王の戦い
王とはすなわちローゼンワイナーの直系の血筋である。だがしかしローゼンワイナーのようなチカラがあるわけではない。魔法が使えるわけでもなければ、ドラゴンを召喚するわけでもない。能力的にはその他大勢と何ら変わりない象徴としての王だ。
だからといって無能か?と問われればそうではないと断言できる。王とその眷属は最高の教育環境が整っておりそれに見合った能力を持っていた。その実力は召喚騎士と対等に渡り合えるほどだ。その歴代の王の中でも現在の王の眷属は特殊な分類にはいる。
多くの眷属は4足歩行の動物型なのだが、王の眷属は2足歩行の人型で武器を持つことが出来た。デュポタリタスのような魔法が効かない相手であるならば武器を用いて攻撃できる王の眷属のアドバンテージは大きい。
日が昇り人々が活動的になった頃、最後に残った偵察部隊の隊長が最後の報告を持って帰った。
「魔物が目覚め、ローゼンワイナー国に向けて移動を始めました」
この報告を受け王は眼光を光らせ立ち上がる。魔物が移動を始めたと同時に伝令に走ったのだから、魔物の到着も間近だろう。ゆっくりする時間など皆無だ。
王は装備を整え眷属と共に戦場に出る。すでに配置されていた兵士たちが騒めき立つ。
「王様、もう魔物が到着するまでに幾ばくかの時間もありません。どうかお下がりください」
兵士長の言葉通り、眼前に広がる穀倉地帯にはうっすらと魔物の姿が見え、段々とその姿がはっきりとしてくる。王はその姿を捉え気負う事無く応える。
「後のことは大臣に任せておる。王子はまだ未熟であるが、才能あふれる子だ。後のローゼンワイナー国を任せるに不安はない。さすれば、王として今何をすればいいのかは明確であろう」
兵士長は言葉が挟めず押し黙る。
「国を守るために戦う事だ。余が先頭に立ち戦おう。余は死ぬだろう。しかし、それで国が救われるなら本望だ」
王は毅然と応えゆるぎない。王は自分自身のチカラで敵を倒せるとは思っていない、王の目的はフレアとロキアロッドの到着まで時間を稼ぐことだ。しかしその事はおくびにも出さなかった。
王の眷属もまた相手との力量差を自覚しており、自分の役割を理解していた。
「浅はかでした。要らぬ言葉を申してしまい申し訳ございません」
「良い。全体の指揮はまかせたぞ。あやつには召喚騎士による魔法も効かなかった。おそらく直接攻撃するしかヤツを倒す手段はない。援護射撃は不要だ」
「っは!承知しております」
兵士長は隊列の前まで下がり、全体に声をかける。
「敵に魔法は効かない!有効な手段は直接攻撃を加えることだ。魔法による攻撃を禁ずる!我が王はその命を懸け先頭に立ち魔物と戦う御積もりだ。王を守り、王と共に戦う勇気あるものは前に出ろ!!」
兵士全員、そして国民からも志願する者が前に出てくる。
「その志しかと受け取った!その命を懸け魔物に一撃をお見舞いして勝利を掴み取れ!我々が望むものは勝利それだけである!!」
「「「「「「おう!!」」」」」
志願したものから力強い答えが返って来る。
「ここに残るものよ、後の国の事は任せた!!しかと我らの雄姿を目に焼き付けておけ!!全軍前へ!!勇猛なる偉大な王に続け!!」
兵士たちは隊列を組み前進して王の後ろまで移動した。
「皆の者、余と共に命を懸けてくれること、嬉しく思う。たとえ余が命を散らしても案ずる事はない。後に各地に派遣した召喚騎士も駆けつけるであろう。その中には我らが守護の要ドラゴンもおる。いかに強大な魔物と言えど討伐できぬ道理はない。必ず勝利を掴み取るのだ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
デュポタリタスは眼前に兵士が集合している事を目視で確認してもその歩みを止める事無く確実に近づいてきている。デュポタリタスもかつて死の恐怖を味合わせられた屈辱を晴らすために生きながらえていたのだ。引き返すことなどあり得ない。人間どもに最早興味など微塵もないが、邪魔をするなら駆逐するまでである。
「散開して包囲せよ!!」
足の速いものは魔物の後方に回り込むために移動を始め、体の大きい眷属は正面に立った。
人間も魔物も距離が縮まるのを静かに迎える。いよいよ魔物の攻撃範囲に人間が収まった頃にゆっくりとその体を持ち上げた。持ち上げられた体は10メートルを超え、人間を見下ろした。
王は頃合いをみて、自身が持つ魔力の限りを眷属へと受け渡し、ふらつく体を全身を隠す盾で支え声を張り上げて号令を放った。
「我が眷属に続けえええ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
空気をビリビリと震わす雄たけびが否応なしに戦意を高めていく。
対するデュポタリタスも負けずと咆哮する。
『デュララララララララ!!!!』
王の眷属は大剣を携えたまま真っ先に駆け抜け接近すると同時に背中から大剣を抜きおろしの一撃を加える。デュポタリタスは咄嗟に体をくねらし回避を試みるがその一撃はデュポタリタスの表皮を斬り血が滴る。しかし、傷は思いの外浅かったためか、内から筋肉が盛り上がりその傷口を埋めていった。
デュポタリタスは攻撃をものともせず反撃に移る。長い腕を真上から打ち下ろし王の眷属を狙い撃つ。王の眷属は体を倒し、地表を回転してデュポタリタスの攻撃を回避した。
先ほどまで王の眷属がいた場所の地面は爆ぜ飛び、砂煙を巻き上げていた。
周囲を取り囲む兵士の眷属も遅れて飛び出してくる。デュポタリタスの攻撃の隙を突くはずだったのだが、デュポタリタスがも一度咆哮をあげると、デュポタリタスに距離を詰めていた眷属たちがバランスを崩したようにバタバタと倒れ込む。
どうやら、魔法を放たれたようだが、距離があったものには意味をなさなかったようだ。後発組が痺れて倒れている眷属を跳び越え接敵して攻撃を仕掛ける。
デュポタリタスは数の暴力を甘んじてその身に受ける。筋肉を凝固させて防御を固めるが防ぎきれるものでもなく、全身に痛みが走り声が漏れる。
『デュラララ』
「効いてるぞ!!このまま攻撃を続けろ!!」
デュポタリタスは上半身を地面に撃ちつけ正面に居る兵士を根こそぎ押しつぶした。そのまま勢いよく体をくねらせ前進する。デュポタリタスの体に接触した者が吹き飛んでいく。
「「「うあああああ!!!」」」
「回避!回避しろ!!」
デュポタリタスは勢いよく進み出た体をくるりと巻き返してUターンした。体を伝播していく運動エネルギーはデュポタリタスの長い体を鞭のようにしならせ大地ごと薙ぎ払う。長い壁が押し寄せてくるような攻撃を避けられるものは存在せず。あるものは弾き飛ばされ、あるものは大地との間に飲み込まれ絶命した。
デュポタリタスと接敵して10分足らずで、約3分の1の兵士が戦闘不能になった光景を目の当たりにして王の頬に冷や汗が垂れる。しかし、退路はない。脳裏は絶望で支配されていても関係ない。もともと死を覚悟している。無謀でもいい、とにかく前に出て攻撃を続けるだけ。それを何度も心の内で唱える。
王は弱気を振り払うために雄たけびをあげた。王の眷属もそれに応え大剣を振り回して確実にその体を削っていく。デュポタリタスもすべての攻撃を防ぐことが出来ずにその表情は悪鬼の如く歪んでいた。




