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高揚感

 僕は今のステラの状況を良く知っている。地獄の様に辛い事、時間が経てば回復する事。だから心配もするが、安心もできる。


 今までは自分自身のがその苦しみに耐えるだけだったので、どういう状態でその苦しみが発生していたのかわからなかったが、今回は傍観者としてその様子を見ることができてその真実がわかった。


 体の中がボロボロになって、体の中の魔力が上手く循環していないのだ。時間がたって修復が進めばその苦しみは嘘のように消えてなくなる。


 なら、その魔力の循環を僕が手助けしてあげれば、体の痛みも和らぐのではないだろうか?


 そう思った僕はいつもの魔力訓練の様にステラの体に僕の魔力を流してみる。極々少量の魔力だ。その様子をじっと観察する。


 僕の手から伝わった魔力は荒れた魔力回路を整え、そこの魔力の流れだけは滑らかになった。僕は段々と魔力の量を増やしていき、問題がないか確かめてみる。上手くいったことに安堵するが、また流れが詰まったところから破裂するように魔力が滲みだす。



「良い考えだと思ったんだけど、このまま続けた方が良いと思うか?」



 マルがプルンと揺れる。マルにとっても良し悪しの判断は難しいらしい。



「時間が経つとまたもとに戻ってしまうのはどうしたらいい?なにかアドバイスはあるか?」


『マルたちのまほうは、むぞくせいだじぇ。つよくするのがとくいだじぇ』


「強化する魔法か」


 思い返してみると僕は、体の魔力の流れを速くする事だけに注目していた。違う側面からみたら、流れを強化していたという風に取れなくもない。僕はそれを魔力操作だと思っていたし、それが魔法であるという認識すらなかった。もしかしたら、魔力の流れを早くするというのは特別な行為、つまり魔法だったというわけか。


 マルに見せてもらった魔法は僕が想像しているものとは違っていた。魔力を体の外に放出させたうえでコントロールし、体に纏わせ、体を強化するように働かせる魔法。


 僕の魔法が内側を強化する魔法とするなら、マルのは外側を強化する魔法だ。もしかしたら、工夫次第で色々な応用が利くのかもしれないな。


 一方フーランの魔法は魔力が氷になる魔法だとマルは言っていた。フーランの手の上で魔力を固めれば氷弾、盾のように成型すれば氷盾、地面を覆うように放出したらアイスフィールドという魔法に変化するものだと考えられる。


 魔力の操作は、感覚的なものだ。感覚さえつかめればこうしたいと思う事ができるようになる。例えるなら、目の前のコップを手に取りたいそう思えば手は動くし、簡単にコップを持ち上げる事ができる。魔力の扱いも、体の扱いも基本的には同じだ。


 ......つまり、体の動きに意味があるのも、コップを持ちたいと結果を望むからだ。


 それなら、僕の操る魔力にも意味を持たせる必要がある。僕の望む結果とは、ステラの体の魔力の流れを正常に戻すこと、そのための道を作る事だ。



 僕は今までのように、ただ魔力を流していくのではなく、ステラ体に流れる魔力を包み込むようにそうイメージして魔力を操った。


 僕の魔法で魔力の道を形成することで、ステラの中でいくつも枝分かれして滞っていた魔力が正常に循環を始める。


 僕は腕から始めた修復から箇所を変え全身に施した。魔力の流れが悪い患部に手を当ててゆっくり確実に魔力の道を作っていく。ステラの傷ついた体を何とかしたい。この苦しみから解放させてやりたい。その想いが僕の魔力操作をより洗練したものにしていた。


 今、僕の目にはステラの薄っすらとした輪郭と魔力しか見えていない。今までにない世界だ。僕の手が触れたところから魔力が変化していく様子は何とも言えない充実した気持ちにさせてくれた。だから僕は時間も忘れるほど集中して、ステラの中を整えた。


 ステラの体を整えてやっと一息ついた頃、僕は元の世界へと戻ってきた。魔力の見えない世界は日が沈みかけ部屋は薄暗くなっていた。


「いつのまにか暗くなってるな、マル灯りを点けてくれないか」


 マルがピョンピョン跳ねて灯台の灯りを点ける。明るくなって目に入ってくる情報が鮮明なものとなる。


「......あっ」


 僕はやっばいと思った。マルの方をみると判定が下される。


『あるじぃアウトだじぇぇ』


 僕の目の前ですやすやと寝息を立てているステラの衣服は、これまで見たことがないほどきわどく乱れていた。


「僕は、この手が恐ろしい。なんってこった」


 マルがステラのところに移動して衣服を整えていく。


「っあ......」


 マルがぴくっと揺れる。


「何でもありません。僕はここで正座しております」


 マルがよろしいというように頷き、ステラの衣服を直し終わったあと、フーラン手とステラの手を重ね合わせる。


 フーランの苦しみが和らいでいるのか、険しい表情が解けていく。


「ステラからちゃんと魔力がもらえてるみたいだな。この際だ、フーランの魔力回路も整えてみよう」


 僕はもう一度魔力の世界をみる。フーランの傷ついた体はステラから供給される魔力によってどんどん修復されていく。僕の手助けなんて必要はないが、念のためフーランの修復に合わせて、魔力の道を形成して強化していく。


 その手助けもあってか、フーランの修復スピードが増した。


 フーランの全身が修復し終わったあと、フーランの毛並みは、今まで見たことがないほどきわどく乱れていた。


「僕は、この手が恐ろしい」


 僕が自分の手を見つめてワナワナと震えているとステラが目を覚ました。僕はステラの横に移動して声をかける。


「ステラ、体調は?どこか痛いところはない?」


「......スライ君。もしかしてずっとそばに居てくれたの?」


「あぁ、ステラの体調が良くなるように看病してたんだ。それで、体に不調はない?」


 ステラが自分の体を動かして不調を確かめる。


「不調はないよ。なんだか体が軽い......?」


「あぁ、魔物石を吸収した直後は体調が悪くなるんだけど、一晩寝て起きる頃には逆に体調が良くなっているように感じる」


「あ、うん。そうなんだ」



 そして、僕は最高にハイな気分になって黒歴史を刻むんだ。魔物石なんて恐ろしいやつ。

......ステラも今そんな気分なんだろうか?心なしかステラがそわそわしているように見える。


「スライ君。お願いがあるんだけど......」


 え?なに突然。お願い?今までお願いなんてされたことあったかな?なにかな?お願いって何かな?


「なに?言ってみて」


「......抱っこして」


 ステラは上目遣いで僕のハートを打ち抜いたあと、恥じらいに頬を赤く染めて俯いて言い訳を始めた。間違いないこの子は僕をオーバーキルするつもりだ。


「......自分でもわかってるの!......なんか小さい子供みたいだなぁって、大人になって抱っこして欲しいっておかしいってわかってるの。でも、私ね、小さい時、全然抱っこしてもらえなかったっというか。あまり......愛されてないんじゃないかって思う事がたくさんあって、本当は甘えたい時に、全然甘えられなくてその反動というか......」


 ステラはこうやって甘える事に後ろめたい気持ちを感じてるみたいだけど、正直僕にとってはただのご褒美であった。いつでもどこでも、抱き着いてきていいんだからねっていう気持ちだった。だって僕、ステラ大好きだもん。


「いいよステラ」


 しかし、僕はとてもクールな男なので、包容力のある男なので、可愛い彼女の頼みを無碍にしない男なのだ。いつでもバッチこいである。


 僕は、可愛いステラの為に、ステラが被っている毛布の中に入り込んだ。ベッドインである。僕は今日大人の階段を上るのだ。


「え?スライ君?」


「一緒に寝るのは嫌?」


「......嫌じゃない」


 ベッドに僕が入り込むと、ステラは少し頭の位置を下げ、僕の腕を枕にするように僕の胸の中へ納まった。僕は冷静を装ってナイスガイを演じているが、内心はめっちゃドキドキしていた。


「スライ君、心臓がすごいドキドキしてるよ」


 ......バレバレであった。


「私と一緒だね。私の心臓の音も聞いてみる?」


 ステラは僕の返事を聞かずに体の位置を変え、胸を僕の耳に押し当てた。.....そして、.僕の顔は柔らかいものに包まれていた。


「ね?聞こえる?私もすごくドキドキしてる」


 僕はそれどころじゃありません。体が爆発しそうです。もはや僕の心臓はドキドキじゃなくバックンバックンになってます。


 ステラは僕の顔の拘束を解き、目線を合わせてくる。


「スライ君、顔が真っ赤だよ」


 ステラは今まで見せた事のない艶美な笑顔でほほ笑みかけ、舌を出していたずらが成功したとばかりに楽しそうだ。


 僕は、何か声を出そうと思ったが、緊張で喉がしまり金縛りにあったかのように何も言えずにいた。


 ステラの情熱的な行動は止まらない。ステラの細い指が僕の唇をなぞる。指で触れらたそれだけの出来事なのに唇がジンジンと熱を持ってくる。


 ステラは指を動かし、僕の視線を指に誘導して、その指を自分の口に咥えた。ステラの挑発的な視線が僕を突きさす。


 僕は、ステラが求めている事を理解しているが、それと同時にステラが魔物石を吸収した時の高揚感に支配されている事にも気づいていた。だから、このままこの流れに乗っていいのか、ダメなのか迷っていた。


 僕の中で天使と悪魔がダブルでGOサインを出している。怖気づいているのはリアルの僕だけだ。



 僕は沸騰した頭で、引きよせられるようにステラと唇を重ねた。



 顔を離したあと、ステラの小悪魔的な顔は、恥じらう天使のような顔に変わっていた。


 ステラは無言で隠れるようにまた、僕の腕を枕にして胸の中に納まる。


 ステラはしばらく手を所在なさげにしていたが、洋服の裾に手が引っかかると、手を服の中へと入り込ませ直接そのスベスベの素肌を擦りつけて抱きしめてきた。


 もう僕はダメだった。ステラの柔らかい肌が直接その体温を伝えてくるのだ。僕の中の天使と悪魔は相変わらず仲良しで、親指を突き立てニヒルな笑みを浮かべている。あいかわらずイケイケGOGOである。ブレーキ役が誰もいない。


 僕は正常な判断ができないまま、手を動かしステラの衣服を脱がしにかかった。



 血走った僕の目は、ステラの頭越しに見えるフーランの冷たい眼差しで冷静さを取り戻した。


 背筋が凍るほどの痛い沈黙が訪れる。


 僕の体に抱き着いているステラの体温が僕の命を繋いでいた。


 フーラン貴様、氷魔法を使ったな。僕の燃え上がっていた興奮は一気に冷却された。


 僕の中の天使と悪魔もいつのまにかいなくなっていた。



 僕は服を脱がしにかかっていた手を戒め、ステラの背中を撫でるようにトントンとした。健全なヨシヨシである。


 それは、ぎりぎりセーフだったらしくフーランがフンと視線を逸らす。


「スライ君、私今、幸せだよ。スライ君と出会えて本当に良かった」


 僕は返事をする代わりにステラの背中を撫で続けた。


「私ね、家族に認められたくて強くなろうとばかり考えていたの、でも今はそれはどうでもよくなっちゃった」


 ステラはゆっくり言葉を繋いでいく。


「今はね、スライ君と一緒に居る為に強くなりたい。スライ君は、2年生になったらきっと戦闘クラスに繰り上がるでしょ?私も一緒のクラスが良い」


 ステラの手に力が入る。まるで僕から離れたくないそう行動でも示しているように感じた。


「ねぇ、私が強くなったら。この先もずっと私のそばに居てくれる?」


「そんな事しなくてもずっとそばに居るよ」


「......ありがとう。嬉しい。でも強くなるのは私自身が安心するためでもあるの。私はスライ君の特別になりたいの」


「......もうなってるよ」


「へへ。じゃぁもっと、もっと特別になる」


 ステラは僕にニオイをつけるように頭をグリグリと擦りつけてくる。僕はこの行為が結構好きだ。ステラの頭を優しく撫でる。


「ずっとこうしてたいんだけど。あのね。お腹がすごく空いてて......お腹が鳴らないようにすごい我慢してるの」


 僕はくすくすと笑ってしまった。


「もう、笑わないで。安心したらお腹が空いてきちゃったんだもん」


「ごめん、ごめん僕にも心当たりがあったからさ」


「そうなの?」


「うん。多分今日は食堂の食事じゃ足りないよ。外で一緒に食べようか」


「それってデートのお誘い?」


「デートのお誘い。デザートも食べ放題どうする?」


「......行く、でもなんかそれデザート目的でついていくみたいでヤダ」


 ステラが顔膨らませて不満を表現する。え?なにこの子超かわいい。



「スライ君とだから行くんだからね」


「僕もステラだから誘うんだ」


「へへへ。......もし、他の人誘ったら、メ!だからね」


 照れて笑ったかと思ったら、眉間にしわを寄せてムッとした顔を浮かべる。表情の変化が面白い人だ。


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