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デュポタリタス

短くてすみません。土日に執筆しているのですが、今日は時間が取れなくて量が書けませんでした。いつもの半分の量です。小分けにして残りも仕上がり次第投稿していきます。

 北の防壁町が壊滅した知らせが走った2日前――――。


 スライローゼがステラを助けるべく駆けつけた東の防壁町然り、召喚騎士サモナーナイトでトップの実力を持つフレアが出動した西の防壁町然り、ローゼンワイナー国の希望であるドラゴンを眷属に従えるロキアロッドが向かった南の防壁町等が魔物の大群による攻撃を受けたように、北の防壁町もまた襲撃を受けていた。


 北の防壁を守る兵士の多くは他の町と比べ好戦的なものが多く、平原に隊列を組み森から這い出る魔物たちを随時討伐していた。彼らは数日の経験から魔物を討伐することに慣れを感じており、魔物に対しての危機感は薄れつつあった。


 いくら数が増えたとしても対処できてしまっている以上、緊張感の中にもそれを楽しむ余裕すらあり、誰が一番魔物を倒せるかという競争にまで発展する始末である。そこに中央から召喚騎士サモナーナイトが加わったので戦況は他の防壁町に比べて余裕があった。


 それもそのはず、北の防壁町の襲撃は他の町に比べ半分以下であった。それが一番の要因だろう。決して他の防壁町の兵士より実力が数段も上という事ではない。


 また、今回以外に戦闘経験が少ない彼らには気付けないことであったが、北の防壁町を襲撃してくる魔物たちの多くは、憔悴して弱っていた。


 正しく見るものが見れば、その魔物たちは町を襲撃していたというより、何者から逃げて町にたどり着いたと受け取れたかもしれない。しかし、他の防壁町の状況も伝えられていたので、魔物の襲撃に疑問を持つ者は存在せず、見事に対処できている自分たちを誇らしく思っていた。


 なぜ、北の防壁町を襲う魔物の数が少なかったか、なぜ、魔物たちが憔悴していたのかその答えは森に佇む一体の魔物が原因であった。



『大量だ大量だ』


 魔物が惹きつけられるようにローゼンワイナー国を目指しているのに対して、その魔物は他とは異質で大群を成して移動する魔物に興味を抱いていた。


 異質な魔物の目前を通りすぎる魔物は力が抜けるように倒れ込み動けなくなる。それを嬉しそうに眺め目の前でバタバタと倒れる魔物に近づき地面に這うような姿勢でその生き血を吸っていく。


『あぁ、久しぶりの食事だ。それもこんなに沢山。今日はなんていい日だ』


 目の前の魔物から血が吸い取られどんどん体が萎んでいく。吸い終わると重い体を引きずるように、のそのそと移動して荒く呼吸する魔物の体に牙を突き立ててまた生き血を吸い出す。


 血を吸われた魔物の体が萎んで小さくなるのに対して、血を啜るその魔物は、血を吸い出すごとに枯れた細木のようにやせ細っていた身体が少しずつ本来の体を取り戻すように大きくなっていく。


 30体の魔物の生き血を吸い終わった頃には身を乗り出す度にギシギシ軋むような音をたてていた身体から、不快な音は消え、鈍重だった体の動きが滑らかになってきた。


 チカラを取り戻しつつあるその魔物はまだまだ喰い足りないといった感じで、長い手を使って魔物を掴み手繰り寄せ、口元へ運ぶようにその食事が変化してきた。


 やせ細り風変りしてしまったその形容をよくよく見れば面影が一致する魔物が思い浮かぶ。その魔物はローゼンワイナー国に秘蔵されている図書にこう記されている。


 ――魔物の名前はデュポタリタス。『魔を喰らうもの』または『ドラゴンの宿敵』と。


 歴史書の記載によれば、デュポタリタスとの戦闘による傷が致命傷となり初代ドラゴンは命を落としている。


 更に文章を読み解けば重傷の深手を負わせて撃退に成功するが、討伐には至らなかった。後に森の中を探索しデュポタリタスの死亡確認、もしくはトドメを刺す為にサモナーナイトを派遣するが、デュポタリタスの発見は叶わず、派遣された召喚騎士サモナーナイトも痛手を負って帰還したことから追撃は断念せざるを得なかったと綴られる。


 ローゼンワイナー国にとって一番危険視されていた魔物であったが、その後の目撃情報はなく、度々起こる魔物の氾濫でもその姿は確認される事はなかった。


 人間が知る事の出来なかったデュポタリタスのその後だが、デュポタリタスはドラゴンとの戦闘後、ドラゴンに対する怨念を振りまきながら森の中へ身を潜めた。


 デュポタリタスのドラゴンに向けた怨念は、デュポタリタスから発せられる魔力波に乗せられて森の中の魔物の潜在的な部分に深く入り込んだ。本来のデュポタリタスの魔力波は相手の体の自由を奪う為に使用されるものだが、予期しない形で影響を与えてしまったのである。


 普通であれば、ドラゴンの気配を感じ取れば逃げるはずの魔物も、本能的な部分に入り込んだデュポタリタスの呪いによってドラゴンを宿敵と感じるようになってしまった。結果、実力差など関係なく魔物はドラゴンに襲い掛かるようになってしまった。



 度々起こる魔物の氾濫に対処するべく運命的にドラゴンが召喚されるとローゼンワイナー国民は考えているが、事実は異なる。ドラゴンがいるから魔物の氾濫が起きてしまうのである。すべてはドラゴンに対する嫌悪感による衝動なのだ。


 ルキルフの覚醒が近づき、ドラゴン特有の気配が強くなったことが魔物の氾濫の引き金となった。



 デュポタリタスはドラゴンとの戦闘で負った傷を癒すために森の中に隠れたが、具合は良くなかった。逃走により傷は開き、体力も底をつき、もうすでに限界は超えておりこれ以上体を動かす事ができないと判断したデュポタリタスはその場で深い眠りについた。デュポタリタス自身も死を予感していた。


 だが、デュポタリタスがそのまま死ぬことはなかった。体は上手く動かせないが、傷は少しずつ癒えていく。ドラゴンに対する怨念が死を拒絶したのだ。しかし、デュポタリタスの身体機能は徐々に失われ仮死状態となった。深い眠りの中で見計らったように覚醒して時折不用意に近づく魔物を捕まえ捕食しながら命を繋ぎドラゴンを喰らう事を夢みる。


 それから、長い長い年月が過ぎる。


 この度の魔物の氾濫による魔物の進行経路に偶然デュポタリタスが居合わせたことによって大量の餌を手に入れる事ができた。今回運が良かったのか、はたまたこれまでの運が悪かったのか、1500年の時を経てデュポタリタスが覚醒する条件が整ったのである。


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