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開いた鳥籠 2

***



 (茉莉花……)


 ベルナルトは移動の為高級車に乗り揺られていた。窓を眺めながら浮かない顔をして、降りしきる雨の中ドイツの景色を眺めていた。

 ドイツに新しく立てる支社の下見と、本社では新しい商品の開発の会議があったのだ。茉莉花とあんな風に喧嘩をした後、ベルナルトは朝早くに屋敷を出た。


 (茉莉花は私を嫌っているのだろう。人として最低だと、そういう意味だったのだろうな。その通りだ。彼女と初めて両親の墓に行った時、彼女に言われて言葉を掛けた。不思議な気分だった。言い知れぬ何かで繋がっている様な気さえした。それを知っているのに、私は茉莉花を墓には行かせられない。茉莉花に嫌われても、過剰だと分かっていてもそれでも危険に近づけたく何てない。きっと何も危険などないのだろう。そこに行って彼女が救われるならそうするべきだったのかもしれない。でも、私にはそれが出来ない。……全て話せたら楽になるのだろう。だが、きっと茉莉花はもう私の傍には居てくれない。どうすることが最善なのかもう分からない。彼女の為に全てやって来たのに、彼女に何を言われても何も感じなかったのに……。それなのに嫌われる事が嫌だなんて、私も子どもじみている)


 ベルナルトは自嘲の笑みを浮かべていた。


 (茉莉花、私はいつも君の事を考えているんだよ。君の為なんだよ。どうか分かって欲しい)


 ベルナルトは目を瞑り揺れる車体に身を預けた。


**


 降りしきる雨と吹き付ける風の為ベルナルトの予定は狂っていた。本当なら夜にはロシアに向けて飛び立っていた筈だが、風の影響でドイツに留まる事になっていた。ベルナルトは高層ホテルの窓に手を当て外を眺めていた。暗く陽の沈んだ街は雨のせいもあり淀んで見えた。まるで自分自身の心を映し出されている様で、ベルナルトはそわそわとした。


 (茉莉花はいい子にしているだろうか)


 ふとそんな事を思いベルナルトは屋敷へと電話を繋げた。


 「は? 居ない……?」

 「申し訳ありません! チェンが連れ出した様で。話しでは買い物をしてすぐに帰ってくるとおっしゃっていたそうなのですが、何処に行かれたのか分からなくて」

 「……。分かった。こちらで探す」


 ベルナルトはそう言い溜め息を吐いてソファに深く腰掛けた。


 (分かってはいたが……。チェンが加担したのか……)


 ベルナルトはもう一本電話を入れた。片手で電話を持ちながらアタッシュケースを開いた。黒い端末を取り出し、茉莉花の位置を調べた。茉莉花と距離が離れているせいか、大体の位置しかベルナルトには分からなかった。


 「もしもしー?」


 間延びした呑気な声でベルナルトの電話に出た人物は、受話器越しでも分かる程大きなあくびをした。


 「エドモンド。茉莉花を探してくれ?」

 「えー? 屋敷じゃないの?」

 「墓参りに出て行ったようだ。多分列車に乗って移動している。すぐに連れ戻せ」

 「面倒臭いなぁ。墓参りくらいいいじゃん」

 「よくない。何かあったらどうする」

 「うーん。助けてあげてもいいけど、条件がある。ベルが電話掛けて来たって事は、君は今動けないんだよね?」


 ベルナルトはエドモンドの条件という言葉に舌打ちをした。全て見透かされている様な反応に心がざわついた。


 「大当たり? 俺の条件飲むなら助けてあげる」

 「なんだ?」

 「マリカを囮にする」

 「っ!」


 ベルナルトは壁を叩きつけた。その音を受話器越しで聞いていたのかエドモンドは茶化すように口笛を吹いたのだ。


 「ははっ! 怒った怒った!」

 「ふざけるな!」

 「大まじめだよ? もうさぁ、決着付けようよ? いつまでもこそこそするの嫌でしょ? 俺もさぁ、もうこの件から離れたいって言うか……。一生心配して過ごすなんてヤダし。あの子も可哀想だよ? いい加減終わりにしようよ」

 「茉莉花に何かあったらどうする!」

 「何かあった時の為にチェンを付けたんでしょ? 俺も呼んだ。何もないよ。マリカには。そうだよ。墓で何も無ければもうお終いなんだよ? 確かめろよ。いい加減」

 「茉莉花に危害があるなら許さない」

 「はぁ。ベルはマリカが大好きだね。いいよ。親友の頼みだ。マリカの事は必ず守る。約束しよう。それでこの件も片付けよう。もうこんなオカルト話関わりたくない。俺まで頭がおかしくなっちゃう。で、依頼は一掃でいいのかな?」

 「ああ。茉莉花を狙う奴らを根絶やしに」

 「はいはーい。場所はあそこだね。いつも通り現金でお支払いお願いしまーす。じゃあ」


 一方的に電話を切ったエドモンドに舌打ちをするとベルナルトはもう一度外を眺めた。降りしきる雨風は先ほどよりも更に酷くなっているように感じた。



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