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悪夢の原因

 目を閉じたままでも分かる、そろりと動く人の気配。

 神経を研ぎすまし、そっと伸びてくる手を勢いよく掴んで強引に引き寄せると、相手の首に腕を回して拘束した。


「何者だ」

「きゃあっ」


 相手の顔の前に、見せつけるように短刀を突きつける。

 そこまでの一連の流れは、頭より先に身体が動いた。


 ——え?


 捕らえた首は細く、腕の中でじたばたともがく身体は小さく柔らかだった。

 暴れるたびに腕を撫でていくのは、長くしなやかな……髪?


「ちょっと、どういうつもりよ!」


 少女の声にはっとした。

 部屋の中は薄暗いが、目が慣れているから、腕に捕らえている者の顔はよく見える。


 確かに、レナエルだ。

 ……信じたくはなかったが。


「レナ……か。何をしている」


 一体どうして、こんなことになっているのか。

 彼女を腕に捕らえたまま唖然としていると、激しい反撃が始まった。


「それはこっちの台詞よ! ガキには興味がないって言ってたくせに、このスケベ! 放し……むぐ」

「スケ……。ったく、夜中に、ぎゃあぎゃあ騒ぐな」


 首に回していた腕をずらし、うるさい口を掌で塞ぐ。


「おまえ、これが目に入らないのか? そういうつもりじゃないのは分かるだろう」


 目の前で短剣をちらつかせてから、ぱっと腕を解くと、彼女は軽く咳き込みながら、這うようにして慌てて離れていった。


 短剣をつきつけられても物怖じしないなんて、どういう神経しているんだ。


 ジュールは溜め息を一つついた。


「悪かった。だが、夜中に俺に不用意に近づいたおまえが悪い。この状況では、敵と間違えられて殺されても、文句は言えんぞ」

「殺されたら、文句なんか言えないわよ」

「揚げ足を取るんじゃない! 一体、何をするつもりだった。外に出ようとでもしたのか」

「……だって、すごくうなされてたから」

「俺が?」

「そうよ。悪い夢でも見た? それとも、熱でもある?」


 そう言いながら、彼女は額に手を伸ばしてきた。

 ジュールはそれを軽く払いのけると、彼女の視線を避けるようにふいと横を向いた。


「…………いや。大丈夫だ。何でもない」


 気づくと、全身が嫌な汗に濡れていた。


 そうか。

 しばらく見ることのなかったあの夢を見たのは、こいつのせいか。


 すぐに暴走して、自ら危険に突っ込んでいきそうな、生意気で危うい娘——。


「まだ夜明け前だ。もう少し寝ろ」


 ジュールはぶっきらぼうにそう言うと、彼女をベッドの方に押しやり、拒絶するように目を閉じた。

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