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戦闘後の東の防壁町

 魔物の撃退に成功した東の防壁町では人だかりができていた。それは勝利の祝賀というわけではなく、ある一つの出来事が原因のいざこざであった。


 そのいざこざとは召喚騎士サモナーナイトが戦場を放棄して単独で逃げ出してしまったことである。現場を見ていた住人が糾弾するために召喚騎士サモナーナイトが宿泊している施設に団体で押し寄せてきたのだ。


「アキストバーニアこれは事実なのか......」


 ステラの兄が声を荒げて否定する。


「断じて違う!私は逃げたわけではなく、眷属の回復が不十分だったためいったん距離を取り体勢を整えただけだ!!」


「嘘をつくんじゃねぇ!嬢ちゃんの眷属が前に出て庇ってたはずだ!それを知りながら敵に背を向けて逃げ出したじゃねーか!」


「「「そうだ!!そうだ!!」」」


「あの魔物は一度防壁をよじ登って俺たちのところまで来たんだぞ。もし嬢ちゃんの眷属が抑えてなかったら俺たちは死んでたかもしれねぇ」


「お前なんかは召喚騎士サモナーナイトをやめてしまえ!!」


「なんだと?!」


「アキストバーニア落ち着け」


 召喚騎士サモナーナイトの一人が場を治めるために一歩前に進み出る。


「皆の陳情は良く分かった。アキストバーニアの行為は召喚騎士サモナーナイトとして恥すべき行為だった」


 ステラの兄が異論を訴えようと口を開きかけるが、同僚の召喚騎士サモナーナイトによって抑制される。


「この事件は私が責任を持って王へ伝える。追って、処分が下されることだろう。今日のところは身を引いてもらえないだろうか?頼む」


 団体が不満を漏らしながら散り散りに去っていく。


「何を勝手な事を!私は逃げてなどいない!」


「黙れ!!それが事実だとしても関係ない。召喚騎士サモナーナイトに与えられた使命はなんだ?戦線を切り開く事だ。わかっているのか?事実がどうだとしても戦場で召喚騎士サモナーナイトが背を向けて逃げ出したと思われた時点でダメだったんだよ」


 事実、ステラの兄であるアキストバーニアは戦場から逃げ出していた。口でなんと弁明しようが自分の心までは欺けない。口から飛び出す言い訳を歯噛みして堪えた。


「っくそ」


 去っていくアキストバーニアの背中を黙って見送る召喚騎士サモナーナイトたちは全く笑えなった。身を引いてしまった彼の気持ちが痛いほどわかるからだ。


 戦場に現れたリョウリョウガルマは数こそ少なかったが強かった。いや、強すぎたといっても過言ではない。召喚騎士サモナーナイトが2人がかりで対峙してもなお、力不足だった。


 それだけではない。リョウリョウガルマは対峙するだけで心が折れそうになり、彼らも使命と責任感によって辛うじて踏みとどまる事ができた。ただそれだけなのだ。


 そうやって踏みとどまってひたすら耐えているその時に、リョウリョウガルマの背後からひとりの青年が現れリョウリョウガルマの首を撥ね飛ばし、瞬く間に戦場を鎮静化させていった。


 召喚騎士サモナーナイトたちは何が起こったのかもわからないまま青年が戦場を駆けまわるのを目で追い、自分たちが助かった事に安堵したのだった。あの青年がいなければあの混乱の中一気に戦況は魔物側に傾き大惨事が起こっていた事は想像に容易い。


 己の力不足を痛感して、素直に勝利に喜べない召喚騎士サモナーナイトたちであった。


§§§



「ふは、ふはははははは!見ろ!魔物石の洪水だ」


 僕はパンパンに膨れ上がった袋の口を開け、テーブルの上に勢いよく散らかした。マルはやれやれといった感じでプルンと揺れている。この子は僕がはしゃいでいる時はやけに冷静だ。もっとテンション上げて行こうぜへいへーい。


 僕は戦闘の途中から魔物石の吸収を止め、集めていた。もちろん理由はある。


「えっと中ぐらいのやつはステラの為に取って置いてぇ、ちっこいヤツは兄さんの為に取っておいてやるかぁ感謝するがいいぞー兄さん」


 僕はかつてないほど上機嫌だった。目の前に広がる魔物石を大きさに合わせて仕分けしていく。そうして中央には大きい魔物石が残る。リョウリョウガルマの魔物石となんか角が生えて『モーモー』とうるさいやけにマッチョなよくわからん魔物の魔物石だ。リョウリョウガルマ同様に首を切り落としたら『モー!』って怒ってた。


「7、8、9、10......10個!」


 リョウリョウガルマ級の魔物石が10個である。ワクワクが止まらないのである。


「マルさんや、こっちに来なさい」


 僕が手招きするとマルは素直に近寄ってきて僕の膝の上に収まった。


「じゃぁ早速、吸収していきますかぁ!」


 僕は魔物石をひとつ手に取り魔力を流し込む。発光して魔力粒子が飛び出すのをすかさず体内に取り込む。取り込んだ魔力粒子が体内で暴れるが、僕とマルはもう手慣れたもので、迅速に鎮圧していく。それを2個、3個と続ける。


「結構余裕があるな。あれほど辛かったリョウリョウガルマの魔物石がこんなに抵抗なく鎮圧できるなんて......気が付いたら強くなったもんだ」


 強くなれた事はマルも嬉しいようで素直に共感してくれた。


「これなら、一気にいっても大丈夫かもな。いけるかマル?」


『いけるじぇー』


 マルが自信満々にプルンと揺れるのを確認して、躊躇することなく残りの魔物石を鷲掴みにして魔力を流しそのすべての魔力粒子を取り出した。


 眼前には目を開けているのが辛いほど眩く光る見慣れたそれに冷や汗が垂れる。マルも僕同様に危機感を感じたのかブルと震えたのを膝で感じた。


「っやばいかも......」


 空中に煌めく魔力粒子は渦を巻き、僕の全身を飲み込んだ。僕はたまらずに防御態勢をとて身構え目を瞑る。周囲のプレシャーがなくなった事を察して目を開けると魔力粒子は吸収されたようで綺麗さっぱりなくなっていたのだが、一拍おいて体の中をズンとした痛みが走る。


「痛い、痛い痛い!」

『じぇじぇじぇ!』

 

 僕達はたまらずに床の上で転げまわり全身を襲う痛みにひたすら耐える。幻聴なのか頭の中に『んモーーー!!』という声が聞こえてくる。角マッチョめ貴様なのか?!と思いながら魔力の鎮圧そっちのけでイメージの中の角マッチョともつれ合いのケンカを始める。


「スライ君?!」「ギャぁ?!」


 騒ぎに気付いて駆けつけたステラとフーランが僕の部屋に入ってきた。床の上でビッタンビッタン跳ねる僕をみて、悲鳴に近い声で僕の名前を呼ぶ。しかし、僕に返事を返す余裕はない。相も変わらず床の上でビッタンビッタンと体を跳ねさせているだけだ。


 できれば恥ずかしいので見ないで欲しい。せめてドアを閉めてお願い。


 ステラはテーブルに散らばった魔物石を見て納得したのか、少しばかり冷静さを取り戻したらしい。


「スライ君、無茶しちゃだめだよ......」


 ごもっともで。僕はしばらくして気絶。その後ステラに付きっ切りで看病してもらう事になった。



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