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短編集だよ!(ボツ作品もあり)  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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43/55

悪魔の王〜少年は神になった〜

 これはボツ作品のため、続きはありません。一話で終わりです。





 短くも、下らなかった。

 藤本正史フジモト マサシがこれまでの人生を振り返ってみた時、真っ先に頭に思い浮かんだのは、その言葉だった。


 幼い頃の正史は、ごく普通のどこにでもいる少年だった。平凡だが優しい父と母に育てられ、同じ年頃の子供たちと一緒に公園で遊び、家ではテレビやゲームなどを楽しみ、夜になるとぐっすり眠る。時には悲しいこともあったが、それもまた、何処にでもあるようなものであり……一晩経てば忘れてしまえるようなことだった。

 そう、正史の人生には、これといって特筆すべき問題はなかったのだ。

 しかし小学生の時、正史はある重大な出来事を経験する。正史の人格すら一変させてしまうような出来事が……。





 ある日のこと。正史は親友の安部桐人アベ キリトと、楽しく会話しながら下校していた。安部は同じクラスの物静かな少年である。正史とは気が合い、すぐに仲良くなれたのだ。


「ばいばい」

「じゃあ、またね」


 当時のことは、よく覚えていないが……そんな他愛のない言葉を交わし、二人は別れて家路についたように記憶している。普段と何も変わらない日常風景、のはずだった。

 だが次の瞬間、爆発音のような音が響く。次いで、肉の塊が無理やり潰されるような、胸の悪くなる音……正史は異変を感じ、思わず振り返る。

 そこには、先ほどまでの日常とは異なる風景があった。

 ついさっきまで、普通に話していた安部。それが今、変わり果てた姿で倒れていた。首がおかしな方向に捻れ、口からは血を吐き、目は人形のそれのように虚ろだ……。

 だが何よりも恐ろしかったのは、そのガラス玉のような瞳は、正史をじっと見つめていることだった。

 そして数メートル先では、乗用車が停まっている。タイヤには血が付着し、道路にくっきりと跡を残していた。

 正史は近づき、必死で助けようとする。安部をゆすり、声を張り上げて安部の名を呼んだ。

 だが、動かない。

 安部は、完全に死んでいた。そして安部の体から流れる血が、正史の手を赤く染めていく……。

 後から聞いた話によると、乗用車を運転していたのは九十歳の老人だった。ブレーキとアクセルの踏み間違いが事故の原因だと、夜のニュースで報道されていたのを見た。


 その日、正史の好きだったアニメが映画化されるという発表があった。また夕飯は大好物のカレーライスだったし、翌日のテストで生まれて初めての0点を取った。

 だが正史にとって、そんなことはどうでも良かったのだ。

 直前まで仲良く話していた自分の友人が、いきなり死んだ。何の前触れもなく、無意味に。もう、好きなアニメの映画化を喜ぶことも、カレーライスに舌鼓を打つことも、0点を嘆くことも出来ない。

 しかも、それをもたらしたのが……九十歳の老人による、ブレーキとアクセルの踏み間違いという些細なミスなのだ。

 老人の些細なミスにより、一人の人間の命が奪われた。

 人の命とは、何とはかないものなのだろうか。

 この世界は、神々の遊んでいるゲーム盤なのだろうか。そして自分たちは……盤上の駒に過ぎないのだろうか。


 子供がたわむれに虫の足をちぎるように、神は我々の運命をもてあそび、気まぐれにこれを殺す。


 何かの本に書かれていた言葉だ。だが、それは真実なのではないだろうか。自分の命など、神の気まぐれでいとも簡単に消えてしまうものなのではないのか……。




 正史は、何もかもが嫌になった。

 勉強などしなくなり、中学に入ってしばらくすると不登校になった。学校など行かずに家にこもり、一日を寝て過ごす……両親は匙を投げ、正史はさらに自堕落な生活へとのめりこんでいった。


 人生は短く、そして下らない。


 正史の頭は、その考えに支配されていた。日がな一日、何をするでもなくダラダラと過ごす。そして、眠くなれば眠る……ただ、それだけの日々だった。

 だが、そんな日々は唐突に終わりを告げる。


 ある日、正史は母親と口ゲンカをした。きっかけはほんの些細なことだ。しかし売り言葉に買い言葉が重なっていき……やがて激しい罵り合いへと発展していった。


 正史はもう、生きていることすら面倒くさくなってきた。この先、何十年という長い時間を、不快な思いに耐えながら過ごさなくてはならない……想像するだけで、胸のむかつきを覚えた。

 正史は決断した。


 翌日、正史はとあるビルに入って行った。エレベーターで十階まで上がっていく。

 手すりの前に立ち、下を見下ろした。人間が、虫くらいの大きさに見える高さだ……ここから落ちれば、自分は間違いなく死ねるだろう。だが、不思議と怖さは感じなかった。

 正史は手すりを乗り越える。

 そして、一気に飛び出した――


 ほんの二、三秒で、正史は潰れた死体と化しているはずだった。

 だが次の瞬間、想像もつかないことが起きる。

 一瞬にして落下していくはずの正史の体……だが彼は今、空中にて静止しているのだ。まるで、上から見えない糸で吊るされているかのように。

 正史は、この理解不能な事態を前にし、激しく動揺した。反射的に、彼は体を動かそうとする。

 だが、動かないのだ……目だけはかろうじて、あちこち見ることが出来る。しかし、手足は動かすことが出来ない。

 正史は空に浮いたまま、呆然としていた……。


「やあ、正史くん」

 どのくらいの時間が経過したのだろう……不意に聞こえてきた声。そして正史の目の前に、二人の少年が出現した――

 一人は、正史と同じくらいの年齢だろうか。背はさほど高くない。痩せていて優しそうな顔つきだ。しかし、その瞳から感じられる落ち着きぶりは少年のものとは思えない。見た目は若いが、どこか年齢を超越した雰囲気を漂わせていた。

 その隣には、タキシードに蝶ネクタイといういでたちの幼い男の子が立っている。年齢は十歳前後だろうか……肩まで伸びた金髪と白い肌、そして人形のように美しく整った顔立ちが特徴的だ。隣にいる少年と手を繋いで立っている。

 そんな二人が、いきなり空中に出現したのだ……正史から三メートルほど離れた場所で、じっとこちらを見ている。

 正史は叫ぼうとした。だが、声が出ない。手足も動かないままだ……。

 正史は凄まじい恐怖を感じた。自殺を決意し、何の躊躇いもなくやってのけようとした正史。しかし今の奇怪で理解不能な状況は、単純な死よりも恐ろしいものに思える……。

 正史は怯えながら、二人の超自然的な存在をじっと見つめていることしか出来なかった。

 すると金髪の子供が、少年の手を引っ張る。そして背伸びし、少年に何やら耳打ちする。

 少年は頷いた。そして口を開く。

「君は面白い、とルイさんは言っている。だから、今から別の世界に行ってもらうよ。もし、どうしても生きるのが嫌だったら、その世界で自殺すればいい。その場合は、我々は止めないよ」


 待て、と正史は叫んだ……いや、叫ぼうとした。だが、声が出ない。

 そして、金髪の子供が近づいて来る。その体が浮き上がり、顔の位置がほぼ同じ高さに来た。

 子供は青い瞳で、じっと正史を見つめる。まるで宝石のように美しい瞳だ。正史は吸い込まれていきそうな感覚に襲われ、恐怖が消えていくのを感じていた。

 次の瞬間、正史の意識は闇に包まれた。


 ・・・


 その日の夜、ヘロデニア国の上空で七つの星が流れた。

 次の日には、国王の命令により……国にいた二歳までの男子が、皆殺しにされた。

 だが、この世界に転移したばかりのマサシには……そんな事情は知る由も無かった。




 森の中で、マサシは目を覚ました。そして、辺りを見回す。五メートルほど離れた場所には、夕べ襲いかかって来た大きな獣の死体が転がっていた。見たところ、熊のようである。体長は二メートルを超えるだろう。まるで軽自動車のような大きさだ。

 もっとも、その巨大な熊は今、胸に大穴を空けられて絶命しているが……。

 マサシは立ち上がり、熊の死骸を見下ろす。既に大量のハエがたかり、嫌な匂いをさせていた。マサシは顔をしかめ、右の手のひらをかざす。

 次の瞬間、その手から奇妙な光がほとばしる――

 熊の死骸、そして大量のハエは、光を浴びると同時に、跡形もなく消え去ってしまった……。

 マサシは自らの右手を見つめる。予想はしていたが、何と恐ろしい力なのだろうか。巨大な熊の死骸が、一瞬にして消え去ってしまったのだ。


 あの二人は、俺に何をさせるつもりなのだ?


 ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。

 君は面白い、と、あの不思議な少年は言っていた。自分の何処を、面白いと感じたのかは不明だ。ただ、はっきりしているのは……自分がこの奇妙な世界に飛ばされてきた、ということだけ。

 しかも、得体の知れない力を授けられて……。


 自分に授けられた力、それが強大なものであるのは分かる。まだ完全に把握しきれてはいない。しかし、それは自分がこれまで想像もしなかった破壊力を秘めているのだ。


 ふと、妙な違和感を覚えた。上空に何かいる。

 空を見上げるマサシ。すると、巨大な生物が飛んでいくのが見えた……マサシの知識の中には存在していない生物だ。は虫類のような鱗に覆われた体と巨大な翼、そしてトカゲのような体つき。

 その巨大な生物は、あっという間に飛び去って行った。

 マサシは、飛んで行った生物を見る。人間など、一呑みにしてしまえそうだ……しかし、マサシの中に恐れは無かった。あの巨大生物よりも、自分の方が確実に強い……そんな確信めいた思いがあったのだ。自分の体内で蠢く力、それは恐ろしいものであった。その気になれば、辺りの木々を消滅させられるのではないだろうか。


 この力、俺はどう使えばいいのだろうか……。

 そして、何をすればいいのだ?


 そんなことを思いながら辺りを見回した時、また奇妙な感覚に襲われた。

 人の気配を感じる。それも、一人や二人ではない。少なくとも五人以上はいるだろう。マサシは、その気配のする方角へと歩いて行った。


 マントのような物を着て、頭からフードをすっぽり被っている何者かが、こちらに向かい必死で走って来る。

 その後を追いかけて来るのは……数人の男たちだ。粗野で乱暴な雰囲気の少年たちが、残忍な表情でマント姿の者に石を投げつけている。石が当たるたび、ドスッと鈍い音が響く。

 その光景を見ているうちに、マサシはたまらなく不快になった。右手の指を、少年たちの方に向ける。

 そして念じた。


 次の瞬間、マサシの指先から赤い光が放たれる――

 光は一人の少年の頭に直撃し、一瞬にして昏倒させた……。

 他の少年たちは、驚愕の表情を浮かべて立ち止まった。

 一方、マサシも思わず顔をしかめていた。顔面にプロボクサーのパンチと同じくらいのダメージ……そのつもりだった。しかし、ひょっとしたら殺してしまったのかもしれない。

 まあいい。死んでしまったのかもしれないが、それは奴らが悪いのだ。とりあえず今は、他の連中を追い払わなくてはならない……マサシは右手の人差し指を、少年たちの方に向けた。

 すると、またしても赤い光が放たれる。今度は、少年たちの足元の土が抉れた……。

 少年たちは、怯えた表情で後ずさる。だが、マサシはもう一度念じた。

 再度、光が放たれた。今度は、少年たちの頭上の木の枝を消し去る……。

 それを見た少年たちは、血相を変えて逃げて行った……。


 ただ一人、未だに倒れている少年に近づいて行くマサシ。そして、少年をまじまじと見つめた。どうやら、死んではいないらしい。ただ気を失っているだけか。

 マサシは左手を伸ばし、少年に触れた。

 その瞬間、マサシの左手が緑色に光る――

 そして、少年は意識を取り戻した。

「あ……」

 意識を取り戻した少年は、不思議そうな表情でマサシを見つめる。顔の造りから見て、明らかに日本人ではない。果たして、言葉は通じるのだろうか?

 だが、その心配は無用だった。

「お、お前誰だ!」

 起き上がると同時に、少年は叫ぶ。マサシはさらに不快になった。先ほどは女に石を投げ、今は自分に失礼な言葉を投げている。殺してしまおうかという考えが頭を掠めた。実際、やろうと思えば、一秒で事足りるはずだ。

 だが、殺してしまうと、あとあと面倒なことになるかもしれない。マサシは少年の腕を掴む。

 そして言った。

「さっさと失せろ。でないと殺す」

 その言葉の直後、マサシは少年の体を放りなげる――

 少年の体は宙に舞い、地面に叩きつけられた。

 恐怖のあまり、顔を歪ませる少年。体は震え出している。どうにか立ち上がると、一目散に逃げて行った……。

 マサシは、走って行く少年を冷たい目で見つめる。何と愚かで、無様なのか。一人の女に、集団で石を投げる……要は、勝てると分かっている戦いしかしないクズなのだ。

 だが、もういい。まずは、この世界の情報を知らなくてはならない。マサシはその場にしゃがみこんでいる女の方を向いた。

「すみません、この辺りに村はありますか?」






「いったい何なんだよ、この村は……」

 マサシは唖然として、村の中を見回す。

 ルカと名乗った女に案内され、やって来た場所は……粗末な掘っ立て小屋やテントのようなもので構成されていた。村というよりは、むしろ集落と呼んだ方が近いだろう。日本では有り得ないような、奇妙な匂いが漂っている。人間の体臭や飼われている獣、さらには糞尿の匂いなどが混ざっているようだ。マサシは思わず顔をしかめた。

 そして……マサシとルカを迎えに出て来た者は、険しい表情をした一人の中年男だった。がっしりした体格で、髪の毛と髭が長い。粗末な皮の服を着ていて、右手に頑丈そうな棒を握りしめていた。恐らく、四十歳は過ぎているだろうと思われる。

「おい、ルカ……こいつは何者だ?」

 男が尋ねる。マサシは内心、なぜ俺に直に聞かないのだ? と思った。失礼な態度だ。こんな中年男など、今の自分なら一秒もかからず殺せる。力の差は圧倒的だ。恐竜と蟻ほどの戦力差があるだろう。

 しかし、その力の差がマサシの心に余裕を生み出した。目の前の男では、どうあがいても自分には勝てない。蟻が無礼なことをしたからといって、いちいち目くじらを立てる必要はないのだ。

 そう、こんな男はいつでも殺せる。


「フィリオさん、こちらはマサシさんです。私を助けてくれました」

 ルカはそう言って、中年男に頭を下げる。

 すると、フィリオと呼ばれた男はマサシを睨む。剥き出しの警戒心を隠そうともしない。マサシはふと、お互いのステータスをオープン出来たとしたら、目の前の男はどんな顔をするのだろうと思った。震え上がり、小便を漏らすだろうか。


 だがマサシの心中とは裏腹に、フィリオの表情はいつの間にか和んでいた。彼はマサシに頭を下げる。

「そうか……マサシさん、ルカを助けてくれてありがとう。あなたはどこから来たのだ?」

「え……あ、いやあ……ちょっと遠い国ですね」

 マサシは曖昧な答えを返す。異世界の日本、などと正直答えたところで、かえって混乱させるだけだ。

「そうか……あなたも、この村に流れ着いたのか。よかったら、この村に泊まっていかないか?」

「え……泊めてもらっていいんですか?」

 マサシが言うと、フィリオは頷いた。

「ああ。この村は、あちこちの国から流れ着いた者たちが身を寄せ合い、そして生まれた。いわば吹きだまりのようなものだ。来る者は拒まず、去る者は追わない」

 自嘲気味に語るフィリオ……マサシはようやく合点がいった。この村には、奇妙な空気が流れている。上手く言えないが、人々の顔には生命力がないように見える。皆、生活に疲れはてたような……そんな雰囲気が漂っているのだ。

 マサシは初め、不便な生活環境のせいかと思った。文明の遅れた世界ならではの、不便な生活。その中では、人間は早く年老いていく。寿命も短い。少なくとも、日本とは比べものにならないだろう。

 しかし、それだけでもなさそうだ。フィリオの話から考えるに、ここの村人の生活は……他の町や村と比べても、かなり酷いものなのだろう。

 マサシは改めて、周りを見回した。複数ある掘っ立て小屋やテントの陰からは、好奇心に満ちた目でこちらを見ている子供たちの姿がある。みな一様にみすぼらしい格好だ。また顔や腕などは痩せこけており、腹だけが出ている。栄養状態が良くないと、このような体型になる……昔読んだ本に、そんなことが書かれていたのを思い出す。


「大変だ! シモンが怪我をしたぞ!」


 突然、聞こえてきた声……マサシがそちらを向くと、血まみれの少年が運び込まれて来た。体がおかしな方向に捻れ、腕の折れた骨が皮膚を突き破っている。口からは血を吐き、意識は無いようだ……。

「これは……もう駄目だな……助からん」

 その様子を見たフィリオは、誰にともなく言った。一方、マサシは呆然とした表情で立ち尽くしている。

 彼の脳裏には、ある映像が再生されていた。二度と思い出したくない映像が。


 この世界も、同じなのか?

 世界は、不幸に満ちているのか?


 呆然とするマサシ。だが、次にフィリオの口から出た言葉は、マサシを一気に現実に引き戻した。


「みんな、宴の用意だ」


 フィリオの言葉を聞き、マサシはぎょっとして彼の顔を見つめた……。

「う、宴ってどういうことだよ……人が死にそうだってのに、宴なのか?」

 唖然となりながら、尋ねるマサシ。すると、フィリオの表情も変わった。ただし、こちらは呆れたような顔つきだ。

「お前、よっぽど遠い所から来たんだな……この辺りじゃ、人が死んだら、その肉を食うことになっているんだよ。このシモンは、もう助からない。なら、みんなで食ってやる……それが掟だ」

「な……」

 マサシは二の句が継げなかった。この世界には、そんな気違いじみた風習があるのか。

 しかも、このシモンという少年はまだ死んでいないのに……助ける努力もしないまま、皆で食べるというのだろうか。

 そんなことは、絶対に嫌だ……。


 マサシは心を決めた。

 瀕死の状態のシモン……彼のそばに近づいて行く。

 左手を伸ばし、シモンの体に触れた。

 すると、その手が緑色に輝く――

 次の瞬間、シモンの傷が癒えた。みるみるうちに傷がふさがっていき、顔色も良くなっていく。

 周りを囲む村人たちが驚きの表情を浮かべる中、シモンは意識を取り戻した。そして起き上がる。

「あれ……みんな、どうしたの?」

 そう言いながら、シモンは不思議そうに周りを見回した。

「シモン……お前、大丈夫なのか?」

 フィリオの言葉に、戸惑うような表情を見せたシモン。だが次の瞬間――

「お、俺……木から落ちたんだよ……そしたら、足が滑って……けど、何ともない……」

 言いながら、シモンは自分の体を見る。

 その時になって初めて、血まみれであることに気づいた。

「う、うわあ! 何だよこれ!」

 慌てふためき、自分の体を確かめるシモン。しかし――

「あ、あれ? 傷がない……ど、どうなってんの?」

「ここにいるマサシさんが治したのよ……死にかけていた、あんたの傷を治療してくれたの」

 ルカが微笑みながら、マサシのことを手で指し示した。

 すると、シモンの目が丸くなる。

「えっ……あ、あんたが、俺の怪我を治してくれたのかい?」

「ああ、そうだよ」

 頷くマサシ。すると、今度は彼の周りに村人たちが集まって来た。

 そして、口々に喋り始める。

「あ、あんた……今のどうやったんだ?」

「今、怪我を治したんだよな?」

「凄いよ!」

「あんた、ひょっとして魔法使いなのか!?」

 マサシは戸惑っていた。皆に、何と答えればよいのか分からない。

 その時、ルカが口を開いた。

「違うわ。この人は、天の神々が遣わしてくれた村の守護神よ」








 この後、マサシは村人たちに神として祭り上げられますが、それをこころよく思わない勢力が最強の転生者を召喚します。それは、マサシのかつての親友アベキリトでした。マサシとキリトは相討ちになり、両者の戦いに巻き込まれた村人や王国の者たちは全滅……という救いようのない作品になる予定でしたが、当時は忙しかったためボツとなりました。まあ、この作品の元ネタ(?)である『デビルキング・神になった男』の方が数千倍は面白いので、機会があったら読んでみてください。



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