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(まいったな......)


 スライローゼは立ち上がってサムズアップしたのはいいものの、彼の視界は揺れていた。死からの回避に勝るものはないが、スライローゼを死から救った衝撃は彼に深刻なダメージを与えていた。


 ぼんやりとした意識の中で見えた姿で、自分を救ってくれたのが先ほど倒れていた召喚騎士サモナーナイトだと分かった。彼女が戦える状態まで回復したのは驚きだったが、スライローゼが思うのは取り残されただろうステラの事だった。


(安全な場所まで逃げてくれてたらいいけど)


 スライローゼは満身創痍ですぐには動けない状態だった。頭ではここに居てはいけない考えても体が言う事を効かない。いくら体を強化してもその衝撃は体の中を突き抜けていく。


 風船に針を刺すと、風船は勢いよく破裂するが、風船にあらかじめテープを貼り補強しておくと穴は開くが破裂を食い止めることができる。スライローゼの強化もそれと同じようなものだった。


 本来なら、スライローゼを弾き飛ばしたあの攻撃も、体を強化していなければ衝撃と共に爆散していてもおかしくないものだった。しかし爆散するはずの体を繋ぎとめるように魔法は働く。見た目こそ大きな傷はないが痛みを消せるわけではない。


 死の恐怖、痛みによる恐怖、痛みによる麻痺それらを乗り越えても戦い続ける限りまた繰り返されるのだ。少しでも弱気になってしまえば心が折れる。心が折れれば死を選ぶだろう。痛みで意識を手放せば死がもたらされるだろう。


 楽を選べば死が微笑む。スライローゼは進んで苦を選び続けなければいけなかった。


(痛い。痛い。痛い。痛いからなんだ。怖い、怖いよ。確かに怖いそんなのは何度も体験して乗り越えてきた)


 スライローゼが動けない間、回復したロキアロッドのルキルフが舞い戻り、フレアのカムイと共に抑え込んでいた。


 当初ドラゴンに対して敵意をむき出しにしていたデュポタリタスはだが、なぜか今はスライローゼを殺す事に躍起になっていた。それは、デュポタリタスの本能が一番危険なのはスライローゼだと危険信号を発していたのだろうか。


 ルキルフとカムイの攻撃を払いのけながら、スライローゼの元へ歩みを進めていく。マルはスライローゼを回収しようと全力で駆けているが、まだデュポタリタスと並ぶような距離だ。デュポタリタスより早くスライローゼの元まで行かなくてはいけない。その焦りが見て取れた。



 遂にマルがデュポタリタスを抜き、もう少しでスライローゼと合流できるそう思われた時、デュポタリタスも同じことを思った。今瀕死になっているスライローゼを回収されて回復されては面白くない。今殺す。絶対に殺す。


 デュポタリタスから殺気が漏れ出すと共にデュポタリタスの鱗が逆立つように広がった。


「なんだ?!」


「何かおかしい!フレアさん一旦離れて!!」


 デュポタリタスは尾を振るうと同時に魔力波を放ち、スライローゼに向かって自身の鱗を射出した。



「な?!」


「避けろスライ!!」


 避けろと言われても、スライローゼの体は動かない。たとえ動けたとしても横殴りの雨のように迫りくる鱗を避ける術などなかった。


 飛来する鱗がゆっくりと迫って来る様子をみて、また先ほどと同じ引き伸ばされた時間の中だからこそ強く意識させられる。





(......僕は死ぬんだな)





 死を意識するとまず音がスライローゼの世界から消えた。それから次第に色が消えていく。頭の中でいろんな事を思い出したような気もするがそれがなんだったのかわからない。死ぬことの恐怖か、無念か、残した者への想いか、それとも未来を嘆いての事かスライローゼの頬を涙が伝う。


 白黒になってしまった視界に、半透明の何かが覆う。



 半透明の何かは、スライローゼの全身を覆い飛来する鱗を受け止めた。


 

 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスと鱗が刺さって突き抜けてくるが、スライローゼの目の前でそのすべてが停止した。



 完全に鱗の雨が止んだ頃、視界に色が戻りだす。スライローゼは目を見開き、動かなかったはずの体が勝手に動き出す。


 目の前に広がる半透明の何かから、鱗を取り除いていく。


「マル、マル、マル、マル!!」


 スライローゼが魔力を渡そうとマルの体に触れると、マルの体はドロッと溶けて崩れた。


 スライローゼは慌ててマルの体を抱きしめて受け止める。抱え込むようにマルを保持して魔力を流していく、なのにマルの崩壊は止まらない。マルの体は腕から全て流れ落ち、手には共命石だけが残った。


「やめろよ......こんな時に冗談はよせよ!!マル!!」


 スライローゼはかつて自分が犯した過ちをした時を思い出す。あの時はどうした。どうしてマルは助かった。スライローゼの脳裏に再召喚して赤色のマルが現れた場面が浮かぶと同時に再召喚を試みていた。


「頼む、頼む、召喚!マルを召喚だ!!マル戻ってこい!!!」


 スライローゼの手から光があふれる。マルの共命石が発光して輝く。



 スライローゼは再召喚の兆しを見て、魔力を流し続ける。マルの共命石は次第に発光を強め目が開けていられないほど輝いた。スライローゼは確信を持ってもう一度唱えた。


 かつてはドラゴンを願って、だが今回はスライムを――――マルを願って。


「召喚!!」



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