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王の決断

 ローゼンワイナー国は、北の防壁町が壊滅した知らせを受けて迅速に行動に移った。各防壁町から、魔物の襲撃の撃退に成功した知らせを受け取ると直ちに折り返しで防壁町に派遣した召喚騎士サモナーナイトの招集を命令。中央で結成されていた勇士兵は全て北の対処に向かう事となった。


 兵士の中から足の速いものを選び、5人小隊の偵察部隊を2組結成して北の状況を確認にあたらせた。その間に兵の配置は確実に進めていく。


 最低限の迎撃態勢が整った頃に、2組の偵察部隊から各1人から情報が届く。その内容は「魔物は群れではなく、大型の魔物1体だけであるということであった。この報告に王たちは難しい表情を作るが、現場の兵達は、魔物が1体だけと聞いてわずかばかり安堵が漏れる。


 続けて、偵察部隊から2報目が届く、確実にまっすぐローゼンワイナー国に向かってきており、夜明けには中央に到着する見込みだという。到達には幾ばくかの猶予があることがわかり、一度兵を休ませて、夜明けに始まるであろう決戦に向けて英気を養う事とした。


 しかし、夜も更け始めた頃に偵察部隊からの3報目が届く、予想を反して魔物が眠りについた事が伝えられる。王は一考した後に判断を決定する。


「これは好機である。召喚騎士サモナーナイトで小隊を作り、直ちに魔物に奇襲を仕掛けよ!」



 王の命令は迅速に遂行され、現在中央にいる15名の召喚騎士サモナーナイト全員で魔物の奇襲作戦が実行された。



 王はとても眠る気分にはなれず、召喚騎士サモナーナイトから運ばれてくるであろう吉報を今か、今かと待ちわびた。どうにも落ち着かず気疲れが蓄積した頃に偵察部隊から4報目が届く。しかし今回は、今まで2組から1人ずつ届いていた。連絡員が1人しかない事に嫌な予感を覚える。


召喚騎士サモナーナイトは魔物へ奇襲を開始、眠っている所に召喚騎士サモナーナイト全員が最大級の魔法を同時に発射、その後夜とは思えないほどの光に包まれた魔物は平然と立ち上がり、召喚騎士サモナーナイトに反撃を行いました。魔物の反撃により1度の攻撃で召喚騎士サモナーナイトの半数が戦闘不能。残りは続けて正面から戦闘を開始しましたが、魔物には通用せず全滅。偵察部隊も距離を取っていたのにもかかわらずその戦闘の余波に巻き込まれ壊滅。その後魔物は再度眠りについた為。結果の報告に自分が伝令に走りました。小隊長は単独で残り、魔物が起き次第連絡に駆けつけるとの事です。......以上です。」



 王は伝令を聞いてがっくりとうなだれて力ない返事を返し伝令兵を下がらせた。王座から立ち上がる気力もなく天井を見上げてため息をついた。


「王よ、これからどうするおつもりで?」


「わからん。考えがまとまらんよ。我が国の誇る召喚騎士サモナーナイトの15名が寝込みを襲ったというのに戦果は酷いものだ」


「しかし、その魔物が明日には到着してしまうのですぞ、今の対策のままでは不十分なのは明確。なにか手を打たなければ国が滅びますぞ」


「そんなのはわかっている。大臣よ、おぬしは召喚騎士サモナーナイトの全力の魔法を見たことがあるか?あれはすごいものだ。そんな攻撃を15体同時にそれも寝込みを襲ったというのに、明確なダメージはなかったというのだ。通常ならばこの攻撃を耐えられんだろう。誠に信じられん」


「もしや、デュポタリタスには魔法が通用せぬのかもしれませんな......」


「なに?そんな事がありうるのか?」


「わかりませぬ。しかし、ドラゴンの宿敵と呼ばれる魔物ですぞ、どんな能力があっても不思議ではありません」


「ふむ......。たしかに、魔法を受けても、平然と立ち上がるところを見るとそう考えるのが自然なのかも知れぬな」


「文献を調べてもデュポタリタスの性質については何もわかりませんでした。しかし、過去の戦いでは致命傷を与えて撃退に成功している事を考えれば、ダメージを与える手段は間違いなくあるでしょう」


「そうであるな。だとすれば、魔法以外の攻撃か、近接戦闘になると強者に絞るしかないの。......しかし、召喚騎士サモナーナイト以上の強者となると、フレアを初めとした召喚騎士サモナーナイトの上位者と、ドラゴンを有するロキアロッドぐらいになるか......」


「そうでございますね。しかし、先の戦いで召喚騎士サモナーナイトの上位のほとんどが戦死しています」


「ままならぬものよ。余の判断が間違っておった」


 王は苦渋の表情を浮かべ、口元を手で覆った。


「して、フレアとロキアロッドは戻ってきておるのか?」


「それがまだでございます。デュポタリタスの襲撃に間に合うかどうか......」


「そうか」


 王は隣で佇む眷属に目をやると、致し方ないといった感じで息を短く吐く。


「大臣よ、余に何かあれば後は任せたぞ」


「王よ、それはいったいどういう意味で......?」


「余も戦場に出よう」


「ッな?!それはなりませんぞ!」


「そうも言っておれん。国が破壊されては誰も生きてはいけまい。なに、フレアとロキアロッドが到着するまでの時間稼ぎだよ」


「しかし!」


「大臣よ、無駄な事を言うでない必要な事だ」


 大臣はこれ以上の言葉を繋ぐことをやめ、唇を噛みしめる。


「兵士長にはデュポタリタスに対して魔法の使用を禁止と伝えよ。もう下がって良い」


「......はい」


 大臣が謁見の間から退室した後は、物音ひとつなく静まり返る。空気さえも停滞してしまったのかキーンと耳鳴りがして頭に鈍い痛みが走った。


 王は己の眷属に目をやると口を開いた。


「付き合わせてしまって悪いな。頼りにしておるぞ」


 甲冑に身を包んだ眷属は2本の足で起立して、背中には人の身長程の大剣を携えていた。爬虫類の顔を持つ眷属は静かに頷き信頼に応えた。


 王と眷属は明日が己の命日だと直感していた。ならば己の命の道連れにデュポタリタスを仕留め歴史に名を刻む王となる事を決意したのだった。 


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