4回 ゲームを始めよう
俺は、目を覚ますと広大な真っ白な空間にいた。周囲を見回しても、直樹の姿はおろか、数十人単位でいた芸能人たちの姿もない。一人ひとり分かれて、始めるのであろうか。こういう仕様なのだろうか…?
「それは、違うよ。」
俺は、背後で聞こえた奇妙な機械音に咄嗟に距離をとった。腰の刀に手をかけ…。まてよ、どうして俺は今、腰に刀を差していると認識した?差したことなんてないのに…。だが、俺の両腕は、正にその場所に刀があることを当たり前だと思っているかのようだった。
「それは、君の潜在意識には、先祖の記憶と知識、経験が根付いているんだ。君にも心当たりがあるんじゃないのかい」
「頭の中を読みやがったのか?」
「このゲームは脳内に電子信号で働きかけている。僕は、電子信号の集合体だからね。信じられないだろうけど、信じてもらうしかないな。」
「潜在意識って、最近よく見る夢のことを言ってんのか?」
「そうだよ。君が見ていた夢は、君の先祖の記憶だ。君の先祖は、勇猛果敢な猛将として知られていた。南部晴政の家臣であった斯波詮真の筆頭家臣であった大神義春という人物だよ。お家騒動で君の代には、知られてないみたいだけどね。君なら、そんな過去を変えられるかも知れない。」
「待てよ、これはゲームの世界なんだろう?」
「そうだよ。でも、君が僕の出す課題を達成出来たら、現実の史実を変えてあげる。」
「は?」
「このゲームから、無事に出ることができたら、その世界では君は有名人だ。」
「無事に?どういうことだ。そういえば、直樹やほかの人たちは?」
「質問は後で聞くよ。君が実力テストで合格できたらね。」
「テスト?テストって何すんだよ。」
「君が今から行くのは、戦国時代なんだよ。剣の腕が無ければ、早々に死んじゃうからね。ここで実力を残せば、地位も場所も何でも決められる。」
「なんか、優しくないか?」
「すぐに死なれたら、見てるこっちはつまらないからね。特に君は、剣道の全国覇者だ。生き残れる可能性が参加者の中では、一番高いからね。贔屓もしたくなるよ。先に行っておくけど、全員が僕の基準に届かずにテストを終えたらその時点で脳に電磁波を送って殺しちゃうから。」
「ま…マジかよ…。」
「マジだよ。やる気が起きるように、君だけには他の連中の状況も見せてあげよう。」
「テストって具体的に何だ?」
「AIの兵隊と戦ってもらうだけ。ランクによって異なるけどな。行けるところまで、やってくれ。」
俺の前には、ぼろぼろの服に所どころ壊れた甲冑を身にまとっている農兵が現れた。俺の腰には、太刀と脇差が見える。奴はニヤリと笑うとこう言った。
「さあ、ゲームを始めよう!」