして僕を掴む手に更に力を入れてた。





「......ステラ、離してくれ」



 僕は今まで1度たりともステラを拒絶したことはなかった。でももう......どうでもいい。どうしたらいいかわからない。無理だ。突然失うぐらいなら何もいらない。




「やだ......」


「ッ離せ!!!!」




 僕は怒りに任せて、ステラを振り払うべく体に力をいれる。




「離さない!!絶対イヤ!絶対離さない!!私は!スライ君の傍にずっといる!!!例えスライ君が私の事が嫌いになっても!私は......私からは逃げられないだから!!」


「なん、だよ......それ......」




「私が辛い時、スライ君が助けてくれた。だからスライ君が辛い時、私が傍にいるの。居たいの......。こんな形で勝っても嬉しくないよね。辛いよね。一緒に喜ぶマル君がいないんだもん。......私も嫌だよぉ。マル君。マル君。まるくん、うあ......うあああああああああぁ」



 僕の代わりに沢山泣いてくれるステラの慟哭どうこくを聞いて体から力が抜ける。




「マルはさ......いたずら好きなんだ。よく姿を隠して心配させたりするんだけど、僕にはわかるんだ。マルが近くにいるって気配が」



 僕はは唇を震わせ途切れ途切れで言葉を繋いでいく。



「......だから、わかってしまう。マル......マルがもういない事が。マルは僕の目の前で崩れて、僕の目の前で......共命石が魔力粒子に変わって、僕の中に吸い込まれていった。......そして、いつも近くにあったマルの気配がなくなったんだ......」




 僕は目頭が熱くなるのを感じて堪えるように天を見上げた。




「マルはいたずら好きだから本当は生きてて、僕をびっくりさせるために隠れてる。それなら良いなって思うけど!......そういった希望すら持てないんだよ......」



 熱にうなされて視界が滲む。



「1年だ。......たった1年。僕がマルと居られた時間。1年は短すぎる。......くそ、くっそぉ!!なんで......全然足りねーんだよ!!......戻って来いよ......マル」



 空から雨がぽつぽつと零れ落ち、近くにあった人の気配が遠ざかっていく。この場には僕とステラ、そしてフーランだけが取り残される形になった。


「スライ君、私はどこにも行かないから」


 雨の音でかき消えそうなステラの弱々しい声が僕の背中を震わせた。僕は剣を手放し、そしてステラの手を解いて離す。


「......スライ君?」


 目を赤く腫らし、不安そうな顔で見つめ返してくるステラを僕は抱きしめた。


「どこにも行かないでくれ。ステラは僕から......」


「うん。どこにも行かないよ。ずっと、ずっとスライ君と一緒にいる」


「......」


「私、スライ君のこともマル君の事も大好きだから、スライ君と一緒にずっと思い出を守るよ」


「ありがとうステラ。ありがとう」


 ステラがポンポンと僕の背中を撫でるその振動がなにより心地よかった。フーランが近寄ってきて雨に濡れないように氷で遮ってくれた。僕は手を伸ばしフーランの頭を撫でた。






 突然起きた魔物氾濫は人間側の勝利という形で終わった。どうやらまだまだローゼンワイナー国の歴史は続くらしい。しかし、魔物との戦闘の傷跡は深く、多くの命が失われ、北のの防壁町が壊滅、中央も街を分断するように破壊の痕が残った。


 ローゼンワイナー国が有する最高戦力の生き残りは12名、ロキアロッドとフレアの2名と西と南に派遣されていた召喚騎士サモナーナイトの10名だ。もし、この10名も戦闘に間に合い共に戦っていたのなら失われていたかもしれない命だ。戦えなかったことによって守られた命だったがその実力は本物で、召喚騎士サモナーナイトの立て直しには欠かせない人材となった。


 この戦役において最高の戦果を挙げたことで、ロキアロッド、フレア、スライローゼの眷属にSランクの称号が与えられた。


 スライローゼには召喚騎士サモナーナイトとしての地位を国王自ら付与されたが、スライローゼは自身の眷属を失った事を理由に辞退した。スライローゼ自身が戦える事は周知の事実だったが静かにその意思を受け取った。


 戦闘直後は悲しみを携え喪に服した英雄だったが、暫くして綺麗な妻を迎え幸せそうに暮らしている姿が度々目撃されるようになった。




 その英雄の近くにはピョンピョン跳ねる眷属がいたとか、いなかったとか。



お終い

 ここまで読んでくれてありがとうございます。

これにてスライローゼの物語は完結です。


 気が向いたら後日談でハッピーエンドを書くかもしれません。


 当初なんとか頑張って12万字かければ上出来と思っていましたが、20万字書くことができました。

 思うように皆様からの反応や評価が得られなくてモチベーションが下がって半端な文章を書いてしまったのは反省点です。書くのをやめてしまおうかと思う事もありました。


 たった17件かもしれませんがブックマークしてくれた方は少なくても僕の味方だと思い最後の力を振り絞る事ができました。


 ブックマークありがとうございます。とても嬉しかったです。


 今作を少しでも面白かった。または次回作ガンバレなど思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をしてください。


§§§


 このスライローゼですが一定期間置いたのちに非公開にしたいと思っています。そして、描写の足りない場面や、不自然な会話を修正してリメイク作として毎日更新で流したいなっと。

 あくまで思っているってだけで、そのまま放置するかもしれませんが。その時に見かけたら覗いてやってください。



 次に何読もうかなっと迷っている方は槻影さんか、三嶋与夢さんの作品がおすすめです。控えめに言って僕の100倍はオモシロイのでおすすめなんです。



 それでは本当に、本当にありがとうございました。


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