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僕が召喚騎士(サモナーナイト)になりたい理由

 どうして召喚騎士サモナーナイトになりたいか?ステラに質問されて答えに困ってしまった。今まで漠然と召喚騎士サモナーナイトになる事を目指していたが、「どうして?」と聞かれると上手く言葉が出てこない。


 そもそも僕が召喚騎士サモナーナイトを志したきっかけは兄によるドラゴンの召喚だ。あの時の感動は僕の心を強く揺さぶった。6年前のあの日――――。僕はぽつぽつと頭に思い上がる事をゆっくりと言葉にしてステラに話す。



§§§



 あれは6年前の重月祭の日だ。


 1年に一度、夜空に浮かぶ2つの満月がひとつに重なる特別な日がある。夜空に浮かぶ大きな月に神聖なものを感じてしまうのは、誰もが共感するところだろう。



 だからこそ、鳥肌が立つほど神聖な気配を感じる重月の日が祭りの日として選ばれたのは至極当然のことだ。



 僕たちは、15歳になった時、必ず行う儀式がある。

それは、人生に一つだけ所有する事が許された共命石を使って、召喚の儀を行う事。



 その年は、僕は10歳だったが、兄が15歳となり、人生の一大イベントの当事者だった。



 月の光に照らされた祭壇を大勢の人が囲んでいる。祭壇の中心には直径3メートルになる複雑な紋章が刻まれた石畳があって、その中央には共命石をはめ込む台座が設置されている。



 司祭が祝詞のりとを唱えるのを、間近で緊張して見守るのは、僕の兄を含めた総勢20名の大人になる子供たちだ。


 なぜ、このような曖昧な表現になってしまったかは、儀式の後にわかるだろう。



 司祭の言葉と認識できない音の祝詞は空気を震わせていた。観覧者の僕ですら、知らずと祈るように手を握りしめ、呼吸を忘れてしまうほどだ。僕ですらこうなのだから、祭壇に並ぶ兄がどのような心境か想像も容易かった。


 普段ひょうひょうとしている兄もこの日ばかりは、硬い動きなのが遠目でもわかる。厳粛な空気の中、兄が紋章の刻まれた石畳を踏み越え、中央に設置された台座に共命石をはめ込む。


 僕はただ、その一挙一動を眺めていた。その時、どんな気持ちだったか、何を考えていたのか、もう覚えていない。しかし、その日の光景は強烈な印象と共に僕の記憶に刻まれる事となった。


 兄が膝をつき祈りの姿勢になったあと、紋章陣に流し込まれた液体が淡い光から強い光へと発光する。直視できないほどの光となった時に台座から力強い波動を感じた。


 直感的にわかった。とてつもない何かが“生まれた”のだと。


 光が収まり、しーんと張りつめる静寂はすぐに大きな歓声とともに瓦解される事となった。


「ド、ドド、ドラゴンきたーーーーー!!!」



 天を穿つように空気を震わせる歓声が兄の強運を物語っていた。


 絶対強者のドラゴンを召喚した兄は、この国最強の一角となる事が約束されたのだ。


 決して忘れる事ができないこの日に、兄は幼竜の親となった。この日を境に僕がどれほどの夢を抱いてしまったか想像できるだろうか?


 兄は僕の理想であり、尊敬する人物であり、いつかは越えたい壁だ。だから必然のように僕の目標となった。僕はその日、それが約束された未来であるように、兄と同じくドラゴンを召喚して召喚騎士サモナーナイトとなる事を決意したのである。


 あの日の異常な熱気と胸の高鳴りはそれを決意させてしまうほどの熱量を持っていた。



 しかし、思い返せば僕の人生は兄の後ろを追いかけてばかりの人生だ。


 僕の兄は常に注目を集める人気者だった。だから僕は人気者の兄と一緒に居ることが好きで、常に兄の後ろをついて回った。



 兄が何か新しく何かを始めるとみんながそれに追従するように真似をした。それは木登りだったり、かくれんぼだったり、子供の遊びの範囲をでないものばかりだった、中にはいかにカッコよく薪を割るかという変わり種もあったし、成長してからは剣術や体術と言ったものにも手をだす。


 何事においても兄は楽しそうにやるから、みんなもやりたくて、やりたくてうずうずしてくるのだ。僕もその他大勢のひとりだった。


 僕は何一つとして、兄に勝てるものがなかった。ギリギリいい勝負に持ち込んでも、結局最後は負ける。一度たりとも僕が兄に勝てた事はなかった。


 僕は、何とかして兄から勝利をもぎ取ろうと、練習を重ねた。それで上達したと思った頃には、兄の興味はもう違うものに移っておりその勝負を受けてもらう事はなかった。


 兄の唯一の欠点は好奇心旺盛でいろんなものに手を出すが、飽きやすくすぐにまた別の事に手を出すところだ。でもその気持ちもわからなくはない。


 何をやるにしても兄はなんでも器用にこなした。なんでも兄が1番になってしまうから、張り合いがなくて色々なものに気移りしてしまうのだろう。


 僕はその度に、必死に兄の背中に追いすがる。


 そういった生活が変わったのは兄の召喚が行われてからだ。兄は養成学校に入学する前から国から目をつけられていた。それも当然、兄が召喚したのはドラゴンなのだ。今までの歴史を振り返ってみてもドラゴンを召喚したものは兄で10番目それほど貴重な眷属なのだ。


 つまり、今この国でドラゴンを所有しているのは兄ただひとりということ。


 また、国のお偉いさんが言うには、これまでの歴史を振り返ると何度か森から魔物の氾濫が起きて国が襲われているという事件が起きているらしい。


 しかし、そのいずれの事件もドラゴンの活躍によってどうにか国は存命できているようだ。


 そのことから、近々魔物の氾濫が起きるかもしれない事、もし、氾濫が起きたら、兄には国を守るために尽力してもらわねばならない事が告げられたのだ。


 兄は、国の要請を快く承諾して、養成学校へと向かったのだ。


 弟である僕は、そんな兄を誇らしく思い、将来僕自身もドラゴンを召喚して、兄と共に国を守る事を思い描いた。


 兄と肩を並べて戦場を駆け、魔物たちをドラゴンのブレスで一網打尽にする光景を思い浮かべ心が躍った。



 その時から僕は体を鍛えたり、勉強に力を入れ始めた。でも、兄がしてきたように僕が町の中心人物になる事はなかった。僕はこの時に兄と肩を並べる目標を持ちながらも、僕では同じ立場にはなれないという事も意識してしまった。


 僕がどんなに頑張っても結局は、兄の後ろをついてくるその大勢のひとりに収まってしまうのではないかという不安には目を向けないようにして、僕が15歳になって召喚ができるまでの間ひたすらに頑張ってきたんだ。



§§§



「つまり、僕が召喚騎士サモナーナイトを目指すのは、兄がドラゴンを召喚したから、兄に置いていかれないように......ただそれだけなのかもしれない。」


「......うん」


「いや、もっと素直に言えば、兄の様に人気者になりたいだけなのかもしれないし、召喚騎士サモナーナイトになれば、僕もちやほやされるんじゃないか?そんな気持ちなのかもしれない」


「そんなことないと思うよ......」


「いや、僕はマルを召喚した日に一度マルを殺しているんだ」


「え?」


「僕は、マルを召喚した直後に、マルの姿をみて、ドラゴンじゃない事に絶望して、マルから共命石を抜き取ってしまったんだ」


 僕は申し訳ない気持ちで、マルを見る。マルは僕の気持ちがわかるので、『気にしてないじぇ』っと返してくる。僕は恨まれても当然なのに、このことについてはマルは何一つ責めてこない。


 ステラは、どう返事を返したらいいかわからないといった感じだ。


「ステラから初めて氷をもらった時、マルが瀕死の状態だっただろ?あれはそのせいだったんだ。マルから共命石を抜き取ってしまったからマルの魔力が枯渇して体を維持できなくなっていた」


「そうだったんだ。知らなかった」


(そういえば、共命石を抜き取って家に帰って、朝起きた時マルが復活出来ていたのはどうしてなんだ?)


『あるじぃがねるまえに、ふくろの中にきょうめいせきを入れたからさいせいできたじぇ』


(そっか、別々にしていたら危なかったんだな。ごめんな)


 マルが言葉の代わりにプルンと揺れる。


「マルは僕の眷属で、僕の子供ではあるけど、マルの方がしっかりしている部分もあるし、今はなんだか僕の足りない部分をマルが補ってくれているように思えるんだ」


「それわかるかも......。私も私なんかよりフーちゃんの方がずっと大人なんだもん」


 そういいながらもステラは、フーランの体を優しくなでる。その様子はやはり、フーランが子供の様にみえるし、フーランも撫でられることに抵抗なくリラックスしているように見える。きっとお互いが甘えさせてくれる存在であり、またお互いが頼りになる存在なのだろう。


 ステラとフーランの関係を見れば、ふたりの間に強い絆がある事が良くわかる。


 僕もマルとちゃんと絆を結べているだろうか?僕は今での魔物との戦闘を思い返す。ステラとフーランとは違った僕たちなりの確かな絆がちゃんとある。それは疑いようのない事だ。マルはいつだって僕を守ってくれているし、僕もいつだってマルを守る。



「でも、魔物の氾濫だっけ?本当に起きるのかな?大昔にそういう事があったというのは聞いたことがあるけど」


「うん。実は僕も気になって図書館で調べてみたんだ」


「それでどうだったの?」


「過去に9回氾濫は起きている」


「それってやっぱり......」


「そうだね。ドラゴンが召喚されている回数と同じという事は10回目の氾濫が起きてもおかしくないと言える」


「それって大丈夫なのかな?魔物が氾濫してもまた、守り切る事は出来るのかな?」


「僕が森で初めて魔物と戦った時、正直生きて帰れないと思った。僕は魔物と眷属のランク分けに違和感を感じてるんだ」


「どういう事?」


「戦闘クラスの戦いを見てないから何とも言えないけど、僕たちDランクの眷属と、Dランク指定されている魔物に優劣はほとんどない」


「でも、一般的にDランクの眷属なら、Dランクの魔物相手には必ず勝てるって言われてるよね?」


「あぁ、同じ魔物相手に、戦い慣れていればそうかもしれない。でも初見だと立場は逆だと思う。森の魔物は生きるために戦っているんだ。相手を殺すという殺意が僕たちとは全然違う」


 ステラは死を連想してか、自分の腕を抱くようにさすった。


「ごめん、こんな話をするつもりじゃなかったんだ。別の話をしよう」


「ううん。確かに重い話だけど、私聞けて良かったと思ってる。私やっぱり強くなりたい。違うな......強くならないといけない」


「いや、でも氾濫なんて起きないかもしれないよ?」


「それだけじゃないの、最低限自分とフーちゃんの命は守れるようになりたいの。お願いスライ君、私とフーちゃんが強くなれるように訓練してください」


 何か焦りを感じるような感じの訴えだ。ステラなりに何か思うところがあるのかもしれない。


「僕は、僕たちがしてきた方法でしか、強くなる方法を知らない。それは、今日みたいに自分自身を気絶してしまうほど傷つける行為を繰り返すという事なんだ」


「うん。わかってる」


「いや、まだ問題はある。僕の魔物石の手持ちは少ない。もっと強さを求めたら、強い魔物を倒してその魔物石を手に入れないといけない。......命がけなんだ」


「......それでも、挑戦ぐらいはしてみたい」


 僕は、命を守るために命を懸けて強くなる方法にこれじゃ本末転倒もいいところだなと思いながらその言葉を突き返すことはできなかった。


 その言葉、その気持ちは僕も思うところだし、ステラが望む方法は実際に僕がしてきた道だ。僕は正直ステラが強くなくても良い。それは僕の守るべき存在としてステラが入っているからだ。


 でもそんな僕の自分勝手な言い分でステラの気持ちを無碍にするのも違うと思うし、ステラ自身が強くなれば安心できるのも確かだ。でも、やっぱりステラを危険な森へ連れていくのは......ダメだ。どうにか手持ちの魔物石だけで満足してもらおう。


 もし、足りなければ僕とマルだけで取りに行く。マルに視線だけで合図送り。僕の決定をステラに伝える。


「わかった。僕の手持ちの魔物石をあげる。それで強くなろう。でも、今日みたいに苦しいのだけは我慢してくれ。あと、無茶は絶対にさせない」


 僕とステラの視線が交わる。ステラも僕から視線を外さない。


「うん。スライ君しか頼れないの、ありがとう」


 ......結局僕とステラは似た者同士なのかもしれないな。




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