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ジネットの企み

 その場にジュールと二人、取り残される。


 話しかけたい……気がする。


 しかし、団員たちに厳しい目を向けている彼は、声をかけられるような雰囲気ではないし、何を話していいか分からない。

 隣に立つ彼の存在が、理由の分からない緊張を強いていた。


『レナ!』


 もはや色あせて見える訓練の様子に、意識を集中しようとしていたところに、ジネットの声が聞こえてきた。


『大変なことが分かったの! 私が監禁されている館は、王都から馬車で二日の距離にある!』

『え? まさか!』


 一方的に告げられた衝撃的な言葉に、耳を疑った。


 姉がいる場所は、王都から三日半かかる場所だとずっと思われていたし、昨晩出発した調査隊もその推測を元に動いている。

 それが実際には二日の距離であれば、ずいぶん見当外れな調査をすることになる。


 思わず、隣に立っているジュールの腕をぎゅっと掴むと、彼が怪訝な顔を向けた。


「どうした」

「今、ジジから連絡があって……。ジジがいる場所は、馬車で二日の距離なんだって!」

「なんだと! どういうことだ!」

「詳しくはまだ……。今から詳しく聞いてみる!」


 やはり、彼にも衝撃は大きかったようだ。

 レナエルはすぐに目を閉じて、姉との会話に戻った。


『今、ジュールに教えたら、すごく驚いてた。何があったの? 詳しく教えて!』

『うん、実はね……貧血で倒れちゃって』

『貧血? ジジってそんなに身体、弱くないじゃない? やっぱり閉じ込められて、辛い思いしてるの?』

『違うわ。この間、食事中にレナとのおしゃべりに夢中になっていたら、具合が悪くて食欲がないんじゃないかって、勘違いされたのよ。そのときに、いい考えだと思って……』


 その日以来、食欲がないという理由で、ジネットは食事をほとんど取らなかった。

 おかげで頬はこけ、顔色も悪くなり、体調が悪い演技をしていることもあって、見た目にはすっかり病人のようになった。

 そして、今朝、とうとう貧血を起こして倒れてしまい、医者が呼ばれたのだ。


『ばかっ! なんでそんな無理なことするのよ! 本当に病気になったらどうするのよ!』


 心配して叫ぶと、姉はふふっと笑った。


『そんなこと、レナに言われたくないわね。ちょっとぐらい食事しなくったって、死にやしないわ。レナが冒した危険に比べたら、これくらい、どうってことないもの』

『何か隠してると思ったら……そういうことだったのね』

『だってレナに言ったら、止めるでしょ? でね、お医者さんに、わたしには特殊な持病があって、セナンクールの本店で扱っている、珍しい東方の薬しか効かないって話をしたのよ。そしたら、その医者、すっかりだまされちゃって、王都まで薬を買いに行くと、往復四日かかるな……だって』

『つまり、片道二日ってことね』

『そう! ほんとに腹が立つわ! わたしとしたことが、すっかり騙されたんだもん。でも、これでいろいろと辻褄があってきたわ』

『どんな?』


 ジネットは、誰にも聞かれるはずがないのに声を潜めた。

 彼女がもったいぶって話すときの癖だ。


『わたしが最初に目覚めた時、石畳の道を走っているって言ったでしょ。そのときは、夜中からずっと馬車を走らせていたと思ってたから、その場所が王都の隣の町だろうと推測したの。でも、あの時は、おそらくまだ、王都の中にいたのよ。きっと、わたしが目覚める少し前まで、王都のどこかで待機していたのだと思う。そう考えると、道筋を追えるの』


 誘拐された後、ジネットはカーテンが引かれた馬車の中から感じ取れる道の状態で、道筋を推理しようとしていた。

 ところが、途中でその推理と実際の地形とが合致しなくなってしまい、かかった日数しか手がかりにならなかった。

 しかし、王都を出発したのが翌日の昼だとすれば、完全に一致する場所がある。


『ジジは、そこがどこだと思ってるの?』

『アルラ湖よ。候補に挙げられていた中で、一番近い場所よ。道を選んで馬を飛ばせば、二日で着ける距離だわ!』

『分かった。じゃあ、ジュールに……』

『待って! まだ続きがあるの。実は、今日診察した医者か使いの者が、セナンクールの本店に、甘露粉薬という薬を買いに行くことになっているの。往復四日の話が本当なら、店への到着は明後日になるわ。その人の後をつければ、わたしの居場所が分かる』


 王都までの日数が分かったのは思いがけない収穫だったが、彼女のそもそもの目的は、薬を買いに行かせることだった。

 姉が食事を抜いてまで、重病を装った真の理由をレナエルはようやく理解した。


『さすがジジね! それなら確実にジジの居場所が突き止められるわ。でも、カンロフンヤクって聞いたことない薬だけど?』

『ばかねぇ。実在する薬だと、他のお客さんと区別がつけられないでしょ? だからわたしが勝手に名付けたの。すごく貴重な薬だって言ってあるから、値段はしっかり吹っかけておいて。東方の薬らしい紙で、砂糖でも包んでくれればいいわ』

『了解! じゃあ、ジュールと打ち合わせてから、後で連絡する』


 レナエルは姉との会話を切ると目を開けた。

 そこに、待ちかねたらしいジュールの顔が間近にあって腰を抜かしそうになった。

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