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鳥籠の鳥 2

**


 ベルナルトの父は不死者の研究を続けていた。続けながら結婚をし、ベルナルトが産まれた。


 ベルナルトがまだ幼い頃、父に連れられ毎年ピピリに遊びに行っていた。その最後の年、ベルナルトは不死者に出会ったのだ。父親が仕事に出かけている間、遊び相手にと紹介されたのだ。

 ベルナルトは初めて世界が不思議で満たされている事を知った。自分の知らない事が世の中にはあるのだとワクワクとした。その夏はベルナルトにとって人生を変えるほどの物だった。不死者との出会いがベルナルトを変えた。

 ベルナルトは不死者に心を許し、初めての友達となったのだ。不死者もベルナルトを受け入れ二人はある約束をした。いつの日かベルナルトが不死者を殺す、という物だった。不死者はもう生きる事に疲れていた。長い時の中で大切な人が自分を追い越し死んでいくのを何度も見ていた。それが彼を追い詰めていた。心が引き裂かれる感覚に彼は耐えられなくなっていったのだ。どんどんと自分という者が無くなっていく、そんな感覚に苛まれ心は死んでいくとベルナルトに話した。ベルナルトは初めて出来た友達の願いをどうしても叶えたかった。友人という者の大切さを、人との触れ合いを教えてくれた彼に報いたかった。だから叶えると誓ったのだ。


 また来年会おうと言い別れたが、その来年はやってこなかった。ロシアは情勢が悪化し、暴動やデモ、テロが活発になっていた。ベルナルトが住んでいた地域も例外ではなかった。いち早くそれに気付いたベルナルトの父は、妻と息子を連れ違う土地にその身一つで逃げ出した。


 国は荒れる一方で仕方なくベルナルトの父は、住み慣れた土地を離れビニグアイという土地に引っ越したのだ。そこはベルナルトの母の故郷でもあった。

 情勢が落ち着くまでその田舎で暮らしていたベルナルトは、その土地で母親を失った。悲嘆に暮れる父親を励まし、父親と共に不死をこの世から葬ると言う誓いを立てた。


 ロシアの情勢は次第に落ち着き、ベルナルトとその父親もロシアへと戻った。だが戻った頃には不死者は行方をくらませ、ベルナルトの父親は生涯その不死者の居場所を追い続けたのだった。だが不死者は見つからず、全てをベルナルトに託し、ベルナルトの父親はこの世を去っていったのだ。


**


 「私の人生はそんなところだ。不死者を葬る為会社を継いだ。父の意思を継いだ。私の意思でもあるが」

 「……」

 「父は不死者が何処に居るのか見当が付いていた」

 「でも見つけられなかったんですよね?」

 「ああ。人里離れた所に身を隠していたからな。不死者を連れ去ったのは君の父親だ」

 「……」


 茉莉花は渋い顔をしていた。


 「驚かないのか?」

 「検討は付いていました。そうですか。ベルナルトさんは私がお父さんの意思を継いでいると思ってるんですか? 不死者の研究を私がしていると……。だから私の事を監視しなくてはいけないと」

 「思っていない。君は……」


 黙り込んだベルナルトを茉莉花は静かに見つめていた。ベルナルトは溜め息を吐くと言葉を続けた。


 「違うんだ。君は……。君は巻き込まれただけなんだ」

 「どういう事ですか?」

 「……君の話しをしよう。私が知っている君の話し。茉莉花・エゴロフの話し」


**


 茉莉花の育ての父シルヴァーニは不死を盲信していた。ベルナルトの父に不死者を奪われた後も研究を怠ってはいなかった。暴動に紛れベルナルトの父の監視下にあった不死者を奪い、研究を続けた。


 ロシア中を転々とし、ベルナルトの父から身を隠していたシルヴァーニはある仮説を立てた。完全な不死者の血を輸血すれば、人間を不死者に変えられる。そこに辿り着いた。そしてその仮説を盲信し、自身も不死者になる事を望んだ。

 だが、その時には不死者の心は死に、体だけに生命が宿っていたのだ。それはシルヴァーニの掲げる完全な不死者ではなかった。心も体も生きていないといけなかったのだ。シルヴァーニは不死者の心を取り戻すための研究を始めた。不死に憑りつかれそれを盲信し、ただ純粋にそれに興味を引かれ人生を捧げたのだ。そしてシルヴァーニは見つけてしまった。不死者の心を取り戻すための運命の子を。


 ロシアで起こった史上最悪のテロ。オリンピアホテルの立て籠もり。情勢が一時安定していた時に起こった最悪の事件。その最悪の事件を生き残った少女。運命の子ども。死ぬはずだった命が一人だけ生き残った。誰よりも死に近い場所に居たはずの生きている魂。シルヴァーニはその魂を持つ運命の子と偶然出会ってしまった。その子を運命の子だと確信していた。その運命の子の血を捧げれば不死者は心を取り戻し完全な不死者になると信じ切っていた。だが出会った運命の子はまだ幼く、事件のショックで心が不安定だった。シルヴァーニはその運命の子を自身の手で育てその時が来るのを待っていた。


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