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マル君との闘い

 兄さまとの特訓から私の意識は変わった。このままでは、いつかフーちゃんが殺されてしまうと思ったからだ。


 兄さまは、フーちゃんがどうなっても構わないという感じだった。その程度なら存在している価値がない。その程度に思っている事だろう。


 フーちゃんを強くするのは私の役目だ。絶対に殺されてたまるか!


「フーちゃん、私たちはもっと強くならないといけない。兄さまたちは、絶対また手を出してくると思う。だから今のままじゃダメ。私、フーちゃんが傷つくのもう見たくない」


「ぎゃ!」


「うん。だからね。身を守る事を強化できないかなって思ったの。兄さまの炎弾を防いだ氷の壁。あれをもっとすごいものにできないかな」


「ぎゃー」


「氷をすごく冷たく、硬くするの!それでね。壁じゃなくて......盾。そう盾!盾にできるかな!?フーちゃんの氷なら透明な氷の盾ができるんじゃない?!そうしたら相手の様子も見れるし、攻撃に合わせて盾で防ぐことができる!」


「ぎゃ!ぎゃぎゃ!」


 フーちゃんがなるほどと手を叩きながら私の考えに賛同する。


「じゃぁ、まずは作ってみて」


「ぎゃ」


「わーすごいよフーちゃん!でも、せっかくだから体全部を隠せるぐらい大きな盾が良いんじゃないかな?」


「ぎゃぁ?」


「そうそう!そんな感じ!」


 私とフーちゃんは特訓を開始した。今までは嫌厭していた仲間同士の模擬戦も積極的に行うようにした。ランクDなんて関係ない。フーちゃんは強い。その証拠に1対1の勝負では負けなしだった。誰の攻撃もフーちゃんの盾で無効にできる。すごい、すごいよフーちゃん。


 いつしか模擬戦は1対多数というような形をとるようになった。フーちゃんはひたすら盾で攻撃を防ぐ、攻撃はカウンター狙いだけというスタイルに落ち着いた。


 クラスのみんなは非戦闘系の眷属を召喚した事もあって、優しい人が多い。以前の私も含めてだけど、積極的に模擬戦をしようという雰囲気ではなかった。ケガは魔力の補充ですぐに治ると言っても、自分の眷属が傷ついて喜ぶ生徒は誰一人もいない。それでも、私のお願いに快く引き受けてくれている。それについては心から感謝している。


 でも、私が本当に強さを求めるとしたら、戦闘系のクラスへ繰り上がらなければダメだなとは感じる。私は、自分を守れる強さ......ううん、侵害してくる人たちを撃退できる強さが欲しい。


 私は、ずっと兄さまたちの機嫌を窺い、嫌われないように、好かれるように神経をすり減らしてきた。でも、もうイヤ。


 別に私は兄さまに好かれたいわけじゃない。私は兄さまが嫌い。突き放したいのだ。それを見誤ってはいけない。それができないのは、私が弱いから。


 フーちゃんのケガも増えたけど、フーちゃんがやる気だ。私が弱音を吐くわけにはいかない。私は傷ついたフーちゃんを完璧に治療する。そしてフーちゃんを信じるそれだけ。


 戦闘を繰り返すようになってフーちゃんの体は更に大きく成長した。丁度成長期だったのか、他になにかきっかけがあったのか私にはわからない。でもこれなら、兄さまの攻撃も防ぎきる事ができるのではないかと思った。もう一方的に負ける事なんてしない。


 ......スライ君とは、嫌われない為に、すこし距離をとっている。今まで安心できていたのに、一緒に居るのが楽しいと認識した途端、それが失われてしまうのがすごく恐ろしくなってしまった。


 本当はずっとそばに居たいのに......そう思うとそばにいられなくなる。

 弱い自分がバレない為に、強くなるまで、そう......強い私になるまで少しだけ距離をとっているだけ。


 次の授業での模擬戦の対戦予定は私とスライ君になっている。きっとその戦いでスライ君に圧倒的な実力差で勝てたら、スライ君も私とフーちゃんの強さを認識して、私ともっと仲良くしたいと思ってくれるはず。


 これまでの付き合いの中でわかった事がある。スライ君が強さに憧れを抱いているのは確実。でも、マル君はとても戦闘に向いた眷属じゃない。だからどこかで必ず限界がくる。


 フーちゃんとスライ君も仲良しだし、もし、マル君に限界を感じた時、フーちゃんが強かったらその強さの憧れをフーちゃんに移して応援してくれるはず。そうなったらスライ君も私とずっと一緒にいてくれるようになる。


 戦闘職のお給料は良いって聞くし、スライ君は私のそばにいてくれるだけでいいからね。もっと勉強して美味しいごはんも作るし、いっぱいお世話して甘えさせてあげる。私がいなくなったらさみしくて死んじゃうくらい愛してあげる。ふふ、ふへへへ。


「ぎゃぁ?」


「え?あ!ふーちゃんも大好きだよ!じゃなくて、なんでもない!」


「ぎゃあーあ?」


「そ、それより今度のマル君との模擬戦絶対勝とうね!」


「ぎゃぁー」


 フーちゃんが半眼でこっちを見てくる。うぅそんな目で見ないでよ。



§§§



「それでは、今日はステラさんと、スライローゼさんの模擬戦をやってもらいます」


 戦闘訓練の授業は最初は角ウサギ相手の戦闘訓練だったが、次にカッケ鳥、ロックタートルと対戦相手を変えてきた。これらの魔物は食用として飼育されている魔物だ。


 確かに魔物ではあるけど、その危険性は低い。魔物の中でも特別に弱い部類なのだ。それ以上の魔物となると人間では手懐けることはできないし、森から捕獲してくることもままならない。だから、戦闘訓練はクラスメイト同士の模擬戦へと移行した。


 クラスメイト同士の強さは拮抗しており、一回一回の戦闘が長引く傾向にある。なので、模擬戦は毎回1組ずつ。それで今日の組み合わせが私とスライ君。絶対に負けられない。


「スライ君よろしくね」


「ステラ、なんか話すのも久しぶりだな」 


「......うん。私ね、フーちゃんと訓練頑張ったんだ」


「知ってる。いつも訓練場にいるの見かけてたから」


「そっか。私負けないよ」


「そうだな。今度は引き分けじゃなくて、ちゃんと勝ち負けを決めよう」


「うん、スライ君。......私が勝ったらまた、私が作った料理食べてくれる?」


「なにそれ、負けてご褒美もらうとか。そういう誘惑はズルいんじゃないの負けたくなっちゃうじゃないか」


「へへ」


「じゃぁ、僕が勝ったら、僕の手料理を食べてもらおうかな」


「......スライ君料理できるの?」


「できないよ。くっそマズいヤツができると思う」


「......罰ゲーム?」


「はは、そういうもんだよ」


「絶対負けれないね。その口を私の手料理で幸せにしてあげる」


「望むところだ。嫌々マズい料理を食べて涙ぐんでるところを僕の思い出の1ページに追加してあげるよ」


「......センセー、この人変態でーす」


「うわ!ちょ、ちょっと」


 スライ君の慌てる顔が面白い。大丈夫だよそんな大きな声で言ってないんだから聞こえないよ。


「つまりだ!遠慮はいらないってことだ!」


「うん、もともとそのつもり、スライ君も全力でかかってきて(そうじゃなきゃ意味ないもん)」


「わかった」



 そこで一緒に進んでいた進路を変え、お互いが反対方向に移動し距離をとる。準備ができたのを確認して先生が合図を出す。


「それでは、模擬戦を開始してください!」


「フーちゃん!いつも通りいくよ!」

「ギャ!」


「マル!氷弾に気を付けてまずは間合いを詰めろ!」


 スライ君、もう以前のような戦い方はしないよ!マル君に氷弾が当たらないのはもう前の模擬戦で十分わかってるからそんな無駄な事なんてしない。


 マル君の方から距離を詰めてくれるなら願ったり叶ったりだよ。


 フーちゃんが全身を隠すほどの氷の盾を具現化する。これでフーちゃんは鉄壁だ。


「マル!どうやらフーランに遠距離の意思はないらしい!粘着弾でまずは拘束しろ!」


 マル君が走りながら粘着弾を放出する。以前は体を分裂させていたのに急に目の前に水の塊が現れた。すごいマル君の体より大きい水球だ。あれが全部粘着弾なの?!


 マル君は粘着弾を空中に打ち上げた。打ち上げられた粘着弾は拡散し、雨の様に一気に降って来る。あんなの避けられるわけがない!


「フーちゃん!身を低く構えて盾で受けて!」

「ギャ!」


 フーちゃんは指示通り身を低くして傘で受けるように、体を盾の中へ隠した。空から降り注ぐ粘着弾の雨をすべて受けきる。体に被弾することはなかったけど、あたり一面水溜りができてしまった。


「よし!もうフーランはその場から動けない!ミドルレンジから鞭で攻撃だ」


 マル君の触手が伸びて鞭のようにしなって襲い掛かって来る。なんで?!前の時より長い!!さっきの攻撃もそうだけど、マル君が強くなってる?!


 フーちゃんがマル君の攻撃を盾で受ける。盾が大きいから何とか軌道の読みにくい触手の攻撃を受けきる事ができているけどこのままじゃ、受ける一方だ。まずはこの水溜りを何とかしないと!


「フーちゃん!アイスフィールド!!」

「ギャ!!」


 フーちゃんが触手を払いのけた直後にジャンプして、盾を地面に叩きつける。すると盾を起点に地面が凍っていく。その勢いはマル君の場所も凍らしてしまうほど広範囲だ。


「まずい!足を取られるな!マル!空中に回避!」


 マル君が空中に逃げている間にアイスフィールドは完成する。フーちゃんも体勢を整えて迎撃に移っている。ここからはフーちゃんのターンだよ!


「フーちゃん!マル君の着地を狙って!」

「ギャ!」


 フーちゃんが氷上を滑走して一気に間合いを詰める。


「くそ!速いな!本当に厄介な移動手段になってるじゃないか」


 スライ君、手加減なんかしてあげないよ


「フーちゃん!シールドバッシュ!!」

「マル!衝撃に備えろ!!」


 フーちゃんの突進のスピードに加え、盾による打撃がマル君に命中する。ッゴ!!と鈍い音を立ててマル君が吹き飛ぶ。


 この攻撃をモロに受けちゃったらもうマル君は動けないよ。スライ君ごめんね。フーちゃんの勝ちだよ。


 マル君はフーちゃんの攻撃を受けて、弾むように飛んでいく。50M、100M、200M......えぇぇぇぇえぇええぇ!!!!飛び過ぎじゃない??!!


 私とフーちゃんが驚愕しているのに、スライ君はいたって平常心だ。


「これ、模擬戦だったからよかったけど、実戦だったら僕が魔物に襲われる絶体絶命のシチュエーションじゃん」


「......スライ君?マル君の事助けなくていいの?」


「ん?大丈夫。それよりまだ戦闘は終わってないよ」


「え?」


 ブゥン!という風切り音が聞こえたかと思ったら、フーちゃんの氷盾がバラバラに砕け散りフーちゃんがゴロゴロと転がる。


「なにが起きたの?!」


 何が起きたか全くわからない。気が付いたらフーちゃんの氷盾が破壊されて、フーちゃんが倒れている。その近くには飛ばされたはずのマル君がいる。もしかしてマル君の攻撃とでもいうの?!


「スライ君!いったい何をしたの??!!」


「スライムストライクだ」


 スライ君のバカ!説明の意味がわからないよ!


「フーちゃん!起きて!」


 フーちゃんがよろよろと立ち上がる。ダメージが大きい!


 フーちゃんは氷盾をもう一度具現化して、盾で体を支えるように立つ。


「ステラ、降参は?」


「ッ!......しない!!」


「マル!これは真剣な勝負だ!決着はちゃんとつけろ!」


 なんで?なんで?なんで!!!なんでなの!!!どうしてフーちゃんが一方的にやられてるの?負けたらダメなのに!!勝たないと、勝って私が強いと証明しないといけないのに!!フーちゃんはこんなに強くなったのに!!マル君はあんなに......弱かったじゃない............。どうしてこんなに強くなってるの?


 やだ、フーちゃん負けないで。お願い勝って......。


 フーちゃんがばたりと倒れる。


「......そんな」


「マル、そこまでだ。......よくやった」


 先生が模擬戦の終了を宣言する。


「そこまで!フーランの戦闘不能により。スライローゼさんの勝利!迅速に眷属の治療を開始してください」


 私はよろよろとフーちゃんの元へ歩いていく。


「フーちゃん......」


「ぎゃぁー」


 フーちゃんなんで負けちゃったの?勝たないとダメなのに。どうして負けちゃったの?大事な試合だったんだよ?勝たないといけなかったんだよ?負けたらダメなんだよ?


 私の心が汚く濁っていく......。最悪だ。私は、自分がされて嫌だったことを大切なフーちゃんにしようとしている。ごめんなさい。


「......ごめんね。フーちゃん」


 私はぽろぽろと涙を流しながら、フーちゃんの傷を治療していく。フーちゃんが申し訳なさそうに俯く。


 色々上手くいかないね。きっとスライ君も私から離れていくんだ。これからは、私とフーちゃんのふたりボッチだね。


 嫌だなぁ。悔しいなぁ。スライ君とずっと一緒にいたかったなぁ......。


「ステラ、......フーランは大丈夫か?」


「......……スライ君なんて、大っ嫌い!!」


 スライ君が胸を押さえて膝をついたのを横目に、私はフーランを連れて駆け出した。


 私は、自室に駆け込みドアにカギをかけた。


 そのままずるずると座り込み、後悔する。


「ぎゃぁ」


 近くに寄ってきたフーちゃんを引き寄せ顔埋めて泣き言を言う。


「私のバカ―。嫌いって言っちゃたぁ」


「ぎゃあ」


「だって怖かったんだもん。嫌われるのが怖かったんだもん」


「ぎゃぁ」


「本当は大好きぃ。一緒に居たいもん。でも勝ったら一緒に居られたのに負けっちゃったからダメになったんだもん」


「ぎゃぁぎゃ」


「また、頑張ったらいい?そんなことある?」


 私は幼子のようにわんわん泣き散らして、フーちゃんに頭をよしよしされてあやされていた。これじゃどっちが親かわかんないね。


 部屋に引きこもって泣いて、少しは気持ちが落ちついたころ。引っ込みがつかなくなってまだ部屋からは出られずにいた。その時にドアをノックする音が聞こえた。


「ステラ?」


 スライ君だ。スライ君が部屋まで来ちゃった。どうしよう。


「あの......怒ってるか?部屋に入れてくれないか?」


「......怒ってないけど、部屋に入れるのは......やだ」


「そっか、さっきはやりすぎてごめん。もっと早くに止めるべきだった」


「ううん」


「あの......さっき、大嫌いって言ったのって......その、いや、なんでもない」


「......」


「謝りたかっただけだから、もう戻るよ。フーランも聞いてるか?ごめんな」


 あぁ、やだやだやだ、まだ行かないで。もっとお話がしたい。


「ぎゃ」


 フーちゃんが解錠してドアを開く。


 えぇえ!!ふーちゃん勝手になにしてるの??!!私があわあわしてテンパっていると、フーちゃんがスライ君を部屋の中に招き入れた。


「えっと。いいのかな?」


「ぎゃ」


 私は小動物の様に身を屈め、おそるおそるスライ君を見上げた。


「えっと。ステラ、一応、罰ゲームの手料理をもってきたんだ......」



「............うん」


 このタイミングかぁーーーー。



ステラはだいぶ痛い子ですが、根は良い子です。次話はさらに暴走する雰囲気がぷんぷんしています。

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