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声が聞こえる

『レナ!』


 突然、頭の中に聞こえてきた声に、レナエルは大きく目を見開いた。


『レナ、聞こえる? 返事して!』

「ジジ! ジジなの?」


 二度目の呼びかけに身体が震えた。

 思わず、姉の名を声に出して叫んだあと、両手で口元を覆う。


『ジジ、よかったぁ……。無事だったんだ』

『うん。さっき、目が覚めたの。まだ頭がくらくらしてる』


 あぁ、声が聞こえる。

 ちゃんと話ができる。夢じゃない!


 姉の無事が嬉しくてたまらず、誰かに聞いて欲しくて、すぐ横の気配を見上げた。

 そこには、さっきの叫び声を聞きつけたジュールが戻ってきていた。


「ジュール! ジジが……、ジジが無事だった!」

「そ、そうか……。良かったな」


 彼はレナエルの顔を見たとたん、ぎょっとしたような顔つきになった。

 しかしすぐに不機嫌そうな顔に戻すと、片膝を立てて傍らにかがみ込み、レナエルの背中をぽんと叩いた。


「…………なに?」


 背中に感じた大きな手の感触がひどく意外で、レナエルは変なものでも見るようにジュールの顔を覗き込んだ。

 すると彼は、無言のまま眉間に深いしわを寄せて視線をそらし、大きなごつごつした掌で、レナエルの頬をぐいとこすった。


「ちょっと! 何するの……よ……?」


 掌が離れた後の、肌をくすぐる風を妙に冷たく感じ、思わず自分の頬に手をやった。

 指先に触れる、濡れた感触に気づく。


 あたし、泣いてる……?


「う……わっ!」


 レナエルはあわてて自分の顔を両手で隠した。


 涙なんて誰にも見られたくなかったのに、よりによって、この男に弱味を見せるようなことになるなんて!

 きっと、内心で馬鹿にしてる。


『レナ? どうかした?』


 大混乱でいるところに、心配そうな姉の声が頭に割り込んできた。

 レナエルは慌てて、その声に意識を向け、取り繕うように言葉を返す。

 せめてジネットには気づかないでいて欲しかった。


『え? あ……ごめん。大丈夫。何でもないから! えっと……そう、ジジが無事だって分かって、うれしすぎて混乱したの』

『そう……ごめんね。泣かないで、レナ』


 ……バレてる。


 囚われの身でありながら自分を気遣ってくれる、姉の優しい声に、鼻の奥がつんとする。


『そ、そんなことないっ。泣いてないから!』


 姉が何もかもお見通しだということは分かっていたが、レナエルは強がりを言うと、両方の掌で目をぐしぐし擦った。


『でも…………ほんとに、無事で良かった。夜中に助けてって声が聞こえた後、連絡が取れなくなったんだもん。すごく心配したのよ。怪我はない? 何があったの? 今、どこにいるの?』

『え……と、順番に話すね』


 矢継ぎ早の質問に、ジネットが冷静に返答する。


『あの時、夜中に人が争うような音がして、目が覚めたの。剣で激しく斬り合うような音とか、男のうめき声が聞こえてきて、怖くてベッドで震えてきたら、わたしの部屋に男たちが踏み込んできて、無理やり薬のようなものを飲まされたの。……それから記憶がないわ。目が覚めたら、走る馬車の中だったのよ』

『やっぱり、誰かに誘拐されたのね。実は、ジジとほぼ同時に、あたしも襲われたの』

『ええっ! まさか、レナまで……?』

『ううん、あたしは捕まったりしてないわ』

『よかった。……でも、わたしとレナが同時に襲われたってことは……』


 そこまで言って、ジネットは息をのんだ。

 聡明な姉は、二人同時に襲われた理由や誘拐の目的に、すぐに思い至ったようだ。


『うん、多分……そう』


 レナエルは、姉が続けるはずだった言葉を肯定した。


 これまで二人を助け、セナンクール家の繁栄を支えてきた能力が、仇になる。

 その悔しさに、二人して黙り込んだ。


 しかし今は、ジネットを助け出すことが先決だ。

 レナエルが先に気を取り直した。


『大丈夫よ。ジジは絶対、あたしが助けてあげるから! あたしは今、王都に向かってるところなの。ジジは今、どこにいるの?』

『分からないわ。馬車の窓にカーテンが引かれているから、どこへ行こうとしているのか見えないの。馬車には、私の他に年配の男と女が乗ってる。彼らにいろいろ質問してみたんだけど、手がかりになるようなことは、何も話してくれなかったわ』

『そっか……。他に、何か手がかりになるようなことはある?』

『そうね、乗っている馬車は四頭立てで、かなり豪華な造りよ』

『えーっ? あたしなんか、荷馬車に押し込まれそうになったんだよ。この扱いの差はなんなのよ』

『そりゃ、王都の真ん中じゃ、豪華な馬車の方が逆に目立たないからでしょ? 昨晩は王城で大きな舞踏会があったから、各地から名のある貴族が集まってきていたはずだもの。わたしも豪華なドレスを着せられているところを見ると、貴族を装いたいんだわ。でも、一緒にいる二人は使用人風なんだけど、言葉遣いも身のこなしも板についてて、わたしのことを丁重に扱ってくれる。この二人は、多分本物よ』

『本物って?』

『演技なんかじゃなくて、もともと、身分の高い人に仕えている人たちだってことよ。それに、さっき簡単な食事が出されたけど、ワインがクライトマンの古酒だったの。貴族を装うだけなら、誘拐した娘にこんな高価ものを出さないわよね』

『クライトマン……?』


 姉の説明の中に聞き覚えのある名前が出てきて、レナエルは思わず隣の人物に目を向けた。

 ずっと観察するような鋭い視線を向けていたらしいジュールと、間近で視線がかち合い、ぎょっとする。

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