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すーぱーすらいくん

 僕の目が覚めると夜中だった。しかし、窓からは灯りがチラチラと入り込み、楽しそうな声が部屋の中まで入って来る。


 僕が上半身を起こすと、額に当てられていたのだろう濡れたタオルが膝に落ちた。タオルを取ろうと手を伸ばすと腕を枕にしてベッドに頭を預けて寝入る天使を発見する。


 僕が動いた振動でサラサラの髪の毛がスルスルと流れて顔を隠した。寝顔をもう一度見る為に顔に掛かかってしまった髪をかき分ける。少しくすぐったかったのか瞼が揺れゆっくりとその瞳が開かれていく。


「ん......あ、スライ君起きたんだ。私も眠っちゃってたみたい」


 ステラは手で目を擦り、髪の毛を撫でて髪の乱れを整える。


「体調はどう?起きたって事はもう大丈夫なんだよね?」


 ステラが僕の顔色を覗き込むように首を傾げて下から見上げてくる。僕の顔を見て安心したのかニッコリとほほ笑んできた。


「もう!あんまりびっくりさせないでね?すっごい焦ったんだから」


 ステラが僕の頬を両手でつまんで引っ張り、ケラケラと笑っている。


「ひれいだ」


「え?なに?なんて言ったの?」


 ステラが頬から手を離してキョトンとして顔を向けてくる。


「綺麗だ」


「ッな?!な、なに?!」


「だから、ステラが綺麗だといってる」


「そ、それはわかったけど。恥ずかしいよぉ」


 近くで休んでいたマルが『またやってるじぇ......』といった感じ冷ややかな反応で僕を見ている。僕の素直な気持ちを言葉にしているのにどうしてそんな風に見てくるのか?......そうか、わかったよマル。確かにそうだ。これじゃ言葉足らずだ。マルの反応にも合点がいった。



「ステラ。君は僕の天使だ。ステラがほほ笑みかけてくれるだけで僕の心臓は高鳴り、火が灯ったように温かくなる」


「ッ?!」


「だから、突然目の前からいなくなってすごく心配したんだ。太陽がまだ上っているのにまるで夜を彷徨っているように目の前が真っ暗になった。僕はそこで気付いたんだ。僕を照らす太陽はステラだったんだと」


 マルとフーランが天使なの?太陽なの?どっちなの?という感じで首をひねっている。


「ちょっと待って、え?」


「待たない。ステラは僕のものだ」


 僕はステラの脇に手を差し込みひょいと持ち上げる。


「あわわ」


 ステラが急に体を持ち上げられて慌てふためいてジタバタするが、僕の膝上に乗せると大人しくなりキョトンと僕の顔を見る。かわいい。


「僕はもうステラを手放すつもりはない。勝手に居なくなるのは許さない」


「違うの、あのね、スライ君ッん......」


 僕は言い訳を始めるステラの悪いお口にキスをして黙らせる。しゃべりかけで半開きになっているその中に舌を潜らせて無遠慮に蹂躙する。ステラはびっくりして顔を引きはがそうと抵抗したり、手でバシバシと僕の体を叩くが、望む結果は得ることができずに段々と力が抜けていった。


 それでも僕の行為は続くので、最後は僕の首に腕を回し抱きしめ返してきた。長い長いキスを終えて、顔を離した時、頬を赤くしたステラの顔がそこにあった。控えめに言って女神だった。


「言い訳を始める悪いお口のお仕置きだよ」


「......うん、ごめんね?」


 僕はステラの体を引き寄せ抱きしめて囁く。


「安心してくれ、一緒に居てさえくれれば、どんな魔物が相手でも僕が守ってあげるから」


 抱きしめているのでステラの表情はわからないが、力を抜いて体重を預けてくる仕草から僕への信頼が伝わって来るようだった。


「あり......がと」


 マルとフーランが目元を手で覆い僕たちは何も見ていませんといった感じを演出しているが、相変わらず格好だけでガン見である。


 静まり返った部屋の中に外から陽気な声が流れ込んできて、静寂を打ち消す。


「なにやら、外が騒がしいな、なにかあるのか?」


「魔物から町を守れたからそれで宴が開催されたみたい。夕方頃覗いた時は屋台もでてたよ」


「屋台......お腹空いた」


「あはは、そっか魔物石を吸収した後だもんね。食べに行こっか私もお腹空いてきちゃった」


「そうと決まれば、今すぐ行こう」


 僕はステラを抱きかかえたまま立ち上がる。


「わ!もうびっくりするよ」


「せっかくだからこうして抱っこしたまま移動するのはどう?」


「やーだ。恥ずかしいよ。お・ろ・し・て」


「それは残念」


 僕は渋々ステラを床に降ろした。少し離れた場所で傍観していたマルとフーランが近づいてくる。


 部屋から出る為にドアを開けるとバランスを崩して倒れるふたりの男女がいた。


「父さん、母さんここで何してるの?」


「ご、ごほん」


 父さんがわざとらしく咳払いして立ち上がり、母さんを立たせてあげる。


「す、スライ。なんだ。その子とはどういった関係なんだ。もももももしかして彼女だったりするのか」

「やだわ、お父さんいきなりそんな事......」


「そうだけど」



「「えええええええぇぇぇえ!!」」


 父さんと母さんが大げさなリアクションを返してくる。これにはリアクション芸人のフーランも感心したようで「ぎゃ」と言いながら頷いている。ステラの顔を横目で見てみると、照れた様子で顔が真っ赤に染まっていた。かわいい。


「お母さん聞いたか?!お母さん」

「お父さん!この耳で聞いたわお父さん」


「えっと、息子はこういっているが、間違いないのかね?」


「あ、はい。お付き合いさせてもらってます......」


 ステラが恥じらいながら挨拶をしてぺこりとお辞儀する。顔をあげたステラは恥ずかしさがこみ上げてきたのか、はにかむように笑った。その仕草の一挙一動を見た両親は硬直してしまった。わかる僕の女神の照れ笑いだ。両親なんて一発でオーバーキル待ったなしである。


「「か、か、かわいいいぃぃぃぃぃ」」


 両親は見事にハモった。父さんは謎にガニ股になってステラを迂回する形で僕に近づき、無駄に僕の背中をバンバンと叩いた。母さんは真逆でステラを抱きしめて「この子はもう私のものよ絶対に離さないわ!!」と意味不明な事を言い出した。


 収拾がつかなくなるので、父さんの足を払い転ばして、母さんをステラから引きはがす。そのままステラの手を引いて外へ出る。


「外でご飯食べてくるから」


「スライ待ちなさい!ステラちゃんを置いていってちょうだい」


「そうだぞ!息子の彼女という事はもうそれはお父さんの娘だ!」

「そうよ!そうよ!お母さんの娘だわ!」


 ......それは違うと思った。気が早すぎである。


「あはは、一応歓迎されたって事でいいのかな......」


「間違いなく僕より歓迎されてるよ、騒がしくてごめん」


「ううん。私もスライ君のご両親と仲良くしたいから嬉しい」


 何とも緩い感じで僕たちは宴の中に飛び込み、料理を手当たり次第に食い荒らしたのだった。

 

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