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短編集だよ!(ボツ作品もあり)  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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大門大介・逆襲のシドウ(4)

 着地したヘリコプターの中から最初に出てきたのは、葉巻をくわえた中年男である。

「俺の名はペパード・スミス大佐、通称キャプテン・スミス。奇襲戦法と変装の名人さ。俺のような天才策略家でなければ、世界最強の生物・大門勇太郎のパートナーは務まらないぜ」

 そんなことを言いながら、余裕綽々の表情で亡者たちに殴りかかって行く。

「俺はテンプラトン・ベース、通称ベースマン。自慢のルックスとベースの音色で、女はみんなイチコロさ。ハッタリかまして、パンツから核ミサイルまで何でも揃えてみせるぜ」

 続いてヘリから出てきたのは……ベースを背負った金髪のイケメンである。ヘラヘラ笑いながら、大介の肩をポンポンと叩いた。

「よう、お待ちどう! 俺さまこそマードック、通称グレイシー・モンキーだ。パイロットの腕とグレイシー柔術は達人レベルさ。奇人? 変人? だから何よ!?」

 こんなセリフを吐きながら出てきたのは、帽子を被り柔術着を着た男だ。その服装といい表情といい、どう見てもマトモではない。さすがの大介も、思わず後ずさっていた。

「また飛行機に乗せやがったな! T・A・コング、メカの天才だ。大統領でもぶん殴ってみせらあ! でも飛行機に乗せたらぶっ殺す!」

 最後に出てきたのは、モヒカン頭の黒人である。モヒカンといってもヒャッハーどもとは真逆の、落ち着いた中にも危険な匂いを感じさせる大男だ。肩幅といい腕の太さといい、大介を遥かに上回っている。ベストを着てネックレスや指輪などを大量に付けた姿は、歩くアクセサリーショップのようだ。

「こいつら、何者だ……」

 唖然とした表情で呟く大介。すると、スミスの声が飛んだ。

「ベースとモンキーと俺で、倒れてる妖怪を運び出し手当てをする。コングは勇太郎を援護しろ! ぬかるなよ!」

「おう!」

 四人は一斉に動いた。スミスとベースさらにモンキーが、倒れているドロイと口裂け女を運び出した。一方、勇太郎とコングは亡者たちを相手に獅子奮迅の暴れっぷりだ。さすがの亡者たちも、近づくことが出来ない。

「こいつら、無茶苦茶だけど凄い……」

 圧倒される大介の耳元で、再び獅童の声が聞こえてきた。

「そうだ! この無茶苦茶さを持った人間が、地球を破壊するんだよ! 大介、なぜそれが分からん!」

「分かってるよ! だからこそ、世界の人々に人間の心の光を見せなきゃならないんだろ!」

「そんな甘い状況ではないのだ! ララァは、私の母になってくれるかもしれなかった女性なんだぞ!」

「だから、ララァって誰なんだよ!」

 思わず絶叫する大介。すると、誰かが彼の頭を叩いた。振り向くと、そこには口裂け女がいる。あちこち傷ついてはいるが、動くのに支障はないらしい。

「一人で何を言ってるんだよ。ついに頭おかしくなったのかい?」

「あ、クチサケさん! お怪我の方は大丈夫……」

 そう言ったきり、大介は絶句する。近くで見ると、口裂け女の服はあちこち破れ、妙なエロさを醸し出しているのだ……大介は鼻の下を伸ばし豊満な胸元を見つめるが、口裂け女に思いきりシバかれる。

「ちょっと! どこ見てんだい!」

「す、すいません」

 謝る大介。その目に、恐ろしいものが飛び込んできた。

 ドロイがあぐらをかいた姿勢で座り、スミスからもらった葉巻をくわえているのだ。ベースマンとモンキーをそれぞれ両脇にはべらせ、彼らの肩に前足を回している。

 白い巨大イタチが、二人の男を抱き寄せ葉巻をくわえ悦に入っている姿は、大介すら怯んでしまう光景であった……。

「だだだ大介くん、この生き物は何なのかな?」

 顔を引きつらせているベースマン。一方、モンキーの方は嬉しそうだ。

「いやあ、あんたの毛並みは最高だね。このモフモフ感、たまんねえよ」

 言いながら、ドロイの毛を撫で回している。

「両手に花とは、このことだね。いい男に囲まれて、アタシゃ幸せだよ」

 そう言うと、ドロイは満足げな様子で葉巻の煙を吐き出した。

「あのなあ、そんなことやってる場合じゃないだろ! 亡者たちが迫ってるんだぞ!」

 怒鳴り、指を差す大介。今や亡者たちは、勇太郎とコングを完全に取り囲んでいる。さすがの二人も、数の力の前に押されているのだ。

「うわあ、ありゃあ凄い数だな。あれじゃあ、バードミサイルをぶちこむしかないのか――」

 言いかけたスミスの表情が、みるみるうちに険しくなる。

「おい、なんだあれは?」


 空の彼方から、こちらに向かい走ってくるものが見える。牛車のような形、前には巨大な顔、その横には車輪……そう、妖怪・朧車オボログルマだ。

 朧車は着地すると地を走り、大介らの前で止まる。中から降りてきたのは――


「儂が妖怪総大将・奴羅島平七ヌラジマ ヘイシチである!」


 出てきたのは、スキンヘッドに着物姿の大男であった。肩幅は広くがっちりしており、口ヒゲは長いが綺麗に切り揃えられている。眉毛は太く、眼光は鋭い。

 その男を見たとたん、ドロイと口裂け女の態度が変わる。二人とも、気をつけの姿勢で立ち上がったのだ。顔面は蒼白、体はぶるぶる震えている。

「ぬ、奴羅島の大将!」




 奴羅島平七。

 日本の妖怪たちを束ねるぬらりひょん族の頭目である。群雄割拠の時代に彗星のごとく現れ、魔人・大剣豪邪鬼ダイケンゴウ ジャキや超猿・斉天大聖セイテンタイセイらを討ち果たし、妖怪の総大将になったと伝えられている。

 第二次大戦にも参戦予定であったが、連合国の命を受けた錬金術師パラケルススやサンジェルミ伯爵ら名だたる魔術士軍団に封印され……力ずくで封印を破った時には、既に戦争はおわっていた。失意の平七は、それから人間界にはあまり顔を見せなくなったらしい……。

 なお、二十年前に平七は世界最強の生物・大門勇太郎と出会っている。三日三晩もの間、驚天動地の死闘を繰り広げたものの、決着が付かなかった。

 小休止を挟み、闘いを続けようとしていた二人。だが、月に変わっておしおきする伝説の魔法美少女戦隊が現れ仲裁に入り、歌とセクシーなダンスさらにはキャバ嬢顔負けのトークで虜にし、酒を飲ませてベロベロに酔わせて……日本列島をも破壊しかねなかった激闘は、ようやく止まったと言われている。

 後に平七は「勇太郎は本当に強かった。奴は儂の永遠のライバルである。だが我らの対決を止めた美少女戦士たちこそ、真の最強なのかもしれぬな」と述懐していたという。


――民明書房刊『真・妖怪大百科』より抜粋――




 悠然とした態度で、辺りを見回す平七。その時、スミスが前に進み出た。

「ぬらりひょんの大将、久しぶりだな。まさか、あんたも天草に手を貸して人類を粛正しようってのか? それとも、勇太郎と二十年前の決着をつけようってのか?」

 そう尋ねたスミスを、平七はジロリと睨む。だが、スミスも怯まない。

「儂は、人間などどうなろうが知ったことではない。人間など全滅しようが、手を貸す気もない。だがな、この小童に泣いて頼まれたのだ」

 言いながら、平七は朧車に手を突っ込む。中から摘まみ出してきたのは……なんと猫耳小僧であった。

「猫耳小僧! あんた何やってんだい!」

 怒鳴ったのは口裂け女だ。しかし、平七は愉快そうに笑う。

「まさか、こんな小童が総大将の儂に直談判しに来るとはな……その勇気に敬意を示し、久しぶりに人間界に来てやったのだ」

 そう言うと、平七は勇太郎の方を向く。

「勇太郎! 久しぶりに、あれをやるぞ! こっちに来い!」

「では、俺たちは露払いといきますか。ベース、モンキー、行くぞ!」

 言いながら、亡者たちに突っ込んでいくスミス。ベースマンとモンキーも後に続いた。

 そして勇太郎は、悠然とした態度で歩いて来る。平七と対峙し、ニヤリと笑った。

「平七、懐かしいな。まさか、お前が来るとはな。では、やるとするか」

「おう」

 応える平七。直後、二人は亡者たちの方を向く。

「人とアヤカシ、二つの道が!」

「一つに交わる漢道!」


「「刮目せよ! 我らが漢道を!」」


 最後のセリフは、まるで合わせるかのように二人同時であった。大介は、猫耳小僧と顔を見合わせる。

「今から、何が始まるんだ?」

「大介、何か怖いニャよ……」


 だが、勇太郎と平七のセリフは続く。それは、まるで呪文の詠唱のようであった。

「我らの闘志……」

「極限まで高めれば!」

「倒せない者など……」

「何もない!」

 直後、二人は手のひらをかざす。


「「これで、決まりだあぁぁ!」」


 次の瞬間、二人の手が輝き始める。そこに発生しているエネルギーはあまりに膨大なものであり、皆が固唾を飲んで見つめていた――


「我のこの手が……」

「真っ赤に燃える!」

「未来を守れと……」

「轟き叫ぶ!」


「「爆裂! 究極!」」


「人!」

「怪!」


 直後、勇太郎と平七はダンスでも踊るかのように密着し、激しい感情を込めて見つめ合う。見ている大介は、ちょっと気持ち悪くなっていた……。

 だが、オヤジ二人はお構い無しだ。次の瞬間、亡者たちを睨み付ける――


「「最強! 同盟拳!」」


 二人の雄叫びとともに、手のひらから巨大な光が放たれる――

 凄まじい闘気のエネルギーは、次の瞬間に無数の拳と化した。

「な、なんじゃありゃあぁぁ!」

 絶叫する大介。だが、驚くのはまだ早かった。無数の拳は、正確に亡者たちめがけ飛んでいく。そして、おびただしい数の亡者たちを次々と消し去っていった――

 やがて、亡者たちは一人残らず消えた。後に残されたスミスたちは、苦笑しつつ首を振っている。拳は、彼らには何の影響もあたえていないらしい。


「な、なんだ今のは!? 凄まじく強いエネルギーだったぞ。しかし、怖くはない。むしろ暖かい、そして安心する……なんて凄いんだよ。俺は、まだまだ未熟だな……」

 ガックリと膝を着く大介。一方、亡者たちを消し去った二人は――


「我ら二人に!」

「断てぬものなし!」


 極めのセリフを叫び、勝ち誇った表情で腕組みしている……。

「あいつら、最後においしいとこ全部もっていったニャ」

 猫耳小僧が呆れたように呟くと、口裂け女とドロイが頷いた。




 それから、一週間後。


「クチサケさん! この煮物、美味いです!」

 言いながら、手作り弁当に舌鼓を打つ大介。その横で、口裂け女は頬を赤らめ、もじもじしている。

「そ、そうかい?」

「いやあ、クチサケさんは美人で料理も上手くて、最強ですね!」

「や、やだよう……照れるじゃないか」

 言いながら、口裂け女は大介をつつく。大介はだらしない表情を浮かべていたが……。

 次の瞬間、表情を引き締める。

「クチサケさん、今の俺では親父に勝てません。親父たちの爆裂究極人怪最強同盟拳に勝つには、超絶猛進撃滅ラブラブ天昇拳しかないんです!」

「ちょ、ちょうぜつもうしん? なんだいそれ?」

 戸惑う口裂け女に、大介は顔を近づける。

「クチサケさん、俺はあなたが好きです!」

「そ、そんな……」

 照れまくる口裂け女。だが、直後の言葉に表情が一変する。


「俺は、俺は……あなたと合体したい!」


「なんじゃそりゃ!」

 直後、大介は張り倒された。口裂け女はプンプン怒りながら、その場を大股で去って行く。

「大介、大丈夫かニャ?」

 隠れて様子を見ていた猫耳小僧が、心配そうに近づいて来る。

「あいててて……なぜ、俺の気持ちは通じないんだろうか」

 しかめ面をして起き上がる大介に、猫耳小僧は呆れた顔で首を振る。

「大介はアホだニャ。あんなこと言ったら、ぶん殴られるに決まってるニャ」

 猫耳小僧に言われ、大介は頷いた。その時、昔の疑問を思い出す。


「そう言えば、ララァって誰だったんだろう?」


 ・・・


 ここは、某ヒルズ族が住む高級マンションの一室である――


「獅童、わらわの作ったオムライスじゃ。食べてたもれ」

 メイド服姿で、オムライスの入った皿を手に現れたのは……溢れんばかりの妖艶な魅力を振りまく女性である。長い黒髪に、雪のような白い肌、大きな瞳は美しく輝いている。さらに、その豊満な胸元にはロザリオが光っていた。

「ララァ、ありがとう」

 言いながら、女の形のいい尻を撫でる天草獅童。すると、女の顔つきが変わる――

「わらわはガラシャじゃ! ララァではないと、何度言えば分かるのじゃ! それに、どさくさ紛れに尻を触るな! このたわけ!」


 ひっぱたかれた頬をさすりつつ、獅童はオムライスを食べ始めた。その横では、エプシロンが時代劇『底辺侍・墓徒矛呪ボトムズ』を観ている。

「うむ、この主人公の霧虎九兵衛キリコ キュウベエは、観ていると何故か腹が立ってくる……不思議だ。しかし、ヒロインの南蛮人・火孔ヒアナはなんと可愛いのだろう……」

 うっとりとした目で、画面を見つめるエプシロン。

「ところでエプシロン、平佑清と獅子虎浄之進はどこにいる?」

 獅童が尋ねると、エプシロンは顔をしかめた。

「奴らか……奴らは今、セクキャバをはしごしているはずだ。奴らは、すっかりハマッてしまったのだよ」

「なんだと?」

 さすがの獅童も頭を抱える。この時代の風俗は、ストイックな武術家すら堕落させてしまうのか。

 やはり、人類は粛正しなくてはならない。

「エプシロン、すまんが奴らを連れてきてくれるか? 野放しにしておいては、何をしでかすか分からん」

「分かった。時代劇が終わり次第、行くとしよう」

「大丈夫か?」

「当たり前だ。私は人間を超越したPFなのだぞ」

 エプシロンは、ドヤ顔で胸を張る。ちなみにPFとは、パロディファイターの略である。

「そうか、頼んだぞ……それにしても大門親子め、どうやって倒してくれようか?」

 獅童は考えた。まずは、あの二人を倒さなくてはならない。では、次は誰を召喚するか。今のところ、候補は三人だ。

 モリの達人であり、分身殺法や海老ぞり飛翔殺法さらには腹切り殺法で伝説の白鯨モビィ・ディックを仕留め……後に異国の王女ラーナと共にインダストリア帝国を壊滅に導いた小さな巨人・蛮虎南バン コナンか。

 それとも、マレー最強の虎として恐れられた伝説の日本人ゲリラであり……かつボクサーとしても、東洋太平洋チャンピオンの明日野児夫アシタ ノジオと激闘を繰り広げた怪傑・破裏魔王ハリマオウにしようか。

 はたまた、過激な文学青年でありながら……怪鳥ケワタガモを仕留め、戦場では一人で小隊を全滅させ白い悪魔と呼ばれた天才的狙撃手・志茂田兵平シモダ ヘイヘイか。

 いろいろ考えているうちに、獅童は体の奥底から燃え上がる闘志の存在を感じた。窓を開け、ベランダに出て叫ぶ。


「大門親子よ! 私の逆襲は始まったばかりだ! 覚えておくがいい!」


 直後、いきなり頭をはたかれ獅童は振り返る。すると、ガラシャが般若のごとき顔でこちらを見ている。

「静かにせんかあ! 近所迷惑なのじゃ!」

「すまん、ララァ」

「わらわはガラシャだと、何回言えば分かるのじゃ! このたわけ!」







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