八話目
佐藤の時同様、内藤について行き、道が細くなり、人の気配がしなくなったところで、僕は走った。中々道が細くならないので少々焦り、別の案を考え始めていたがそれは必要なかった。
内藤が体格のあまり変わらない男という事もあり、佐藤の時以上に不意打ちに賭けなければならなかった。
足音を殺した走り方で距離を詰める。
今回はすでにナイフを出しておく。まだ、刃は出さない。
左腕を内藤の首に回し、右手で口を押える。内藤の悲鳴を手で消し、耳元で囁く。出来るだけ低く、機械的にだ。
「動かないでください、先生」
内藤の肩がビクリと跳ねる。暴れようとするのでもう一度囁き、閉じたままのバタフライナイフを見せつながらラッチの反対を持ち、回して、開く。手首を返して回し、刃を翻してはもう一度手首を返す。
「今から、口の手を放しますが、絶対に叫ばないでくださいね。もし破れば瞬時に目と首を深く切りつけますから」
内藤はナイフを凝視しながらコクコクと頷く。
身体は小刻みに震えている。反応が佐藤と同じだ、つまらない。
「先生、何でこんな事されているか、心当たりはありますか?」
内藤は必死に頭を振る。加齢臭と頭皮の臭いが鼻を突き、僕は顔をしかめる。
「な、ない! ない!」
「ん~、これはちょっと意地悪な質問でしたね、僕がどれだけ先生の事を恨み、憎んだって先生にとってあれは迷惑と思ったに過ぎないことですから」
ナイフを見せつけるように揺らすと内藤の瞳がナイフに合わせて左右に動く。それが楽しく、少しの間遊んでしまった。
「何を言っているんだ、何が目的だ」
内藤は落ち着きを取り戻してきたらしい、佐藤とは違い、年を重ねている分流石と言うべきか。
「勝手に喋らないでくださいよ」
言い、ナイフを大きく揺らす。
「僕がこんなことをしているのは彼女――田中美香の事です」
「――ッ」
内藤が息をのんだ。左手に持っていたコンビニ袋を落とした。
「やっぱり、何か心当たりがあるんですね」
「いや! 私は何もしていないぞ! 何もしていないし、何も知らない! 田中が自殺するまで、何も知らなかったんだ!」
「嘘は駄目ですよ、先生。いや、何もしていないのは本当でしょうけれど、何も知らないは嘘ですよね」
僕は怒りを殺すために一呼吸置いて続きを話し始める。
「佐藤らが田中美夏を虐めているのを知っていて、なお先生は気づかないふりをしていた、そうですよね」
「……私は、何も知らない、知らない、知らないんだ。佐藤が虐めていたってのも今知ったんだ」
「先生、まだ言いますか、確かに田中美夏は虐めの事を先生に相談をしなかったでしょうけれど、先生は知っていたはずです。聞いちゃったんですよね少し前、女子の体育を担当している河上先生と先生の話を」
内藤の喉がヒュウヒュウと鳴っている。視線は今だバタフライナイフに向けられていた。




