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コタツでテイム!  作者: ghost
鬼姫慟哭
4/8

第四話

「他の迷宮?」


「そうじゃ。」


 魔王さんがそう提案してきたのは、バニラアイスを妹と半分こしていた時だった。今日も妹はかわいい。ちなみにアイスやみかんは、炬燵で召喚できるものらしい。曰く、コタツに合うものなら可、なのだそうだ。


「知り合いの迷宮主が、眷属を多く抱えておるのでな、そこに調伏(テイム)しに行けば、ポイントも捗ろう。」


 なるほど新キャラ(てこいれ)ですね。しかし妹枠もヒロイン枠も娘枠もお姫様枠も、全部妹で埋まっています。今更キャラを増やしたところでアクセス数は変わらないと思うのですが。


「知り合いとはいえ、モンスターを奪ってもいいんですか?」


「そこは大丈夫じゃ。魔物を増やし過ぎて、何時も首が回らなくなりそうになっておるからの。」


 考えなしに増やしまくって赤字を出してるブリーダーみたいなものか。


「しかし、ここから移動できるんですかね?」


 考えてみると、迷宮に来てから、炬燵から出ていない。あれ?考えてみればトイレも行ってないぞ。不思議だ。


「それは分からん。聞けばよかろう。」


 そうですね。コタツちゃんに聞くと、炬燵の転移を使えば、炬燵に入っている人の行った事があるところなら行けるらしい。


 便利だ。それは炬燵ではない気がするけど。しかし、炬燵を出たくない、という欲求に対するサービスと考えれば、神の炬燵に移動手段が付いているのは、違和感ないかもしれないなうん。


 そしてトイレは欲求も生成される物体も、炬燵に入っている限りないそうだ。体内の廃棄物は完全に分解されて、エネルギーに変換されるらしい。何処までも炬燵から出なくていいように、無駄な機能がついている。


「鍋食い放題だね!」


 妹よ、喜ぶところが違う。あと補佐さんが、「酒も飲み放題…!」って感動してますけど、無料じゃないし。折角貯めたポイント、何に使うつもりですか。魔王さん解放しない気ですか。


「魔王さんは目的を見失ってないですよね?」


「えっ」


 ため息混じりに確認したら、狼狽えながら、目を逸らされた。あんたもかい。段々取り込まれてませんか?そのうち足がなくなって、炬燵から出られなくなる怪談とか、出来そうだな。まあいいか、さっさと転移してしまおう。


「転移先の指定方法は?」


『対象の宣言時、思い描いたところを追跡(トレース)するので、転移のキーワードの後に場所を言って下さい。』


「では、”転移、場所は、ピタルの迷宮、王の間”なのじゃ!」


 クォオン、という金属音とともに、炬燵を中心に、天井と床に魔法陣が現れ、お互いに 近付くように動き、挟まれていく。陣が通ったあとは、蛍のような光が散り、其処に有った下半身が、炬燵が、消えていく。最後に視界が光に包まれ、真っ白になった。


:

:


「えへへ〜。ララは相変わらず、舐めるのが好きやんねぇ。おっとと、堪忍、ルル危ないで?足に纏わり付いたら転ぶんやで?ロロは背中くすぐらんといて?いっつも甘えん坊なんやから〜。」


 転移の光が収まると、そこででかい毛玉の塊が喋っていた。よく見ると、なにか真っ白な四つ脚の獣が集まったもので、一匹の大きさは虎くらい。数は100匹以上いる。


「相変わらずじゃな、ピタル。ケモノ好きもいい加減にしておかんと、嫁にも行けんぞ。」


 魔王さんが呆れたように言う。迷宮主って嫁に行くんですね。全く権力構造とか階級の仕組みがわかりません。


「ち、(ちゃ)うねん!これは訓練!戦闘訓練なん!」


 もふもふに埋れて未だにこちらから見えないけれど、毛玉の中の人が、聞いてもないのに言い訳して来た。これが訓練なら犬で蜂玉でも作る気だろうか。もっと効率的な攻撃方法があるような気がするけど。あと戦闘訓練というなら、何故衣類が脱ぎ捨ててあるのか、いや、知りたくない、知りたくない。


 毛玉からずぼっと顔だけ出てくる、その顔がびっくりしている。予想以上に人がいたせいだろうか。ちょっと赤面しながら、さりげなく足でローブを引っ張っている。


「パンツはここー。」


 空気を読まない補佐さんが、尻尾でパンツを拾って渡してやる。いや、あんた、地雷のど真ん中正拳突きするような真似よく出来んな。魔王の補佐じゃなくて勇者なんじゃないの?


 真っ赤な顔で引っ手繰るように受け取った毛玉の中の人は、一旦引っ込む。しばらくごそごそ音がして、ぱっと毛玉が散ったあと、相変わらず赤面した中の人が、仁王立ちしていた。


 ポニーテールに結んだ白髪は、褐色の肌によくあっていて、残念だ。笹穂耳と褐色肌、豊満な胸と括れた腰。ダークエルフの中でも、素晴らしく容姿に優れていることが判る。それだけに残念すぎる。変態なのが。


「と、突然なんですのんっ?!それに、どやってここに?!」


「あ、怒って誤魔化すことにしたのー?」


「う、うっさいですぅ?!」


 どうやらこの中の人が、この迷宮の主らしい。ピタルさんというお名前の迷宮主は、全裸もふもふ浴という大変高尚な趣味をお持ちになっていて、今まさに趣味をお楽しみ中なところを邪魔されて、御立腹なさっているようだ。まあ浴というくらいだから、全裸なのは当然なのかな、陸奥家の五男坊が助走をつけて殴りに来そうだけど。


「そこの童貞から、失礼なこと思われている気がすんのやけど…?」


「童貞を馬鹿にしないで下さい。変態女。」


 鋭いが、暴言には暴言で、対抗しよう。大体、妹に一途な兄はどう転んでも童貞を捨てられる筈が無い。悪口としては悪手だ。誇り高き妹偏愛(シスコン)は、童貞であるべきなのだ。偉い人にはそれがわからない。


「そ、そんな性的なもんちゃうわ?!ふ、触れ合い、そう、家族的な触れ合いやん?!全部女の子やし?!」


「百合でケモナーとか引くわー。」


 補佐さん煽り過ぎじゃないですかね?あと魔王さんにセクハラしてた人は百合とか言う資格あるんですかね?


「動揺してる時点でギルティじゃな。」


 魔王さん?ここに来た目的思い出して?確かに面白くて僕もちょっとからかいましたが、魔物を譲って貰いに来たの、忘れてません?下手に出る人はいないのか?


「お兄ちゃん、あの人変態?」


「妹よ。正しい性癖なんてない。そして正しい事が、人を救うとは限らないんだよ。」


「つまり変態?」


「まあ、筋金入りのね。」


「お前ら出てけーー!!」


:

:


 ぷるぷる震えて怒り狂うピタルさんを、なんとか宥めて宥めて、たまに補佐さんが煽って、なんとか収まったのは、妹が寝落ちした後だった。


「という訳で、余っておる魔物をくれい。」


「何がという訳なんよ…?まあええけど?エルダーベアとか、白凍狼とかは、沢山増やし過ぎやったし…?」


「エルダーベア……まあ、感触の違いで、性癖に幅が出そうじゃの。」


「熊の毛なんて硬すぎてヒリヒリするんじゃないですか?」


「いや、熊は中々なんよ?ヤマアラシはダメやね。チクチクが癖になるかと思うたら、死にそうな目にあったわ。」


「それは探究心を褒めて欲しいんですか?」


 ガチの人だった。空きがそこしかないから、妹の隣に座らせたけど、余りに変態なので席をこっそり隷属にしておく。妹に悪さをしたら、お仕置きしよう。


「うちの妹にイタズラしないで下さいね。」


 僕の膝枕で寝ている妹を撫でながら、忠告しておく。


「せんよ?!そんなつるぺた。そもそも子供に手を出すなんてあかんよ?!」


「あーピタル、つるつるトラウマあるもんねー。」


 多分トラウマ作った張本人の補佐さんが、のんびりと言う。その鱗、つるつるですもんね。何回絞ったんでしょう。


「ちがっ、つるつるは、グラニエがおるから、他にっ、必要ないだけで、だからっ、爬虫類系は、この迷宮でっ、増やしてないし、トラウマとかっ、ないし?いい思い出でっ、いいお友達やし?」


 M過ぎて、どM過ぎて、震える。思わず両手で顔を覆って下を向いてしまった。この人、話す度に変態濃度を上げてくる。まったくもって危険人物すぎる。補佐さんも、トラウマじゃなくて癖にさせてるじゃないですか。責任取って下さいよ。


 ここはとっとと魔物を調伏(テイム)して、帰るべきじゃなかろうか。


「じゃあ、引き取りますから、取り敢えず呼んでもらえます?」


「んー、ちょう、待っててや?」


 しばらくしてまず集まってきたのは、三首の漆黒の熊。一列に並んで、何とかトレインのちょっとずつずれてぐるぐる回るやつで入ってきた。三つも首があると、迫力がありますね。次に入って来たのが、一角がついた目つきの鋭いペンギン。紫電を纏って一列に並んで、何とかトレインのちょっとずつ(ry。角がついてると、迫力がありますね。次の魔物は橙色に燃えている大きな梟。一列に(ry。首を後ろに360回転させながらローリングするのは、見応えありますね。最後は部屋の隅に散っていた白い毛玉。というか長毛種の狼。一列に(ry。


「って、いつまでときめき運ぶんじゃい!」


 思わずツッコンでしまう。いかん、変態が近くにいると気が短くなるな。


「同属嫌悪か……。」


「同属嫌悪ですねー。」


 魔王さんも補佐さんも失礼ですよ。シスコンは変態じゃありません。仕様です。


「エルダーベア10体、サンダーボルトペンギン50体、ビッグフレイムオウル20体、白凍狼100体。まあまあじゃの。」


「うん、そうですね、まあ、調伏したことですし、そろそろ帰りましょうか。」


意外と多かったので、時間がかかったな。


「ちょっ、そんなぁ、まだええやん?折角来たんやから、ゆっくりしてって、ていうか、積もる話も、色々あるんやし?大体、取るものとったらすぐとか、酷うない?」


 ピタルさんが慌てて引き留めてくる。変態と一緒にいるのは嫌だが、礼に欠けるのも確かだ。実際お世話になった訳だし。魔王さんたちにも説得されて、思い直す。ここは、精一杯のおもてなしを返すのも、人の道なんだろう。あと、わりと魔王さんと補佐さんの期待した目が辛い。


「わかりました。お礼になるかわかりませんが、ご馳走させてください。」


 そう言うと、魔王さんと補佐さんから歓声が上がる。いや、確かに一緒に食べますけど、ピタルさんへのお礼ですからね?


「うーん、ピタルさんは、どんなものが好きですか?」


鍋メニューを見ながら聞いてみる。


「刺激的なん、とか?」


 もじもじしながらピタルさんが言う。いや、食べ物だからね?勘違いしてないよね?刺激的……辛いのでいいかな。チゲ鍋があるからそれにしよう。何時ものように召喚すると、匂いに釣られたのか妹も目を覚ます。キムチとコチュジャン、唐辛子の匂いは、いかにも食欲をそそる。チゲ鍋なので、本格派の韓国式ではなく、所謂日本の、土鍋にたっぷり具が入ったやつだ。豚肉、白菜、キムチ、ニラ、豆腐、鱈、アサリ、エノキ、シメジ、舞茸。真っ赤なスープでぐつぐつと煮られるたくさんの具は、すぐに食べて欲しいと言わんばかりに出来上がっている。


「いただきます。」


 手を合わせて感謝してから、取り皿によそう。一口目の最初から、がつんとした辛さが舌を痺れさせる。開いた毛穴から、汗が滲む。新鮮な具の味を、刺激と一緒に楽しんで、辛さに慣れてくると、素材とスープの甘味を感じるから不思議だ。燃えるような後味が次の一口を誘う。いい汗をかいた。


「あふっ、辛くて美味し〜。」


 妹も、一生懸命辛さと格闘しながら、ふうふう吹いて、美味しく鍋を楽しんでいる。チゲ鍋を食べる妹はいい。見るべきは、耳だ。サラサラとした解れ毛が耳にかかっている様は、つややかな黒髪だからこそ映える。その耳が、鍋を食べ進めるとほんのりと赤くなっていく。考えてもみよう。正攻法であれば、エロい言葉の限りを尽くし、涙目で嫌いと言われるリスクを犯しながらでないと、真っ赤な耳と言うのは見れないのである。自分で言っててそれはそれでご褒美だと思わなくもなかったが、まあいい。ノーリスクというのが魅力なのだ。しかも、こう、じわじわじわぁっと赤くなる様をじっくりと見られるのだ。趣き深い。だんだんと赤くなったり、赤みが冷めたりする様子は、こう、愛撫に反応する様を連想させる。辛さに耐える表情も相まって、にーちゃんは鼻血が、鼻血が止まりません。けしからん、けしからんです。びくんびくん。


「童貞の妹見る目が犯罪者なんやけど?」


「兄が妹偏愛(シスコン)なのは仕様です。これは人類の自然の摂理と言っていいです。」


「人類全体を変態に巻き込んだぞ……。」


 魔王さんが慄いているが、迷宮なんかに引きこもっているから、時代の潮流についていけないんだろうな、と同情したので、可哀想な目を向けてあげた。


「んー、やっぱり我が主が一番ー。」


 補佐さんはビールと鍋をつつきながら、相変わらず危ない顔で魔王さんを締めている。魔王さんは気にした風もなく鍋に集中しているが、ピタルさんが物凄く羨ましそうに、そして若干興奮して息を荒くしながら、それを見ている。


「あっああっ、でも放置プレイもそれはそれで、いやでもっ、羨ま、あーっ、これっ、つるつるっ、きつきつっ、久しぶりぃいいっ!」


 流石信頼と実績の変態、放置も実技も実に優秀です。ヘラヘラ酔っ払った補佐さんが、今度はピタルさんをぎゅうぎゅう締め付けても、めっちゃ笑顔でびくびく痙攣しています。これ年齢制限フィルターかかるのかな。かかるよな。妹は今のところ鍋に夢中だけれども。


 混沌が炬燵を覆いつつ、宴会は深まっていく。皆笑顔で幸せそうなので、細かいことは気にしないようにしようと思った。


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