今日の僕は一味違う
微ヤンデレ注意報が出ています。
「マル、なぁマル、聞いてくれ」
『なんだじぇ』
「ステラが可愛すぎて辛い」
『じぇぇぇ』
「いや、そうじゃなくて、このままじゃヤバい。チョロボーイスライが暴走してステラに襲い掛かるかもしれない」
『じぇぇぇ』
「すごいめんどくさそうだな、おい。......それで、冷却時間が必要だと思うんだ。だから、リョウリョウガルマの魔物石を使おうと思う」
マルがプルンと反応する。
「そうすれば、また魔力が暴走してそれどころじゃなくなる。魔力の暴走を抑えると同時にチョロボーイの暴走も抑えようという画期的な作戦だ。おそらく僕の予感はこれを意味していた」
『違うと思うじぇぇ』
「いーの!!」
僕は、いーの理論を展開して問答無用で魔物石に魔力を流し込み、リョウリョウガルマのチカラを引き出して僕の中に取り込んだ。マルも仕方がないっと言った感じで触手を伸ばして、魔力暴走を一緒に抑え込む。僕たちは久しぶりに高熱と苦痛の地獄を味わった。
この苦しみに耐えている内は身動きもろくに取れない。だが、今回ばかりはそれがいい。
翌日は例の如く、熱は下がり、体の不調もすべてなくなっていた。大量にかいた汗で衣服が張り付くが、気分は清々しく。チカラが漲る。まるで世界を手にしたような万能感が僕を支配していた。
「すごいチカラだ。また強くなってしまったな」
マルが世界記録を狙って高速反復横跳びをしている。早すぎて残像が見える。それでこそ僕のマルだ。
僕は汗を流し、颯爽と着替えた。幾多の戦闘を繰り返して僕の体も逞しくなった。今も躍動感あふれる僕の筋肉が魔物を討ちたいと暴れ出しそうだ。......沈まれ僕の筋肉。ここに敵はいない。......全く、困ったちゃんだ。
しかし、魔物石を取り込んだ後はお腹が空いて仕方がない。おそらく体をより上位の物へと作り変えようと栄養を欲しているのだろう。
安心してくれ僕の体よ、忘れてしまったのかい?食堂の朝食はビッフェ形式の食べ放題だ。今日は思う存分食してやろうではないか!
僕が食堂へ続く廊下を歩いているとこれは運命だろうか?反対側から僕の姫が歩いてくる。
「す、スライ君ッ!!!」
姫は僕を見つけるなりアワアワと慌て始め、背を向けて逃げ出してしまった。
......ふ。照れて逃げ出すなんて、可愛い子猫ちゃんだ。
僕は、身体機能をフルに活用して一気にステラの進路方向へ回りこみ、体を使ってステラの突進を優しく受け止めた。そして、流れるようにステラを抱きしめて、耳元に囁く。
「つかまえた」
「ひゃあああああああああぁあああ!!!!」
ステラが体を硬直させて、顔を真っ赤に染める。
「な、ッな、す、スライ君なんで?!え?!さっきまで、え?!」
「知らなかったのか、ステラ、君は僕からは逃げられない」
「に、逃げられないの......?」
「そう、逃がしてあ、げ、な、い」
「きゅぅぅ、みみみみ耳はダメ!!!」
ステラの体がゾクゾクと震える。最近は肌寒くなってきて廊下は少し冷える。ステラの体温も少しばかり高いように感じる。昨日、タオルで汗を拭き取ったけど、やはり風邪をひいてしまったのかもしれないな。ステラの目がグルグルしている。
「ああ、あ、あの!昨日のことあまり......よくは覚えてないんだけど......でもちょっとは覚えてて、その......色々と......怒ってない......の?」
「怒る?どうして?それよりも少し体温が高いように感じるんだが。風邪をひいてしまったんじゃないか?」
僕はステラのおでこにかかる髪の毛を手で払いのけて、おでことおでこを重ね合わせてみた。やはり、熱がある。
「ッ!!!!!????!!!!!」
おでこを離して、ステラの様子を見る。顔は赤く染まり、瞳孔が大きく開いて、呼吸も荒い。まずいな、症状が悪化してしまっている。
「しゅらいくんのおでこがぴったんこしてきた。すらいくんのおでこがぴったんこ」
「フーラン、どうやらステラは風邪をひいてしまったみたいだ。すまない僕の責任だ。昨日ちゃんと体の隅々までちゃんと確認するべきだった。本当にすまない」
「か、か、体の隅々まで?!ど、どどどどどいうこと?!」
「あぁ、ステラに抱き着かれたあと、僕が抱え直してベッドまで運んだんだ」
「えええええええぇえぇぇぇえ!!!!も、もしかしてわた、わたしぃ」
「あぁ、そのままステラをベッドに寝かしつけて、それから――」
「ストップ!すとぉぉぉぉーーっぷ!!こえがおおきいよぉ。その説明はさすがに恥ずかしすぎるからぁ」
ステラの手が僕の口元に飛んでくる。
「......そうだな」
ステラが聞き取り難い小さな声でぶつぶつ言っている。
「しちゃったの?しちゃったの?わたしスライ君とえっちな事しちゃったの?全然覚えてないよぉなんで記憶がないのぉ」
大人にもなって、体の汗を拭いてもらうという事はなかなかない。ましてや、風邪をひかない為の緊急措置だとしても、そうやって体の接触を許しているというようにも受け取れてしまう言い方は良くなかったな。女心ってやつを僕はわかっていなかった。反省だ。
「すらいくぅん。わたし、スライ君になんか言ってたぁ?」
ステラが泣きそうな顔で僕に尋ねてくる。ちゃんと僕が覚えているかその確認をとりたいのだろう。もちろん僕はちゃんと覚えている。今度は失敗しない。
「......『また、してね』って」
「なッ!?ッッッわたしのばかぁぁぁあ!!!嘘だから!!気にしなくていいから!!」
「嘘なのか......?やっぱり痛かったりしたのか?」
「それ聞いちゃうの?!よくわからないよぉ、途中までは気持ちいいというか、安心できるというか、ホントはあまり覚えてないというか」
ステラが慌てて弁解する。優しいステラの事だ僕に気を使ってしまっているのだろう。そんな必要はないのに、こういう時はアフターフォローが必要だ。できる男の僕はちゃんとわかっている。
「僕はステラさえ良ければ、(魔力操作の訓練を)何度でもして良いと思ってる。繰り返して行う事に意味があると思うんだ」
「なっなっ!それってつまりそういう事だよね?!.....スライ君は私とするのイヤじゃないの?」
「イヤなわけあるか。そりゃステラも不安があると思うけど、僕がちゃんとそばにいるし、昨日みたいになってしまっても僕が責任を持つ」
「しょ、しょうなの?!......私の体変じゃなかったかな?」
「変なところなんてない。どちらかというと(魔力流しが)しっくりくる感じで驚いたぐらいだ」
「そうなんだ。あ、相性がいいのかな?なんてッ」
「そうかもしれない。だから、ステラに『また、してね』って言われた時は嬉しかった。それに、こうやって約束してれば、ステラと一緒に過ごせるって事だろう」
「うん......私も、スライ君とたくさん一緒に居たいです」
「あぁ、ずっと一緒にいよう」
「あははは、やだ、なんか、プロポーズみたいだよ?ダメだよ?そんな勘違いするような事言ったら。嬉しくなって(本当は違うってあとで悲しくなって)しまうでしょう」
「プロポーズは、僕が召喚騎士になるまで待ってくれるか」
「な?!うえぇ?何言ってるの??!!」
「無理だと思うか?僕はなるよ。召喚騎士に」
「そうじゃないんだけど、えっと。......期待してていいの?」
「もちろんだ」
「も、もう約束しちゃったからね!」
ステラの頬にながれる宝石を指ですくい上げる。とてもきれいな輝きだ。
ステラはぽろぽろと涙を流した。悲しくて泣いているというよりも、安堵して、気が緩んで泣いているといった感じだ。誰しも病気になった時は心が弱るものだ。ひとりで心細かったのだろう。それで要らない心配をして気を張りつめてしまっていたのではないだろうか。
おそらく、ステラは僕の時間を取ってしまう事を懸念して遠慮してしまっているのだろう。でも本心では家族の問題もあり、きっと強くなりたいと思っているはずだ。『強くなりたい』その気持ちを僕は痛いほどわかる。
魔物石からチカラを手に入れられるという事実は僕の救いとなった。同じく、ステラの救いになるというのなら僕は協力を惜しまない。その点でずっと一緒に居たいというのはすごく合理的だ。
「なんか、今日のスライ君はグイグイくる感じだね」
「あぁ、今日の僕は一味違う」
「なにそれ」
ステラはおかしそうにくすくすと笑った。
「ねぇ、スライ君ちょっと耳貸して」
ステラが僕の裾を引っ張って顔の位置を下げるように要求してくるので、それに応える。
「スライ君、だいすきだよ」
僕は目を丸くして驚いた。
フーランはやれやれといった感じで見ている。
マルは『やっちまったじぇぇーー、しらんじぇぇーーー』と叫びながら頭を抱えている。
僕は柔らかい笑顔を作り、最高に可愛いステラに向かって答えた。
「僕も、僕の事が大好きだ」
フーランに頭を叩かれた。
――――――完。
§§§
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
翌日、万能感が抜けきった僕は死にたかった。羞恥に身が焼かれている。悶えるほど苦しいのに僕は生きている。なんて事をしてしまったんだ僕はッ!魔物石の本当の恐ろしさを今になって思い知るとは!!遅すぎた!何もかもが遅すぎた!!
なにが「今日の僕は一味違う」だ。
あんなのは僕じゃない、......僕じゃない。
「マル!なぜ止めてくれなかった!!あれは僕の頭を鈍器で殴ってでも止めるべきだった!!」
『むりだじぇ』
「あああああああああああ、ッ殺せ!僕を殺してくれぇええええ!」
『わかったじぇ』
「え?」
『つかまえた』
「やめろーー!僕の声真似をするなッ。死ねる。普通に死ねるッッ!」
僕は吐血して倒れ込んだ。僕はもうだめだ。
『でも、ステラ、あるじぃの事、だいすきっていってたじぇ」
「......うん」
ステラの言葉を思い出してHPが全回復した。
『あるじぃは、ステラに、プロポーズまってくれっていったじぇ』
「......うん。言っちゃった」
『あるじぃは、ステラが、すきじぇ?」
「......うん」
『まるも、ステラすきだじぇ』
「......そっか」
『たいせつなら、たいせつにしないと、だめなんだじぇあるじぃ』
「マルに言われると弱いな」
僕は姿勢を正して、マルと向き合う。
『あるじぃは、まだステラに、『すき』っていってないじぇ」
「っう、今言われても迷惑なんじゃないかな......?」
『すきなひとに、すきいわれるのはうれしいじぇ』
「......わかった」
僕は何度も引き返しそうになる足を叱咤し、ステラの部屋へ赴いた。
「ステラ、僕だけど。今いいかな?」
「スライ君?」
扉がゆっくり開き、ステラが顔を覗かせる。
「えっと?入る?」
「うん」
部屋の中に招き入れてもらったのは良いけど、これ、どのタイミングで言えばいいの?緊張しすぎてゲロ吐きそう。
「えっと、昨日の事でさ、ちゃんと言えてなかったことがあったから」
「......うん。......なに、かな?」
ステラが不安そうな顔で僕を見つめてくる。僕の言葉を聞くのが恐ろしいといった感じだろうか?ステラの手が震えている。あぁ、僕は、また自分の事しか考えてなかった。
「ステラ、僕はステラの事が大好きだ。それをちゃんと伝えておきたくて」
「............本当?夢じゃない?」
ステラはよく泣く。またぽろぽろと涙を流している。
「あ、これは違うの、なんで涙でちゃうかなぁ。今日ね朝起きて、わからなくなってたの。昨日のあの出来事は現実だったのかなって、都合の良い夢だったんじゃないかなって確信がもてなくて......夢だったら嫌だなって」
僕は距離を詰めてステラの手を取った。
「......夢じゃない」
「私も、スライ君の事、好きでいていいの?」
「嬉しいよ」
「…………スライ君、抱っこして」
「え?」
「抱っこして、抱きしめて、私をちゃんと捕まえてて」
「は、はい」
ステラの華奢な体が僕の腕の中に納まる。
「私、ここが一番好き、すごく安心できるの」
ステラが頭をグリグリと擦りつけてくる。ステラの良い匂いが僕の鼻腔をくすぐる。僕は思った。この人めちゃくちゃ可愛い。
――――こういうイベントもあり、僕とステラの仲は恋人へと進展した。魔物石の秘密もあったので、これで良かったのかもしれない。今までお姉さん属性だったステラが、よく抱っこをねだるようになったのは意外だった。
マルが水槽に魔力水を入れて浮かぶのが好きなように、ステラも抱っこして魔力を集めた手でなでなでされるのが好きみたいだ。口ではいわないけど、好きみたいだ。だって撫でると......より一層可愛くなる。
この時だけは幼児みたいに甘えてくるので僕は確信している。ステラは幼児プレイが好きな女の子だ。どんなステラも僕は愛してあげよう。可愛いし問題ない。
さて、僕の召喚騎士になる目標は何としても達成しなくてはいけなくなったわけだ。僕は今まで以上に心が燃えているのを感じた。もっと、もっと強くなろう。
書く予定のなかった進展ですが、話の流れでステラを可哀そうだったので幸せになってほしいと思いました。
今週の土、日曜日の更新はできるか不明です。
昨日初めて星をつけて貰いました。
評価ありがとうございます。
ちゃんと小説が書けているかわからなかったので評価してもらってとても嬉しいです。
そろそろ目標の12万字に達しようとしています。
なので終わりを考えてます。
もうしばらくお付き合いくださいませ。




