記者魂
とある新聞記者の話
池を少し越えた先に有る「城」は、遂先週ルーマニアから越して来たばかりのスカーレット家の物である。
その赤煉瓦をふんだんに使った建築と、妙に小綺麗に整えられた庭が如何にも洋風であり、幻想郷に新しい風を吹き込んだ。
そして数日前、私がその主の元へ行き、取材を試みたがNG。
謎は深まる一方であった。
しかしその後日、何とその主は、記者のみの特別記者会見を開いたのだ。
その一部始終は録音機に保存してある。
今から、その内容を書き起こすので、読んでみてほしい…
「…さん、…リアさん!レミリアさん!どうしてここへ来られたのですか?」
「私は納豆が大好きでね、それを求めて態々日本語まで勉強して、日本へ渡った筈なんだけど、何故かここへ来てしまったのよ」
「納豆?えっ、えっ?」
「何よ」
「コホン…では、今空前の紅魔館ブームですが、それについてどう思いますか?」
「ああ、それについては…そうね…まあ、放っておけば静かになるし、この誇り高きスカーレット家の名も知れ渡るし、損は無いわね、と思ってるわ」
「そうですか…あ、そう言えば人里にとっても美味しい納豆ごはんが食べられる店があるんですけど、行きません?」
「じゃあ行くわ。あ、ちょっと待って、今これ切って準備してくるから」
ブチッ
そう、彼女は納豆好きなのである。
誇り高き吸血鬼、そう、彼女は「鬼」の筈だが、何故、大豆を口に出来るのか、私はそんな疑問を抱えた。
私は、直接彼女に聞きに行こうと、カメラとメモ帳、ペンを用意し、紅魔館へと足を運んだ。
その一部始終は、やはりこの録音機に保存されている。
また内容を書くので、ちょっと読んでみてほしい…
「…さん!…リアさん!…レミリアさん!」
「また貴方?懲りないわね」
「まぁ、良いじゃあないですか。ところで、貴方は吸血『鬼』ですから、鬼の筈ですよね?」
「如何にも。それがどうかしたの?」
「その…鬼は豆に弱いのでは…と」
「要するに、何故納豆が食べられるか、と言う事でしょう?」
「図星です」
「納豆が好きだからよ」
「え、でも初めて食べた時は…」
「そうね。確かに、最初は私にとって有害な物だったかも知れないわ。だけど、毎日咲夜が出してくるものだから、残せなくて、いつの日か体に変化が起こったのね。納豆が食べれれるようになって、それであの美味しさに気付いたのよ」
「そうなんですか…あ、人里に美味しい納豆ソフト屋さんが有るんですけど、行きません?」
「うっそマジ?行くから、ちょっと待ってて」
ブチッ
要約すると、「抗体が出来た」と言う事であろう。
ここまで来ると、他の大豆料理はどうなのか、と言う疑問が浮かぶ。
それを解消すべく、後日また紅魔館へ出向いた。
一応、録音機で録音しておいた。またもや内容を書き起こすので、是非、読んでもらいたい…
「…さん!…リアさん!…レミリアさん!」
「これ何回目?何時までやるつもり?」
「レミリアさんって、納豆は食べられますが、他にも、醤油とか、豆腐とかって大丈夫なんですか?」
「醤油はお刺身に欠かせないし、豆腐だって冷奴にして食べるわよ」
「えっ、じゃあ、大豆に関しては無敵と言う事ですか?」
「そうなるわね」
「ところで、人里に新しく納豆専門店が出来たんですけど、行きません?」
「えぇうっそマジで?行くしかないわねこれは」
ブチッ
…取材の結果、大豆料理は大丈夫らしい。
となると、新たにまた「枝豆は食べれるのか?」と言う疑問が頭を過る。
そんな電卓以上コンピューター未満の脳を納得させるべく、またもや紅魔館に出向いてしまったのである。
一応書いておくので、読んでみてほしい…
「…さん!…リアさん!…レミリアさん!」
「…」
「大豆は大丈夫そうですが、枝豆はどうなんでしょうか?」
「…」
「お願いですから、この質問が最後なので答えて下さいよぉ」
「…枝豆はあまり好きではないけれど、食べられないと言う訳では無いわ」
「そうですか。あ、思い出した。今度新しく人里のちょっと離れた所に美味しい納豆きな粉蕨餅屋が出来たんですよ、あそこの餡蜜がまた格別でして。どうです、行きませんか?」
「咲夜、悪いけど、お小遣いを千円ほど前借りするわ」
「畏まりました。無駄使いなさらないようにお気をつけてお使い下さいね」
「分かってるわ。そんじゃ行きましょ」
ブチッ
どうだっただろうか。
これで「彼女=大豆なら無敵」と言う公式が出来上がる訳だ。
それにしても彼女の納豆愛は止まることを知らない。後日、聞いたことなのだが、彼女はおやつにも何らかのスウィーツに混ぜて納豆を摂取しているそうだ。
よって、彼女の血液は相当サラサラで健康診断も異常なし不可避だそうだ。
さて、次回は、そんな納豆好きの吸血鬼レミリアは、甘納豆は食べられるのか、という特集をお送りする予定だ。
乞うご期待!
(射命丸文)
「…」
「…」
「…どうですか?」
「…」
「…」
「…ねぇ、この新聞、一つ間違いがあるわよ」
「ど、どこですか?」
「…」
「…」
「…」
彼女は持っていたカップを皿に戻し、その箇所に指を指した。
「…この箇所のどこを間違えて居るんですか?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「私が、ここへ来たのは、二週間前よ」
彼女は、このしんとした客間にて、静かに、そう言った。
納豆は嫌いではありません