十二話目
何故だろうか、彼女に近藤の事を僕が聞いた時、一番悲しそうな顔をした。主犯格の佐藤の時よりも、本来は信頼すべき担任の内藤の時よりも、悲しそうな顔をした。
近藤は本屋を後にした後も雑貨店や洋服店を転々とした。
僕はそれに必死に食らいつき、ついて行った。何度も何度も倒れそうになったが、その度に彼女が背中を押してくれたような気がした。否、それは気のせいなのだろう。例えこの世界にそういった霊的なものがあったとしても、彼女は絶対に僕の復讐を助けない。彼女はそんな人、人間だった。
だから僕がここまで走れたのは火事場の馬鹿力だったのだろう。
陽が落ち、辺りが薄暗くなってきた頃、追っていた近藤が人気のない道で自転車を止めた。
僕は慌てて止まり、電柱の物陰に身を隠す。
早鐘の如くなる心臓を抑えながら僕は近藤の様子を窺うために顔を出した。
――出した瞬間、僕の時が止まった。
近藤が明らかにこちらを見つめていたのだ。無表情に、冷淡に、淡白に、氷の彫刻の様に整った顔で、僕の方を見つめていた。
思考だけが猛回転――空回りする。
何故だ? 何故奴はこちらを見ているのだ? 何時からだ? 何時からバレていた? 今日一日の尾行は細心の注意を払っていたはずだ。それに――。
「ねえ、出てきてよ。バレてる」
近藤の声で僕は我に返る。
僕は観念して電柱の影から出て、近藤の前に姿を現す。
近藤は腕を組み、無表情のまま口を開く。
「しつこいね、今日一日、自転車を窃盗までして逃げてたのに」
こいつは初めから僕に気が付いていたようだ。それならば本屋での近藤の動きに説明がつく。
僕は道の脇に止められている自転車を一瞥し、動揺を隠すようにおどけた口調で言う。
「じゃあ、今頃そのチャリの持ち主困ってるかもね」
「私も、殺すの?」
近藤は僕の言葉を無視する。
「え?」
「内藤を殺ったの、あなたでしょう? 何なら、佐藤も殺されてるのかしら?」
「……」
「やっぱりね、動機は田中美夏の事でしょう?」




