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次への約束

【20】



 「うぅ、もう帰っちゃうのか……」


 茉莉花は至極残念そうにそう零していた。今日の夕方にはあの屋敷に戻る為、またプライベートジェット機に乗るのだ。また専用のラウンジで時間を潰すよりかは茉莉花は空港を見たかった。そこには色々なお土産を売っている店がずらりと並んでいて茉莉花は楽しそうにそれらを見ていた。


 「早かったな。また来よう」

 「そうですね。あ、あのペン可愛い。チェン気に入ってくれるかな?」


 茉莉花はお土産コーナーで見つけた万年筆を手に取っていた。それはイタリアらしい芸術館溢れる多彩な色遣いを施された物だった。


 「チェンにか?」

 「はい。前に手紙を書くって言ってたから。これ変かな?」


 ベルナルトに万年筆を見せた茉莉花は不安げな表情をしていた。ベルナルトはそっとそれを茉莉花の手から奪い、会計を済ませ綺麗にラッピングされた物を茉莉花に渡した。


 「変じゃない」

 「意見聞く前にお買い上げって……」

 「気に入ったんだろう?」

 「そうですけど。喜んでくれるかな」


 茉莉花はそれを見つめながらチェンの反応を考え微笑んでいた。


 「次は何処に?」

 「はいはい! お菓子買ってください!」

 「お菓子?」

 「うん! ガイドブックにイタリアのお土産逃したら空港でって書いてあったから見てみたい! 載ってるのどれも美味しそうだったし……。ベルナルトさん、お菓子買ってください。帰りのおやつにします。それとか、生ハムとかも試食させてもらえるみたいですよ?」

 「君はまるで子どもだな……」


 目を輝かせ言う茉莉花にベルナルトは呆れて溜め息を吐いた。


 「ほらほら、庶民の暮らしを見れるいいチャンスですよ! 行きましょう」


 茉莉花は呆れるベルナルトの手を引き連れ回した。空港内のカフェからはコーヒーのいい匂いがしていた。


 「イタリアのコーヒー飲めるのも最後か……。何かイタリアってどこでもコーヒー美味しかったですよね? 何か違うのかな?」

 「何も違わない。水の性質の違いだろ。特別な淹れ方をしているようには思えなかった。それに不味いところもあったぞ?」

 「どうせ私は馬鹿舌ですよー! だって庶民だもん。だからベルナルトさん、無理に付き合わなくてもいいです。ベルナルトさんはお腹空いたら美味しい高級な物だけ食べていてください!」

 「嫌味か? 私は別に君と取る食事なら何でもいい。腹さえ壊さなければ……」

 「いえいえ、ベルナルトさんの繊細な舌にもお腹にも私と食事するのは辛い筈ですよ……!」

 「そんなことは無い。事実腹何てこの旅行中一度も壊していない。君が居れば何でも美味しく感じる」


 茉莉花は頬を膨らませ繋いだベルナルトの手をキュッと握った。そして小声でベルナルトに聞こえないようにつぶやいたのだ。


 「この、天然たらしめ……!」

 「何か言ったか?」

 「何も!! あ、あのチョコ、ガイドブックに載ってたやつです! コーヒー豆が入ってるんですって。あ、これも、これも!」


 茉莉花は楽しそうにお土産用のお菓子を見て喜んでいた。その姿はベルナルトの言った通りまるで子どもだった。それでもベルナルトはクスリと笑い茉莉花を優しく見つめていた。


 「全部買ってやる」

 「でも、荷物になっちゃう」

 「私が持ってやろう。食べてみたいんだろう?」


 茉莉花はコクコクと頷き籠を取りに行った。


 「甘えちゃいますよ?」

 「そんな物で喜ぶなんて、安い女だな」

 「なんとでも好きに言ってください! もう、この一か月で美味しい物食べ過ぎて感覚おかしくなっちゃてるんです! こういう大量生産の物が恋しいんです!」

 「はいはい。それだけでいいのか? もっと甘えてもいいんだぞ?」


 茉莉花はムッとした赤い顔でベルナルトを見上げ、商品の棚からおずおずと気になっていたお菓子を籠の中に放り込んだのだった。


 「馬鹿にしてるでしょ……」

 「太るな、とは思っている」

 「気を付けます! それにベルナルトさんにはあげないけど、帰ったらチェンと一緒に食べるもん! エドが遊びに来たらあげるもん!」

 「私にはくれないのにか?」

 「安物じゃその繊細なお腹壊しますよ……!」

 「気にしない」

 「ふんっ! 好きにすればいいですよ」


 そんな事を言いながら結局籠いっぱいにまでお菓子は詰め込まれた。それをレジに持って行くと流石にレジの店員もお菓子ばかり、しかも棚の端から端まで網羅したようなチョイスに少し驚いた顔をしていた。茉莉花は少し恥ずかしくなりいそいそとベルナルトの袖を掴み背中に隠れていた。


 「全く都合のいい女だな。君は」

 「だって、店員さんにあんな顔されるなんて思わなかったんだもん」

 「堂々としていればいい物を。普段は近寄るなとか触るなとかばかり言うくせに、こういう時だけ甘えてくるんだから。はぁ、普段からもう少し私に触れてみたらどうだ?」

 「触って欲しいの?」

 「そりゃ、近寄るなと言われるよりはいい。歩く時だって腕を組んで歩きたい。それくらいのわがまま聞いてくれてもいいんじゃないか?」


 茉莉花は目を丸くしてベルナルトを凝視していた。


 「ベルナルトさん、……変」

 「何処が。まぁこの旅行中君は素直だったからな。手を握っても振り払おうとはしなかったし、一歩前進というところか」


 ベルナルトは茉莉花の手を取り無理矢理腕に組ませた。ニヤリと笑うベルナルトを茉莉花は口を開けて見ていた。


 「これが一般男女の歩き方だ」

 「やっぱり変……」

 「これくらいしてくれてもいいだろう? ほらこの大量のお菓子のお礼だとでも思っておけ」

 「……そうですねー」

 「それに中々いいな。君の胸が当たって心地いい」


 途端茉莉花はベルナルトから跳ねるように離れ、赤い顔でベルナルトを睨んだ。ベルナルトは余裕の笑みを浮かべていた。


 「この! 変態……! そういう事言わなくていいのよ! ベルナルトさん馬鹿なんでしょ!?」

 「ほら、ジャスミン礼は?」

 「そんな事言われた後に腕組むと思うんですか!? やっぱり馬鹿なんでしょ!」

 「ふむ、一言多いという事か。なるほど、今後は気を付ける。おいで」

 「行くか! …………まぁ手を握るくらいなら許してあげなくもないですよ」

 「仕方ない。それで妥協しよう」


 ムッとした表情のまま茉莉花はベルナルトの手を取り空港内を歩いた。



***



 「わぁ、イタリアって本当に靴の形何ですね?」

 「来る時、君は寝ていたからな」

 「起きてればよかった。それにしてもやっぱり寂しいですね? はぁ、昨日のカプリ島の青の洞窟綺麗だったし、ベルナルトさんの意外な一面、運転も見られたし、ピサの斜塔は本当に傾いてたし。もう少し居たかったな……。結局ヴァチカンは行けませんでしたね」

 「それは本当にすまないと思っている。手配しようとしたんだが、やはり何せそう簡単にはいかなくてな」

 「別に貸切とか、人払いとかそう言うのいいですよ……。また来ましょうね? トレヴィの泉にもコイン入ったし、また来れる筈です。そういうジンクスがありますからね。それに連れてきてくれるんでしょ? 私またジェラート食べたいし、青の洞窟は本当に感動したし、ヴェネツィアのゴンドラも楽しかったし……」


 茉莉花は寂しそうに微笑んでいた。そんな茉莉花の横に座っていたベルナルトは茉莉花の手に自身の手を重ねた。茉莉花はベルナルトを見上げていた。


 「いつかまた来よう? いろんなところに君を連れて行ってあげたい」


 茉莉花は目を細め微笑むと頷き、ベルナルトに重ねられた手の上からもう片手を重ねた。


 「うん。楽しみにしてます」


 ベルナルトも微笑むと二人は旅行中の思い出を話し合い、微笑みながら楽しい帰路に着いたのだった。



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