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死力を尽くす

書き上げたので本日2話目です。

 ルキルフの傷を癒そうと伸ばしたロキアロッドの手はむなしく空を切り、魔物の眼前に晒された。


 ロキアロッドが全身から集めた魔力は手のひらで収束して、光となって放たれた。決して意図してやったわけではない。どうしてロキアロッドの魔力が光になったのかは本人にもわからない。


 けれど、ロキアロッドの手から放たれた光は、魔物の目を焼き仰け反らせるだけの効果があった。反射的に魔物の噛みつきが解除され、その目を覆う為に手が離される。


 ロキアロッドは手から光を解き放ったあと、魔力枯渇により気絶した。拘束から解除されたルキルフの瞳は怒りに揺れていた。


 魔物が目を掻きむしって苦しんでいる間に、ルキルフは口に魔力を収束して一気に放った。一番最初に行った光線による攻撃だ。


 ルキルフの口から放たれた光線は魔物の顔を飲み込んだ。光が収まるとそこにあるのは顔を失った魔物。その体がぐらりと傾き地面に地響きを立てて倒れる。


「リョウリョウ!!」


 囮となっていた魔物が迫りその長い腕を振り下ろし、ルキルフの顔面に叩きつける。ルキルフは光線を放った後の硬直で無防備にその一撃を受け頭が大きく仰け反った。


「シギャ!」


 ルキルフは攻撃を受けるもその戦意は更に激しく燃えがる。口を大きく広げ、リョウリョウガルマの左肩に噛みついた。


「リャオオオオオオオウ!!」


 リョウリョウガルマは痛みに耐え、噛みついたルキルフを剥がそうと右腕を振り上げ何度も何度もルキルフを殴る。


 ルキルフはドスドスと攻撃を受ける度に怒りを燃やし、歯を食いしばり顎に込める力をどんどん高めていく。


 さすがのリョウリョウガルマもこの痛みには耐えきれず攻撃の手を止め絶叫をあげた。


「リャオオオオオオオウ!リャオオオオオオオウ!!」


 ルキルフの牙はミシミシとリョウリョウガルマの体に食い込み、その体を骨ごと噛み切った。


 肩を噛み切られたリョウリョウガルマは地面を這いじたばたと暴れる。ルキルフは暴れるその体を前足で踏みつぶし、トドメに光弾を顔に叩きこむ。


 光弾を耐えてしまったリョウリョウガルマの顔は悲痛の泣き顔になっていた。ルキルフはさらに気が立ったようで、連続して光弾を放った。


 連続した光の爆発が収まった後、リョウリョウガルマの顔は消し飛んでいて、二度と動き出す事はなかった。


「グルァアアアアアアアア!!」


 ルキルフの勝利の雄たけびが広大な大地に響き渡る。ビリビリと空気を震わす雄たけびに人間、眷属、魔物そのすべてが膠着して戦場とは思えない静寂が訪れる。


 その中で真っ先に動いたのは、防壁からの魔法によって吹き飛ばされた最後の生き残りのリョウリョウガルマだった。


 ルキルフに背をむけ、全速力で逃げ出すリョウリョウガルマ。


 その背を見つめてルキルフが牙をむき出し怒りを露わにする。


 全速力で跳ね逃げるリョウリョウガルマに対して、ルキルフは天に高く飛び上がり、急降下でリョウリョウガルマを強襲した。後ろ足でリョウリョウガルマの両肩を掴み地面に捻じ伏せる。そのままリョウリョウガルマの肩を絞め壊した。


 バキバキという骨と肉が砕ける音がリョウリョウガルマの体から聞こえてくる。リョウリョウガルマは痛みで叫び、拘束から逃れる為にその長い足でどうにか地面を蹴ろうとジタバタしている。


 しつこく暴れるリョウリョウガルマを後ろ足で掴まえたまま再度ルキルフが空高く舞い上がる。地面がグングンと遠ざかっていく、リョウリョウガルマが空中で藻掻くがどうにもならない。



 十分な高度に達した時にルキルフはリョウリョウガルマの体を手放した。リョウリョウガルマは全てをあきらめたように大人しくなり、視界から遠ざかるルキルフをその目に焼きつけ、地響きを立てて大地に墜落した。


 地に打ち付けられたリョウリョウガルマの口からは赤い血が流れ出て眼前は血だまりになっていた。


「リョウ......リョウ......」


 その赤い血だまりをみて、リョウリョウガルマが静かに鳴きその瞳から光が失われた。最後にリョウリョウガルマは何を呟いたのかそれは誰にもわからない。



 その光景を見たすべての魔物が一目散に逃げていく。大地蠢いていた者は居なくなり。戦場の跡には死骸だけとなった。平原に残る生者はルキルフのみである。……戦場は終結した。



 ルキルフはバサバサと翼を振りゆっくりと降りてきて、着地と同時に体勢を崩し倒れる。


 それを見て召喚騎士サモナーナイトが慌てて駆け寄る。気が立っているルキルフはその姿をみて威嚇した。


「シギャ!シギャ!」


「待て待て、大丈夫だ。落ち着いてくれ。ルキルフだろう?俺はロキアロッドの仲間だ!」


 召喚騎士サモナーナイトのひとりがルキルフを刺激しないようにゆっくりと近づく。


「グルァ?」


「そうだ。仲間だ。ロキアロッドの意識がないみたいだ。治療が必要だ。近づいてもいいか?」


 ルキルフは鼻息をフシュ―フシューとして気持ちを静めているようだ。召喚騎士サモナーナイトはゆっくり説明しながら近づく。


「いいか、これからロキアロッドを降ろして治療する。降ろすまでそのまま動かないでじっとしといてくれるか?ロキアロッドの為だ頼む」


「シギャ」


「ありがとう。すぐに終わらせるからな」


 召喚騎士サモナーナイトはロキアロッドのベルトを外し、鞍からその体を降ろす。ロキアロッドをルキルフの顔の近くに運び状態を確認させる。


「グルァグルァグルァ」


 ルキルフが悲痛の声をあげる。動かないロキアロッドを心配しているのだろう。


「ルキルフ大丈夫だ。息はある。気を失っているだけだ。しばらくすれば目を覚ますだろう」


 回復魔法が使える眷属を急遽呼び寄せその場で治療が開始される。町の中へ運ぼうとしたがルキルフが取り乱したため仕方なくその場で治療を進める事にした。ルキルフの気持ちが落ち着くまでの緊急措置だ。


「ルキルフ......立てるか?ケガをしているのか?」


「シギャギャ」


 ルキルフが立ち上がろうとするが立てずにまた倒れ込む。


「......まずいな」


 召喚騎士サモナーナイトはロキアロッドの近くに駆け寄り声をかける。


「ロキアロッド起きろ!起きてくれ」


 召喚騎士サモナーナイトはロキアロッドに辛抱強く声をかける。


「ロキアロッド起きろ!ルキルフがケガをしている。起きて治療するんだ!」


 ロキアロッドの瞼が揺れ、眉間にシワが刻まれる。


「ロキアロッド起きろ!ルキルフが!」


「ルキルフ??!!」


 ロキアロッドは飛び起きてルキルフの名を叫ぶ。


「ルキルフは?!ルキルフ!」


「シギャ」


「あぁ、ルキルフ。俺のルキルフ......」


「ロキアロッド、ルキルフはケガを負っている治療できるか?」


「なんだって?!」


 召喚騎士サモナーナイトはロキアロッドに肩を貸し移動を補助する。ロキアロッドはルキルフの顔を愛おしく抱きしめた。


「ルキルフ頑張ったんだな」


「ギャギャ」


「あぁ偉いぞ。やっぱりルキルフはすごい子だ。俺の自慢だよ」


「シギャァ」


 ロキアロッドはゆっくりと魔力を譲渡してルキルフの傷を癒していく、ロキアロッドの魔力は先ほど枯渇したばかりで幾分も回復していない。応急手当でケガの酷い顔と噛み痕の表面だけを何とか治療する。


「ルキルフ、疲れただろう。今はゆっくりおやすみ。大丈夫。絶対ルキルフのケガは治してやるからな」


「シギャ......」


「はは、俺は大丈夫だから。いいからおやすみ」


 ルキルフの体から力が抜け、動かなくなった。体を丸め静かに寝息を立てている。ロキアロッドにとっては6年も見続けた見慣れた姿だった。


「魔力はどうやって回復したらいい......」


「そんな事はわからない。飯食って、ゆっくり休むしか......」


「なら飯だ」


「そうだな出来ることはなんでもやってみよう」


 南の防壁町の住人は救世主ドラゴンによって魔物が撃退された知らせを受け盛大な歓声に湧いた。しかし、その立役者であるドラゴンも傷つき床に臥せている事も同時に知らされ、ドラゴンを助けるために多くの人が動いた。


 ドラゴンを覆い隠すように天蓋が張られ、その中にロキアロッドが休める簡易の休憩所も設置される。ロキアロッドには多くの料理が運ばれた。ロキアロッドは治療と休憩を繰り返しルキルフの治療を進めていく。


 スライローゼによって施された魔力拡張のおかげでロキアロッドの魔力は以前に増してその回復速度も上がっていた。その差分がルキルフの命運を分けた。ルキルフの危機的状況は回避され、今は同じ天蓋の中でルキルフとロキアロッドが互いの命の灯を確かめ合うように身を寄り添い静かに寝息を立てている。


 これには誰もが微笑ましいものを見たというように静かにその空間を守った。


 ロキアロッド以外の召喚騎士サモナーナイトもその身は疲労で満たされているだろうに、交代で見張り役に買って出て、夜間の魔物の襲撃に備えた。


 住民も疲れた体を叱咤し、防壁の修理に勤しむ。この度の戦いには勝利したが、再度魔物が襲撃してこないという保証はどこにもないのだ。


 しかし、森は静かなままで再度魔物が森から這い出てくる事はなかった。


 朝日が上る頃、先に休んでいた住民が目を覚まし、夜通し動いていた者たちが安堵から気絶するように眠りにつく。


 魔物との戦闘の傷は一夜で癒えるわけではない。しかしそれでも、やる事はたくさんある。住屋を破壊されてしまった者、家族を失った者、命は拾えたが重篤な者もいる。


 今を生きる彼らにとって魔物との戦争は初めての出来事だった。大きな被害だが、規模を考えれば少ないくらいだというのは誰もがわかっていた。あの時ドラゴンが加勢してくれなければ、この町を捨て逃げなければいけなかったのだ。


 それに無事逃げられる保証などなく、全滅だってあり得た。生きているものは、生きている事に感謝して、旅立った者へ静かに涙を流した。


 そのまま1日が過ぎ。ロキアロッドとドラゴンが目を覚ました知らせが町中に走った。それで初めて、勝利の宴が開かれ、喜びを噛みしめ、悲しさを紛らわした。


 宴の最中に次々と知らせが届く、西の防壁町が魔物の殲滅に成功した。東の防壁町が魔物の撃退に成功した。



 おそらく南町の戦況も各町へ通達されていて、どこも宴が開催されている事だろう。舞い込んでくる吉報に宴は歓声を高めた。



 町の中心に焚かれた巨大な炎を囲み、音楽ができるものは奏で、踊れるものは舞い。住民がひとつとなり満天の星空まで届くように歌声が響き渡った。



 誰もが満足して、眠りについた真夜中に忍び寄る影があった。その影は一直線に町の中を駆け抜け、召喚騎士サモナーナイトが滞在している宿泊施設に駆け込む。


 ロキアロッド及び召喚騎士サモナーナイト達は急な来訪者に叩き起こされる事になる。


「伝令です。北の防壁町が壊滅。魔物たちはそのまま進軍を進め中央に向かっています。その中に大型の魔物の存在あり。召喚騎士サモナーナイトは直ちに中央へ帰還し国を死守せよ」


「......なんだって」


 楽観視されていた北の防壁町は1体の魔物の出現により瞬く間に戦況は傾き、防壁は瓦解した。召喚騎士サモナーナイト及び防壁を守る兵士が最優先でその魔物と対峙するが為す術なく全滅。魔物の進行は止まらず町は壊滅したのであった。


 この知らせは、西の防壁町、東の防壁町にも届けられた。どうやら勝利の宴の余韻なく、最終決戦が中央で繰り広げる事となりそうである。

物語は確実に終演へ近づいているようです。


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