風邪
私も今月風邪をひきました。
頭が重い。
口の中が熱く、カラカラ乾く。
そして、動けない。
…風邪だ。
私は、この神社の巫女になってからかなりの月日が経った。
しかし、全くの病気知らずで、病にかかった事はまず無かった。
しかし、今日は別。
人生の皆勤賞を失った。
「…霊夢!」
「ん…あ…?」
「縁側に居ないから、様子が変だと思ったんだ。どうした風邪か?」
「たぶん…ね」
「待ってろ、今薬を調合してやるよ」
「あんたの薬…効かないじゃない」
「うるせぇ、折角この魔理沙様がお前の看病してやるってのに」
「事実…でしょう?」
「病人は黙って寝てろ。今、白湯持ってくるから」
布団は一瞬にして熱くなり、汗が出てきた。
暑過ぎるので、布団から足を出す。
今度は、足が冷え、体も冷えて来た。
温度調節が難しい。
「ほら、薬。飲めよ」
「あら、どーも。効くと良いけど」
「一応、楽になる魔法を込めたぜ」
その何とも言えない色合いの如何にも苦そうな粉を飲み込んだ。
「うわっ、不味い」
「ったりめぇだろ。薬は不味いもんだぜ」
「あれ、なんか寒い」
血の気が引いていく。
体温が一瞬にして無くなっていく。
「霊夢、どうした」
「うう寒い。何よこれ」
「え、そんなに寒いか?」
「真冬よこれは」
「今日は晴れてるし、新聞でも最高気温は16度と言っているぜ」
「あ、死ぬ」
バタン
「霊夢…?霊夢ッ!」
霊夢は意識不明となった。
魔理沙は彼女を布団に寝かせ、竹林の医者を尋ねた。
「霊夢が…倒れた」
「あの霊夢が?…今日は雪でも降るんじゃない?」
「意識が、無い。脈も」
「えっ… それってかなりまずい状態じゃない」
「と言うわけで来てくれ」
「良いわ。けど、一つ聞きたい事があるわ」
「何だぜ?」
「あなた、霊夢に何かした?」
「ええと、寝かせて、安静にしてから薬を飲ませたよ」
「その薬って、何処の?」
「私のオリジナルだぜ」
「材料は?」
「家にあった小麦粉と、私の魔法だぜ」
「魔法を服用させたのね」
「そうなるな」
「それって、何の魔法?」
「ええと、言うと長くなるから、これ読んで」
そう言って、「魔道書ハンドブック」を、永琳に渡した。
「いや、何頁だよ」
「126頁の上から2番めの欄。そこらって、ヒーリング系のじゃ無かった?」
「何言ってるの、これあんた死の魔法じゃない!」
「え」
「『楽になる魔法(黒魔術)この魔法を掛けられた人は、2秒後に寒気が、8秒後に血の気が引き、12秒後に完全に意識不明。30分後に死にます。又、使った人は、その日のうちに心臓発作又は大動脈の異常により、一時的な昏睡状態又は死を引き起こします。』馬鹿の極みね。あんた」
「ええ…」
「行くわ。因みに、飲ませてから何分経った?」
「え…6分」
「急いで行きましょう。あなたも、ほら早く」
こうして、彼女らは神社へと向かった。
「…脈が無いわね。完全な植物人間状態よ。いや、もっと酷いわ。」
「え」
「あなた、ちょっとした蘇生魔法知らないの?」
「心臓マッサージなら分かるぜ」
「時間経ち過ぎて無駄だろうけど、やってみて」
「13…14…15…16…20。まだ?」
「まだ。あと少しよ。人工呼吸はやっとくわ」
「31…32…」
「はい電気ショック」
「え、どうやんの」
「マスタースパークで何とかなるわ。多分」
「こんな医者は絶対に嫌だ」
「うるさい早くやれ」
その極太ビームは、霊夢の胸元を貫通し、地面、地底へと突き進んで行った。
「これで良いのか?」
「待って、脈を測るわ…」
「どうだ?」
「奇跡よ。これは。異常無しね」
「起きないぜ?」
「元々風邪なんだから、寝かせて起きなさい。薬は一応処方しておくわ」
「はぁ」
…次の日
「……………ん…?」
「霊夢ッ!起きたのか!」
「は…?」
「お前ずーっと寝込んでたんだぜ」
「あんたの…薬のせいよ」
「まあまあ、気にすんな。熱はどうだ?」
「まぁ…引いたわ」
「どれ…本当だ」
「全く、ハタ迷惑よ」
「なっ…私は霊夢のために…」
「迷惑は迷惑よ。私はあんな事望んでないわ」
「ケッ、素っ気ない奴」
「最も寝てれば治っていただろうに」
「悪かったな」
「まあでも、結局はあんたに助けて貰ったわね」
「そう思うなら前言撤回しろよ」
「あんたが医者寄越してくれたお陰で治りが早いわ。薬代も浮いたし」
「死ね」
「あんた現に殺そうとしてたじゃない」
「あれは…まあミスった」
「馬鹿ね、目と脳が腐ってるんじゃない?」
「喋る暇があるなら寝ろ」
「ったく。もう良いわ。私は寝るから。あんたも帰りな」
「感謝ってもんは無ぇのかよ」
「無いわ。それなら医者に感謝ね」
「あーあ。もう来てやんね」
「結構よ」
…
それが、彼女との最後の会話だった。
後日、彼女は、布団の中で冷たくなっていた。
「…霊夢…?霊夢ッ…!」
「…」
彼女は如何にも安らかに、清々しい顔をしていた。
「…」
「……霊夢…」
私は膝が崩れ、その場で泣き噦った。
「うううう…」
それでも彼女は何も言わない。
「…」
「…」
ふと、彼女の背中に張り紙があった。
「みこせいあつ あたいさいきょう さるの」
彼女は、冷たくなっていた、いや、凍っていた。
私は丁重に氷を溶かし、濡れた布団は干してあげた。
そして、あの馬鹿製氷機を成敗し、今は私の家の氷式冷蔵庫になっている。
3月の晴れたある日の事だった。