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鳥籠の外の世界 2


 茉莉花は車内でさっき買ったネックレスを手に取り見ていた。繊細に切り取られた星の形はキラキラと反射して、綺麗だと思った。


 「気に入ったか?」

 「……はい」

 「そうか。少し子どもっぽい物が好きなんだな?」

 「な! 歳相応です! 私、ベルナルトさんよりも若いですもん! ……それとも似合いませんか?」


 茉莉花は不安げにベルナルトを見た。ベルナルトは茉莉花のネックレスを手で取るとそこにキスを落とした。


 「いいや? よく似合っている」


 茉莉花は途端顔を赤らめてベルナルトから視線を逸らし窓の外を見た。外はすっかり陽も落ちかけていた。


 「ベ、ベルナルトさんは何を買ったんですか?」


 茉莉花は照れ隠しにベルナルトに質問をした。ベルナルトは胸の内側のポケットに軽く手を当てクスリと笑った。


 「大したものではない」

 「教えてくれないんですか?」

 「その内に。ああ、ネクタイも買った。新作の物の色が綺麗だったからな、つい」

 「……ベルナルトさんはお買い物癖が有りますよね?」

 「金は使ってこそだ。私は経済を回している」

 「まぁ、そうなんでしょうけど……」


 茉莉花は呆れてベルナルトを見た。ベルナルトと視線が合った茉莉花はクスリと笑い、ベルナルトも茉莉花につられて笑っていた。


 「次は何処に?」

 「君のドレスを買いに行こう。行きつけの店があるんだが少し離れている」

 「ドレス何て必要ですか?」

 「ああ、今日の食事に来ていくといい。何着か買ってオペラを見に行くときにも着るといい」

 「え、オペラ見に行くんですか?」

 「ダメか? 君は物語が好きだし、劇も好きだと思ったんだが……」

 「あ! いえ。でも私言葉分からないし……」

 「私が通訳してやろう。それに有名な物だ。椿姫くらいなら知っているだろう?」


 (確かパリの物語だよね? 悲恋の物語だったような……)


 「多分……。見てたら分かる気がします!」

 「分からなければ私に聞けばいい」

 「はい」


 (何だか頼もしいな。ベルナルトさんイタリア語ペラペラだし、何だかんだ言ってちゃんとエスコートしてくれるし)


 茉莉花は頬を緩ませていた。


 「着いた。二、三着買うくらいだから二人で行こう」


 ベルナルトに手を引かれ茉莉花はブティックに入って行った。


 ブティックの中は鮮麗された空間で、部屋一面は真っ白で光が入るように作られた窓は真ん丸だった。色鮮やかなドレスや装飾品、品物に目が行くようになっていた。


 「わぁ、すごいハイセンス……」


 茉莉花はその空間にも商品にも圧倒されていた。表面積の少ないワンピースや、側面が編上げだけのドレスなど、茉莉花が絶対着る事の無いような物が多く置いてあった。そんな中でも茉莉花でも着られそうな上品なドレスもたくさん揃えてあった。


 『いらっしゃいませ』


 笑顔で挨拶してきたのは背が高くモデル並みのスタイルを有した女性だった。女性は自信ありげな笑顔でベルナルトに話しかけた。


 『本日はどのような品をお探しで?』

 『彼女に合うドレスを探している』


 ベルナルトがそう言うとその店員は初めて茉莉花に目をやり、見定めるように上から下まで見たのだ。


 (何……?)


 そしてクスリと笑いベルナルトを見つめ話しかけた。


 『そうですね。この店の商品でしたらあちらのコーナーの物がよろしいかと。それよりもお客様のジャケットなどはいかがですか? 新作も出ておりますよ?』


 店員が茉莉花用に案内したのは窮屈に並べられているドレスが置かれている場所だった。他の商品は綺麗にディスプレイされているがそこだけ、纏めて商品がハンガーに掛けられ置かれていたのだ。ベルナルトは眉をひそめ店員に言った。


 『彼女には最新のものを用意して欲しい』

 『当店のドレスは一流デザイナーによって作られています。失礼ですが、そちらの女性には着こなせないかと……。身長もあまりないようですし、それに体系も、その……』


 店員はまた茉莉花をちらりと見てクスリと笑った。


 『彼女にはふさわしくないと言いたいのか?』

 『いえ、そういう訳では。ですが、似合うものでしたら限りがあるとそう言っているんです』


 ベルナルトと店員の間に不穏な空気が流れている事を茉莉花も感じ取った。ベルナルトの袖を引き彼を見上げた。


 「ベルナルトさん……?」

 「すまない。この店は止めよう。君に相応しくない」

 「どうしたんですか?」

 「この店員の態度はこの店の品位に関わるという事だ」

 「?」


 茉莉花は訳が分からず、ベルナルトを小首を傾げ見つめた。


 『時間を取らせたな』


 それだけ店員に告げるとベルナルトは茉莉花の肩を抱き店を出ようとした。店の出入り口で、小洒落た服に身を包んだ男性と鉢合わせした。その男性は目を見開き嬉しそうに笑うとベルナルトの手を握った。


 『あら! ローゼ様じゃない! お久しぶりね!!』

 『ああ、だがもうこの店には来ない。今まで世話になったな』


 ベルナルトのその言葉にその男性は顔色を変え、慌ててベルナルトの前に立った。


 『ちょっと、どういう事ですか!?』

 『あの女性に聞いてみろ。店員の品位がなっていない。折角の商品が台無しだな。君には悪いが私はもうこの店で何も買う気にはならない』

 『そ、そんな! 少しお待ちを! 私が接客いたします!! 何をお探しですか!? そちらの可愛らしいお嬢さんのお召し物ですか!?』

 『いや、もういい』


 茉莉花は必死の男性の形相を見てもう一度ベルナルトの袖を引っ張った。


 「ベルナルトさん」

 「違う店に行こう。この店の商品は気に入っていたが残念だ」

 「どうして?」

 「貴方! ロシア語話せる!?」


 男性は茉莉花の手を取り、片言のロシア語で語り掛けて来た。茉莉花は驚き力強く頷いた。


 「私、ロシア語、少し話せる!! 服! 見て頂戴! 紹介させて!?」

 「へ? はい」

 「茉、ジャスミン……」


 (ジャスミン?)


 「……。ダメ? どうしてこんなに必死なの? ちょっと見るくらいダメ?」

 「君がいいなら」


 茉莉花は首を傾げていた。男性は顔を明るくさせ茉莉花の手を離し振り向くと、さっきまでベルナルトの相手をしていた女性店員をきつく睨んだ。


 『あんた! 何したのよ!!』

 『え……』

 『この方を誰だと思っているの!? あんたこの方を怒らせてただで済むと思わないで頂戴!! 今すぐフロアから出て行きなさい! 裏で商品の整理でもしてきなさい!!』

 『そ、そんな! オーナー! 私間違った接客はしていません! 裏の仕事なんて私には……』

 『なら、あんたはクビよ……!!』

 『そ、そんな! しょ、商品整理してきます!!』


 女性は慌てて駆け出し、裏へと商品整理をしに行った。オーナーと呼ばれた男性は咳ばらいをして、綺麗に腰を折り頭を下げた。


 『ローゼ様、不快な思いをさせた事謝らせてください。それと見苦しい物をお見せしました』

 『いや、構わない。だが次は無い』

 『承知しております。あの者は移動させます。もうこの店で見かける事は無いと思います』

 『そうか』

 「何て言ってるの?」

 「あの女性店員の接客がなっていなかったことを謝罪しているんだ」

 「そうなんですか?」

 「君に対して失礼もいい所だった」


 茉莉花は眉を寄せベルナルトを見た。ベルナルトは何処か苛立っているようだった。


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