名前のない男
その男は、とても恐ろしい姿をしていた。
二メートルを遥かに超す身長。分厚い筋肉に覆われた巨体が生み出す腕力は、ライオンでさえ一撃で倒してしまえるほど強い。
また、その容貌はとても醜かった。怪物としか表現のしようのない顔が、逞しい体の上に付いている。
そんな容貌とは裏腹に、彼は高い知能を持っている。屋敷にある多数の書物を読み、それらをちゃんと理解していた。今では、学者並の知識の持ち主でもある。
にもかかわらず、彼には名前がなかった。
一年ほど前まで、この地方にはフランチェンという名の魔法使いが住んでいた。かつては宮廷お抱えの大魔道師として名を馳せていたが、引退後は田舎町に引っ込んでいた。
そのフランチェンは晩年、ある研究に没頭する。それは、魔法により生きた人間を造り出す……というものである。
今までにも、動く石像のゴーレムや骨で出来たスケルトンなどを造り出すことには成功していたが、彼は満足していなかった。
フランチェンが望んだのは、人間と同じ知能そして心を持った生物を、魔法で造り出すことである。彼は古今東西の書物を読み漁り、研究に研究を重ねる。
数年の月日が流れ、フランチェンはようやく完成させた。巨大な体と恐ろしい顔をもつ生物……だが、人間と同じ心も持っていた。
フランチェンは狂喜乱舞し、自ら作り上げた者に抱きつく。ことあるごとに彼に話しかけ、様々なことを教えていった。
だが残念なことに、フランチェンは彼に名前を付けることを忘れていた。
一年後、さらに残念なことが起きる。フランチェンは心臓麻痺を起こし、帰らぬ人となってしまったのだ――
フランチェンが亡くなった後、男はたった一人で生きていた。屋敷の中にあるたくさんの本を読み、そこに書かれている様々な知識を学んでいく。男は外見が醜いが、知能は高い。学んだことを、どんどん吸収していった。
やがて、男は外に出る。フランチェンの屋敷は森の奥にあるため、人が訪れることはない。代わりに、野生動物がうろうろしていた。中には、熊や狼のような猛獣もいる。
男は、そうした猛獣に襲われることもあった。だが、彼は持ち前の腕力で難なく撃退する。やがて動物たちも、彼には手を出さなくなった。
時に、彼は遠出をした。心のおもむくままに歩き、人里に近づいて行く。屋敷から半日かけて歩くと(もっとも、彼が走れば数分で到着するが)、多くの人が住んでいる村にたどり着ける。
少し離れた小高い丘の上から、人々の姿を眺めるのが大好きだった。
彼は、自分の姿が醜いことを知っていた。彼と出会った人間は、例外なくこんな言葉を放つ。
「化け物!」
化け物がどういった存在であるか、彼は知っている。また屋敷の鏡を見れば、自身がどんな顔をしているかも理解できる。
人間と全く同じ心を持ちながらも、姿は化け物……それゆえ、彼は孤独であった。森の奥の大きな屋敷の中で、書物だけを友として暮らしていた。
だが、そんな彼の生活を一変させる出来事が起こった。
ある日、彼は村から程近い森の中を散策していた。
すると、前から一人の少女が歩いて来るのが見えた。彼は慌てて身を隠す。彼が他の人間と出会えば、必ずトラブルになるからだ。
普段なら、さっさとその場を離れていたはずだったが……その日は、巨体を縮こませて大木の陰に隠れ、様子を見守った。少女の歩き方に、違和感を覚えたからである。
やがて、少女が近づいて来た。とても美しい容貌であり、年齢は十代の前半だろう。汚れた服を着ていて、杖を突きながら慎重に歩いている。
なぜか、両目をつぶりながら。
彼は知っていた。この世界には、目の見えない人がいる。生まれつきか、あるいは病ゆえか……様々な理由により、視力を失うケースがある。これもまた、フランチェンの残してくれた本に書かれていた知識である。
この少女も、目が見えないのか。ならば、今のうちに立ち去るとしよう。
彼は、静かにその場を離れようとした。だが、彼の体はとても大きい。動いた拍子に草に触れ、ガサリと音を立てる。
そのとたんに、少女の表情が変わる。
「そ、そこに誰かいるんですか!」
叫びながら、少女は杖を振り回した。とたんにバランスを崩し、地面に転倒する。
その時、彼は反射的に動いていた。巨体に似合わぬ速い動きで少女に近づくと、逞しい腕で助け起こした。
「あ、あり、がとう……ございます……」
少女は、呆気に取られた表情を浮かべつつ礼を言った。一方、彼はとっさに言葉が出てこない。こういう時、なんと答えればいいのか知識として知ってはいる。
ところが、彼は会話をするのは久しぶりだった。しかも、創造主であり育ての親であるフランチェン以外の人間と話すのは初めてだ。上手く言葉が出て来ない。
彼の胸はドキドキし、舌がもつれる。こんな時、なんと言えばいいのだろう。
その時、少女が近づいて来た。彼のゴツゴツした手に触れる。
「大きい手ですね。凄く強そうだなあ」
少女は感嘆の声を上げる。だが彼はビクリと反応し、手を引っ込めた。
すると、少女は慌てて頭を下げる。
「あっ、ご、ごめんなさい……」
すまなさそうな顔で、ペコペコ頭を下げる少女。そんな姿を見て、彼はおずおずと声をかける。
「い、いえ、大丈夫ですよ。僕の方こそ、すみません。あまり人と接したことがないもので……」
丁寧な言葉と気弱そうな声に、少女はくすりと笑った。その笑顔を見たら、彼もなぜか笑っていた。
くすくす笑い合う二人。やがて、少女が手を差し出してきた。
「私はメアリーです。あなたの名前は?」
「えっ……」
彼は言葉に詰まる。名前など無いのだ。創造主であるフランチェンには、「おい」「お前」という風に呼ばれていた。
しかも一人で暮らすようになってからは、名前の必要性など感じたこともない。
「あっ、あの……お名前は何ですか?」
ためらいがちに、尋ねてきたメアリー。どうやら、質問が聞こえなかったと勘違いしたらしい。
「な、名前はありません」
そう答えるより他なかった。すると、メアリーは首を傾げる。
「名前がないんですか?」
「はい。僕の創造……いえ、父親は、名前を付ける前に亡くなりました」
その言葉を聞き、メアリーは下を向いた。眉間を皺を寄せ、何やら考え込むような仕草をする。
ややあって、メアリーは明るい表情になった。
「あなたのお父さんは、なんという名前だったのですか?」
「えっ? フ、フランチェンですが」
「フランチェン……では、フランケンというのはどうでしょう」
「フラン、ケン?」
「はい、あなたの名前ですよ。どうですか?」
そう言って、メアリーは微笑んだ。
「フ、ランケン……フランケン……」
彼は何度も繰り返していた。とても不思議な気持ちだ。嬉しいような、恥ずかしいような……こんな気持ちは初めてである。
「い、嫌ですか?」
恐る恐る、メアリーは聞いてきた。彼は慌てて首を振る。
「と、とんでもない! 僕は嬉しいです! 名前を付けてもらえるなんて、本当に嬉しい!」
言いながら、メアリーの手を握る。メアリーも、ホッとしたように笑った。
「喜んでもらえたなら、嬉しいです」
翌日から、フランケンとメアリーは友だちとなる。
杖を突きながら森の中に入って来るメアリーに、フランケンは声をかけた。
「こんにちは、メアリーさん」
そう言うと、フランケンはメアリーを軽々と持ち上げて肩の上に乗せる。
メアリーは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「わ、私は歩けますから――」
「いいんですよ、僕は強いんですから。それに、走るのも速いんですよ」
言いながら、フランケンはメアリーを抱き抱えた。直後、馬のような速さで走る――
「う、うわあ! 凄い!」
メアリーは感嘆の声を上げた。目の見えない彼女でも、体に感じる空気の流れや音などから、自分がどれだけ速く動いているのかは理解できる。少女は今、未知の感覚に感動していた。
やがて二人は、屋敷へと到着する。フランケンはメアリーを降ろし、扉を開ける。
「ここが僕の家です。メアリーさん、来て下さい」
フランケンは嬉しかった。この屋敷で、友人をもてなす日が来ようとは……彼はメアリーを椅子に座らせ、お茶とお菓子を出す。
「このお菓子は、僕が作ったものです。本に書かれていた通りに作ってみました。お口に合うといいのですが……」
メアリーは、フランケンに導かれて焼き菓子を手にした。一口、食べてみる。
すると、その表情が一変した。
「フランケンさん! これ、凄く美味しいです! こんな美味しいお菓子、食べたことない!」
叫びながら、メアリーは焼き菓子にかぶりつく。あっという間にたいらげてしまった。
彼女のそんな姿を見て、フランケンはホッとした表情になる。もし、気に入ってもらえなかったらどうしよう、という不安があったのだ。
しかし、メアリーは美味しそうに食べてくれたのだ。フランケンは、とても嬉しかった。他人の喜ぶ顔が、自分にとっても幸せとなる……フランケンにとって、初めて知った感覚であった。
「フランケンさんは、本当に凄いですね。力が強くて、足も速くて、美味しいお菓子も作れて……」
メアリーの顔には、純粋なる尊敬の念がある。フランケンはたまらない気分になった。嬉しくて、恥ずかしくて、でも楽しい……こんな気持ちは、生まれて初めてである。
これが、幸せというものなのだろうか。書物の中でしか知り得なかったもの。それを今、実際に味わっている。
だが、すぐに現実に引き戻された。
「それに比べると、私は本当に……村のみんなから、お前は役立たずだって言われます。この目が、見えないから……」
「そんなことはありません!」
「いえ、私には分かります。昔はちゃんと目が見えていて、字が読めて、勉強もしていたのに……今の私は、役立たずなんです」
メアリーの表情は、一気に暗くなる。フランケンは、彼女をじっと見つめた。目が見えるようになれば、メアリーは普通の人と同じ人生を歩めるだろう。
だが、そうなった時……彼女の目は、フランケンの醜い姿をも映し出すことになる。
彼の姿を見た後も、メアリーは自分と友だちでいてくれるだろうか。
「フランケンさん?」
不安そうな声が聞こえ、フランケンはハッと我に返る。
「メアリーさん、あなたは目が見えるようになりたいですか?」
「もちろんですよ!」
即答するメアリーに、フランケンは複雑な表情を浮かべながら口を開いた。
「あなたの目を治す方法があります」
「ほ、本当ですか!?」
・・・
フランケンとメアリーは山道を歩いていた。目指すは、山の頂上にある不思議な泉である。
その数日前。
屋敷の中で、フランケンは静かに語った。
「ある所に、紫色の水が湧く泉があるそうです。そこの水には不思議な力があり、盲目の人の目を治した……と言われています」
「そ、その泉はどこにあるんですか?」
勢いこんで尋ねるメアリーに、フランケンは冷静に答えた。
「ビクター山の頂上です。行ってみますか?」
「はい! 行きます! 目が治るなら、どこにでも行きます!」
メアリーは、大きく首を振りながら答えた。放っておけば、今すぐにでも飛び出して行きそうだ。
「待ってください。そのような伝説があると本には書かれています。しかし、それが真実であるという保証はありません。しかも険しい山道を進まなくてはならない上、山には人食い鬼や牛の頭をした怪物も出るそうです」
その言葉に、メアリーはうつむいた。人食い鬼の怖さは、噂に聞いている。さらに、牛頭の怪物までいるというのか……。
「メアリーさん、よく聞いてください。そんな危険な場所を通り、苦労しながら山の頂上に行ったとしても、実際にそんな泉があるかどうかは分かりません。仮に泉があっても、治るという保証もありません。それでも、あなたは泉に行くのですか?」
フランケンの問いに、メアリーは下を向いた。眉間に皺を寄せ、じっと黙りこむ。
やがて、震える声で答えた。
「それでも……行きます。治る可能性が僅かでもあるなら、それに賭けてみたいんです」
そして今、二人は険しい山道を進んでいる。メアリーの顔には、疲労の色が濃い。前を進むフランケンが手を繋いで導いてはいるが、それでも彼女にとっては並大抵の苦労ではない。
不意にフランケンが立ち止まり、そっと囁いた。
「動かないで、静かにしてください。オーガーがいます」
「オーガー?」
「人を食べる鬼です。行って追い払って来ますから、ここに隠れていてくださいね」
そう言うと、フランケンは去って行く。後に残されたメアリーは、震えながら身を伏せた。
やがて、ドスンドスンという大きな音が響く。続いて、何かがへし折れるような音も……メアリーは恐怖を感じながらも、必死で唇を噛みしめた。
ややあって、足音が聞こえてきた。足音はメアリーに近づき、彼女のすぐそばで止まる。
「メアリーさん、奴は逃げていきました。もう大丈夫ですよ」
フランケンの声だ。メアリーは安堵のあまり、へなへなと崩れ落ちる。
その時、またしても声がした。
「メアリーさん、引き返すなら今のうちです。この先、またオーガーが出るかもしれませんよ。あるいは、もっと恐ろしいものも。しかも、道はさらに険しくなりますよ。それでも、あなたは進むのですか?」
フランケンの口調からは、真剣さが伝わってくる。だが、メアリーは体を震わせながら首を振った。
「いえ、行きます!」
その夜、たき火のそばでフランケンの用意した弁当を食べる二人。
突然、メアリーが口を開いた。
「目が治っても治らなくても、ずっと友だちでいてくださいね」
「えっ?」
戸惑うフランケンの手を、メアリーは握りしめる。
「約束ですよ。私たちは、いつまでも友だちです」
「もちろん。いつまでも友だちです」
フランケンは、優しい口調で答えた。すると、いきなりメアリーがすっとんきょうな声を上げる。
「そうだ! 帰ったら、一緒にお菓子屋さんをやりましょう!」
「お、お菓子屋さん、ですかぁ?」
きょとんとなるフランケン。だが、メアリーは構わず喋り続ける。
「はい! フランケンさんのお菓子、凄く美味しいです。だから、一緒にお菓子屋さんをやりましょう!」
ハイテンションなメアリーに、フランケンは苦笑しつつ答えた。
「わかりました」
「約束ですよ! 帰ったら、一緒にお菓子を作りましょう!」
翌日も、二人は山道を進んで行く。
メアリーの足は、歩き続けたせいでひどく傷ついていた。皮は剥け、あちこちひび割れている。フランケンの手当てがなかったら、彼女は歩くことすら出来なかっただろう。
さらに、メアリーの全身を疲労が蝕んでいた。肉体的な疲れもさることながら、精神的な疲れの方が大きい。どれだけ歩けば到着するのか、彼女には分からないのだ。
文字通り、手探りで歩くメアリー……だが、彼女は弱音を吐かなかった。フランケンの手を握りしめ、ずっと歩き続けた。
「メアリーさん、着きましたよ」
不意に、フランケンの声が聞こえた。
息も絶え絶えになりながら歩いていたメアリーだったが、その言葉にハッと顔を上げる。
不思議な匂いが漂っている。水辺の匂い、とでも言おうか。彼女は、恐る恐る尋ねた。
「つ、着いたんですか?」
「ええ、間違いなく紫色の泉です。僕も、本物を見るのは初めてですよ」
言いながら、フランケンはメアリーの手を引いていく。
「さあ、しゃがんでください。手を伸ばして……そうです。その水をすくい、目を洗ってください」
言葉に従い、メアリーは慎重に手のひらで水をすくった。
その水を、顔にかけていく。
すると、不思議な感覚がメアリーを襲った。目に、水が染み込んでいく。その水は彼女の目の奥にまで入りこみ、温めていった。
その時、何かがメアリーの首に巻きついた。その何かは、恐ろしい力で首を絞めつける――
メアリーは必死でもがいた。だが、巻きついたものは外れない。
やがて、彼女は意識を失った。
どのくらいの時間が経ったのか……メアリーは、意識を取り戻した。
気がつくと、顔に何かが巻かれている。黒い布のようなものが。
黒い布?
そう、黒い何かが見えている……メアリーは、無我夢中で巻かれている布を剥ぎ取った。
直後、彼女の目に飛び込んできたものは――
「な、なにこれ……」
呆然となりながら、メアリーは呟いた。
目の前には、不思議な光景が広がっている。どこかの屋敷の中にいるようだが、全く見覚えがないのだ。床にはじゅうたんが敷かれ、見事な細工の家具が設置されている。さらに床の上には、宝石や金貨なども置かれていた。
さらに、文字の書かれた紙が一枚。
メアリーは紙を拾い、読み始めた。
・・・
メアリーさん。
僕は今まで、あなたに嘘をついていました。あの山には、オーガーも牛頭の怪物もいません。オーガーを追い払ったと言いましたが、あれも嘘です。
それに僕は、あなたにわざと険しい道を歩かせました。
全ては、あなたを挫けさせるためです。こんな苦労をするくらいなら、目が見えないままでいい……そう思い、諦めて欲しかった。
諦めてくれれば、今まで通りに友だちでいられるから……僕は最低でした。この顔と同じくらい、醜い心に支配されて嘘をついていたのです。
でも、あなたは諦めなかった。怪物の恐怖に耐え、道の険しさにも負けず、あなたは泉にたどり着きました。僕は、あなたに負けたのです。
今、あなたの目は光を取り戻しました。おめでとうございます。あなたはこれで、普通の人間として幸せに生きられるはずです。
でも、僕はあなたの前から去らねばなりません。
人は僕を見て、化け物と言います。確かに、僕はひどく醜い姿をしています。僕を見た人が、嫌悪感を抱くのも仕方ありません。
そんな僕が、美しい女性であるあなたのそばにいてはいけないのです。
あなたは優しい人です。あなたは僕の醜い顔を見ても、今まで通りに友だちでいてくれるかもしれません。でも、あなたの周囲の人から見れば、僕は人間ではなく化け物なのです。
そう、化け物のような外見をしている限り、僕は永遠に普通の人間にはなれないのです。
僕がここにいたら、あなたにまで迷惑をかけることになるでしょう。だから、僕は旅に出ます。
メアリーさん、僕を可哀想だなどと思わないでください。僕はあなたから、フランケンという名前をいただきました。また、あなたは僕に楽しい思い出をくれました。この思い出は、僕にとって一生ものの宝です。
あなたとの楽しい思い出があれば、僕はこの先ずっと独りでも、幸せに生きていけるでしょう。
この屋敷に残っているものは、全てあなたにあげます。僕に名前と思い出をくれたあなたへの、ささやかなお礼です。
今まで、ありがとうございました。
フランケンより
・・・
読み終えた瞬間、メアリーは崩れ落ちた。その瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「嘘つき……ずっと、ずっと友だちだって言ったくせに……」
嗚咽を洩らしながら、メアリーは目の前にあるものを見つめる。
高価な宝石や金貨が、たくさん積まれていた。それらは、まばゆく光り輝いている。
だが、今のメアリーには……。
「一緒に、お菓子屋さんをやるって言ったのに……嘘つき」
この目さえ光を取り戻さなければ、大切な友だちを失わずに済んだのに。
フランケンと一緒に、ずっと幸せな時間を過ごせたのに。
私は……視力と引き換えに、フランケンを不幸にしてしまった。
私なんかと出会わなければ、フランケンはここで平和に暮らしていけたのに――




