僕にも魔力がみえたら
更新遅くなりすみません。場面と場面をつなげるに四苦八苦してます。もしかしたらまた更新が空くかもしれません。遅れた分は書き次第随時更新していきます。
最近の僕のお気に入りの場所は図書館だ。建国当時は本の執筆が盛んだったらしく、ローゼンワイナーの建国譚や、英雄譚。娯楽本や魔物図鑑なども保管されている。
しかし、現代では本の執筆をしている人はいなくなってしまったようだ。廃れてしまった文化というのだろうか。ここ数年で追加された本はないのは残念だ。
でもまぁ、僕が本を読む理由は娯楽ではなく、魔法について知りたいからだ。 だから僕が読むのも昔の本という事になる。建国譚では魔物を倒して強くなるヒントを得られた。それで今度は初代国王が使っていた魔法について何か記されているものはないか片っ端から本を読み進めているのだ。
もしかしたら、僕なら魔法が使えるかもしれない。その思いがどうしてもくすぶってしまう。
僕は主に初代国王が登場する書物を中心に読んでいるが、全く収穫はない。
「......歴史の知識だけ増えていくよ」
『なんてかいてあるじぇ?』
「うーん。すごいぞローゼンワイナー。素敵ローゼンワイナー。我らのローゼンワイナーって感じかな」
『じぇーー』
「あぁでも、初代国王の死後は、大変だったらしいよ。民は召喚の力を得て、眷属との共同生活が始まった中で相当混乱した事態になっていたみたいだな」
『いまとはちがうじぇ?』
「あぁ。っと言っても最初に召喚ができたのは50名だけだったらしい。それから15年もの間、この50名の眷属だけで国を守っていたと書いてある」
突如、ローゼンワイナーの大魔法によってもたらされた祝福。それが召喚だ。
召喚には共命石が必要で、共命石は生まれた赤子の手に握られている。どうして赤子が共命石を抱えて生まれてくるのかそれを説明できる者はいない。それは奇跡であり、常識でもあるのだ。
祝福の当初は、大魔法の光を掴んだ者の手には共命石が握られていた。しかし、全体からみると共命石を手にした人数はそう多い数ではなかったらしい。総勢で50名それが一番最初に共命石を使って召喚に成功した人たちだ。
この50名により結成された組織が後の召喚騎士という職業となった。彼らは新世代の共命石を持つ子供たちが成長して召喚が行えるようになるまでの15年間を守り抜いた英雄として名を刻まれている。
「っま、難しい話をしてもしょうがないし、召喚術以降の話は僕の知りたい情報とはズレてしまっているんだよな」
『まだよむじぇ?』
「......いや、もう疲れたから休憩しよう」
結局のところなぜ、初代国王だけが魔法を扱えたかその説明は神の子だからの一言で終わってしまっている。ローゼンワイナーの子孫ですら今までに魔法を扱えた人物は一人もいない。やはり、人間には魔法は扱えないのか。
いや、人間の魔法は召喚と考えた方が良いのかもしれないな......。
「なぁ、フーランは氷の魔法以外にも魔法が使えたりするのか?」
『むりだじぇ』
「うーん。そうか、じゃぁマルの魔法ってなんなんだ」
『むぞくせいまほうだじぇ』
「......そうなんだ。ポロっと言っちゃったな。不思議魔法だと思ってた。なんでもっと早く教えてくれないの?」
『きかれてないじぇ』
「そうだね。聞いてないね」
自分の中でマルの魔法の傾向自体は何となく理解していたので、確認を怠ってしまっていた。僕は他の召喚士とは違って、眷属との対話ができる。マルと会話ができるという強みを僕は活かしきれていなかった。僕がすべきなのは本を読み漁ることではなくて、マルとの対話だったのかもしれないな。
......あれ?以前「フーランのように何か魔法は使えるか?」って聞いた事なかったっけ?聞き方が悪かった?確かにフーランのように魔法は使えてはないけど、判定厳しくない?
「その強化魔法は僕には使えないのか?」
『もうつかってるじぇ』
「え?いつ?」
『たたかいのときと、ステラとつながってるときだじぇ』
「それって魔力を流してるだけなんだけど、魔法なのか?」
『だじぇ』
「いや、あれは......魔力を操作してるだけで魔法じゃないだろ?」
『フーランのまほうは、フーランのまりょくをそとにだすとこおりになるじぇ』
......ということは、フーランは氷の魔法を使っているというわけではなくて、魔力操作の結果、勝手に氷の魔法になっているという事か?
「でもそれじゃ、氷弾を作ったり、氷盾を作れたりするのはどうしてなんだ?」
『そとにだしたまりょくをそうさしてるじぇ』
「外に出した魔力を操作......。マルはわかるのか?魔力がどうなってるのか」
『わかるじぇ』
マルの説明が......分かるようで、分からない。せめて僕にも魔力が見えれば良かったのにな。
『あるじぃはきづいてないじぇ』
「ん?なにがだ?」
『まものいしにまりょくながしたあとはみえてるじぇ』
「あぁ......、そうか。あれがそうか」
『ふだんはうすくてみえにくいだけだじぇ、もっとみたいってしゅうちゅうするじぇ』
「集中か」
僕は魔力を手から放出させて、魔力が見たいと集中する。すると、体の中をめぐっている魔力が目に移動する感覚がわかる。目に魔力が集まると、手を見ていたピントがズレ、空間にキラキラ光る装飾が見えてくる。ちょうど、魔物石が爆ぜた時のような光だ。今、僕は魔力が見えているという事でいいのか?
「マル、見えたよ。結構簡単に見えたよ。なんでもっと早く教えてくれないの?」
「きかれてないじぇ」
「そうだね。聞いてないね」
マルは聞かれない事は答えない主義らしい。僕はおまえの親の顔が見たくなったよ。
「この際だ、マル。魔力を放出して出来る事を何か教えてくれ」
マルが触手を伸ばしてゆらゆらさせる。
『これをなぐってみるじぇ』
「わかった」
僕はマルの触手を殴った。触手は衝撃に耐えきれずに弾けてしまった。
「弾けたな」
『つぎはまりょくをほうしゅつさせるじぇ、まりょくをみるじぇ』
マルの魔力が触手全体を包む。マルから放出された魔力が体表に纏わりついている感じだ。
『なぐってみるじぇ』
「わかった」
僕はもう一度マルの触手を殴った。触手は衝撃を吸収し、僕の拳を受け止めた。
「なるほど、いつもこうしてたのか」
『だじぇ』
「......。もしかして、僕がそれをマスターしていればリョウリョウガルマの攻撃にも耐えれたんじゃないか?」
「だじぇ」
なんでもっと早く教えてくれないの?僕の子供は僕に厳しい。
......マルは何も言わないが、最初の魔力譲渡の時、手で触れただけでマルの体が溶け出してしまった事がある。おそらく強化魔法が全く使えない時のマルの体は非常に脆い。
しかし、強化魔法を纏えている間はリョウリョウガルマの攻撃にすらマルは耐えた。それだけこの強化魔法が優秀なのかもしれない。僕は、ダメージを魔力で補完する能力はスライムの特性だと思っていたが、強化魔法の恩恵なのかもしれないな。
僕が黙考を続けているとマルが珍しくアドバイスをくれる。
『ステラとつながるときも、まりょくをみるといいじぇ』
「......」
ステラには優しいね。嫌いじゃないよそういうところ。
「じゃ、ステラのところに行って魔力操作の練習してくるか」
マルがプルンとゆれる。
§§§
僕は例の如くステラの部屋に来ている。
「スライ君、今日も魔力操作の訓練だよね」
「そうだな。ステラは魔力の操作はできるようになったか?」
「うーん。自分では魔力を動かしてる感覚はないの。スライ君が動かしてるのは結構わかるようになったんだけどね」
「そっか。実は今日、ちょっと試してみたいことがあるんだ」
「うん。いいよ。私はどうしたらいいかな?」
「え?説明してないのにいいの?」
ステラは優しく微笑みかけて言った。
「......信頼してる」
「まいったな」
「それで、私はどうしたらいいかな?」
「いや、いつも通りでいいんだ。ただ、今日はステラをじっくり観察したい」
「......かんさつ?観察?え?」
「僕も今、魔力を見る練習をしているんだ」
「そういうことね!なーんだびっくりしたよ!」
ステラが手でパタパタと顔を扇いでから仕切り直した。
「魔力って目に見えるものなの?」
「僕もマルに教えてもらうまで失念していたんけど、魔物石から飛び出す光が魔力だったんだ」
「そうなんだ。光ってどんな感じなんだろう?」
「そういえば、ステラに見せたことなかったな。ちょっと待って」
僕はカバンからゴブゥの魔物石を取り出した。ゴブゥの魔物石は吸収しても効果を感じられなくなったので、いくつかは吸収せずにカバンの中に入れっぱなしになっていたのだ。
「白っぽいゴツゴツした石だね。これが魔物石なの?」
「ゴブゥって魔物の魔物石だ」
「へぇ」
「今から、これに魔力を流してみるよ。そうすると光となって魔物の力が放出されてそれを体に取り込むことができる。その時の光が魔力らしいんだ。見てて」
「うん」
僕はステラの意識が手元の魔物石に移ったのを確認してゆっくりと魔力を流していく、徐々に魔物石は熱を持ったように赤く鈍い光を放つ。
「すごい......石が光ってる」
僕はそのまま魔力を流し続ける。どんどんと魔物石の光量は増していく。
「すごい光!」
遂に魔物石は臨界点を迎え爆ぜる。魔物石が眩い光を放った後にキラキラと輝く光の粒子が空中を漂う。
「ステラ、このキラキラしているのが魔力だ」
「......きれい」
ステラの手が光の中へ伸ばされる。
「待って!ステラ!」
僕の大きな声にステラがびっくりして体を硬直させる。空中に漂っていた魔力の光は行き場所を見つけたというようにステラの差し伸ばされた手へと吸い込まれていく。
「きゃ!?なに?!」
遅かった!注意するのを忘れてしまっていた!
「なに、これ......体の中で魔力が動いてる感じがぁっっ――ああああああああ!!」
「フーラン!ステラの中の魔力を吸い取れ!」
「ぎゃ!!」
僕とフーランはステラに駆け寄り体を支える。
「スライ......君、すごく気持ち悪い。体の中が、グルグルする」
「大丈夫。今、楽にするから。フーランいけるか?」
「ぎゃぁぁ」
フーランも魔力暴走に四苦八苦しているようだ。フーランの体のところどころが氷になっている。僕の場合、魔力操作が曲がりなりにもできていたし、マルが手伝ってくれるので二人で暴走を抑える事ができた。
しかし、ステラはまだ魔力の操作ができないし、僕が代わりにステラの魔力をコントロールすることもできない。今、確実に対処ができるのはフーランだけだ。
僕は魔力の流れを見る事に集中する、現状がどうなっているのか確認できれば出来ることもわかるかもしれない。
視界がぼやけ、光の世界を見るような感じになる。体は輪郭がわかる程度で光と色で識別するような世界だ。
ステラの中では魔力の光が蟲のように蠢いて......体を食い破っているように見える。まるで、ステラの体を乗っ取ろうとしているようだ。フーランはそれらを体の中に取り込み押さえつけて服従させていく。ステラの中で暴れる魔力と、フーランの魔力の戦争だ。
魔物石を吸収した直後はこのような感じになっていたのかと僕も驚いた。少しずつ収まっていくのをただ眺めているしかできない事が歯がゆい。
「マル、今僕たちにできることはあるか?」
マルがフルフルと揺れる。ただ見守るだけの時間はとても長く感じられた。この時間を耐えているステラとフーランはもっと辛いだろう。
フーランは一度も休憩を挟むことなく、ステラの中で暴れまわる魔力の制圧に成功した。前後で確認していないので何とも言えないが、ステラとフーランの中の魔力の量が増えたように感じる。ただ、2人とも体なの内側は食い破られたようにボロボロだ。
ステラは荒く呼吸を繰り返すだけで意識がなく、フーランも今にも倒れてしまいそうだ。
「フーラン。頑張ったな後は任せろ」
「ぎゃぁ......」
ステラを持ち上げベッドまで運び寝かしつける様子をフーランは目で追っていた。ステラを運び終わった後はフーランのところに戻り、体についた氷を払う。
「この氷は使わせてもらうな。マル、水とタオルを用意してくれ」
僕はフーランを持ち上げた。
「ぎゃ?」
「フーラン、お前も休むんだ」
「ぎゃぁ」
フーランをステラの隣に置く、大きなベッドだおそらくいつも一緒に寝ているのだろう。フーランが心配そうにステラの様子を見て、やさしくその体を撫でた。フーランは召喚士思いの良い眷属だ。
マルが水とタオルを持ってきてくれたので、フーランの体についていた氷を水の中に落とし、冷えた水をタオルに含ませ軽く絞り、ステラのおでこに置いた。もう一枚も同じように絞り、今度はフーランの目を覆うようにかぶせる。
「休め」
その合図を皮切りにフーランも動かなくなった。




