高瀬莉音について
第1章 つづき
<Side:高村みなみ>2 &<Side:八木冴子>1
そして、テストが明ける日がやってきた。
あたしは結局、昨日二人を追いかけることをしなかったしできなかった。
オトナはきっと”一時の思春期だ”というけれど、
あたしにはこの気持ちが思春期特有の憂鬱さだとは思えなかった。
こんな14歳の短い短い人生だけど、1時間後にはあたし自身この世からいなくなっていそうな気がするし、
自分の目の前の世界はすべてが灰色で前がどっちなのかわからないのも当たり前などころか、
目の前に道一つ見いだせる気がしなかった。
そして、そうした日々が、ただ永遠に等しいほどに感じられるくらいには、永く続いていた。
きっとちーもありちゃんも、昨日のことで気を悪くしたんだろう。
もしかしたらあたしがいない間にも、二人でほかに新しく面白いことを見つけているかもしれない。
それを思うと、今まで、あたしとちーとありちゃんの三人で学校帰りにアイスを買いぐいしながら、
他愛もないお喋りをしていた時間がとても遠い時間のように感じる。
今のあたしは、例えば謝ってまた三人に戻れたとしても、
前のように心から笑えないだろうと思うし、無理に合わせて楽しむこともできないように思えた。
ーーー
「ねぇ冴子、どうしよ。みーみが部室に籠っちゃって暴れてるみたいでさ。」
ちあきが血相を変えて私に相談してきた。部員たちは、またか、という顔をしているし事実私もそう思っている。
みなみは昔から癇癪もちだった。小学生のころからそう。
不機嫌になるとものにあたって困るから、
東小からの持ち上がり組はみなみの機嫌を損ねないように細心の注意を払っていた。
小学生のときはまだよかった。1コ上のあゆみ先輩が叱ってくれていたから。
でも後輩がいるなかで、あゆみ先輩に叱られているところを見られたら
きっと後々みなみに恨まれるだろう。
テニスコートには部員が7割揃っていて基礎練習をそろそろ終えるところだった。
3年生は受験勉強という名の補講があるらしく、最近は部活に顔を見せるのがちょっとだけ遅い。
だから、1年生と2年生をまとめ上げて、先輩たちが来る前に基礎練習を終わらせておく主導をするのが、
私、八木冴子、2年生の学年担当の役割だった。
学年担当というのは、いわば学年の代表だ。
1年生で部活に入部した時に代表を選んで、後輩ができたときに指導するのが役割。
もちろん莉音のような転校生が入ってきたときも、同じ学年の学年担当が世話をする。
部長とは別の役目があって、我が部は部長を投票で決める習わしだけど、
学年担当が部長になる年もあれば、そうでない年もある。今年はどうなるかわからない。
部員たちは「基礎練終わったので外周行ってきまぁ~す」なんていって、
そそくさとこの場を離れてしまっていた。
ちあきはしばらく、どうしたものかと思案していたようだが、
ありちゃんに促され外周に行こうとするところだった。
「さえちゃん、私、部室にタオル取りに行ってくるね。」
ふいに莉音が言う。
「えっ、今みーみの機嫌悪いからやめなよぉ~」ちあきが言った。
「うん、でも、ちょうどいい機会だし話してみたいから。」
莉音はそれだけ一言静かに、しかし力強く言い残すと、部室に向かっていった。
ちあきは唖然として、しかしありちゃんに促されるがまま、外周へ向かった。
うーん、私はここで待っているべきかな。