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Welcome To Gensokyo  作者: 水道水
Season 1
3/9

カリスマ

お嬢様のお話。



時刻は夜中の2時、丑三つ時だ。

私は今、必死に自分との戦いを繰り広げていた。

ベッドから出てしまえばすぐ終わる。

しかし、道のりは長いし、何より寒い。

蠟燭の一つもない廊下を一歩一歩確実に歩いて行かねばならない。

こんなに月も明るいから、壁にはぶつからずに行けると思うが、それでも怖いものは怖い。

生まれてから既に500年経っているものの、どうも暗闇には慣れない。


今、戦いに終止符が打たれ、見事に「ベッドから出る軍」が勝利した。

毛布を押し上げ、スリッパを履く。

意を決し、立ち上がる。

ドアノブが妖しく光る。

それを掴み、くいっと回すと廊下が見えた。

他の住人を起こしてはならないと、高ぶる鼓動と焦りで優れない呼吸を抑えつつ、廊下を踏みしめて行く。

半ばを過ぎた所で座り込む。意味も無く腰が抜けてしまった。

ヒットポイントは残り4割と言った所か、まだ多少の猶予はあった。

座っていても仕方ないので、また歩く。

やっと階段に着いた。

何で二階にトイレが無いんだと、幻想郷に渡った時の紅魔館の設計に携わっていた私を嘆いた。確かに、ルーマニアに居た頃は有ったのに。

…カリスマって何?

私はカリスマで全てを操ってきた。

人も、運命も。

何故、夜中のトイレ如きでここまでSAN値が削られていくのか。

見えない何かに怯えている。

見えない私に怯えている。

もう、訳が分からないな。


自分の脳内で「カリスマとは何か」と語っていたら、いつの間にかトイレのドアの前に立って居た。

救われた。と思った。

ドアノブに手を掛ける。

ガチャ

…鈍い音がした。

下まで完全に下がらない。

表示に目をやると、「赤」

絶望した。

やはり、自分の運命からは逃れられないのか、と、泣きそうになる。


「あれぇお嬢様またですかぁ?」


おのれ美鈴許すまじ。

「早く出てくれる?」

「えぇ、今入ったばかりなんですけど」

「まさか、すぐ終わる方よね?」

「はは、すいません。お腹壊しちゃって」

絶望した。

またあの感覚に襲われる。

自分とは何か。

カリスマとは何か。


こんな息を吸う事と変わりない出来事に私は何を悲観しているのか。

気を持ち直し、もう一度聞く。


「良く聞こえなかったわ。ごめん、もう一回言って?」

「だからぁ、お腹壊しちゃったんですぅ」

絶望した。

今度は確かに耳に入った。

昨日は酒に酔い過ぎて、美鈴にウォッカを飲ませ過ぎたのが効いたのだろう。

結局は私が主犯。

自分で自分の首を絞めている。

全く馬鹿げた話だ。

私はお嬢。ツェペシュの末裔。

しかし、そろそろ厳しくなってきたので、3階のトイレへ向かう事にした。


階段を上る途中思った。

何で1階と3階に有って、2階に無いんだと。

改めて自分が馬鹿だったと後悔する。

涙が込み上げてくる。

怒り任せに階段を駆け上がる。

…やっと着いた。

やっと楽になれる。

もう何も怖くない。

何にも怯えなくて良い。

平穏に。




…あなたはこの後、どうなったと思う?」

「そうですね…確か、3階のトイレって、ただの用具入れになってませんでしたっけ」

「そうね。そう…。もうあれから3年経つわ。けれどね、あの経験のお陰で、こうやって一からカリスマを養う事が出来たのよ」

「確かに、以前よりはかなり成長しましたしね」

「ねぇ、咲夜。悪いけれど、お茶を淹れてきてくれない?」

「かしこまりました」


私は、3時のティータイムを嗜む。

グレープフレーバーの紅茶。

ちょっぴり憂鬱な気分に幸せのエッセンスが加わる。


あの時、私はどうしたかって?

それは…

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