想い合う気持ち
本日2話目の更新です。来週に回しても良かったのですが、きっと執筆をサボってしまうので放出しておきます。
「どうやってここに入ってきたんだ......?まぁいい、久しぶりだなスライ」
「そうだね、1年ぶりくらい?こいつがロキアロッド兄さんが召喚したドラゴンか、こんなに大きく成長していたんだね」
「あぁ、ルキルフって言うんだ」
「やぁ、ルキルフ、僕はスライローゼ。ロキアロッド兄さんの弟だ。仲良くしよう。あと、こっちが僕の眷属のマルだよろしく」
僕はルキルフの前に立ち手を差し伸べて反応を窺う。
「グルァ?」
ルキルフは体が大きくその口には鋭い牙が見え隠れしていたが、不思議と威圧や恐怖は感じなかった。
ルキルフは僕の手に鼻先をくっつけてきたので、鼻筋を撫でた。そして、ルキルフとロキアロッド兄さんの魔力を確認する。
ロキアロッド兄さんの魔力量は平均値に近い。決して人より少ないわけではないようだ。一方ルキルフは器の大きさに見合った巨大な魔力を有しているが、空白が所々存在し魔力が足りていないように見える。
マルもそうだけど、体が大きいと魔力の燃費が悪いのだろうか?確信できるほどではないが、今も少しずつ目減りしているように感じる。もしそうならこのままでは衰弱していってしまうだろう。事態は思っていたより悪いらしい。
僕はロキアロッド兄さんの反応を引き出すべく言葉を選ぶ。
「ルキルフは、魔力が足りてないみたいだね?これじゃあまり動き回れないんじゃないかな?」
「ッ?!.....わかるのか......?」
「僕も魔力関係では色々あって苦労したんだ。だからこそロキアロッド兄さんの抱えてる問題も解決できるかもしれない」
「本当か?!スライ!教えてくれ!俺にできることならなんでもする!」
ロキアロッド兄さんが僕の肩を掴んで訴えてくる。兄さんにしては珍しい反応だ。相当悩んでいたのだろう。
「大丈夫ちゃんと教えるよ。でもその為にはルキルフの協力が必要なんだ。それに僕のお願いも聞いて欲しい」
「......お願いってなんだ?」
「僕はこれから東町に行って魔物と戦う、そのために剣が必要なんだ。ロキアロッド兄さんには僕の剣を用意して欲しい」
「戦いに行くのか......俺に支給された剣でよければ今すぐ渡せる」
僕は剣が手に入る事に安堵して、ふぅっと息を吐く。
「......良かった。ならまずは剣を用意してくれない?その間に僕の方も準備しておくから」
「わかった」
「ロキアロッド兄さんが剣を取りに行っている間、ルキルフと話をさせてもらうよ。ちゃんと説明しないといけないからね」
「あぁ、頼む」
ロキアロッド兄さんは頷いて剣を取りに行った。
「さて、マルも手伝ってくれ。ルキルフと話をしよう」
僕は地面に寝そべっているルキルフの近くまで移動し、腰を下ろして目線をあわせる。ルキルフも地面に顔を置いた状態で僕の事を見つめてくる。マルには間に立ってもらって通訳をしてもらうつもりだ。
「ルキルフはロキアロッド兄さんの事を心配してるんだな」
的を得ていたのか、僕の言葉に反応してルキルフの顔が持ち上がる。
「ロキアロッド兄さんもルキルフの事を心配している。それに君たちの心配事はふたりとも同じものだ」
「グルァ」
「わかるよ。ロキアロッド兄さんの魔力が足りてないんだろう?ルキルフ、君が協力してくれたらロキアロッド兄さんの魔力を増やす事ができる。協力してくれるかい?」
「シギャ」
「はは、そうか。ルキルフは優しいんだな。これから、ロキアロッド兄さんの魔力を増やす為に外から兄さんの体の中に魔力を注ぐ。でも自分の物じゃない魔力は体の中で暴れるんだ。それをルキルフに抑えて欲しい。できるかい?」
「シギャ」
「あぁ、言い忘れてたけど。魔力が暴れるのはすごく痛いよ?我慢できる?」
「シギャ」
「そうか、ロキアロッド兄さんの事助けてやってくれな」
僕がルキルフを撫でようと手を伸ばしたところでロキアロッド兄さんが息を切らして戻ってきた。随分と急いだみたいだ。息を整えながら僕たちの元へ歩いてくる。
「丁度良かった。ルキルフは手伝ってくれるってさ、ロキアロッド兄さんはルキルフを信じて痛みに耐えてくれたらそれでいいよ」
「痛いのか?」
「そうだね。僕の時はすごく痛かったよ。どうするやめる?」
「やめるわけないだろう。本当に魔力は増やせるのか?」
「......増やせる」
決して確信があるわけではないが、増やす以外にこのふたりに未来はない。なら、増やしてもらう他ない。
「僕にも時間がないから詳しい説明は省くけど、簡単にまとめると、ロキアロッド兄さんの体に外から魔力を取り入れて、兄さんの魔力の器を拡張しようという試みなんだ」
「そんなことができるのか?」
「できる。だけど取り入れた魔力は体の中で暴れる。それには痛みが生じる。その魔力の暴走をルキルフに抑えてもらわないといけない。実際に大変なのはルキルフの方だよ」
「......ルキルフ」
「シギャ!」
ルキルフの意思は固い。それがわかったのだろう、ロキアロッド兄さんも決心したようだ。
「スライ、俺は何をしたらいい?」
「今から僕がする事に口を出さないで、指示に従ってくれるだけでいいよ。あまりここに居すぎても問題だからね」
「わかった。頼む」
「あと、これは僕が偶然見つけた方法なんだ、誰にも言わないでね」
魔物石を吸収することの条件は明確ではない。だから僕はステラの時と出来るだけ同じ条件を揃える事にした。
ロキアロッド兄さんの腕をつかみ、僕の魔力を流し込む。体全体に巡るように結構強めだ。
「これは......魔力が流れてる感じがする」
......驚いたな。
「魔力の流れがわかるの?」
「あぁ、ルキルフに魔力を譲渡している時の感覚に似ている」
「......へぇ」
それならもう大丈夫かもしれない。僕はランラブルブの魔物石を取り出して魔力を流し込んでいく。
「ちょっとびっくりするかもしれないけど、光が放出されたらその光を手で掴んで」
僕は返事を待たずに一気に魔物石のチカラを開放した。
空中に煌めく魔力粒子に虚を突かれたようにびっくりしたが、ロキアロッド兄さんは迷わずその中へ手を差し込んだ。
光は渦を巻くように手の中へ吸い込まれていく。
「......うぐぅ」
「ルキルフ、出番だ。ロキアロッド兄さんを頼む」
「シギャ!」
ルキルフがロキアロッド兄さんに首を巻き付けて、体内の魔力暴走の鎮圧を始める。ここからは誰にも手助けはできない。
いきなりCランクのランラブルブの魔物石を取り込もうとしているんだ。おそらく僕やステラの時は比べ物にならない魔力の奔流が体内を蹂躙しているだろう。
もし、僕やステラが同じような事をすれば内から喰い破られて命を落としかねない行為だ。ルキルフに内在している巨大な魔力が無ければ挑戦する事すらできなかっただろう。
僕はロキアロッド兄さんが持ってきた剣を腰に提げる。ふたりの様子は気になるが、最後まで確認している時間も惜しい。
「......悪いけど、僕はもう行かせてもらうよ。......ロキアロッド兄さん、ルキルフ頑張って」
随分と時間を取られてしまった。もうステラは町へ到着してしまっている事だろう。嫌な予感がする。僕とマルは来た時と同じ方法で城壁を飛び越え、東の防壁町へ向かった。
§§§
家族は私にとって呪縛だ。私の自由を奪い、尊厳を奪い、日常を奪う。突然現れた兄様達に私は拉致される形で東町へ向かっている。そこに私の意思は何一つ組み込まれる事はなかった。
今は魔車の後部座席に座り大人しく揺られている。傍からは冷静に見えているだろうが、魔車と同じく私の内心は揺れていた。
(どうしよう、フーちゃん。スライ君に何も言えずにきちゃった。次にスライ君に会えるのいつになるかな......また会えるかな......)
(ぎゃぁ)
私の事情なんて関係ないとばかりに魔車に乗せられてしまったせいで、置手紙のひとつも書けなかった。決してその時間が用意できなかったわけではない。どうしてこんなひどい事ができるのか、それは私がひとりの人間として見られていないから。
兄様たちにとって私は使い捨ての道具のような認識なのだろう。彼らは平然と私に向かってこう言ったのだ。
「各地で魔物の氾濫が起きた。国を守るために私たちは戦わなければならない。ステラ、お前も一緒に戦って私たちの盾となれ」
「私たちの盾となれ」最低な言葉だと思った。魔物と戦うのは怖い、自ら望んで戦いたいとは思わない。けれど、必要なら私にだって戦う意思はある。私にも大切な人ができた。フーちゃんだっている。生きるために戦う理由なら持っている。だから戦うのは私の意思で戦いたい。
贅沢を言っていいのなら、スライ君の隣で戦いたかった。
魔車は徐々に速度が緩まっていき止まった。目的地である東の防壁町へ着いたのだろう。魔車の扉が開かれ下車を催促される。
重い足取りで降りた私に飛び込んだのは見慣れない街並みだった。でもどうやら中央とは違う景色を楽しむ余裕なんてないみたい。町の奥の方から大きな音が鳴り響いて、煙が上がっている。
もう戦闘は始まっている。焼けた空気の匂いが髪にまとわりついてくる。現実感がなかった情報が私の中で整理されて、心臓が一気に跳ね上がった。
戦ってる。戦いが起きてる。
「ボケっとするな、戦いは始まってるのだぞ!」
「......ッ」
そんなの!わかってる!!初めて感じる戦場の空気に体が勝手に震えだす。それでも無理矢理に足を動かし、私の本能が近づいてはいけないと警告を発する場所に自ら移動する。勝手に涙が溢れてきて視界が滲む。何度も手で拭いながら走り続ける。
私は無意識にスライ君の名前を何度も何度も心の中で繰り返し叫んでいた。
遠くに見えていた防壁がどんどん近づいてきてもうすぐ到着するといった時だった。防壁の向こう側から防壁を飛び越え巨大な火球が降ってきた。
火球は緩やかな弧を描き迫ってくる。その落下先には運悪くひとりの少女が居る事に気付いた私は、少女を助けるべく走り出していた。
火球は確実に落下してその距離を詰めている。私の足では少女の身代わりとなって盾になる事しかできない。もっと私の足が速ければ、もっと距離が近ければ、もっと気付くのが早ければ、他の選択肢もあったかもしれない。
でも私にできたのはやっぱり、少女を腕で包み込み私の背で守る事だけだった。
私が少女の場所にたどり着いた時には火球はその熱を肌で感じられるほど近かった。間を置かずして私の体は焼かれる事だろう。迫りくる痛みを想像して私はきつく目を閉じた。
「ギャ!!」
フーちゃんの大きな声が聞こえて、びっくりして目を見開いた。背中に感じていた肌を焦がす熱はもうない。
私が恐る恐る振り向くと、フーちゃんが氷盾を構えて堂々と立っていた。
「フーちゃん」
「ぎゃ!」
私は足から力が抜けへろへろと座り込む。それによって抱えていた少女と目線がある。
「う、っう、あ、おぅ、おぅねちゃ、お姉ちゃんありがどう」
少女は火球が迫りくるその時その時をずっとその目で眺めていた。しかし、恐怖で体が動かなかったのだろう。怖かったはずだ。恐怖から解放された少女は大粒の涙をぽろぽろと流していた。
「大丈夫?ケガはない?」
「うん」
状況を察知した母親が駆け足で近寄ってきて泣きじゃくる我が子を抱えて、何度もお礼を言ってそれから避難所に戻っていた。
それを見送った私はしばらく茫然としていた。フーちゃんが傍まで寄ってきたのを確認したら急に涙が溢れてきた。私はフーちゃんに抱きつき顔を埋める。
「......怖かった。フーちゃんありがとう」
「ギャギャ」
あんなに大きな火球を消し飛ばしてしまうぐらいフーちゃんは強くなってたんだね。すごいよ。本当にすごい。
「ぎゃーぎゃ」
フーちゃんがよしよしと私の頭を撫でる。フーちゃんは私を守ってくれるんだね。フーちゃんがいつでも私を守ってくれるそれが私の勇気となった。
私は頬を叩き、立ち上がって本当の戦場へと奮い立つ。




