プロローグ
はじめましてさんも二度目以上ましてさんもこんにちわ。
神尾瀬 紫です。
異世界転移ファンタジー、ついに手を出してしまいました。
自分は小学生の頃に産まれて初めて小説を書いたのですが、その時のネタが異世界転移でした。
それから◯十年。まさかライフワークのように常に考えていた異世界転移物がこんなにブームになるとは。
後れ馳せながら参戦させていただきます。
楽しんでいただけたら、幸いです。
「ずいぶん今日暑くないか?」
まぶしい太陽の光を手で遮りながら見上げる。
「そうかな?ようやく秋らしくなってきたって、テル君先生言ってたじゃん。」
自分の肩よりも下からかかる生意気な声に、視線を下ろした。
見上げてくるのは俺の受け持ちクラスの一人、俊輔。
親がサッカー好きで某サッカー選手の名前をもらったらしい。しかし本人は運動全般が苦手だ。その代わり、暗算が早い。
「それは昨日までの話だろ?今日は急に暑いよ。」
それにやけに太陽が眩しい。
そんな会話をしながら、俺は目の前に気を配る。
現在は体育の授業中。今回はサッカー。
俺はどちらかと言えば野球派で、大学の教育学部に入ったときに改めてサッカーのルールブックを読み込んだ程度だ。
すると積極的に走り回る5、6人のうち、二人がもつれるように転んだ。
すかさず首から下げたホイッスルを吹きならす。
「はいはーい。恵美莉が世南を押したな。」
駆け寄りボールをキープしつつ、二人の怪我の有無を確認する。擦り傷は出来ているが血は出ていない。二人とも大丈夫と頷いたので、ファールのあった場所から世南ボールで再開した。
また元気に走り出した子供たちを確認しながら、ジャージの上を脱いで腰に巻く。
子供たちにはずいぶん不評な蛍光イエローのジャージ。
いや、自分でも好きで選んだ訳じゃない。
ただ、前のジャージが破けてしまい、慌てて買いに行ったが予算内に収まるものがこれしかなかった、というだけだ。
多分店側も売れなくて困ったのだろう。値下げシールが何枚も上貼りされていた。
もっと高い物ならばいくらでもかっこいいのはあった。
しかし、しがない公務員の急な出費にはこれが限界だ。
子供たちには散々『目が痛い』だの『ダサイ』だの言われまくっている。
それでもコミュニケーションの一貫と考えれば楽しいものだ。と、半ばヤケクソだ。
現在コートでゲームに参加しているのが11人と11人で、22人。俺のクラスは30人なので余っている8人がコート外で見学をしている。
そのどちらにも目を配りながら、俺はにじんだ汗を拭った。
いくらなんでも10月でこれは異常気象じゃないのか?
そんな風に感じたとき。
「?・・・え?」
眩しいと感じていた太陽がまるで巨大化するように輝きを増した。
世界がまるで真っ白に塗り広げられる。
「うわっ」
目を開けていられなくて思わず顔を腕で覆った。
そのまま目をギュッと閉じて・・・
「・・・う~。大丈夫か俊輔。」
隣にいるはずの少年へ声をかけた。
しかし返事がない。
次の瞬間、騒いでいた子供たちの声が聞こえないことに気付いた。
まず思ったのは子供たちの安否。
まさか一人残らず倒れているのではないか。
そんな気がするほど辺りが静かになっていた。
「っ・・・みんな‼」
目を開けて叫ぶ。
奪われた視力はまだ戻らない。
もどかしくまばたきを繰返し、感覚をフルに使って周囲を探る。
「大丈夫か‼どうし・・・」
俺はその言葉の先を続けられなかった。
ようやく脳が眼球からの信号を正確に読み取れるようになって、最初に理解したのはー
━━━ 森
「・・・ぇ・・・」
今度は混乱する脳を落ち着かせるために、何度もまばたきした。
どういうことだ?今俺は校庭にいたぞ?
足元に視線を落とす。
そのまま踵の後ろを振り返る。
柔らかな緑の草。そっと足を上げてみると、自分の体重で潰された草の断末魔のような薫りが立ち上る。
青臭い。
俺は思わず走り出した。
「俊輔!・・・恵美莉!世南!おい!みんな!!どこにいる!?返事しろ!」
その声は静かな森にむなしく響く。
「なんなんだよこれ!?いったいどういうことだ!おい誰か!誰かいないか!?」
森の中を走り回る。子供たちの姿を探すが、見えるのは樹木と草と花だけで、聞こえるのは葉が風でざわめく音のみ。
何がなんだかわからない。子供たちの名前を叫びながら走り回って・・・
息が切れて元の場所に戻ってきた。少し開けていて、広場のようになっている。
改めて視線を上げてグルリと見回す。
木の種類などはわからないが、広葉樹が生えている。
いやもうこういうときはどう表現するのだろう。
突然森の中に放置された俺は、何を認識するべきか悩んで茫然と立ち尽くしていた。
そしてとりあえずひとつの結論にたどり着く。
「やべぇ、校庭で倒れたかも。」
あまりに暑かった。子供たちには水分補給を忘れるなと水筒を持参させていたけど、自分は持っていない。
熱中症か。
まずい、早く起きないと子供たちが心配する。
隣に立っていた俊輔は大丈夫だろうか。まさか彼に倒れ込むようなことはしていないだろうな。あんな小さな体で、あまり大柄ではないとは言え大人の男を支えるのは無理だ。
ああ泣き虫のみくは驚いて泣いているかもしれない。
誰か先生を呼んで来てあでも川崎先生にはこんなカッコ悪い姿見られたくないなまだデートにも誘ってないのにか弱いイメージなんて持たれたくないでも
「養護教諭なんだよなぁ。」
ポツリと落ちた自分の声が脳に届いてハッとした。わずかな違和感は霧散する。
ハッとしたのにやはり自分はまだ森の中で立ち尽くしている。
しかし先程よりは少し落ち着いたかもしれない。とりあえず夢ならなんとかなるだろう。うちの子達はきっとなんとかしてくれる。
腹がくくれればもうジタバタしても仕方ない。
俺は近くの木の下に腰を下ろした。
暖かな木漏れ日。このむせ返るような緑の様子だと5月辺りの気候だろうか。四季のある日本で暑くもなく寒くもない適度な季節。
「とか言っても、さっきみたいにめちゃくちゃ暑い10月もあるんだけどな。」
思わず声に出す。そしてまた見えかけた違和感に気付く。
だが考えても何がおかしいのかわからない。
再び思考を手放す。
聞こえるのは風が木を揺らす音。葉擦れ。
遠くで鳥の鳴き声のようなものも聞こえるが、鳥の声に詳しいわけではない。
「でも、こんな夢なんで見てるんだろう。俺はこんなに自然豊かな環境の記憶なんてないんだけどな?」
一般的な町生まれ町育ち。都会とは言わないけれど田舎でもない中途半端なところで育って、今も結局赴任したのはそんな中途半端な場所の小学校。自然と言えば、学校の裏山か雑木林、それと大学の友達と行ったキャンプ場くらいのものだ。
どれも人の手が加えられて整備され、遊歩道もしっかりしている。こんなに、どっちから来たのかわからなくなるような自然の中に立った記憶はない。
改めて深呼吸をしてみる。
深い緑の薫り。
芳香剤とかで言う緑の香りではない、本当の青臭さ。
森の、大地の、草木の薫り。
たまにはいいかもしれない。
そんな風に、久々にストレスが洗い流されていく感覚に身を任せていたとき。
初めての感覚に支配された。
初めてすぎてどう表現したものか悩む。
言うなれば・・・
脳みそが右側に引っ張られるような?
眉間にしわをよせて少し堪えてみる。
しかし気持ち悪くて、つい右側に視線を動かして見た。
「どっ・・・なっ・・・」
驚きすぎた俺はうまく声が出せなかった。
「く、くも~!?」
くもはくもでも、蜘蛛ではなく雲だ。
白い、まるで入道雲みたいなモクモクとした雲が木々の間を走ってくる。
器用に幹の間を掠めるように浮いて走ってくるその姿は、普通にバイクか自転車のように軽やかだ。
その上に更に信じられないものを見て、声も出ず硬直する。
・・・人が乗っている。
白い雲の上に白い服の人が乗っているので、全体的に白い塊に見えるが、わずかに人の服の方がクリームっぽい色で、所々鮮やかな赤や緑の糸で刺繍が成されている。
その雲は俺の前まで来ると音もなく(当たり前だ、浮いてるんだから)停まり、乗っていた人が飛び降りてきた。
白いローブでフードまで被っているからほぼ顔も体も隠されているが、かろうじて“彼”であることはわかった。
彼は、白いローブが汚れるのもいとわず、恭しく膝をつき頭を下げた。
慌てたのは俺だ。こんな風に頭を下げられる立場も理由もない。あたふたと膝をつき同じような姿勢をとった。
しかし彼はそんな俺を見もせず、顔は地面に向けたままで、
「光の魔導師様。上からまいりましたことをお許しください。緑の魔導師様の元までご案内致します。」
と言った。
俺はブンブンと両手を振る。
「いやいや、俺はそんな人じゃないっすよ。人違いです。」
夢だとわかっているが思わず否定する。
そもそもなんだその“光の魔導師”って。まるでゲームかファンタジーアニメだ。
「いいえ。確かにあなた様は光の魔導師様です。予言の通りのお姿です。」
そのまま立ち上がった彼は、やはり俺の顔を見ることなく伏せたまま、乗ってくださいと掌で指した。
いやいや雲に乗れって。
これは、あれじゃないのか?
「もしかして、心がきれいな人間しか乗れないとか言うやつじゃないの?」
恐る恐る声に出す。
昔見たアニメで似たようなモノがあった。
白い男は微かに笑ったようだった。
「もしそうだとしても光の魔導師様が乗れないはずはないでしょう。」
う。
なんだその信頼は。まるでその“光の魔導師”サマは清廉潔白でなければならないような。
そんな人間いるか。
初めて会ったんだぞ。
その“光の魔導師”と言う言葉にも覚えがないのだけど。
俺が戸惑っていると、白い彼はその雲をポンポンと叩いた。
「大丈夫です。触ってみてください。誰もが乗れるわけではありませんが、ある程度の魔力があれば乗ることができます。」
「いやいや、魔力って・・・」
平凡な一般市民の俺にそんなものがあるわけがない。やっぱり誰かと間違えているんだ。
それでもこんなに近くに雲があるのが面白くて、そろそろと近付いた。
腰くらいの高さにある雲に触れる。
言うなれば、綿菓子。
しかし意外としっかりしている。
すると彼がヒラリとその雲に飛び乗って手を差し出してきた。
「さぁ。どうぞ。」
いやいやいや、どうぞって。
雲に触れている右手に力を入れてみる。
確かな手応え。
思いきって体重をかけてみる。
ピョンピョンと跳んでみてもびくともしない。
俺は一瞬躊躇ったが、好奇心に負けてその手をつかみ飛び乗った。
直後、グラッと傾いた体を彼が支えてくれる。
「・・・乗れた・・・」
思わず彼を見ると、『当然でしょう』と言わんばかりのドヤ顔。
いやいやなんでそっちがそんなに得意気なの。
心の中で突っ込んでおく。
俺の心の声に気付かない彼は、
「動きますので、掴まっていて下さい。」
と言って、ゆっくり雲を上昇させた。
外が見えるエレベーターのような感覚で、しかし全身に絡み付く風がリアルだ。
フワッと木々を抜ける。
眼下には緑のじゅうたん。そのじゅうたんが切れた先と、はるか彼方の山脈に挟まれる形で、大きな平地が広がっていた。所々に大きな建物がある町のように見えるが、全体的に平たい。
そしてその景色に思わず眉を寄せる。
彼が言う。
「ここが我が国、オルラミア王国です。」
「は、あ~!?」
聞いたことのない国の名前。夢だとしても、自分の脳ミソのどこから出てきた世界なのか。現状のすべてに対して力一杯疑問の声を上げる。
そしてようやく自分が感じていた違和感に気付いた。
こんなリアルな夢はあるわけがない。
風も匂いも音も、新鮮すぎて俺の中にはない。
夢とは自分の記憶の奥から表面に出てくるものなのに。
すると彼は雲を180度回転させて、町に背を向け前進した。
風を切る音がゴウゴウと耳を通りすぎていく。
鳥が目線を飛んでいる。
現状を理解できないまま天を仰ぎ、はるか上空にかなりデカいものが飛んでいるのを発見した。
「な、なんだあれ!羽のある蛇!?」
彼はチラリと上空に目をやる。
「あぁ、あれはオルラです。わが国固有の動物でとてもおとなしいんですよ。」
「へぇ~・・・。」
もう何も言葉が出てこない。
俺の頭が真っ白になっている間に雲はスムーズに飛び続け、やがて森の中ににょきりと建つ塔が見えてきた。
(えっと、あれだ。なんだっけ、どこかの国の古い教会的な建物に似てる。)
考えることを放棄して、今見えるものを観察してみた。しかし、表現できる言葉が出てこない。
ただ石造りの、教会みたいな塔を持つ大きな建物を囲むように、少し小さい教会的な建物が五つ建っているのがわかった。
雲が静かに下降を始め、そのゴシックな建物群に囲まれた広場に着地した。(といっても浮いてるんだけど)
「到着いたしました。光の魔導師様。」
白い彼がひらりと飛び降り、手を差し伸べてくる。
その手につかまって飛び降りる。
彼がさっと手を振ると、今まで確かにあった雲がふわっと消えてしまった。
寒気を覚えた俺は、腰に巻いたままだったジャージの上着を着込んだ。
すると今度は一番大きくて豪奢な建物の、金をふんだんに飾ってキラキラした扉が開いた。
重そうに開けて出てきたのは、今度は緑色と水色のローブをまとった二人。
その2人に対して扉の高さは優に二倍はあるだろう。ひたすらでかい。
俺が唖然と見上げていると、白い彼が声を掛けてきた。
「光の魔導師様。こちらです。」
「あ、ああ。」
もう人違いだとかその呼び方だとか否定するほど頭が機能していない。
頭を下げて迎えてくれる赤と青の2人の間を通って、建物内に入る。
「う、わぁ・・・」
思わず声が漏れた。
天井が高く吹き抜けになっていて、外から見た塔の内側のてっぺんなどよく見えない。
ただひたすら細かい彫刻や装飾がされてて、やはり金色にキラキラしている。四方・・・ではなく、正面の壁だけ長い辺を持つ八角形のホールの正面以外の壁には、それぞれ色彩の異なるステンドグラスがはめられていた。
そのステンドグラスからの光を受けて、特にキラキラして派手な正面の壁には、とても大きな人物像が“生えていた”
下半身が壁に埋まるようにして石造りの上半身が生えている。
首をそらして上を見るその姿に、なぜか胸が熱くなった。
その人物像の下に、五人の人物が並んでいた。気がつけば周囲の壁沿いに、20人くらいが赤白茶青緑と色毎にまとまって並んでいる。
その白組の四人の中に、俺を迎えに来た彼もいた。
俺は本能的に悟っていた。
ここまで案内してくれた彼よりも、目の前に並ぶ豪華な装飾のローブの人達を問いただすべきだと。
俺が声を出すより先に、左から青、白、緑、赤、茶と並んでいる中央、緑色の豪華なローブの人が進み出た。
被っていたフードを外す。それを合図にその場にいた全員がフードを外した。
しかし、周囲に並んでいる彼らは下を向いていて顔が見えない。
目の前に並んでいる、明らかに位の高そうな五人は、性別も年齢も様々だ。青い人が一番若そうで四十代くらいの男性。白と茶がもう少し年配に見える女性で、赤がきりっとした意志の強そうな目力の七十代くらいの男性。そして緑の人が一番年配に見える八十歳くらいの女性。
緑のおばあさんが恭しくひざを折った。
すると一斉に全員がひざまずく。
俺を迎えに来た白い彼と同じように。
そこで俺の限界が来た。
「もうそういうのはいいよ!誰か説明してくんない!?ここはどこなの!なんで俺はこんなトコにいるんだよ!!光の魔導師とか言われたって何のことか全然わからないし!とにかく早く元のところに帰してよ!」
叫んだ瞬間、目の前の巨大な人物像の目が突然光った。
まばゆい光が広い構内を照らし出す。
ひざまずいていた彼らは感嘆の声をもらし、更に身を低くした。
驚いたのは俺だ。
「な、な、なん・・・」
驚いたまま後ずさる。すると、その光はふぅっと消え、元のステンドグラスから差し込む光だけでキラキラした壁に戻った。
思わず緑さんを見る。
ひざを折っていた彼女はそのまま顔だけを上げた。
「そのお力が光の魔導師である証明でございます。今この聖なる光の魔導師像に力が与えられました。あなた様は自由に光の魔力を使えるようになったのです。」
まじめな声音で重々しく言われても、全然現実味がない。
「そんな力とかどうでもいいよ。とにかく俺は早くもとの世界に戻りたいんだ。何とかしてくれ。」
「帰ることは出来ませぬ。」
見た目通りのしわがれた声が告げる。
「古文書によれば二百年前にいらした光の魔導師様は、そのままこちらの世界で身罷られました。ただその方は戦乱の世だったため、戦争に巻き込まれて亡くなられたということでございますが、光の魔導師様をお呼びすることもお帰りいただく方法も存じません。」
「じゃなんで迎えに来れたんだよ。」
目上の人に対しての言葉遣いも乱暴になるほど混乱していた。
気にした風でもなく、緑さんは答える。
「こちらにおります我々五人は魔導師でございます。光の魔導師様がいらっしゃる前兆をつかみ、その魔力の出現を感じ、こちらの大気の魔導師の弟子をお迎えに上がらせました。」
「ちょっと待った。さっきから気になっていたんだけど、魔力って何?俺はごく普通に一般人だよ?」
するとずっと黙っていた赤いおじいさんが顔を上げた。
「先程の聖なる光の魔導師像の輝きが、光の魔導師様の御力の証明でございます。」
めちゃくちゃ渋い良い声で言われて、少し冷静になる。そして現状を理解した。
といっても、俺が話してるのはかなり年上な人達だという現状だけだが。
俺はひざまずいてる人達の目線に合わせるために正座をした。
額を押さえて頭を整理する。
「ちょっとまってください。だから、俺、いや、僕がその光の魔導師だってのはひとまず置いといて、その、あなたたちは僕の先輩なんですか?同僚?」
この人達は全員が魔導師だといっていた。それなら俺一人がこんな風に敬われるのはおかしい。だとしたら、この人達はお互いにこんな風にひざまずいているんだろう。不自然な気もするが、そう思うしかない。
しかし、魔導師全員が首を振った。
「我々は魔導師という立場ですが、光の魔導師様は我々よりもずっと尊いお方です。光は世界の命をはぐくみ、闇より守ってくださる力。光があるから空気が流れ大地に植物が育ち水が流れ火が生まれるのです。この世のすべての源なのです。」
だから俺が一番偉いと?
俺は慌てて両手をぶんぶんと振る。
「だからおかしいでしょう。僕は今訳のわからない状況になっているんですよ。魔力とか意味わからないし。だって、皆さんの弟子とかいっぱいいらっしゃるんだから、他に光の魔力を持ってる人がいるんじゃないですか?こんな新参者が一番偉いはずないんですよ。」
「いいえ。光の魔力を持つ者はこの世界には生まれません。歴代の光の魔導師様はすべて外の世界からいらっしゃった方でした。」
「・・・マジかよ・・・」
俺は天を仰ぐ。
きらびやかな高い天井が息を呑むほど美しい。思わず現実逃避しそうだ。
これは、認めるしかないのか?
全然違う世界に飛ばされたってことを。
そういえば、ものすごく暑かった。俺が暑がっている横で俊輔は涼しい顔をしていた。
そしてまぶしい光。目を開けていられないくらい太陽がまぶしくなって、気がついたら森の中だった。
あれか。俺をこちらに連れてきたのは。
こんな解釈だが腑に落ちたのか、妙に落ち着いてしまった。
子供たちが心配だけど、元の世界を知る術も帰る術もないということらしい。
あくまで今のうち、ということだが。
俺のいいところは順応力が高いところだ。腹がくくれればたいていのことには慣れられる。こんな蛍光イエローのジャージを着ているくらいだしな。
俺はひとつ大きく息を吐いた。
「自己紹介が遅くなってすみません。僕は飯田輝良といいます。いろいろお世話になりますが、よろしくお願いします。」
正座したまま手をついて頭を下げる日本式お辞儀に、他の魔導師たちが慌てた。
いかがでしたでしょうか。
まず、プロローグをお届けいたしました。
ファンタジーを形にして誰かに読んでいただくのは初めてで、ドキドキしています(笑)。
楽しんでいただけたら幸いです。
それでは次の更新で、お会いしましょう。
P.S メインで『Sweet Sweet Smile』という、激甘ラブストーリーを書いてます。よろしければそちらもお読みいただけると嬉しいです。