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短編集だよ!(ボツ作品もあり)  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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世紀末救世主伝説・破裏拳ダイゴ 3

「タクマ、そろそろ休もうか」

 ダイゴの声に、タクマは頷いた。

「分かった。それにしても、ゼブンガーは力強いな。あっという間に穴を掘っちまったよ」

 言いながら、タクマは笑みを浮かべる。




 ダイゴたちは今、住みかの周りを手入れしていた。道路のアスファルトを剥がして土を剥き出させ、そこに植物の種や苗を植えているのだ。ブンタも小型シャベルを手に、小さな穴を掘っていた。


「ねえ、ここに植える草は食べられるの?」

 ブンタの問いに、ダイゴは首を横に振った。

「いや、食べられない」

「えっ? じゃあ、何で植えるの?」

「いいか、植物が育てば虫が集まって来る。虫が集まれば、やがては鳥や鼠などの小動物も集まってくる。それを、お前たちが食べるわけさ」

「あっ! そっかあ!」

 いかにも納得した表情で、ブンタは叫ぶ。ダイゴは、そんなブンタに優しく語りかけた。

「いいか、植物はあらゆる生命の源だ。人間は、他の命を奪わねば生きていけない。だからこそ、生命の流れを絶やしてはならないのだ」

 ダイゴがそう言った時、いきなり一人の少年が走って来た。

「タクマ、大変だ! キングだよ! ハーレムキングが来やがった!」

「なんだと!」

 怒鳴ると同時に、走って行くタクマたち。ダイゴもその後を追った。




「な、なんだよ……」

 呆然とした表情で、タクマは呟いた。恐ろしい数の車やバイクが、こちらに向かって来ている。ざっと百人近くはいそうだ。皆、様々な武器を手に、じっとこちらを睨んでいる。

「ダイゴ、どうしよう」

 不安そうな声で尋ねるタクマ。それに対し、ダイゴは力強く答える。

「タクマ、お前はリーダーなんだ。リーダーのお前が不安になれば、みんなが不安になる。まずは、奴らが中に侵入できないよう入口を固めておけ。俺は、外で奴らを迎え討つ」




 バイクに乗り、敵の方に近づいて行くダイゴ。その後ろからは、武器を構えたタクマたちが続く。

 すると突然、敵の群れの動きが一斉に止まったのだ。さらに、その集団が綺麗に二つに分かれる。

 その分かれた間から、一台の装甲に覆われたオープンカーが現れ、こちらに向かい進んで来る。

 その車の後部座席には、奇妙な二人が乗っていた。一人は若く美しい女だ。だが、その顔からは勝ち気な性格がにじみ出ている。頑丈そうな革の服を着ており、手にはチェーンを持っていた。

 その横には、鎧を着た者が座っている。身長は高く、肩幅も広い。面を付けているため、表情は見えないが……その視線は、ダイゴだけをじっと捉えている。

「キングだよ……ハーレム・キングが自ら出てきたんだ」

 呟くように言うタクマ。やがて車は停まり、キングが悠然とした態度で降りて来た。

「お前が噂の男か。チャック三兄弟に勝ったからといって図に乗るなよ。悪いが、お前らみんな死んでもらう。お前らのようなガキに、ミュータントが敗れた……なんてことは、あってはならんのでな」

 その声からして、キングが男であるのは明白であった。ダイゴは笑みを浮かべる。

「フッ、キングよ……仮にも王を名乗るのであるなら、この俺とサシで勝負をしてみないか?」

「はあ? この俺と、サシで勝負するというのか?」

 そう言うと、キングは呆れたように首を振る。しかし、ダイゴはさらに言葉を続ける。

「俺が勝ったら、兵を引いておとなしく帰ってくれ。お前が勝ったら、俺とゼブンガーを好きにして構わないぞ。どうだ、やる度胸はあるか?」

 ダイゴの言葉に、キングは後ろを向いた。

「いいか、お前らは手を出すんじゃねえぞ。今から、サシの勝負だ。よく見ておけ……三分で終わらせる」


 開始と同時に、敏捷な動きでキングの周囲を回るダイゴ。一方、キングは構えすらせず、じっと棒立ちになっている。

 意を決したダイゴの、短い気合いが響き渡った。直後、一気に間合いを詰め強烈な横蹴りを放つ――

 しかし、キングは微動だにしない。まるで効いていない様子だ。

 次の瞬間、キングが腕を振る。端から見れば、腕を無造作に振っただけに見える。だが、その一撃でダイゴは吹っ飛ばされた。

「く、くそ……何て硬い鎧だ」

 思わず毒づくダイゴ。すると、キングの声が聞こえてきた。

「この鎧は、科学者アイザムの発見した超弾性金属で造られている。ロケットランチャーでも弾き返す代物だ。もっとも、重さの方も三百キロあるがな。貴様ごときの技では、傷一つ付けられん」

「なんだとぉ! 破裏拳流をなめるなあ!」

 起き上がると同時に、飛び横蹴りを食らわすダイゴ。さらに、コンクリートブロックをも破壊する突きの連打を見舞う――

 キングはその攻撃全てを、棒立ちのまま受け止めた。次の瞬間、またしても大振りのパンチを振るう。

 その一発で、ダイゴは倒れる。何の芸もない、ただ力任せに腕を振るうだけの一発。だが、凄まじい腕力から繰り出されるパンチは、それだけで凶器である。ダイゴは仰向けに倒れ、呻き声を上げた。

 キングは、倒れたダイゴをしばらく見下ろしていたが……次に女の方を向く。


「ミュータント・レディ、終わったぞ。この男は見せしめのために、明日処刑する。バイクは回収し、バラバラに分解するのだ」


 その言葉を聞いた瞬間、ブンタは振り向いた。バイク……いや、ゼブンガーに叫ぶ。

「ゼブンガー! 早くダイゴを助けて! このままじゃ、ダイゴが殺されちゃうよ!」

 だが、ゼブンガーは何も反応しない。ブンタは顔を歪め、キングを睨み付けた……。

 ぎりりと奥歯を噛みしめ、石を拾い上げるブンタ。だが、その時――


「やめなさい、ブンタ」


 それは、うら若き女性の声であった。ブンタは慌てて、あたりを見回す。だが、それらしき者はいない。

「い、今の……ゼブンガーの声?」

 ゼブンガーに、恐る恐る尋ねるブンタ。すると、また声が聞こえてきたのだ。

「ダイゴは必ず勝つ。彼を信じるのよ」


 その言葉を証明するかのように、ダイゴは立ち上がったのだ……。

「キング、まだ終わってはいないぞ……」

 よろよろしながらも、構えるダイゴ。それを見たキングは、面倒くさそうに首を振る。

「お前のしぶとさには、呆れ果てたな。だったら、この場で殺してやる」

 言うと同時にダイゴに近づき、拳を降り下ろすキング。だが、次の瞬間キングは驚愕した。

 振り下ろしたキングの右腕を、ダイゴが両手でがっちり掴んだのだ。さらにダイゴは飛び上がり、その両足がキングの右上腕に巻き付いていく。

 それは、一瞬の出来事であった。ダイゴは両足をキングの右上腕に巻き付け、しっかりと挟む。と同時にキングの右前腕を両手でしっかり固定し、全身の力を一気に解放させ肘関節を極める――

 痛みのあまり、キングは吠えた。彼の右肘は、逆方向にねじ曲げられ破壊されている。ダイゴの、飛び付き腕ひしぎ十字固めが決まったのだ。

「いくらお前でも、関節の構造は人間と同じだったようだな!」

 叫ぶダイゴ。だが、キングも負けてはいない。折れたはずの右腕で、強引にダイゴを地面に叩きつける――

 ダイゴは、思わず呻き声を上げる。その瞬間、彼の両足が離れた。ダイゴの体は、再び地面にて仰向けに倒れた状態になる。

 間髪いれず、踏みつけにかかるキング。しかし、ダイゴは地面を転がり躱した。さらに後転し、どうにか間合いを離していく。

 直後に素早く立ち上がり、両拳を挙げ構えるダイゴ。だが、その表情が険しくなる。

 折れたはずのキングの右肘が、シュウシュウと音を立てているのだ。さらに右腕から、湯気らしきものも上がっている……。

「なめてもらっては困るな! 俺はこの程度のケガなど、一分もあれば元通りに再生できる! お前は、俺には勝てんのだ!」

 勝ち誇ったようなキングの声が響く。しかし、目の前の予期せぬ光景に、キングの動きは止まった。

 その時……ダイゴは、目を閉じていたのだ。低い姿勢で構えたまま、ゆっくり深呼吸をしている。まるで、体内に何かを溜めているかのように。

 やがて、その目が開かれた。キングに向かい、ゆっくりと語り始める。


「正しい道を歩まんと欲すれば、醜い欲望を力で叶えんとする者との衝突は避けられん。悪の暴力を打ち砕くため、己が拳を凶器へと変貌させる技……人、それを武術という」


「お前は何を言っているんだ? この状況が分かっているのか?」

 キングの声には、余裕が感じられる。だが、それも当然だった。関節技でへし折られた腕も、もうじき元に戻る。ダイゴの技は、何一つ通用していないのだ。

 自分の勝利は、間違いない。


 しかし、ダイゴは平然とした表情で言葉を続けた。

「キング……お前の力は、俺の遥か上をいっている。だが、お前の技は曇り、完全に錆び付いているようだな」

「なんだと?」

「その理由は、貴様の着ている鎧だ! 磨き抜いた五体以外の何物かに頼らんとする性根が、技を曇らせているのだ! 貴様を、その鎧の呪縛から解き放ってやる!」

 言うと同時に、ダイゴが構える。

 次の瞬間、短い破裂音が響いた――

「な、なんだと……」

 呆然となるキング。確かに、ダイゴが何かしたように見えた。しかし、ダイゴの動きは全く見えなかったのだ。

 一方、ダイゴはニヤリと笑う。

「いい音だろう。これは、物質が音速の壁を超えた瞬間の音さ。俺の突きは今、音速を超えたんだ!」

 直後、ダイゴはもう一度突きを放つ……だが、拳の軌道は誰の目にも見えなかった。ただ、またしても破裂音が響いただけだ。

「な、なんだ今のは……」

 呟くようなキングの言葉に、ダイゴが答える。

「足の親指から足首、足首から膝、膝から股関節、股関節から腰、腰から肩、肩から肘、肘から手首……同時八ヶ所の関節の加速と、体内で練り上げた大地の気の融合が、この奇跡を生み出す」

 そう言うと、ダイゴは低い姿勢で構える。

「行くぞ、キング。お前を、鎧の呪縛から解き放ってやる」

「ほざけ! 俺の鎧が、貴様ごときに敗れるか!」

 怒鳴ると同時に、キングは突進していく。一気に間合いを詰め、殴りかかっていった。

 だが、その時――


「天! 地! 神! 真空・ハリケーン突きいぃ!」


 ダイゴが叫んだ。直後に、強烈な破裂音が響き渡る――


 その闘いを見ていた者は、目の前で何が起きているのか分からなかった。

 しかし、それも当然だろう。三百キロの鎧を着たキングの巨体が、地上から二十センチほど浮いているのだ。しかも、機関銃で撃たれているかのように小刻みに痙攣し、さらに破裂音が断続的に聞こえてきている――

「突き、だ……」

 タクマは、呟くように言った。

「突き?」

 聞き返すブンタ。すると、タクマは頷いた。

「ダイゴの放つ音速の突きの連打が、キングの体を浮かせてるんだ……」

 その言葉を聞き、子供たちは我を忘れて目の前の神業を見つめていた。


 その時、ダイゴが叫ぶ。

「奥義を受けろ! バッドハンドスマッシュ!」

 声ともに、ようやく拳が止まる。同時に、キングも着地した。

 だが次の瞬間、ダイゴが仰向けに倒れる。

「ダ、ダイゴ!」

 タクマが叫ぶ。一方、ミュータント・レディたちは高らかに笑った。

「ほーほっほっほっほ! ダイゴが倒れた以上、キングさまの勝ちだね!」

 言いながら、キングに駆け寄るレディ。だが、その顔が驚愕で歪む。キングは、立ったまま動こうとしないのだ。彼の顔を覆っていた面は、いつの間にか砕け散っており表情が露になっている。

 そしてキングの表情は……衝撃のあまり歪んだまま固まっているのだ。

「キ、キングさま……」

 思わず、声を上げるレディ。だが返事はない。

 その数秒後、キングの鎧全体に亀裂が入る。ピキピキという音とともに、亀裂は広がっていく――

 そして鎧は砕け散り、ただの金属片として地面に落ちた。直後、キングも仰向けに倒れる。

 そう、キングは……ダイゴの音速を超える突きをダース単位で食らい続けた結果、彼の鎧は破壊されてしまったのだ。そして自身もまたダメージに耐えきれず、立ったまま意識を失った……。

 と同時に、ダイゴが立ち上がる。

「俺の勝ちだ……ミュータント・レディ、キングを連れてさっさと帰れ」

 そう言った後、ダイゴはふらつき、地面に膝を着いた。

「ダ、ダイゴ!」

 叫びながら、集まってきた子供たち。すると、ダイゴは力なく笑う。

「フッ、さすがに音速を超える突き連打は……きつかったぜ。だがな、俺たちの勝ちだよ」

 そう言うダイゴの横では、鎧を割られ意識を失ったキングが運ばれて行く。

 タクマら子供たちは、自分たちの勝利を確信した。しかし、まだ終わりではなかった。激怒したレディが、声を発したのだ。


「こうなったら、パグガンダーを発進させるのだ!」


 その声と同時に、地鳴りのごとき音が聞こえてきた。少年たちは驚き、音のする方を見る。

 巨大なトラックが、こちらに向かって来ている……車体の前面は、犬の顔のようなデザインである。さらに額とおぼしき部分には赤い回転灯が付いており、両側からは巨大な腕が伸びていた。

「ゆけ、パグガンダー! 全てを破壊しろ!」

 レディの号令とともに、トラック型ロボット・パグガンダーは子供たちに向かい走り出す――

 その瞬間、ダイゴが叫んだ。

「チェーンジ! ゼブンガー! ゴー!」

 同時に、バイクがひとりでに走って来た。バイクが宙を舞い、ゼブンガーへと変形する。

 ゼブンガーは、パグガンダーに向かい突進して行った。







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