↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

幼虫

作者: 七夕ハル
掲載日:2016/01/22

 蛾の幼虫がプニプニと柔らかそうな体をして、通り過ぎて行く。僕は、何故こんなところに蛾の幼虫がいるのか不思議に思った。ここは、東京のど真ん中なのだ。路上を歩いていると、踏み潰される危険がある。幼虫が向かっているのは、車が物凄い勢いで走っている幹線道路だ。僕は、そっと公園でさっき拾った葉を幼虫の進行方向に置く。幼虫は、駄々をこねるようにムニュムニュと動くが、葉っぱに乗る気はないらしい。なおも幹線道路に歩いて行く幼虫に僕は、背を向ける。この幼虫がいなくなっても、いいじゃないか。そんな、気持ちだった。僕は、そのまま家に帰ろうと、公園の方に向かう。風が吹いた。僕の胸に当たった風は、『それでいいの?』と聞いた。僕は、後を振り返り、見えるはずもない幼虫を見たような気がした。幼虫を踏みつぶさないように、慎重に走って探す。いた!幼虫は、ちゃんと歩道を歩いている。さすがだな。僕は、じっと彼の後を親のように見守る。昆虫は、親に育てられることは、あまりない。だから、せめて僕が……。そんな思いだった。でも、困ったことに、幼虫は、少しずつ車の走る道にそれている。僕は、思い切って幼虫を手でつまんだ。とてもフワフワした体だった。幼虫は、赤子のように、無防備で、純粋無垢だった。なぁ、お前どこに行きたい?僕は、聞いた。幼虫は、かわいい顔をして、木がいいよ、と答えた気がした。わかる人にはわかる。心を僕も感じたのだ。僕は、そっと手のひらに幼虫を包む。微かな温もりが伝わる。ああ、これが生きているってことなんだ。さっきの公園まで足早に歩く。幼虫は、僕の手の中で元気いっぱいだ。ああ!!お前!!なんて、元気なんだ!僕は、思わず叫んでしまう。自転車で僕とすれ違った人が、奇異の目で見る。その視線に僕は少したじろぐ。そして、立ち止まり、幼虫をもう一度見る。何も変わっていない幼虫が、そこにはいた。とても可愛い姿のままだ。自然に笑みがこぼれる。公園につくと、幼虫を優しく放す。いつかは、一人で行かなければならない。僕のように。だから、お前も行くんだよ。心の声が届いたかは、わからない。ただ、幼虫は少し、その場をうろうろしていた。その後、一本の木めがけて、またおっとりと歩き始める。僕は、さっきより離れて、誰もいない公園で幼虫を見送った。立派な大人になるんだぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。