猛追
度重なる攻撃により鱗は割られ、生傷が増えていく。ドラゴンだけでも油断できる相手ではないというのに、予想外の強者が現れていい様にあしらわれている。
1体だけでも潰せればこの状態を崩す事ができるというのに、その1体を潰すことができない。うまくいかないもどかしさと、甘んじて攻撃を受けている事実が憤怒となり爆発した。
デュポタリタスは咆哮をあげ渦を巻くように体を動かし、まとわりつく羽虫を払いのける。
デュポタリタスが動いている間はスライローゼたちは近づけない為距離を取って離れた。それもそうだろう、高速で動くその巨体はそれだけで脅威だ。まかり間違って身体の一部に触れただけでどれほどの衝撃になるかわからない。
スライローゼたちが慌てて距離をとっても、デュポタリタスの渦も大きくなっていくのでデュポタリタスを中心点としてスライローゼたちは大きく離れる形になってしまった。
デュポタリタスは回転の最後を締めくくるかのように、加速した体のスピードを尾に集中させて大地ごと薙ぎ払った。デュポタリタスの尾は大地を削り噴煙をあげ、めくり上げられた大地は石礫となり周囲に散開する。
遠く離れていたステラとフーランの元にも石礫は飛来し、フーランの盾に激突した。
唯一安全地帯ともいえる空を滑空していたルキルフだったがやっと攻撃が収まったと思われた噴煙の中からデュポタリタスの尾が迫ってきていた。
デュポタリタスは周囲を薙ぎ払った勢いをそのまま空へと変え半円を描くように尾を打ち付けたのだ。
ルキルフはいち早く察知し方向転換を試みるが、デュポタリタスの一撃は予想以上に早く、ルキルフの翼を捉えた。
ルキルフは翼に衝撃が加わったことで錐もみ回転しながら墜落していく。
デュポタリタスの猛攻により、スライローゼ、マル、ロキアロッドとルキルフは隔離されてしまった。
激しい戦闘音にフレアが目を覚ます。
「うぐ、いったいどうなってやがる......」
「大丈夫ですか?!」
「あんたは?ッ!カムイは?!」
フレアは隣で横たわる自身の眷属に手を当てて傷を癒していく、次第に回復していく様子を見て安堵の息を漏らす。
「......あんたが助けてくれたのか?」
「いえ、私は戦いから逃げてここに......」
フレアはフーランを眺めて小さく笑う。
「こんなに堂々と立ち向かっていて逃げてなんてどんな皮肉だい?魔物は倒せなかったみたいだね、今はドラゴンひとりで戦っているのか?」
「いえ、今はその召喚騎士様の弟のスライ君が一緒に戦っています」
「なに?!」
フレアは状況を確認するために身を乗り出すが、あたりは砂煙に覆われて何も見えない。砂煙が晴れていく様子を注意深く観察していると、砂煙を突き抜け巨体が姿を現す。
デュポタリタスはルキルフに一撃をお見舞いした後、上半身を持ち上げて砂煙から視界を確保した。なぜそのような事をしたかと言えば、それはスライローゼを見つける為である。
デュポタリタスの尖った感覚はいとも簡単にスライローゼを見つけ、上半身を急転直下に落とし襲い掛かった。
濁流の様に襲い掛かるデュポタリタスにスライローゼは反撃することは疎か、避けることで精一杯である。
スライローゼは瞬間的に魔力を爆発させて緊急回避を行いギリギリで回避した。
スライローゼはそのまま逃げに徹する。ひとりではどうにもできない。
デュポタリタスは避けられると同時に体を翻して再び突進を仕掛けるが、これも避けられてしまう。的が小さい上に速くてイライラする。
今度はスライローゼの進路方向を塞ぐように円を描き退路を塞いだ。まさかの事態にスライローゼの足が止まる。
「やばい、やばいやばいやばい」
デュポタリタスは蜷局を巻き、段々と円を狭めていく。その時にブン!という風きり音が聞こえた。スライローゼはすぐに何の音か気付いて自然と口角があがる。スライムストライクだと気づいたからだ。
しかし、デュポタリタスもまたその攻撃に気付いて体をズラしてその攻撃を避けた。弾丸と化したマルは『じぇーーーーーー!!』と言いながら飛んで行った。
「うそだろーーーーー!!マルーーーーー!!」
やればできる子マルの痛恨のミスだった。
デュポタリタスはそのまま蜷局を巻く勢いを早めスライローゼを圧殺するために迫る。もう逃げ場所など空中を除いてない。
スライローゼは空中に飛び上がって回避するが、回避した先にはデュポタリタスが待ち構えており、視線が交わる。完全に誘われていた。
スライローゼの心臓が跳ねるように脈打つ。ッドッドッドッドと死の危険を知らせるために早鐘を打ち、世界がゆっくりと流れだす。スライローゼは反射的に剣を構えるが剣先が届くぎりぎりの位置だ有効打にならない。空中では出来ることがあまりにも少なすぎた。
どうにかしようと頭を必死に回転させるが起死回生などない。そうこうしている間にもデュポタリタスの振り上がっていた腕は羽虫を叩き潰すために振り下ろしに移行していた。
スライローゼは回避も反撃も無理だと断念し、全身に魔力を纏わせ絶対不可避の攻撃に備えて身を屈めた。だからと言ってデュポタリタスの攻撃に耐えられるなど思えなかった。
先ほどの無理な体勢からの平手打ちとは違う、体重の乗った打ち下ろしだ。これを耐えただけでも称賛ものだろう。しかし、その衝撃は地面に打ち付けられることで止まる。とてもじゃないがその衝撃には耐えられるはずもない。
スライローゼは選択を誤った。マルがスライムストライクを仕掛けた時に避けられた事を考えて同時に攻撃を仕掛けるか、逃げ出すか行動するべきだったのだ。
しかし、意識している場所とは違う方向からの衝撃がスライローゼにぶつかる。
「雷衝撃」
フレアは回復したカムイと共に大地を駆け抜けデュポタリタスに迫っておりその手にはフーランが作った盾を持っていた。
フレアは盾を空中に投げ、カムイに雷衝撃を指示する。雷の衝撃により弾き飛ばされた氷盾はスライローゼにぶつかりその体を弾き飛ばした。
実は氷なら一撃を与えられるかもしれないとデュポタリタスに向かって放ったもので、その一撃でデュポタリタスが怯んでいる内に救出する算段だったのだが、狙いはハズレ、スライローゼに命中してしまった。
この時フレアは「やっべ」って思ったし、スライローゼは「めちゃくちゃ痛い」と思っていた。
確かにデュポタリタスの死の一撃に比べれば、優しい一撃だったが死ぬほど痛かった。だが死ななかった事に感謝する。
衝撃に備えて防御態勢に移っていたのが功を制し、スライローゼはよろよろと立ち上がりサムズアップして精一杯強がった。
自分の手で殺してしまったとハラハラして嫌な汗が伝ったフレアだったが、その姿をみてほっと安堵した。2秒ぐらい反省した後、「生きてたからまぁいいか」と開き直った。
デュポタリタスはスライローゼと入れ替わった氷盾を殴りつけ、粉々に粉砕していた。キラキラと氷の破片が煌めく中、目標を殺せなかったことに憤慨した。デュポタリタスにとっても全力の攻撃だったのだ。
『デュララ!!』
デュポタリタスは相当悔しかったのだろう、咆哮とは違う、大声で吠えたというような声をあげた。
静かになったデュポタリタスはゼエゼエと荒い呼吸をしていた。




