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短編集だよ!(ボツ作品もあり)  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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16/55

コスモナーフトと黒猫

 わたしのゆめは、コスモナーフトになることです。


 一ねん二くみ のうみ りか


 ・・・


「わたし、大きくなったらコスモナーフトになるんだよ」

「こすもなーふと? それは何だニャ?」

「宇宙船に乗って、宇宙に行ってお仕事をするんだよ。よその星に行ったりもするんだ」

「ふーん。なんだか、ワケわからん仕事だニャ。それは凄いのかニャ?」

「とっても凄いんだよ。わたし、大きくなったら絶対コスモナーフトになる!」


 それは、とても不思議な光景であった。

 暗く、深い穴の中……幼い少女が、一匹の黒猫と話しているのだ。黒猫はとても綺麗な毛並みをしており、太り過ぎず痩せ過ぎず……均整のとれた体つきをしている。長くふさふさした尻尾は、奇妙なことに二本生えていた。

 だが、その猫と少女が普通に会話していることに比べれば、尻尾が二本あることなど大した異変ではないだろう。




 少女の名は納見梨花ノウミ リカ、小学一年生である。最近、両親と共にこの田舎の村に引っ越してきたのだが……好奇心旺盛な彼女は、村の周辺を探検している途中で古井戸に落ちてしまったのだ。

 底には落ち葉が積もっており、幸いにもケガはなかった。しかし、古井戸の中はあまりにも暗く不気味である。不安と恐怖から、梨花はついに泣き出した。

 だが、その時――

「お前、何してるニャ?」

 とぼけた声と共に、のっそりと現れたもの。それは一匹の黒猫であった。

「えっ……ね、猫なの!? 喋れるの!?」

 叫ぶ梨花に対し、黒猫は呆れたように後ろ足で耳を掻いた。

「あたしは、どうしたのかと聞いたんだニャ。お前は、言葉も通じないアホなのかニャ?」

「あ、アホじゃないもん! 一年生になったんだから!」

 さっき泣いていたことも忘れ、梨花は顔を真っ赤にして言った。すると、黒猫は梨花に近づいていく。頭のてっぺんから爪先まで、彼女の体をじっくりと見つめた。

「ああ、分かったニャ。お前、ここに落っこちたんだニャ。こんな穴に落ちるとは、やっぱりアホだニャ」

 小馬鹿にしたような口調の黒猫に、梨花は地団駄を踏んだ。

「アホじゃないよ! わたしは大きくなったら、コスモナーフトになるんだから!」

「ニャ? 何だニャそれは?」




 そして今、梨花は先ほどまでの不安も恐怖も忘れ、黒猫に向かい、コスモナーフトについて語り続けている。

「とにかく、コスモナーフトは凄い仕事なんだよ。いつか、宇宙で人が住めるようにもなるし――」

「分かったニャ……そのコスモ何とかが凄いのは分かったニャよ」

 少しうんざりした口調で黒猫は言った。そして上を見る。

「お前、一人で上がれるかニャ?」

「えっ……」

 その時になって、梨花は自身の置かれた状況を思い出したらしい。恐る恐る、上を見てみる。

 地上までは、かなりの距離がある。あそこから落ちて、擦り傷だけで済んだのは奇跡に近い。自分一人では、とても上がれないだろう。

「無理だよ、こんなの……わたし一人じゃ、上がれないよ」

 梨花の目から、涙がこぼれる。彼女はふたたび、今おかれた状況を思い出したのだ。こんな深い穴に落ちてしまって、どうやって家に帰ればいいのだろう。

 その時、ため息のような声が聞こえた。

 次の瞬間、黒猫が宙に飛び上がる。さらに、宙でくるりと一回転した。

 すると、黒猫の姿が消えた。代わりに、人間の女が出現したのだ。

 梨花は呆然としながら、その女を見上げる。女は背が高く、長い黒髪と野性味あふれる風貌をしている。さらに、その頭には三角の耳が生えているのだ……まるで猫のような。

「ほら、ボケッとしてないで、こっちに来いニャ」

 言いながら、手を差し出す女。だが、梨花は唖然とした表情のまま硬直している。

「ね、猫が変身した……」

「あのニャ、あたしは二百年も生きてる化け猫ミーコさまニャ。変身くらい、わけないニャ。それより、早くここから出るニャよ」

 言うと同時に、ミーコは梨花を抱き上げる。

 そして、一気に跳躍した――


 梨花は、目の前で起きたことが未だに信じられないようであった。喋る黒猫が、目の前で人間の女に変身した。しかも、その女は自分を抱き抱え、深い古井戸の底から一気に飛び上がったのだから。

「コスモ何とかの小娘、気をつけて帰るニャよ」

 ミーコは向きを変え、立ち去ろうとする。だが、梨花は彼女の手を掴んだ。

「行っちゃやだ」

「なんだニャ? ここからなら、一人で家に帰れるニャよ。あたしは忙しいんだニャ」

 そう言って、ミーコは歩き出そうとする。しかし、梨花は彼女の手を離さなかった。

「待ってよ。ねえ、わたしの友だちになって」

「ニャニャ? 何を言ってるニャ。あたしは、三百年も生きてる化け猫ミーコさまだニャ。人間とは、友だちにならないニャよ」

「そんなの、やだよ……せっかく出会えたのに。わたし、ミーコとまた遊びたい。もっと、ミーコと仲良くなりたいよ……」

 梨花の目には、またしても涙が浮かんでいる。今にも泣き出しそうな顔で、ミーコを見上げていた。

 ミーコは目を逸らし、ため息をつく。

「わがままな小娘だニャ……じゃあ、お前が大人になった時、もう一度会いに来てやるニャ」

「本当に!?」

「ああ、本当だニャ。お前が、コスモ何とかになった姿を見に来てやるニャ」

「約束だよ……絶対に、見に来てよ!」


 ・・・


 それから、二十年が経った。


 アパートに帰ってきて、納見梨花はホッと一息ついた。ジーパンとトレーナー姿の彼女は、見るからに不健康そうである。頬の肉は綺麗に削げ落ち、まるで骸骨のようだ。左足を引きずりながら、梨花はソファーに座る。

 ポケットの中に手を突っ込み、先ほど買った物をテーブルの上に置く。

 それは、白い結晶の入った小さなビニール袋の切れ端であった。

 さらに梨花は、ソファーの下に隠しておいた注射器を取り出す。震える手で、ビニール片の中に入った結晶を砕く。

 その時、梨花は何者かの視線を感じた。同時に、パッとそちらを向く。

 すると、そこに一匹の黒猫がいたのだ――


 驚愕の表情を浮かべ、黒猫を見つめる梨花。どこから入って来たのだ? 窓は閉めきってあるし、ドアも鍵はかかっている。違法な薬物にどっぷりハマってはいるが、彼女は用心を忘れたことはない。

 では、どうやって入ったというのだ?


 不意に、梨花は笑い出した。どうやら、来るべきものが来てしまったらしい。

「なるほど、ついに幻覚を見るようになっちゃった訳だ。あたしももう、末期的症状だね……で、いったい何しに来たの?」

 顔を歪めながら、黒猫に語りかける梨花。どうせ幻覚なのだ。答えなど、返って来ないかもしれない。

「お前、あたしのことを忘れたのかニャ?」

 梨花の予想に反し、黒猫の口から出たのは流暢な日本語であった。

 彼女は頭を抱える。これは間違いなく幻覚だ。ついに、薬物が脳を犯し始めたらしい。喋る猫など、この世にいるはずがないのだ。

 だが、梨花はハッとなった。あれは、確か二十年ほど前のことだ。田舎の村に引っ越して間もない頃、喋る黒猫に出会ったではないか。古井戸に落ちた彼女を助け出し、去って行った黒猫……名前はミーコ。家に帰ってから両親や友だちに話したが、皆は夢を見ていたのだろう、と言って誰も信じてくれなかった。梨花もまた、あれは夢だったのだろう……と思うようになっていた。

 その喋る黒猫ミーコが、今ふたたび現れたのか?


 不意に、梨花は笑い出した。

「ったく……幻覚って、こんなしょうもないの? 何で、昔の夢に出てきたキャラが――」

「小娘、お前はコスモ何とかになったのかニャ?」

 ミーコの口から出た言葉……それを聞いた瞬間、梨花は黙り込んだ。コスモ何とかとは、間違いなくコスモナーフトのことだ。

 思わず、歪んだ笑みを浮かべる梨花。昔、宇宙飛行士を目指す少女を主人公にしたアニメが放送されていたのだ。タイトルは『コスモナーフト』。ロシア語で宇宙飛行士という意味だった。なぜ、ロシア語の言葉を子供向けアニメのタイトルにしたのか、未だによく分からないが。

「宇宙飛行士、ね。なれるわけないじゃん。見なよ、この足」

 梨花は、左足の裾を捲って見せる。

 そこには、金属製の義足が付いていた。

「バイクで帰る途中、酔っぱらいの車が突っ込んできてさ……左足はぐしゃぐしゃ。コスモナーフトもクソもないってわけ。健常者ですら狭き門なのに、これじゃあ無理だよ」

 自嘲の笑みを洩らす梨花。しかし、ミーコは黙ったままだ。緑色に光る綺麗な目で、じっと梨花を見つめている。

 その態度は、梨花を苛立たせた。彼女は、さらに喋り続ける。

「あたしはね、コスモナーフトになるために努力してきたんだよ。頭わるいのに理系の勉強をして、博士号を取るために大学院に進学しようとした。余った時間には、ひたすら体を鍛えた。だから家に帰っても、体力も気力も残ってない。ただ食べて寝る……それだけだったよ」

 梨花は、熱に浮かされたように語る。それでも、ミーコは黙ったままだ。

「食べたいものも食べず、飲みたいものも飲まず、お洒落もせず、男とも付き合わず、遊びも知らずにずっと努力してきたのに……酔っぱらいの車が突っ込んできて、全てはパーだよ。どうせ叶わない夢なら、努力なんかしなきゃ良かった。まったく、無駄な時間を過ごしただけだったよ」

 梨花は、いったん言葉を止めた。またしても自嘲の笑みを浮かべる。

「叶わない夢のために、無駄な努力を重ねて……あたし、本当にバカだよね」

 その言葉を聞いた時、ミーコはため息のような声を洩らした。

「お前がアホなのは知ってるニャ。で、今の暮らしは楽しいのかニャ?」

 静かな口調で、ミーコが尋ねてきた。梨花は、不快そうに顔をしかめる。

「まあ、あの時よりはハッピーに過ごせてるよ。なんたって、疲れることは一切しなくていいしね」

「それは本音なのかニャ? コスモ何とかを目指していた頃と、今と……どっちが楽しかったのかニャ? 本当の気持ちを、正直に言ってみろニャ」

 なおも問い続けるミーコ……梨花の顔が歪む。

「今の方が楽しいって言ってるでしょ! しつこいんだよ! さっさと消えてよ!」

 怒りも露に、怒鳴りつける梨花。すると、ミーコは面倒くさそうに毛繕いを始めた。

「そうかニャ。まあ、お前がそう言うなら、そうなんだろうニャ。あたしには関係ないけどニャ」

 どうでもよさそうな口調で、毛繕いを続けるミーコ。梨花のことなど、見ようともしていない。

 その姿を見た時、梨花の中で何かが弾けた。

「すかしてんじゃねえ! さっさと消えろ!」

 怒鳴ると同時に、テーブルに置いてあったコップ……その中に入っていた水を、ミーコにぶちまけた。水は狙いたがわず、ミーコの体にかかる。

 ミーコは濡れた体で、チラリと梨花を見つめる。そして、いきなり空中に飛び上がった。

 すると、ミーコは黒猫から人間の姿ヘと変わったのだ――

 呆然となる梨花。一方、ミーコはつかつか近づいていく。

 次の瞬間、無造作に梨花の首を掴み、片手で高々と持ち上げた――

「小娘、あたしは四百年も生きてる化け猫ミーコさまだニャ。あたしは、礼儀を知らないクズは嫌いだニャ。今すぐ、殺してやろうかニャ」

 ミーコの口調は、ひどく静かなものだった。しかし、その腕力は尋常なものではない。片手で、梨花の体を持ち上げているのだ。

 だが不思議と、梨花に恐怖心はなかった。

「やりたきゃ殺りなよ……早く殺してよ」

「……」

 ミーコは黙ったまま、じっと梨花を見つめている。だが、梨花はさらに喚き散らした。

「さあ、早く殺んなよ! あたしなんか……生きててもしょうがないんだ! さっさと殺しなよ! ほら早く――」

 その瞬間、ミーコは梨花を投げ飛ばした。

 梨花は床に叩きつけられ、苦痛のあまりうめき声を洩らす。

 そんな彼女を、ミーコは冷たい表情で見下ろしていた。

「お前は、殺す値打ちもないクズだニャ。そんなに死にたきゃ、自分でやればいいニャ」

 ミーコの言葉は冷たかった。先ほどまでの、とぼけた口調とは完全に真逆である。梨花は下を向き、唇を噛み締めた。怒りと悔しさとで、彼女の体は震えている。

 だが、ミーコの言葉は終わらない。

「コスモ何とかを目指していた時のお前は、本当にアホだったけど、眩しいくらい綺麗な目をしていたニャ。でも今のお前の目は、恐ろしく汚ないニャ。今のお前の顔は、どんな妖怪よりも醜いニャ」

 ミーコの言葉は、梨花の心を深く抉る。だが、梨花は何も言い返せなかった。ミーコが言っているのは、彼女自身も感じていたことだからだ……。


「お前は気づいていないみたいだけど、お前の腐り果てた心の匂いが、この部屋に充満してるニャ。こんな臭い部屋にいられないから、あたしは帰るニャよ」

 淡々とした口調で言うと、ミーコは窓に向かい歩いて行く。

 だが、足を止めた。

「もう一つだけ、お前に言うことがあるニャ。お前はさっき、無駄な努力をしてきたと言ったニャ。でも、お前の努力は本当に無駄だったのかニャ? コスモ何とかになれなかったから、努力は全て無駄になった……本当にそうなのかニャ? お前の努力の成果は、お前の心と体の中で眠っていて、お前がそれに気づいていないだけなんじゃないのかニャ?」

「えっ……」

 梨花は顔を上げ、ミーコの後ろ姿を見つめる。

 だが、ミーコは梨花のことを見ようともしていなかった。冷たい口調で、言葉を続ける。

「この先、どうするかはお前の自由だニャ。クズのまま、無様に生き続けるも良し。死にたいなら、自分の手で人生を終わらせるも良し……決めるのは、お前だニャ」

 そう言った次の瞬間、ミーコの姿は消えていた。


 ・・・


 三年後――


 ここは、都内にあるトレーニングジムである。お洒落な音楽が流れ、ダイエット目的の主婦や暇な学生たちが集う場所だ。皆、和気あいあいとした雰囲気でトレーニングに励んでいる。

 しかし、ジムの片隅には……他の者たちとは、全く異質な雰囲気を醸し出す二人組がいた。


 がっちりした体つきの男が、バーベルをベンチにセットしている。逞しい筋肉質の体と険しい顔つきは、彼がこれまでどのような人生を送ってきたかを物語っていた。

 一方、ベンチに腰掛けているのは納見梨花だ。


 逞しく発達した筋肉質の体。強靭な意思を秘めた顔つき。今の彼女には、かつて薬物に溺れていた頃の面影はどこにもない。

 やがて梨花は、ベンチに背中を着けた。

 バーベルを両手で握る。

 梨花が今からやろうとしているのは、ベンチプレスだ。ベンチに仰向けに寝た状態で、バーベルを押し上げる種目である。ウエイトトレーニングの中でも人気が高く、ベンチプレスの記録を競う競技会もあるほどだ。

 現在、ベンチプレスはオリンピックの正式種目としては認められてはいない。しかしパラリンピックにおいては、正式な種目として採用されているのだ。


「いいか、集中力だ。集中し、全身の力で挙げろ。お前にはパワーはある。あとはミスさえしなければ、必ず挙がる。いいな?」

 男の声に、小さく頷く梨花。

 バーベルがラックから外され、胸元まで降りる。

 重い。

 だが、梨花の鍛え抜かれた筋肉は、彼女に告げている……これなら挙げられる、と。

 梨花の全身に力がみなぎった。と同時に、彼女は息を吐きながらバーベルに力を込める。

 その時、梨花は勝利を確信した――

 鋭い気合いの声。同時に全身の力を上半身に集中させ、梨花はバーベルを挙げきった。


「やったぞ梨花! このペースなら、日本記録も充分に射程圏内だ! パラリンピックも見えてきたぞ!」

 大きな体で、少年のようにはしゃぐ男……梨花は苦笑しながらも、大きく頷いて見せた。

「任せといて。次の全日本大会では、必ず日本記録を叩き出してやるから」

 そう言ってのけた彼女の表情は、自信に満ち溢れていた。




 そんな二人の様子を、ガラス張りの壁越しにじっと見つめている者たちがいた。一人は目付きの鋭くガラの悪い青年。もう一人……いや一匹は、尻尾が二本ある黒猫だ。

 青年は両手で黒猫を抱いたまま、ガラス張りの壁の向こう側に立っている。


「ミーコ、よかったなあ。梨花ちゃん、立ち直ったじゃねえか」

 青年の言葉に、ミーコはプイと横を向く。

「ふん、あたしの知ったことじゃないニャ。あんな小娘がどうなろうと、あたしには関係ないニャ」

「ったく、素直じゃねえなあ。でもさ、あの梨花ちゃんも、お前のお陰で立ち直れたんだから」

「それは違うニャ」

 そう言って、ミーコは青年の顔を見上げる。

「あの小娘は、コスモ何とかになるために必死で努力していたニャ。その努力は、小娘の人間としての器を広く深いものにしていったニャ。その器には、コスモ何とかは入らなかったかもしれない……でも、他のものが入るだけの容量は充分に備えていたニャ。そこに今、新しいものが入っただけだニャ。あたしが何も言わなくても、小娘はいつか必ず立ち直っていたニャ」

「お前、たまに難しいこと言うなあ」

 青年は苦笑し、梨花の方に視線を移す。梨花は今、ストレッチをしていた。金属製の義足を隠そうともせず、リラックスした表情で男と語り合いながらストレッチに励んでいる。

 そんな梨花の瞳は、キラキラ輝いていた。昔、ミーコの前でコスモナーフトについて語った時と同じように。


「まったく、嘆かわしい話だニャ」

 突然、吐き捨てるような口調で言ったミーコ。

「何が嘆かわしいんだよ。梨花ちゃん、凄い楽しそうじゃねえか」

「よりによって、何であんなゴリラ男を選んだのかニャ。あいつは大飯食らいで筋肉バカで不細工で……あんなのと結婚したら、小娘はきっと苦労するニャよ。もっとイケメンで金持ちの男は、世の中にいくらでもいるはずだニャ。男の趣味が悪すぎるニャよ。やっぱり、あの小娘はアホのままだったニャ」

 その言葉を聞いた青年は、呆れたような表情を浮かべた。

「んなもん、余計なお世話だろうが。小姑みたいだな、お前は」

「誰が小姑だニャ。あんな小娘、死のうが生きようが関係ないニャ。そんなことより、早く寿司食べに行こうニャ。わさび抜きのイカの握りが食べたいニャ」

「そうかい。本当に素直じゃねえなあ」


 ・・・


 私の夢は、パラリンピックに出ることです。


 納見 梨花







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