一撃必殺
王が決死の総合戦の合図を繰り出そうと口を開いたその時。けたたましい音と同時にデュポタリタスの上半身が吹き飛んだ。デュポタリタスが地面に倒れると地響きがして地面の揺れを感じた。突然の出来事に王の開いた口が塞がらない。
「何が起きた?!」
デュポタリタスは自身の長い胴体に絡まるように地面をゴロゴロと転がる。砂煙が立ち上り目隠しされたように状況がつかめない。それでも注意深く観察していると砂煙の中を駆け抜ける小さな影を見つけた。
スライローゼはデュポタリタスが油断しているのを見て遠距離からスライムストライクを指示していた。
マルは触手を地面に突き刺し、自身の体を後方に引っ張った。マルの体は魔力操作により強靭な弓の様にしならせそして矢の如くで自らの体を発射した。
高速の弾丸と化したマルはデュポタリタスに激突してその巨体を吹き飛ばしたのだ。間違いなくこの戦闘において最大ダメージをマルはたたき出した。
スライローゼは追撃を与える為に地を駆け抜ける。魔力操作により強化された体は並みの眷属を凌駕する身体能力を発揮できるまでになっている。砂煙の中でも巨体が隠れる事はない。スライローゼが狙うのは首。これまでの戦闘で幾度となく繰り返してきた一撃必殺。首さえ落とせばどんな魔物も倒せた。だからチャンスがあるなら首以外に攻撃する目標はない。抜き身の剣を上段に構え跳躍する。
しかし、デュポタリタスは突然食らった攻撃の後だ、注意深く警戒していた。身に迫る気配を感じ、僅かな光の反射に気付いた。スライローゼの眼光によって正確な位置を捉え迎撃するために身構えた。
スライローゼは奇襲を気付かれてしまったが、もうすでに跳躍した後だ。攻撃をやめて回避する事もできない。迷う時間すらない刹那の中、意を決して捨て身の攻撃を敢行する。
スライローゼは自身に迫るデュポタリタスの手を無視して、当初の狙い通り首を斬り落とすために袈裟斬る。すでに喰いちぎられて損傷しているその傷口を狙った一撃はとても生物に当たったとは思えない硬質な音をたてるが、ギリギリと刃がめり込んでいく感触が手に伝わってきたところで、デュポタリタスの手によって弾き飛ばされた。
剣を振り切る事さえできれば致命傷を与えられたかもしれない。しかしそれは叶わなかった。まるで巨大な岩石に衝突されたような衝撃で体が軋む。衝撃の瞬間に下手に踏ん張らなかったのが良かったのかスライローゼの体は吹き飛ばされはしたが致命傷ではない。意識も残っているし、体は痺れるがまだ動く。マルに教えてもらった強化魔法が活きている。
『デュララララララララ!!』
首から噴き出す血を押さえ、デュポタリタスが咆哮する。忌々しいと言わんばかりの形相で倒れた体を持ち上げていく。
マルはいち早く察知し、飛ばされたスライローゼの体を触手で掴み受け止めて自らの体に固定する。すぐには動けないと判断したためだ。
「攻撃は失敗した。これから正面から戦わないといけないなんて嫌になるよ」
ロキアロッドはこの突然の攻防を上空から見下ろし驚愕していた。
「スライ?!」
幻覚かと何度目を擦っても映る光景は変わらない。
「なんて弟だ。あんな巨大な魔物に飛び込んでいくなんて......ルキルフあそこに向かってくれ」
「シギャ」
ルキルフは旋回して低空飛行に切り替えスライローゼの上空を飛んだ。それにスライローゼも気付く。
「スライ!無事か?!」
「兄さん!」
たった一言の短いやり取りにスライローゼは手を振り上げて答えた。気長に言葉を交わす時間などあるわけもなく、互いが互いの無事を確認してすぐに散開する。今やる事は決まっている。デュポタリタスを倒すそれだけ。頭のいい作戦なんてない。今スライローゼができるのは自分が戦力になるという事を示すだけ。またロキアロッドも同じであった。
「そうだ、ロキアロッド兄さんがいる。ルキルフの攻撃に乗じてチクチクやっていこう」
デュポタリタスはこの時初めて迷いが生じていた。ドラゴン以外にも無視できない存在が目の前に現れた。それもあのか弱い人間だったのだ。しかし、その強さは疑うものでもない。スライローゼとマルが内在している魔力はルキルフよりも多いのだ。肉体的な強さでいったらドラゴンであるルキルフに軍配は上がるだろう。しかし魔力的な強さでいったらあの人間の方が強いのだ。
『デュララララララララ!!』
試しに体の自由を奪う魔力波をぶつけてみても平然と立っている。デュポタリタスのチカラを撥ねのける実力がある証拠だ。なんの冗談だとデュポタリタスは思った。それでも考え直すと、押しつぶしてしまえば簡単に殺せる存在だと気付く。
『デュラ、デュラ、デュラ』
デュポタリタスの攻撃目標がスライローゼに移された。明らかな殺意にスライローゼの肌が粟立つ。スライローゼは諦めたように独りごちた。
「この世界は僕に厳しい」
スライローゼは身を低くしてマルに話しかける。
「マルもう大丈夫だ、体の感覚は戻った戦える。もう首を狙うのは無理だろう警戒されている。だからまずは体力を削る。出来るだけ散開して的を絞らせないようにしよう。あとは......マルに任せるよ好きに戦ってくれ」
『わかったじぇ』
スライローゼがマルから飛び降りると、別々の方向へ駆け出す。デュポタリタスを挟み込むように回り込む。デュポタリタスの視線はスライローゼを捉えている。スライローゼが動くのを確認してロキアロッドも上空から強襲を仕掛ける体勢に入った。
まずは無警戒のマルが触手を鞭のようにしならせ、デュポタリタスの胴体を強打する。パン!という破裂音と共にデュポタリタスが悶える。マルは外見に反してその一撃は重い。
マルの攻撃で怯んだ隙を狙ってスライローゼが胴体を剣で斬りつけるが、鱗を通して体表を少し切り裂くだけに留まる。
「クソ、刃が滑って斬れない」
スライローゼが刃で斬りつけてる時、ロキアロッドも攻撃を仕掛けていた。ルキルフから意識が外れたことでデュポタリタスの背中を鉤爪で裂きすぐに上空へ離脱する。
デュポタリタスは周囲を囲まれて戦い辛そうにしている。戦況を一番把握しているロキアロッドはその様子をみてこのままミスを犯さず攻撃を続けていけばイケるという確信が芽生えた。もうすでに枯渇しかけている魔力で消極的になっていた心を再度奮い立たせる。
目の前で、剣を振るい戦いに身を投じる弟の姿を見せられて不格好な姿は見せられない。
「ルキルフ俺たちがアイツのトドメを刺すぞ」
「シギャ!!」




