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六話目


 「何か、言いたげだね。喋ってもいいよ聞いたげる」


 「あ、あれは、遊びで……おふざけで、やっていただけなんだ、田中がそんなに思い詰めていたなんて知らなかったんだ……」

  佐藤がうわずった声で必死に弁解する。

 

 この期に及んで言い訳をする佐藤、僕はギリッっと奥歯を噛みしめる。

 こいつは、こいつは、こいつは……!

 右の瞼が痙攣する。


 「へえ、ウイスキーや焼酎を一気飲みさせるのも遊びなのか? 溝に突き落とすのも遊びなのか? 髪の毛に犬の糞を付けるのは、遊びなのか? 彼女は、笑っていたのか? いや、彼女は笑ったろう。彼女はな、飛ぶのを決心してからも僕にお前らの事を許せと言ったんだぞ! 僕が身体の痣に気づくまでずっと隠していたんだ、彼女は!」

 

 「……」

 佐藤はナイフを瞬きもせず見つめ、涙を流している。


 この涙は恐怖の涙だろう、彼女の事で泣いているのではない。そもそも、聞いてすら、ないのかもしれない。こいつは、もうこの世に居てはならない。僕は正義の刃を揺らす。


 「もう、お前、死ねよ」


 「や、やめて、お願い、やめて」


 僕は佐藤の口を押え、ナイフを思いきり腹部へと突き刺す。

 冷たく硬い正義は、柔らかい皮や脂肪、内臓を斬り、抉り、掻き分けて進んでいく。


 「んんッむうッあがッ!」


 「痛い? ねえ、痛い? 良かったね、この程度の痛みを短時間我慢すれば楽になれるんだ」


 僕は根元まで刺さったナイフを半回転、捻じる。

 それに伴い、佐藤は口から言葉にならない声と血を吐き出す。が、僕は力任せに口を押え、吐き出させないようにする。


 佐藤の身体は痙攣し、やがて動かなくなる。

 僕は、力なくもたれかかってくる佐藤の身体を抱え、深呼吸する。確か、ここに来る途中に公園があった。小さな、それもブランコぐらいしかない公園が。

 取り敢えず、そこを目指すことにする。

 

 錆びた鉄の臭いが充満した闇夜を、月が照らしている。

 小さく、そして欠けた月が照らしている。


 辺りには、幸い血が零れていなかった。汚れているのは僕と佐藤の服と体だけだ。

 

 今ここで誰かに見られるわけにはいかない、僕にはまだやらなければならない事があるのだ。僕は慎重に佐藤を引きずった。


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