鳥籠の鳥 6
「なんで……!? それは質問じゃない! なんでですか! 傍に居るって……! ここまでしておいて、今更……!」
「君がもう自由だから。私が君を守る必要が無いから。君の今後は保証する。十分な額も支払う。何かあれば頼ってくれていい。君は、君の人生を歩むべきだ。普通に恋をして好きな相手を見つけて、子どもを産んで幸せに暮らして欲しい」
「っ! 嫌よ! そんなの納得しない! 絶対に納得しない!! それじゃあ昨日のは一体何だったの? どうしてあんな事言ったの!! 私の気持ちはどうなるの!?」
「……」
「お願い! 答えてください! 何を思ってるの! 私の事どう思ってるの!?」
ベルナルトは立ち上がり茉莉花をじっと見た。茉莉花も潤んだ瞳でベルナルトを見上げ睨んでいた。
「私は、人殺しだ……。君を幸せには出来ない」
「答えになってません!」
「私は彼を、友人を殺した。いや、死なずの者だから死んでいないのだと思う。だけど、それと同等の事をした。エドモンドを使って多くの者を殺した。同罪だ。君も傷つけた」
「そんな事を聞いてるんじゃありません! 私の事をどう思っているのか聞いてるんです!」
ベルナルトは茉莉花から目を逸らし、自身のジャケットの内ポケットを上から触っていた。
「私が君を……?」
「そうです! 昨日、愛してるって言ってくれました。あれは……? 嘘なんかじゃないでしょ? キスも、唇にしました。私を失うのが怖いって、そう言いました。私の事、どう思ってるんですか……!」
茉莉花は目に涙を溜めながら紅潮した頬でベルナルトを真っ直ぐに見つめていた。ベルナルトは内ポケットからおずおずと上品な青い小箱を取り出し、それをじっと眺めていた。茉莉花もベルナルトの手の中にある小箱を目を見開いて見ていた。口を閉ざし何も話さないベルナルトに茉莉花は不安になりながらも言葉を掛けたのだ。
「どうして、何も言ってくれないんですか……?」
「……私は」
「ベルナルトさんは、臆病です! ずるいです! いつも勝手に物事を決めるし、私の気持ちなんて考えてくれない。勝手に私の為だって言って、守って……。また、勝手に私の前から居なくなるつもりなんですか? また私の為だって言うんですか? まだ私の気持ちを考えないんですか? いつになったら貴方は私の気持ちを考えてくれるの!? いつになったら貴方は自分に嘘を吐かなくなるの……? 今までみたいに自分の思うように、わがままに私を振り回せばいいじゃない。正直になればいいじゃない。なんでこんな時だけ引き下がろうとするのよ……」
茉莉花は流れ出た涙を手の甲で拭っていた。だが濡れた瞳でも、真っ直ぐに頬を赤らめベルナルトを見ていた。ベルナルトは茉莉花と交差した視線を気まずそうに逸らしていた。もう一度手の中の小箱を見つめると溜め息を吐き茉莉花の前に、そっと跪いた。そして茉莉花の右手を取り、小指に軽くキスを落とした。小箱をゆっくりと開け銀色に輝く二つの指輪を茉莉花に見せたのだ。茉莉花は溢れ出しそうな涙をグッと堪え、口をへの字に結んでいた。
「茉莉花……。ずっと君にこれを渡したかった。君の気持ちが分からなかった。気付いた時には拒絶されるのが怖くなっていた。拒絶されるくらいなら、君を解放しようと、楽しい思い出の中に生きようと、そう思った。これは君と行ったイタリアで買ったんだ。君の為だけに作った。君にこれを受け取って欲しい。私をこれからも受け入れてくれるなら、君の指にこれをはめる事を許して欲しい」
「それはつまり、今更ですけど、……プロポーズですか?」
「ああ」
「なら、そんな回りくどい言い方しないでください。ベルナルトさん、本心で私に言ってください」
「……チッ」
「舌打ちしましたね? ベルナルトさんらしいです」
茉莉花は目を細めクスリと笑っていた。ベルナルトは気恥ずかしそうに珍しく耳まで赤くして茉莉花を真っ直ぐに見つめた。そして無理矢理、茉莉花の右手を取りそこに光り輝く銀の指輪を優しくはめた。ベルナルトは立ち上がると茉莉花を見下した。




