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芽生えていた感情 1

【19】



 「ん……」


 茉莉花は気怠い感覚の中ゆっくりと目を開けた。シミ一つない天井を見上げていた。首だけを横に向け昨日と同じように横に居る筈の人物を見た。


 (また居ない……!?)


 茉莉花は寝ぼけていた頭が覚醒されていくような感覚に陥った。だるい体を無理矢理起こし、部屋の中をキョロキョロと見渡した。昨日までソファに掛けてあったはずのベルナルトのジャケットが見当たらなかった。不安な面持ちで茉莉花はシーツを掴んだ。


 (どこ行ったのよ……)


 少し寂しい気持ちを抱えながら溜め息を吐いた茉莉花はベルナルトの枕もとを見た。そしてもう一度溜め息を吐き、その手紙を手に取り目を通した。


 〈おはよう。君がこの手紙を読んでいるという事はまだ私は帰っていないんだな。心配しなくていい。すぐに戻るつもりだ。遅くとも昼までには。だからゆっくり休んでいてくれ。くれぐれも昨日みたいに出かけないように。いい子にしていてくれ。〉


 「だから子どもじゃないってば……」


 そう言いながらも呆れた様に手紙をたたんだ茉莉花は裏面にもメッセージが書かれている事に気が付き目を通した。


 〈昨日の甘い夜を私は一生忘れられないだろう〉


 茉莉花はその一言に途端昨夜の事を思い出し頬を熱くした。だが嬉しそうにその手紙を鞄の中に仕舞うと、時計に目をやった。十一時になる手前だった。茉莉花はそのままバスルームへと足を向けた。


 「シャワー浴びよう」


 伸びをしながらも茉莉花はバスルームの扉を閉めた。


 茉莉花は服を脱ぎシャワー室に入りお湯を出したところで気が付いた。設置されていた傷一つない鏡に映し出された自分の体、へその横に目が釘付けになったのだ。


 (いつの間に……!)


 茉莉花は目を見開き自身の体を見渡した。鏡越しに映った背中にも同じように赤いしるしが刻まれていた。


 (これ……。絶対計画的だ)


 呆れながら壁に手を付き茉莉花はシャワーを頭から浴びた。


 (服着たら見えないとこばっかりだもん……。ていうか本当いつのまに……)


 茉莉花には思い当たる節が全くなかった。眠った後だろうかと考えもしたが無駄だと思い、その考えを頭の隅に追いやった。


 (もうどうでもいいや……)


 そう思いながらだるい体を洗いバスルームを後にした。


**


 「おや、茉莉花風呂に入ったのか?」


 バスルームからバスローブだけを羽織り出たところでベルナルトに声を掛けられた。茉莉花は頭を拭いていたタオルを肩に掛け、ベルナルトの元にゆっくりと近づいた。


 「どこ行ってたんですか!」

 「ご機嫌斜めかな?」


 頬を膨らます茉莉花の腰を引き寄せベルナルトは茉莉花に袋を渡した。茉莉花は訝し気にそれを受け取った。ベルナルトは満足そうに茉莉花の頬にキスを落とし解放した。


 「それに着替えるといい」

 「何ですか?」

 「プレゼント。私が着せてもいいが、どうする?」

 「結構です!」


 茉莉花は再びバスルームの扉を閉めベルナルトから渡された袋の中身を見た。


 (水着)


 そこには真っ白なワンピース型の水着が入っていた。茉莉花はクスリと笑いそれに着替え始めた。


 (ベルナルトさんの事だからビキニとかかと思ったけど、案外普通の買って来たんだな。また子どもっぽいとかいうんだろうな。おお、それにしてもサイズがぴったり……。ちょっと怖い……)


 茉莉花はもう一度バスローブを羽織りベルナルトの待つ部屋へと戻った。そしてベルナルトを直視して頬を赤くした後、顔を逸らせたのだ。ベルナルトも着替え上半身は裸だったのだ。


 「茉莉花、どうしてローブを着ている?」

 「だ、だって恥ずかしいし……」

 「それに何故顔が赤い? 私から目を逸らす?」


 ニヤニヤと笑いベルナルトは茉莉花のローブの紐を解いた。


 「うぅ……」

 「ふむ、良く似合っている。君の肌の白さが際立つな。ほら日焼け止め塗っておいた方がいい。私が塗ってやろう」

 「いい! いいです! 自分で塗るから!」

 「背中は手が届かないだろう? そう遠慮するな。……昨日はあんなに素直だったのに」


 耳元でそう囁かれ茉莉花はキュッと目を瞑った。


 「おとなしくなったな? ほら背を向けてみろ」


 茉莉花はベルナルトに体を反転させられ背中に日焼け止めを塗られた。冷たいその感覚にビクリとしていると、首元で括っていた紐を解かれ慌てて胸元を手で押さえた。


 「な、何してるんですか!?」

 「ちゃんと塗らないと型が残るだろう?」

 「いきなり解かないでくださいよ! そこ解けると胸見えちゃうんだから!」

 「別に気にすることは無い。私と君の二人だけだ」

 「恥じらいが無いの!?」

 「何なら私は裸でプールに入っても構わない。それくらい君に心を許している」

 「いや、止めてくださいよ? 露出癖でもあるんですか? 通報しますよ?」

 「それは残念」

 「本気で残念そうな声出さないでよ!」


 茉莉花はぶつぶつと文句を言いながらもベルナルトに丁寧に日焼け止めを全身に塗られていった。


 「ほら、足も塗るぞ」

 「いいってば! ちょっと! 変なとこ触らないでください! やだ! 止めてよ!」


 茉莉花がジタバタと暴れてもベルナルトは気にすることなく茉莉花の太ももにも丹念に日焼け止めを塗り込んだ。茉莉花は真っ赤な顔で恨めし気にベルナルトを見ていた。


 「次は胸か?」

 「もういいです!」


 茉莉花はベルナルトから日焼け止めを奪い取り鎖骨や首の辺り、胸元に自分で日焼け止めを塗った。ベルナルトは心底残念そうにそれを見ていた。


 「この、変態……」

 「女性に触りたいと思うのは、男として自然の摂理だが?」


 ベルナルトは茉莉花が睨むのもお構いなしに肩を抱きプールサイドへと連れて行った。


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