鬼
私が仕事から帰って少しゆっくりとしていた時だった。ピンポーンという明るい音が鳴った。
「誰だろうこんな遅くに。」
ドアを開けると鬼が立っていた。
「どなたですか?」
私は尋ねた。
「鬼です。」
それはそうだ。
「赤鬼です。一晩泊めていただけませんか。」
鬼は丁寧に頭を下げた。こんな時間から宿を取るのは難しいだろう。私は鬼を一晩泊めることにした。
「狭い家ではありますがかまいませんよ。」
鬼は申し訳なさそうに家は上がった。
「家はお有りで?」
私は尋ねた。
「いえ、先ほど家から追い出されてしまいまして。時期的に仕方ありません。」
カレンダーを確認すると今日は節分。
「豆まきで追い出されてしまいまして、帰るところがなくて困っていたんです。あなたがいてくださって本当ありがたいです。」
私は少し不安になった。このまま家に住みつかれては不幸がやってくるのではないだろうか。
「あの、大変言いづらいのですが…」
「分かっております。一晩でお暇します。長くいては恩をあだで返すことになりますから。」
私はホッと胸をなでおろした。
明くる日私が目を覚ますと鬼はもういなかった。食卓に置手紙が置かれていた。
「一晩泊めていただきありがとうございました。泊めていただいたお礼に掃除をさせていただきました。」
見渡すと埃一つなく、ぴかぴかだった。
きっとあの鬼は「綺麗ず鬼」だったんだなと一人でほほ笑んだ。
するとその夜も別の鬼がやってきた。
「一晩泊めていただけないでしょうか。」
私は鬼を一晩泊めてあげることにした。
するとやはり明くる朝食卓に置手紙があった。
「一晩泊めていただきありがとうございました。お礼に三葉虫の化石を差し上げます。」
見ると小振りな三葉虫の化石があった。
きっとこの鬼は「カンブリア鬼」だったのだろう。
それから毎日のように鬼がやってきてはいろいろな物をくれた。紙飛行機や箒、玉ねぎなど様々だった。
しかしある夜、鬼はやってこなかった。私は寂しさやつまらなさを感じ朝まで起きていた。日が昇り一日が始まっても鬼が現れることはなかった。
私は大きな ためいき を一つついた。