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辿り着いた地で 1

【24】



 夜行列車に揺られながら茉莉花はそっとカーテンを開け外の景色を見ていた。降り積もった雪に覆われた大地は夜だと言うのに、その白さを茉莉花に見せつけていた。窓は結露し、近づけた顔から出る吐息は白くなっていた。


 (寒い……)


 久々に感じる寒さに茉莉花は懐かしい気持ちを抱いていた。


 茉莉花は列車を乗り継ぎ目的の場所を目指していた。夜も深まったと言うのに全く眠気が来なかったのだ。上のベッドではチェンが眠っているだろうと思い、極力静かにはしていた。ガタンゴトンと列車の動く音だけが静寂を裂いていた。


 (お父さん、もうすぐ会いに行くからね)


 茉莉花は胸の前で拳を握っていた。懐かしい父の笑顔を思い出し、一人微笑んでいたのだった。


**


 「やっと着いた……」


 茉莉花は冷え込むロシアの大地に降り立ちほっと白い息を吐いたのだ。最寄り駅まで列車を乗り継ぎ、そこからはバスに乗り、ヒッチハイクをし人里離れた地に戻って来たのだ。陽は傾き始めていた。チェンはキョロキョロと不思議そうに辺りを見渡していた。


 「寒くない? 大丈夫?」

 「え、はい。き、着こんできましたから。で、ですが、人の影が全くありませんね。お、奥様はこんなところで、お暮しに……?」

 「うん。今も変わらないよ。ここは隣の家の人って言っても大分離れてたから。私の家はもう、森の中だったしね。動物もよく見かけた。あぁ。懐かしいなぁ」


 茉莉花は目を細め口角を上げて辺りを見渡していた。


 「お父様のお墓は、あ、あちらですか?」


 チェン森の中でも少し開けた場所を見つけ指を差した。茉莉花は懐かしい思い出を辿っていたが、ハッとしてチェンの指差す方向を見た。


 「あ、うん! ここら辺の人は皆あの墓地に埋葬されるの。自然豊かな大地に還してあげるって……」


 茉莉花は父親の墓を目指し歩き出した。チェンはその後ろをキョロキョロとしながら付いて行ったのだ。


 「どうかした?」

 「え、あ、いえ……。気のせいかと……」

 「?」


 言い淀みそれでも辺りを見渡すチェンを不思議に思いながら茉莉花は歩いた。歩いている途中、雪の中でも咲いている白い花を何本か見付け茉莉花は立ち止まった。


 「どうかなさいましたか?」

 「お花も持って来てないなって思って……」


 茉莉花は苦笑いを浮かべその花を三本折り手に持った。


 「こんなのでも、ないよりマシだよね? すぐ傍に生えてるけど……」

 「お、お気持ちが大事かと思います」

 「ありがとう」


 チェンに微笑み返し茉莉花は父、シルヴァーニの墓の前に立った。そっと手に持った白い花を父親の墓前に置き、茉莉花はしゃがみ込み墓石に微笑み掛けたのだった。


 「お父さん……。茉莉花です。お久しぶりです」


 茉莉花は目に涙を溜めてシルヴァーニの墓に呼びかけた。


 「ずっと放って置いてごめんなさい。会いに来たかった。お父さん寂しくなかった? 私、この一年ずっとお父さんの事考えてた。でも、まだ分からない。お父さんが何を考えていたのか。ごめんね。こんな娘で……。それでも私、お父さんの事愛してた。ずっと一緒に居たかった……」


 茉莉花は俯きポタポタと涙を流した。


 「ごめんね。久しぶりに来たのに、泣いちゃって。私はおかげさまで元気だよ? ベルナルトさん、と一緒に暮らしてる。あの人は一体何者なの? お父さんの知り合い何だよね? 私、あの人と結婚しました。でも……」


 茉莉花が言いよどんだ瞬間、チェンは目を見開き茉莉花の体を押した。


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