表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/55

孤独な旅路の果てに

 流れ流れて……気が付いてみれば、この町に着いていた。




 俺が生まれたのは、灰色の壁に覆われた場所だ。両親の顔は知らないし、愛情なんてものは受けた記憶がねえ。そんなもんはクソくらえだ。今、目の前に両親が現れたら……殴り倒すだけだ。何のためらいもなく殴れるよ。


 物心つく前から、俺は街の片隅に潜んでいた。みんなは俺に、汚い物でも見るかのような視線を向けてくる。

 そんな目で見るんじゃねえよ。

 俺は必死で闘い、何とか生き延びてきた。他人から奪い、必要とあればゴミ箱も漁る。そうして、俺は成長していった。


 世の中、クズばかりだ――


 どいつもこいつも、俺の顔を見ると嫌そうな顔をする。中には、石を投げる奴までいる。俺がただ歩いているだけで、棒を振り回して追いかけて来る奴までいたくらいだ。


 俺が何をしたって言うんだ?

 他の奴より、醜い見た目で生まれた……それは、罪なのか?


 腹が立って仕方なかった。俺はこの世界を憎んでいたし、何もかもを壊したかった。

 そんな俺に、仲間なんか居やしない。周りはみんな敵だ。食うか食われるか……その間柄でしかない。

 幸いにも、俺は強い体に生まれた。俺がパンチを放てば、みんな尻尾を巻いて逃げ出す。そう、俺のパンチは最強だ。どんな奴が相手でも勝てる。

 食い物が欲しくなったら、誰かから奪う。目障りな奴はぶちのめす。俺には誰にも負けない力がある。

 それで充分だ。


 こうして俺は、あちこちの町を渡り歩いた。どこの町に行っても、俺に勝てる奴はいなかった。

 強ければ、それでいい。

 力さえあれば、望みは何でも叶う。




 流れ流れて……俺は、この町にやって来た。

 見渡してみると、しけた面した奴ばかりだ。みんな、俺にビビってやがる。本当に気に入らねえな。

 いっそのこと、この町にいる奴を全員ブッ飛ばしてやろうか。俺が睨み付けるだけで、みんな尻尾を巻いてこそこそと居なくなる。いい気味だぜ。

 俺はイライラをぶつけるように、そこらに居た奴をぶん殴ってやった。どいつもこいつも、パンチ一発で逃げて行きやがる。この町にも、俺とまともにやり合える野郎はいねえのかよ。


 だが、そんな俺の前に奴が現れた――


「見かけねえツラだな。てめえ、何やってんだ?」


 そいつは、俺にそう言った。

「何しようが、俺の勝手だろうが。てめえにゃ関係ねえ」

 言いながら、俺はそいつを睨み付ける。

 だが、俺の勘は言っている。目の前にいるのは、今まで会った中でも最強の強者だと……。

 上等じゃねえか。

 俺に勝てる奴なんか、いやしねえ。


 すると、そいつはニヤリと笑った。

「てめえは、世の中で自分が一番不幸だとでも思ってるんだろうが……だから、あちこちで暴れてやがるんだろ。てめえのその捻れた根性を、俺が叩き直してやるぜ」

 言いながら、そいつは低い姿勢で構えた。

 何だと……。

 上等じゃねえか!


 俺は飛びかかった。そいつの顔面に、強烈なパンチを食らわせる。

 強烈な手応えを感じた。だが、そいつは平然としている。俺のパンチをまともに食らったはずなのに、怯みもせずに笑ってやがった……。

「それが、てめえの本気なのかよ? ぜんぜん効かねえな」

 次の瞬間、そいつのパンチが飛んで来た――

 俺は吹っ飛び、道路に倒れる。今まで生きてきた中でも、掛け値なしに最強の一発だ。

 しかし、俺は素早く起き上がる。

 誰が相手だろうと、喧嘩で負ける訳にはいかねえんだよ!

「なめんじゃねえ!」

 叫ぶと同時に、俺は猛然と襲いかかって行った。




 だが、敗れたのは俺の方だった。

 俺は大人になってから、初めて敗北を知った。そして恐怖も。

 ここで、俺は死ぬのか……。


 一方、俺を叩きのめした奴は平然としている。息も切らさず、静かな表情で佇んでいた。

 ややあって、そいつは口を開いた。


「この道を真っ直ぐ行った先に公園がある。明日の夜、その公園で俺たちは集会をやるんだ。もし、その気があるなら……お前も顔を出せ。この町の連中に紹介してやる」


 えっ!?


 俺は訳が分からなかった……こいつは、俺を仲間に入れようとしてるのか。

 呆然としている俺に、そいつはもう一度言った。

「お前、聞こえねえのか? もう一度言うぞ。俺たちの仲間になって、この町で暮らす気があるなら、明日の晩の集会に顔を出せ。仲間になる気がないなら、とっとと失せろ」

 そう言うと、奴はくるりと向きを変える。さっさと歩いて行った。

 その時、俺は思わず叫んでいた。

「ま、待ってくれよ!」

 すると、奴は立ち止まった。

「何だお前、まだやられ足りねえって訳か? しょうがねえ奴だな」

 苦笑しながら、奴はこちらに歩いて来る……俺は慌てて声を出した。これ以上、あのパンチやキックを食らったら死んじまう。

「ち、違う! あんたの名前を聞かせてくれ!」

 すると、奴は立ち止まった。

「俺の名はアレクサンダー……通称アレク。この町を仕切ってるボス猫だ。仲間になりたきゃ、集会にツラ出せ。仲間になりたくないなら、この町を去れ。決めるのはお前だ……そういや、お前の名前は何だ?」

「ニャ、ニャンゴロウだよ……」

「ニャンゴロウか。いい名前じゃねえか」

 そう言って、アレクは笑った。

 その時、俺の胸の中に温かいものが広がっていく……。

 決めた。

 これからはアレクの下で、男を磨こう。

 そして、いつの日か……アレクみたいな大きい男になりてえな。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ