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束の間の安息

 僕はベッドに腰かけ真っ白に燃え尽きていた。


「マル、聞いてくれ......」


『じぇ?』


「魔物石を吸収すると気持ちが開放的になってしまうんだ......」


『じぇ』


「普段僕は、へいへーいなんてテンションにはならないし、ステラの事を天使だと思っていても口には出したりしない」


『じぇ』


「お酒を飲むと酔うっていうだろ?多分魔力も吸収すると酔うんだ。すると魔物石の洪水だとかアホな事を言い出すんだ」


『じぇ』


「......僕は、どちらかというとクールで影のあるミステリアスな男だろう?」


 マルがそれは違うというように揺れる。


「話が逸れてしまったな。つまり何が言いたいかというと、昨日の僕は、本来の僕ではないということだ」


 魔物石を使う毎に繰り返される僕の言い訳にマルがウンザリしたように体を、ぐでんとする。僕だってこんな事は言いたくないのだが、言わずにはいられない。だって自分自身でドン引きすることをしているのである。



「はぁ......わかってはいるけど全部覚えてるのが地味に辛い」


 僕が持ち直せずにうなだれているとドアがノックされる。


「スライ君起きてる?あのねご飯できたからスライ君を起こしてきてって言われたんだけど」


 母さん、普通僕を起こして、伝言を頼まない?逆じゃない?


「わかったすぐ行く」


「うん」


 僕は顔をパシっと叩いて気合いを入れて立ち上がる。軽く身なりを整えてドアを開くとステラがドアの向こうで待っていた。


「あれ?待っててくれたの?」


「うん......さすがにスライ君抜きだと緊張しちゃうから」


「それもそうか」


 東の防壁町は僕の故郷という事もあり、必然と泊まる場所は実家となった。ステラには僕の部屋を使ってもらって僕は兄さんの部屋を使った。ステラが家にいるというのは何とも変な感じだ。ステラはもっと落ち着かなかったのかもしれない。少し眠そうにしている。


 ステラと共に食卓の席へとつくともうすでに父さんは食事を取っており、手には昨日の報告書らしきものを読んでいる。


 僕は寝起きで乾いていた喉を潤すために、ひとまず水を飲んだ。


「昨晩はお楽しみだったみたいだな」

「ッブフ」


 朝の第一声がそれはないだろう。思わず水を吹いてしまった。


「変な誤解が生まれそうな言い方をしないでよ、屋台の料理を食べてまわってただけだから」


「そうか、ずるいぞ」


「あ?」


「......ステラちゃん」


「え?あ、はい」


「今度はお父さんとお出かけしよう」


「はい?」


「ステラ、無視していいから」


「スライは黙ってなさい」


 なんでだよ。僕は父さんこそ黙って欲しいと思った。


「お父さんは、ずっと娘に憧れてたんだ。娘と仲良くお出かけしてそれで、娘に......パパと呼ばれるのが夢だったんだよ」


 いきなり何の話してるの?夢を語り出すの?そんな夢あったの?なんか熱い視線をステラに向けてるのやめてくれないかな?ステラが困って小声で話しかけてくる。


「スライ君どうしたらいいの?パパって呼んだ方が良いのかな?」


「パーでいいよ。パーで」


 父さんは外ではしっかり者で通っているが家ではダメダメのパーなのだ。


「えっと、パー......ぱ?」


 何を思ったかステラが僕の言ったとおり素直に「パー」と言った後に、ちょっとまずい事に気付いて「ぱ」を付け加えて、アホの子みたいになってしまった。


「エクセレント」


 父さんは何がそこまでクリティカルに響いたのか感無量といった感じでフルフルと震えだした。


「ずるいわ」


「......母さん」


「ステラちゃん、お母さんの事もママって呼んでちょうだい」


 切実な母さんの雰囲気にのまれ、後に引けなくなったステラがおずおずと口を開く。ねぇこれ何の罰ゲーム?


「ま、ママのご飯、すごく美味しいです」


 母さんは口を手で覆い、力が抜けたように座り込んだ。


「コングラチュレーションズ、わたし」


 なんだかよくわからないけど自分を祝福しだしたよ。


「ステラもう放っておいていいから、ご飯食べちゃって」


「うん」


 俯いて黙々と食べるステラの横顔はどこか嬉しそうで、すこし口角が上がっているように見えた。僕にとっては鬱陶しい親の絡みなんだけど、もしかしたらステラにとっては嬉しかったりしたのだろうか?


 

 この後も調子にのったふたりが、僕の事そっちのけでステラの事を猫可愛がりする。ステラがふたりの要求に応えるものだから大喜びである。僕は大人しくステラの様子を眺めているフーランに話しかけた。


「助けに入らないでいいのか?」


 フーランは僕を軽く見上げて短く答えた。


「ぎゃ」


「ふーん。めちゃくちゃされてるのに、なんかステラも楽しそうだもんな」


「ぎゃ」



 そうやって朝の団らんを過ごしていると、玄関の扉が叩かれ、他の町の魔物も撃退に成功したという情報が伝えられた。みんな他の町の事も気がかりだったのだろう。魔物の氾濫が本当に終息に向かっているという実感が湧いてきたみたいだ。



 今日も引き続き宴が開催され、ローゼンワイナー国の勝利を祝っていたるところで杯が酌み交わされた。あまり、家の中にいるといつまでもステラを占領されてしまうので、これ幸いとステラを連れて町の案内をしながら、宴の雰囲気を楽しむ。



 以前と変わらずある人々の笑顔をみて嬉しく思う。しかしそんな歓喜の声も深夜にもたらされた凶報によって一変することになる。


 北の防壁町が壊滅したという知らせは町全体に瞬く間に伝わった。僕は迷わず戦いに駆けつける事を選んだ。ステラもついていくと言い出した時は困った。僕としてはここに残っていて欲しいのだけど、


「スライ君の近くが一番安全だから」


 と言われ僕の方がほだされてしまった。ステラも一緒に行くとなった以上出来ることはやっておきたい。僕たちは町に滞在していた召喚騎士サモナーナイト達が町から飛び出していくのを見送った。少し無理をさせてしまう事になるが、ステラとフーランに魔物石を出来る限り吸収させていく。


 強くなったフーランの防御力があれば大抵の攻撃は何とかなる。僕が戦闘に集中するための保険でもあった。



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