子供の時に憧れた職業召喚騎士(サモナーナイト)
小説初投稿作品です。応援・評価よろしくお願いします。
重月祭当日、儀式は例年通り粛々と行われていた。
召喚の儀も最後のひとりを残す事となり、観衆は今年も無事に重月祭を見納める事ができたと弛緩していた。そんな中、緊張を走らせる鋭く響く声があった。
「リセマラだ!!」
僕の口から意味不明な叫び声が放たれた。言ってる僕ですらどういう意味かわからない。ただ、その言葉には何とも言い難い全力の本心が乗っかっていた。
こんな事があるだろうか?すべて順調だったのだ。将来を見据えて鍛錬、勉学を怠るような事はしなかった。僕は5年前のあの日からずっと努力をしてきたのだ。
将来、兄と並ぶ召喚騎士になるために、兄の訓練内容や勉学を聞いては模倣した。それは全て召喚騎士になるためだ。僕自身それを確信していたし、まわりの期待もそれに準じた。なのに。
厳粛な空気の中、台座の上には青みがかった流動体の何かが、鎮座していた。
「なんだよ、これ」
口からこぼれた言葉に、青い流動体はプルンとゆれた。とてもやわらかそうだ。天空から降り注ぐ月の光が表面で揺れていて、神聖な雰囲気を醸し出してはいるが、その本体からは何の力も感じない。
誰か、この状況を説明してくれ! 反射的に会場にいる兄の姿を探す。いた!! 目をそらされた。くそが!!
僕は焦りで頭の中は真っ白だった。衝動的に視界に入った青い流動体に勢いよく手を差し込み、中にある共命石を抜き取った。青い流動体は崩れ去り水たまりを作ったが、そんなのはどうでもいい。これは何かの間違い。僕はやり直す事にしたのだ。
台座のくぼみにもう一度共命石を埋め込み、膝をつき、全身全霊の魔力をかき集めるつもりで祈りを捧げる。
「ドラゴンこい!!」
今までの人生の中で一番大きな声がでた。召喚した眷属から共命石を抜き取って、召喚をやり直すなど前代未聞の出来事に会場は異様な空気に包まれている。会場は困惑と同時に、この後どうなるのか楽しんでいる節すらある。
全方向から好奇の視線が僕に突き刺さる。
本来、共命石を破壊、もしくは抜き取られてしまった場合、眷属は死ぬ。だから、召喚した眷属は一生涯のパートナーであり、やり直しなど存在しないのだ。
時間が経つにつれてどんどん視線が外されていく、光り輝く演出はない。......司祭の合図で重月祭は何事もなかったように終わった。
......記憶が曖昧だ。気が付いたら僕は自室に立っていた。右手には青い液体が入った布袋と左手には共命石が握られていた。膝から力が抜けて崩れ落ちる。
やり直しは失敗した。
僕は絶望がなにかって、初めて理解した。
僕の名はスライローゼ。召喚の儀を終えて、この国で僕の名を知らないものはいないほどの有名人となった。
ちなみに青い流動体の眷属の種族名は僕の名前にちなんでスライムと名づけられた。みんな死ねばいいのに。
§§§
目が覚めたら朝だった。いや昼かもしれない。目覚めて一番最初に思い出すのは、やはり召喚の儀の事だ。スライムの中に手を突っ込み、共命石を取り出し、やり直すあの場面である。
実は夢の中でずっとループしていてうなされていた。今ならわかるこの繰り返す悪夢をリセマラというのだ。
僕は、召喚の儀でスライムを召喚して、そして失った。僕がこの手で殺したのだ。あの時の感触を思い出す。プルンと弾ける体に僕の手がめり込んでいく感覚が鮮明に残っている。
共命石を抜き取った後は弾力を失って水たまりになっていた。何とも不思議な眷属だ。今になって少し興味が出てきた。だが、もう後の祭りだ。
召喚した次の日に、眷属の供養をするのは僕ぐらいなものだろう。眷属と共に生きるのが当たり前の世の中で僕は一人で生きていかなければならない。それを身に沁みて実感するのはいつだろうか。そんなことを考えながら、液体の入った布袋を確認する。中はもぬけの殻だった。
布袋をひっくり返しても水滴のひとつも落ちてこない。蒸発してしまったのだろうか? 存在がなくなってしまっては供養すらすることができない。僕は、一方的に召喚して、理不尽に命を奪たのだ。急にこみあげてくる罪悪感に「ごめんな」と呟いた。その時、トントンと肩を撫でられた。
誰だろうか?情けないところを見せてしまった。羞恥心はあるが、それよりもイラ立ちの方が大きい。僕の心境としては今はほっといて欲しいのだ。肩を撫でた人物を確かめようと振り返ってみると、そこにはスライムがいた。理解はまだ追いついてこない。
「おまえ、もしかして生きてるのか?」
スライムはプルンと揺れた。......生きてる。こみ上げてくるものがあった。失って初めて分かる共命のパートナー。僕は驚喜した!この奇跡を噛みしめ、——そして絶望した。
気が付いたら僕はスライムを殺害し、共命石を握りしめて無人の祭壇へと走っていた。僕は台座に共命石をはめ込み叫んだ。
「リセマラだぁ!!!」
僕は気付いてしまった。このスライムめちゃくちゃ弱い。持ち上げると手の熱で溶けて、ヤツは死んだ。手には共命石だけが残った。僕はもうダメかもしれない。
でも、僕には直感があった。人生はいつだってやり直しができる。衝動的な行為だったけどなぜか確信めいたものがあった。その答えはすぐに現れた。再召喚が成功したのだ!これは歴史を揺るがす前代未聞の出来事である。
重月祭時のような派手な演出はない。段々と共命石の光が強くなっていくだけ。しかし、召喚の実感はすぐに沸いてきた。心が震えているのがわかる。涙があふれてくるのだ。
「神様ありがとうございます」
召喚の発光と感動の涙で前が見えない。今までにこんなにも神に向かって感謝の意を唱えたことがあっただろうか?
とめどなく流れる涙は、召喚された眷属の姿をみてより一層勢いを増した。
「くぅ......」
僕はくぐもった声を吐き、意図せず膝をつき、腕を地に這わせ、額を地面にこすりつけた。僕にその意思はなかったが、傍から見た今の僕の姿は神様に対する最敬礼の五体投地に見えただろう。
ただ僕は膝から崩れ落ちただけであり、『神様死ねばいいのに』と思っていた。
台座には赤く揺れる流動体が鎮座していた。僕は知っている。こいつは赤いスライムだ。
「クソが!!!色じゃねーよ!!」
§§§
召喚されたばかりの眷属は幼く、か弱い。いずれ、強大な力を持って召喚士を守る盾となり、魔物を切り裂く剣となるが、成熟するまでは逆に召喚士に守られる存在でもあるのだ。
眷属の種族によって成長の速度に違いがみられるが、3年は義務教育期間と定められている。
つまり、何が言いたいかというと、新米召喚士は眷属の成長を促すと同時に良好な信頼を築くための知識を得るために、学校に通わなければならないということだ。
簡単に説明すると、新米召喚士には知識を、眷属は成長のための訓練をといったところだ。すべての眷属が戦闘に向いているわけではないが、最低限の自衛できるチカラは必要だ。街中は比較的安全だと言えるかもしれないが、魔物が襲ってこない保証はない。それなら、いつか襲ってくるかもしれない事態に備えて準備しておくというのが国としての方針だ。
また、教育期間中、戦闘において優秀な成績を残した召喚士は、召喚騎士として任命される事もある。ドラゴンを召喚した僕の兄は、半ば召喚騎士が約束されたものであったが、本来は実力主義の世界だ。当然僕の目標も召喚騎士だったのだが、とても戦闘向きとは言えない眷属を召喚してしまった。人生とはままならないものだ。
眷属はその戦闘力に応じてA~Eランクを設定されている。これは例外ではあるがAより上のランクSがある。SUGOIのSだ。父さんがそう言っていた。これは、戦場でで一騎当千の活躍した眷属に与えられる称号みたいなもの。Sランクを得れば、間違いなく歴史に名を残す人物になるだろう。逆に戦闘力がなく、低いランクの眷属が無能かと言うとそうでもない。
最低ランクのEでも、戦闘力は低くても特殊な能力がある場合もある。ケガを一瞬で治す回復魔法であったり、逃げ足が異常に早かったりと様々だ。主に生産職に就くことが多い。ランクが設定されているのは、間違って戦場に送り出さない為の措置ともいえる。戦闘力で割り振ってさえいればCランク以上の召喚士は戦場へという指示がしやすいわけだ。
僕の眷属はスライムだ。このタイプの眷属は今までに前例がなく、「なにそれ、本当に魔生物?」と言われた。僕もそう思う。わらび餅と言われた方が納得できる。ちなみに安いやつだ。新種族という事もあって、僕の名前から種族名が命名されたけど、全然嬉しくない。だってこいつクソ雑魚なんだもん。
戦闘力は成長に応じて変動するものだが、スライムの初期ランクをどうするかで物議を醸しだした。判定員から「一度そのスライムを調べて戦闘力を測りたい」との申し出があったが、「手の熱で溶けて死ぬのでやめてくれ」と丁重にお断りしたところ、ランクFが設定された。まさかの例外である。「間違いなく歴史に名を残す人物になるよ」と半笑いで言われた。なにコイツ腹立つ。
ランクFを任命された僕とスライムにもどうやら学校に通う義務はあるらしい。必要最低限の自衛力というのはどうやって身につければいいのかな。間違いなく、夏になったらこいつ死ぬんだが。世界は僕に厳しい。
学校の雰囲気というのは、何度も兄から聞いていたので大体の事は知っている。高ランクの眷属を召喚した召喚士はとにかく目立つ、そしてモテるらしい。僕の兄は生まれながらのランクAのドラゴンだ。兄の端正な顔立ちもあって相当モテたらしい。腹立つ。 まぁそれもあって僕にはあまり居心地の良い場所にはならないだろう。ランクAとランクF比較する行為自体が無意味なほどの圧倒的な差。
僕は兄の召喚の儀を観てから今まで、召喚騎士になる事だけ目指して生きてきた。さすがにスライムでは召喚騎士を目指す事はできない。答えがわかり切っているのだから簡単にあきらめもつくというもの。僕の眷属は生命維持が困難なほど戦闘力がないのだ。どうしようもないじゃないか。
こいつは完全に生産系の眷属だと思う。気づいたらこのスライム床の汚れとかをきれいにしてるし、試しに僕の嫌いなセロリを床に落とすと嬉々として食べてくれる。地味な証拠隠滅作業は完璧ときたもんだ。
僕は将来スライムを働かせてクリーニング屋さんにでもなるんじゃないかなと思う。あ、こいつ夏には死ぬんだった。涼しくなったら復活するのかな?そんなわけないか。
ついでに、初回召喚時は青いスライムだったけど、手の熱で溶け死んでから、再召喚したら赤いスライムになってた。しゃべる事もできないから同一個体なのかもわからん。自室に戻ると青いスライムの水たまりを吸収したと思ったら色が紫に変化した。つまりだ。よくわからん。
§§§
今年の新米召喚士は総勢で121名だ。国全体からその年の新米召喚士が一堂に呼び集められて教育を施されるのだ。
クラスはCランク以上とDランク以下で大きく区切られ、そこからさらに20人程度に分けられる。
僕は無事にDランク以下のクラスに割り振られた。特別教室なんてものがなくてよかった。どうやら僕はちょっとした有名人になってしまったらしく。見覚えのない顔からリセマラさんと揶揄する言葉を投げつけられたが、僕が言葉を投げつけて反撃することはない僕はもう大人なのだ。
輩が嘲笑して去っていく時に、スライムの体を引きちぎり投げつけておいた。大丈夫、わかっている。きちんとお尻に命中させた。僕はいたって冷静だ。思う存分誤解されるといい。
ふとスライムを見たら『もうあるじぃはしょうがないなぁ』みたいな感じでプルンと揺れていた。こいつにも意思はあるのだろうか?
僕のクラスは21人だった。Dランク以下のクラスなので、そのすべてが非戦闘員の眷属ばかりだ。成長次第ではクラスの繰り上げも起こり得ることだが、今は幼体という事もあってどれも持ち上げあられるほどの大きさだ。
これらの幼体がどのように変化していくか僕には想像ができない。まぁその中でも僕のスライムの変化がぶっちぎりで想像ができないのだが。一生このままだよって言われたら納得してしまうほどに。視線をスライムに移すとプルンと揺れた。
え?おまえ成長もなしなの?僕はもうダメかもしれない。
担任の教師が教室に入ってきて、自己紹介の流れとなった。自己紹介が続くが正直誰の名前も覚えていない。
僕の番となり立ち上がったとき、ひそひそ声が聞こえた。声の主を目視で確認したが、僕は意に介さず自己紹介をした。
「僕の名前はスライローゼ、眷属の種族はスライムです。よろしくお願いします」
席に座りなおすとスライムに視線を移す。プルプルと揺れる体を観察しながら考える。
(3人分はちぎっても大丈夫か)
スライムは返事をするようにプルンと揺れた。僕をリセマラさんと呼ぶ奴はただでは済まさない。スライムも同じ気持ちなのだろう。さすが運命共同体だ。
その時天啓のようにひらめくものがあった。知らない間に汚れを付けて、僕がスライムを使ってクリーニングをする事業だ。これはいけると思った。
読んでくれてありがとうございます。
週2回土日更新です。
ブックマークしてある程度放置してからまとめ読みしてください。
感想お待ちしております。
物語を良くするための読者の声も募集しています。
僕自身スキルアップしたいと思っています。表現の拙いところは教えてもらえると嬉しいです。
7/20 プロローグを大幅にカットしました。
第一部完結(12万字程度)は書くので安心してお読みください。
(追記)
ブックマークが増えたり ★★★★★評価
でポイントが増えるのを楽しみに小説書いてます。
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