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鳥籠の鳥 1

【26】



 『茉莉花、屋敷に戻ったら話しをしよう』


 屋敷に戻る途中ベルナルトは唐突に茉莉花にそう言い出した。その言葉を最後にベルナルトは屋敷への道中一言も話す事はなかった。今屋敷に戻り二人で机を挟み向かい合った茉莉花とベルナルトには今までにないほどの緊張感が漂っていた。


 「さて、何から話そうか?」


 初めに切り出したのはベルナルトだった。その声は何処か重々しく話すことに対して拒絶しているようにも感じられた。


 「全て、話してください」

 「難しいな……。そうだな。君はこの間、私の目的は何か、と聞いたな?」

 「はい」

 「茉莉花、全てを話してもいい。けれど君はそれを受け入れられるのか? 決着はついた。君は何も知らないまま、このまま人生を送ればいい」

 「嫌です。もう知らない事は嫌。お父さんのお墓であの男は言っていました。シルヴァーニの娘だな、と。それは私が関わっているという事でしょう? ベルナルトさんの目的もあの男も関係あるんでしょ? 私は何に関係しているの?」

 「困った子だな」

 「はぐらかさないでください! もう、部外者じゃないって分かったんです! チェンまで傷つけた! 私をここに連れて来た理由、話してください! 貴方は一体何者なんですか!」

 「私は君の味方だよ」


 ベルナルトはアーモンド形の目を細めると優雅に微笑んだ。


 「知っています! じゃないと、あの時駆けつけてくれなかった。仕事よりも私を優先してくれなかった。私を妻にはしなかった。貴方はずっと私を守ろうとしていたんでしょ? でも、一体何から?」

 「知っているじゃないか。私の目的は君を守る事。それだけだ」

 「だから! はぐらかさないでください! それは手段じゃないんですか!? 目的は!?」

 「おや、意外と鋭いんだな。困った。仕方ないな。君にも全て話すよ。だけど、その後は君が考えるんだ。いいな?」

 「はい」


 茉莉花は真っ直ぐにベルナルトを見つめ、ベルナルトも口角を上げ真っ直ぐに茉莉花を見据え、話しを始めた。


**


 事の始まりは戦後、船に乗っていた一人の青年だった。その青年はピピリという小さな港町に現れた。青年が乗っていた船は、ボロボロで他の乗組員は皆死に絶え腐敗しかけていた。そんな中やせ細ってはいたが一人だけ生き残った青年が居た。その青年はピピリの人達に保護され生気を養っていった。

 青年が乗っていた船を始めに見つけ、青年を保護したのは二人の男性だった。身元不明の船の調査を依頼されてやって来たのだった。だが、死体は身元も死因も分からないまま葬られた。青年だけがその船に何があったのかを知っていた。


 調査でやって来た男性二人はその青年に興味を持った。色々な話を聞いた。船に起こった事を知った。そして、二人は非現実に魅入られてしまったのだ。それが事の始まりだった。


 青年は男性二人に自分は不老不死だと伝えた。呪いを受けたのだと信じがたい話しを持ち出した。歳も取らなければ死にもしない。だから生き残ったとそう伝えた。二人は始め半信半疑だった。だが青年が自分で刺した傷の治癒力を見て、それが嘘ではないと思い始めた。青年は人間に戻り、死を得たいとそう言っていた。青年の協力を得て二人は不老不死の研究を始めた。


 男性二人は親友だった。たまたま出会った仲だったが、馬鹿な話で意気投合し、お互いに非現実を望んでいる事を知った。オカルト的な現象が好きで研究をしていた。だが周りには認められず、空想だと馬鹿にされていたのだ。同じ境遇の仲間を見つけた気になって二人はあっという間に打ち解けていった。そんな二人の元に夢だった非現実が飛び込んで来たのだ。

 初めは研究欲から共に青年を調査していた。だが歳を重ねるごとに意見は対立し始めた。一人は会社を立ち上げ現実と向き合う事を決めた。社会の為に青年の特異性を明かしたいとそう思い始めた。一人は自身の欲求を満たすために青年と同じ不老不死になりたいと思い始めた。お互いの思想のすれ違いにだんだん二人の仲は険悪になり、とうとう仲違いをしてしまった。そして青年を引き取ったのは、社会的地位を築いた方の男性だった。もう一人の男性は悔しさを抱えていたが、何もかも社会的に勝てない事を理解し青年の元を去って行ったのだった。


**


 「それが私達の父だ。青年を引き取ったのは私の父。仕方なく身を引いたのは君の父、シルヴァーニ氏だ」

 「え、じゃあ私達のお父さんは友人だったの……? え、ちょっと待って。ベルナルトさん不死なんて存在しないって……。それに私に何の関係があるんですか?」


 茉莉花の頭の中ははてなでいっぱいになっていた。


 「……個人の意見だ。不死なんてもの存在してはいけない。縋ってはいけない。不老不死は誰も幸せにはならない。だから、私はこの世からそれらに関する全てを葬ると決めた。私の目的は不死者を作らない事だ」

 「不死者……?」

 「ピピリで見つかった青年。彼は不死者と呼ばれていた。青年を引き取った父は、不老不死に魅入られ研究を重ねた。青年の体を切り刻み、様々な実験を繰り返した」

 「……」

 「父の目的は不死者のメカニズム、治癒力だった。父は母の為に研究を重ねた。体の弱い母を救いたい一心だったんだ。母を救い、産まれ持ってのハンデを持つ人間を救う。それが父の目的だった」

 「お母さんの、為ですか……」


 茉莉花は暗い顔つきをしていた。そんな茉莉花を見てベルナルトはふっと笑った。


 「気にすることはない。結局解明はされないまま、母は亡くなった」

 「え。そんなに簡単に言わなくても……」

 「事実だからな。父は焦っていたんだよ。家族の為、妻の為と思い研究を重ねたが、結局は家族を省みなかった。母が亡くなる寸前に家族と向き合った。母は亡くなる間際に人間として死にたいとそう言ったんだ。不死なんて望んでいない。それは不幸な事だと。有限の時間の中だから一日を楽しく生きられるのだと。そんな世界だから父を愛せるのだと。だから今に向き合って欲しい。無限の時間は拷問だ。とそう言って笑顔で亡くなったんだよ。父はようやくその時不死という事の重大さに気が付いた。青年が何故、人間に戻りたいのかを理解した。そう言っていた。だが気付いた時には青年は行方不明だった」

 「行方不明? どこに……」

 「話しの続きをしよう」


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